中国経済新論:世界の中の中国

多国籍企業の中国経済に対する影響とその対策

武海峰
中国石炭経済学院

1951年生まれ、中国石炭経済学院副教授

張暁徴
中国石炭経済学院

1973年生まれ、中国石炭経済学院講師

近年、中国は多くの多国籍企業にとって、最も望ましい海外投資先となっている。2000年末まで、中国は36.4万の外国企業による投資を許可し、総額3468億ドルにのぼる外資を利用している。多国籍企業の受け入れは、確かにわが国の経済発展にとって有益であるが、その反面マイナスの影響も見逃してはいけない。多国籍企業の対外投資経営は、あくまでも企業自身の経済成長を出発点とし、あらゆる活動も企業全体の利益と長期的な成長を中心としている以上、この戦略的目標を実現させる中で、投資先の国において競争力を持たない企業に対する衝撃が大きい。現在、多国籍企業の投資経営活動は、以下の面でわが国の経済に対し悪い影響を与えており、決してこれらを軽視するわけには行かない。こうした問題は根本的に見ると、いずれも企業内取引に関係している。

一、技術導入は期待とかけ離れている

わが国の外資利用の主要な目的は、技術と管理ノウハウを得ることである。この目標を実現させるため、政府は、「国内市場と海外技術の交換」という戦略を打ち出し、いくつかの領域において、自主開発の方針を完全に放棄した。だが、その結果は多くの懸念材料を含んでいる。現在の技術革命の時代において、技術は多国籍企業のコアな資源として、競争力を決定する主要な要因である。多国籍企業は、国家間の技術移転の75%と、発展途上国との貿易の90%を占めている。先進技術が競争相手に模倣されないように、多国籍企業が採用している技術移転は、普通内部移転、特に対外直接投資の形式を採っている。こうすることによって、比較的安い取引費用でより大きいレント料金を獲得できるだけではなく、技術を自分で温存することもできる。従って、多国籍企業は、中国が市場を譲ったからといって、無償で特許技術を提供し、知的所有権を放棄するわけではない。われわれは、巨額の特許使用料あるいは技術移転費を支払っても、最先端の技術を手に入れることができない。特に最も重要な基礎技術に対しては、多くの制限条件が課せられているため、われわれが共同出資によって得られた技術は、世界の先進技術と比べると、大体10年から15年の距離がある。また多国籍企業は、淘汰される目前の技術をわが国に移転し、技術移転によって最後の利益を上げようとする傾向も見られる。このような行為もわが国の技術の向上を妨げている。例えば、上海とドイツのフォルクスワーゲン社が合弁会社を設立したとき、ドイツ側は、サンタナの技術を有償で中国側に移転している。だが、実際中国側が新しく生産を始めたのは、ドイツ国内で淘汰されたモデルにすぎない。両者の合弁はすでに15年を経過したが、上海サンタナ側の体制は、15年を経過しても大きな変化がないのに、ドイツサンタナ側はすでに四度のモデル・チェンジをしている。

長い間、わが国の技術開発には、外国企業による技術移転に依存する意識が根強く存在してきた。これは、産業技術のレベル・アップを妨げている。国内の旅客機産業はすでに世界的レベルに近づいたが、様々な原因で自主開発を放棄した。中国の自動車産業は、日本と韓国とほぼ同時に始まり、同様に合弁や完成車の輸入、部品組み立てなどの方式を採用したが、自主開発を重視しなかったため、長い間外国側の技術供給に頼る結果になってしまった。こうした状況を改善しない限り、世界の先進レベルに追いつくことは永遠にありえない。現在、多くの多国籍企業は、先進技術を共同で開発し、お互いに開発の成果を享受する連携戦略を採用している。その結果、国際技術の独占度を上昇させたが、中国を含む多くの発展途上国にとって、合弁を通じない技術の獲得がますます難しくなってきた。

二、国内市場と経済発展の進展をある程度もたらした

企業内取引の動機の一つは、外部市場の不完全性を克服するためであるが、その結果、市場の不完全性を逆に悪化させてしまった。中国は巨大な潜在市場を持っている。特に、ハイテク技術産業は始まったばかりであり、その他多くの分野は空白のままである。このため、外国企業にとって、「中国市場の開拓」に対する期待は非常に高い。多国籍企業は自分の持ち株、技術とブランドならびに内部化優勢によって、早くも中国市場への参入の競争において有利な地位を獲得し、さらにいくつかの領域においては独占的地位も獲得した。現在、わが国では、通信設備の80%は外国メーカーの産品であり、90%の移動通信、衛星通信設備、データ通信設備を、輸入に頼っている。また中国の自動車、コンピューター、飲料、日常化学品、大型旅客機、船舶などの市場も、外国のメーカーによって独占されている。いつくかの多国籍企業は、その資金面の優位性を利用し、販売ルートを独占し、中国企業の市場への参入を妨げている。青島盛福電子株式会社は、「小護士(若いナース)」というブランドのデジタル・血圧計を開発し、国家の品質認定の標準にすでに達していたが、長い間にわたって、オムロンの悪質な競争排除を受け、いまだに北京の商店や薬屋への進出を果たすことができない。多国籍企業の市場における独占行為は、わが国の企業に不平等競争をもたらしている。国内市場におけるシェアを獲得することは非常に困難であり、競争の激しい国際市場に進出する望みは当然達成にくいであろう。

多国籍企業は、内部貿易を通じて、価格が不規則に変動することや、供給量を把握できないといった外部市場による不確実性を解消することができるが、わが国を含む多くの発展途上国経済の安定性に不利な影響をもたらしかねない。多国籍企業は、投資先の国の産業をバラバラにし、そしてそれをその企業のグローバル経営管理に取り入れようとするため、発展途上国は、多国籍企業のこうしたグローバル戦略の中で、非常に受身的な立場を強いられた。

アジア通貨協力が実現に向かって、絶えず進展できたのは、東アジア諸国の国家利益に一致しているからである。最近の20数年間、円とドルの為替レートは大きく変動してきた。このような頻繁な変動は、日本経済に非常にマイナスの影響を与えた。為替レートの頻繁な変動を受けて、対外貿易に携わる企業と金融機構は為替ヘッジするために、余計なコストを負担しなければならない。これは、国際貿易の正常な発展を妨げている。そして、円高は、日本の輸出競争力の低下をもたらし、日本企業の経営をより困難なものにしただけではなく、これを通じて、金融機関が抱えている不良債権を膨らませた。これに対して、円安は、競争力を上昇させ、日本経済の困難を緩和させる働きはあるが、ゆがんだ資源配置をもたらし、日本企業と政界が抱えている構造改革という長期対策を妨げる。また、日本は東南アジアに大量の対外投資があるため、アジア通貨協力の成功は、日本投資家たちの利益を有効に保証することを意味している。大きな国と比べれば、小さな国のほうは、為替レートの頻繁な変動に耐えられない。これこそ東南アジア諸国と韓国もアジア通貨地域を積極的に賛成する理由である。

三、移転価格を通じて、わが国の経済利益を損なう

多国籍企業の中国に対する投資は、そのグローバル戦略のニーズによるものであり、それは、結局世界規模での利潤最大化を図るものである。これを実現するために、多国籍企業は、内部取引を利用し、グローバルな観点から資源配置をし、移転価格を実行することによって、各国の税収や外貨の規制を弱体化させようとしている。わが国は、市場経済への移行期にあるため、多国籍企業はあらゆる手段を利用し、わが国における納税額を減らそうとしている。例えば、中国における子会社は、国外関連企業から仕入れた原材料、部品の価格を高く設定する代わりに、輸出品の価格を引き下げることによって、所得税の総額を減らすことを狙っている。

また、多国籍企業は、以下のような状況で移転価格を実行しようとしている。即ち、外資企業が投資のプロセスにおいて、外国側は、導入した実物資本や技術、ブランド、販売ルートなどの無形資産の価値を過大に評価すること、また、いくつかの多国籍企業は、中国における会社に発生する市場調査、宣伝、また社員研修などの費用を相場より高く支払い、何回も費用に計上する方法で、大量の利潤を移転することなどが挙げられる。こうした行為は、合弁の相手である中国側の利益を丸呑みにするのだけではなく、わが国の財政収入を減少させ、外資の直接投資の経済効果を相殺し、わが国の国際収支を悪化させるなど、非常に大きなマイナスの影響をもたらしている。


多国籍企業がグローバル化の展開に伴い、世界を席巻する勢いは到底阻止することができない。それが投資先の諸国の経済に与えるマイナスの影響は明らかである。われわれは、こうした企業の内部取引の展開を阻止することはできないが、一定の措置を取り、その弊害をプラスに誘導することは可能である。

一、技術を合理的かつ有効に導入し、国内企業の科学技術のR&Dに対する投資を増大させること

多国籍企業が国際競争において優位を獲得できたのは、技術、特にハイテク技術によるものであるため、それを簡単に我々に手渡すわけにはいかない。従って、我々は技術移転を図る場合、まず適切な技術を選別しなければならない。仮に多国籍企業に独占されていない技術があり、それを導入するコストが安くて、しかも中国の国内にない、あるいは伝統産業の改造に生かすことができれば、当然それをハイテク産業の開発に取り入れるべきである。次に、技術導入の効果を上げるためには、従来の国家(政府)による産業移転を中心とした技術移転を、企業の技術開発へと、方針を転換すべきである。また、われわれが持っている技術力は、われわれが多国籍企業との協力を試みる際、最も重要な駆引きの道具と基礎であり、科学技術力が強ければ強いほど、外資利用や技術導入に有益であることをはっきりと認識しなければならない。わが国は、科学技術、特にハイテク技術を開発するにあたって、自主開発と技術移転を結合した道を歩むべきである。自主開発の鍵は、政府が科学技術開発に投入する力を強め、科学技術に対する投資リスクの管理体制を形成かつ健全化することによって、企業が技術開発の主体となり、企業のR&Dと製品の宣伝投入における不均衡な状態を根本から変えていくことにある。これ以外に、企業は、国内外から優秀な科学技術者の導入や科学研究におけるインセンティブ体制の形成を重視すべきであり、企業の自主技術開発の水準や技術の消化能力を向上させなければならない。

二、市場秩序を維持し、経済安定を保護すること

市場経済をより一層発展させるためには、中国で経営しているすべての内外企業に対する、公平な競争環境を作り出すことが最も重要である。まず、それに関連する法律、法規の整備、特に独占禁止法の設定と実施が求められる。多国籍企業が、中国の国内企業や消費者の利益を害する場合、それを制裁する法律を制定することによって、国内企業と消費者の利益を守る。一方、多国籍企業を中国に誘致する政策を、国内市場の構造的調整という目標と整合させなければならない。市場構造が分散しており、規模の経済が求められる国内の業界に対して、外資の直接投資を考える場合、いくつかの大型の多国籍企業による参入を考慮すべきである。また、多国籍企業の競争を促進するために、単一国の多国籍企業の受け入れをなるべく回避すべきである。また、こういった産業の国内企業に対する支援措置を採用し、企業規模を拡大させ、国家による有効的なコントロールを強化することも重要である。

これ以外には、多国籍企業がわが国の企業との連関効果を上昇させるために、我々は、地理的優位性と適当な制度によって、技術の蓄積を図り、労働力の質を向上させ、国内企業の商品の供給能力を増大させ、国内における比較優位を持つ、整備された産業チェーンを育成し、あるいはその最も重要な部分をコントロールすることによって、わが国の産業のレベル・アップを促進させる。これは、わが国の経済発展の調整力と経済成長の安定性を守ることに有益である。

三、 多国籍企業の移転価格を制御すること

多国籍企業の移転価格を防止するために、われわれは有効な手段を取り、それを制御すべきである。まず、渉外税務と審査機関の人員の質や移転価格に対する認定能力を上昇させ、税関の渉外取引の取引価格に対する管理や審査を強化した上で、違反した取引を税関の規則に基づき、厳しく取り締まり、未納な税金を納上させること。次に、国家レベルの移転価格に関するデータベースを整備させ、国内外の各種の設備、原材料、商品の価格、各国の税率及び特殊税の規定、中国に投資している多国籍企業がその子会社との間の無形資産の費用に関する情報を収集すること。第三に、他国の良い経験を取り入れ、例えば、税率の一体化を実行すること、即ち多国籍企業の子会社に対する所得税率を関税率と結合させることによって、多国籍企業が利潤を搾取することを事前に防ぐこと。第四に、合弁企業における中国側の管理権を強め、中国側の管理人員の能力を向上させ、国際販売ルートをよく理解し、三資企業における外資に対する依存を減らすことによって、外国側が移転価格を利用する機会を減少させることである。

我々は、多国籍企業が内部取引を利用し、わが国の経済発展を阻害するのを防止し、多国籍企業の中国に対する投資経営行為を規範化させると同時に、多国籍企業の正当な権益と合理的な利潤を保障しなければならない。多国籍企業の投資に有利な経営環境を作り出すことによって、投資家と投資先側両者にとっての「プラス・サム・ゲーム」の効果を実現することが、最も望ましい。

2001年12月25日掲載

出所

『経済社会体制比較』、比較雑誌社編、2001年第5期。原文は中国語。
※和訳の掲載に当たって、同誌から許可を頂いている。

2001年12月25日掲載

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