製造業と言えば、私は五十年前、中華人民共和国が誕生した頃のことを思い出す。その頃から、中国共産党と政府は製造業を中国工業化の重要な一部と見なし、製造業の発展を非常に重視してきたのである。すなわち、八つの機械省庁が相次ぎに設立されたことをはじめ、中国の全土に大量の工場を建設した。こうして、中国の製造業は非常に丈夫な基盤を作り上げた。改革開放以降、沿海地域では、加工業を中心とした生産方式を通じて、中国で製造された製品が徐々に国際市場への進出を果した。多くの有名な多国籍企業が相次いで中国に工場を設立し、そこで生産された製品を輸出するようになった。そして中国自身の製造業の著しい台頭と成長も加わり、多くの「Made in China」と標示された製品が世界に進出したのである。そのため、一部の人々が「中国はすでに世界工場となった」と主張するようになった。しかし、こうした見方はわが国の製造業の成果を過大評価しているように思う。
いわゆる「世界工場」とは、通常、一国の製造業において、多くの企業と製品が世界の市場において主要な地位を占めることを指している。「世界工場」と呼ばれる国家の重要産業には、少なくとも一部の企業が生産能力、新製品の開発能力、技術革新の能力、経営管理といった面において、世界の先頭に立ち、その製品が世界市場の中、大きなシェアを取得し、場合によって独占的な地位を獲得することも考えられる。かつて、イギリスは「世界工場」と呼ばれたことがある。工業革命の期間中、イギリス製造業の生産高は全世界におけるシェアが20%にも達しており、当時のイギリスは全世界の53%の鉄鋼、50%の石炭を生産していた。イギリスの工業製品と対外貿易は全世界に行き渡っていた。第二次世界大戦以降、日本経済が高速的に回復し、一度「世界工場」になったこともある。日本の鉄鋼の生産技術、生産ライン方式など、常に世界の先頭に立ったのである。日本のカメラ、電器製品、自動車とオートバイの競争力が非常に強く、また日本の製船業は10年間にわたって、総トン数が世界の半分以上を占める時期もあった。
観点一、現在、中国はまだ「世界工場」になっていない。
もし上述の概念に基づいて判断すれば、まず、私は現在の中国はまだ「世界工場」ではないと思う。第一に、中国工業の生産高が世界におけるシェアが依然として小さいのである。わが国の統計によると、1999年、中国第二次産業の生産高はおよそ5000億ドル(建築業を含む)に達しており、世界第四位にランクされていた。だがその年、全世界の生産高は9兆ドルを超えており、アメリカが世界第一位で、その製造業の生産高が世界に占めるシェアは20%を超えていた。そして、日本の割合が15%であるのに対して、中国はわずか5%しか占めていない。
第二に、中国では工業製品の生産量が大きいにもかかわらず、その品目は少なく、等級が低い上、付加価値が低い。鉄鋼製品を例にすると、90年代末に中国の鉄鋼の生産量は世界一に達したが、その品種は少なく、品質と等級が低いものが非常に多かった。中国の輸出の金額は非常に大きいが、しかし付加価値は決して高くない。2000年、中国が97億ドルの鉄鋼を輸入したのに対して、輸出は40億ドルであり、その差は57億ドルにも達していた。大量の高品質の鉄鋼や特殊な鉄鋼はいまだに輸入に頼らざるをえない。その原因は、われわれのR&Dの能力、そして自主革新の能力が低いことに尽きる。そのため、中国企業が独自の技術に基づいて、開発した製品はいまだに少ない。
第三に、現在の中国では、全世界をリードする製造業の企業はまだ非常に少ない。2001年、世界の最強企業として、最上位にランクされた500社の内、中国の企業はわずか11社に過ぎず、その中で製造業の企業はゼロである。2001年、中国の対外貿易の上位200社の内、第三位までの三社のいずれも貿易代理の会社であり、最大の輸出金額が61.8億ドルである。これに対して、生産型の企業は、輸出の最高金額が20億ドルを少し超えたところである。このように、上述した200社の輸出の内、74%は加工貿易によって実現されたものである。現在、多くの大型輸出企業は、加工製造工場であるか、もしくは多国籍企業の生産チェーンにおける最後の一つの部分にすぎない。従って、技術含有量の高い「Made in China」の製品が世界市場の主流になるまでには、まだ長い道のりがある。
観点二、努力を重ねていけば、将来、中国が「世界工場」になる可能性がある。
四つの現代化の基礎あるいは条件が工業現代化でなければならない。工業の範囲内では、採掘業が資源の制限を受け、それほど大きな発展の余地が存在しないため、製造業が中国の現代化の中でますます重要な作用を果すことになる。実際に、改革開放以来の二十数年間、中国の製造業はすでに国民経済の成長を促進する重要な要因になっている。中国の経済がグローバル経済に徐々にリンクしていく過程の中、製造業は引き続き経済成長の主要な支えとなるはずである。
前節で、私は中国が「世界工場」になっていない原因を説明したが、本節で示すのはまさに中国が「世界工場」になるために解決しなければならない問題と努力の方向である。そのカギとなるのは、製造業が「質」を上昇させることである。この問題を解決することによって、中国は「世界工場」との距離が徐々に縮小され、将来の中国が一つの「世界工場」になることは十分考えられる。なぜなら、中国はすでに堅実な工業基礎を持っているからである。われわれの鉄鋼、石炭、セメント、化学繊維といった基礎製品の生産量は世界一である。また、多くの加工製造業の製品は国際市場において、ある程度のシェアをすでに獲得している。そして、これからの中国経済は速い成長が予想されている。これからの5年から10年の間に、世界第四位である中国製造業の順位はさらに上昇するだろう。特に、WTOの加盟は、市場経済のルールが中国で適用されることを意味している。こうした公平、公開の市場競争は、中国の製造業の世界競争への参加に有利な条件を提供している。WTO加盟後、製造業の優位性が一層拡大し、特に製造のコストが低いことはわれわれの優位である。外部の条件から見ると、現在、多くの多国籍企業がグローバルな範囲での調整を行っている。中国の巨大な、しかも発展しつつある市場がますます注目を浴びている。近年、世界の自動車メーカーが次々と中国で発展の可能性を探っていることがこの問題をよく物語っている。多くの有名な多国籍企業がその生産製造の基地を中国に移転することは、まさしく中国の製造業が世界とつながる絶好な機会だと、私は確信している。われわれはこの機会をうまく利用することができれば、企業、業界と産業のいずれの面においても中国が「世界工場」になることは可能である。
観点三、中国の製造業は今後の非国有経済発展の重要な領域である。
中国経済の中核は依然として国有経済であるが、「公有制を主体に、多種の所有制経済による共同発展」とする基本経済制度は、中国経済の持続成長に堅実な基礎を提供している。非国有経済は経済成長と社会進化に対する影響力をますます高めている。2001年末まで、中国の個体経営者は2400万戸を超え、それに従業している人口が5000万人で、登録された資本金が3400億元となり、改革開放初期の1981年と比べると、それぞれ12倍、20倍と680倍の成長を記録している。民間企業が200万戸を超え、それに従業する人口が2700万人であり、登録した資本金が1.8億元にも達している。私営経済のGDPに対する貢献率が1989年の0.6%から2001年の20.5%まで上昇し、毎年におよそ2%を上昇している。2001年、私営企業の納税総額は1177億元であり、全国納税総額の9.3%にも達している。特に、東部の沿海地域では、早い段階において私営経済の発展が奨励されたため、現地の経済発展に対する貢献はもっと高い。要するに、非国有経済の発展がすでに相当の基礎を形成したと言えよう。
現在、中国の私営企業は第一、第二、第三次産業に幅広く進出している。労働集約型の産業だけではなく、知識集約型、資本集約型にも進出するなど、広い業界に関わっており、さらに一部の業界では先頭に立っている。私営企業の大半は中小企業であるが、大型、特大型の企業が現れ始めた。現在、大型の企業集団は2200戸を超えている。わが国は改革の過程において、早い段階から日用消費財の生産を計画経済から解放した。同時に、一部の日用消費財の生産については、必要となる技術設備や資本条件が初期の非国有経済の発展のレベルと一致していたため、非公有経済が比較的早い段階において、製造業に進出したのである。多くの私営企業が従来の「家庭生産」から出発し、二十数年間市場で鍛えられたことによって、成熟し、さらにその一部が技術革新の最も重要な担い手となっている。
中国政府は競争性のある業界に対して、民間投資の参加を奨励し、海外に開放するあらゆる業界も民間に開放する方針を打ち出している。いくつかの国家独占による業界以外、製造業のほとんどが競争性のある産業である。従って、製造業領域の大部分が非公有経済に開放され、政策的な障害はもはや存在しない。これは、非公有経済が製造業界により深く、より広く進出できるような外部の環境を提供している。同時に、市場経済の発展に伴い、多くの私営企業が企業拡大を目指す意欲や産業の高度化を実現する実力を持つようになった。私は、われわれが改革開放の道を維持していく以上、非公有経済がこれからの製造業において、より大きな発展を遂げ、より重要な地位を占めることを確信している。
2002年8月26日掲載