ウクライナ危機が示す教訓と日本への示唆

平木 忠義
コンサルティングフェロー

※本稿は、所属する組織の意見を代表するものでなく、個人の意見を述べるものである。

1.はじめに

2022年2月に発生したロシアによるウクライナへの全面侵略は、2026年2月で侵略開始から5年目を迎えた。米国戦略国際問題研究所(CSIS)(注1)は、2022年2月から2025年12月までのロシア軍の死傷者数を約120万人と推計し、うち2025年単年で約41.5万人が死傷したと発表した。また、2025年の経済成長については実際の数値を踏まえつつ、2026年については国際通貨基金(IMF)の推計に基づき、両年ともに低調になるとの見方を示している。これらのことから、戦闘のみならず経済面でもロシアの継戦能力に限界が近いことが伺える。

一方、ウクライナ側では2025年10月以降、ロシアによるエネルギーインフラに対する繰り返しかつ集中的な攻撃が大寒波と相まって人道的危機に発展しており、国民生活に大きな影響を及ぼしている。その結果、国民の疲労は極限に達している。

このように、ウクライナ、ロシア双方に戦争疲れが表面化し、継戦能力も限界に迫りつつある中で、和平に関する外交活動は2025年11月中旬から活発化したが、2026年2月時点で突破口は開かれていない。

今次戦争は、サイバーを含む非軍事要素が介在し、ドローンをはじめとするデュアルユース製品が本格的に戦闘に投入されるなど、軍事戦略が大きく転換した。このような軍事戦略の転換は国際的な経済を含む安全保障の課題を浮き彫りにし、また、複雑化させている。日本は戦後最も厳しく複雑な安全保障環境に直面しており、今次戦争におけるウクライナの経験は、日本にとっても重要な教訓となるだろう。

本稿では、2025年10月以降に活発化した和平の動きや領土に対するウクライナのポジションを法的観点から整理すると共に、ロシアに対する経済制裁が産業構造にどのような影響を与えたか考察する。その後、今次ウクライナ戦争の特徴を整理し、日本に対する示唆を得るとともに、日ウクライナ間の協力の可能性について提言を行う。

2.和平交渉と領土問題

2025年11月中旬頃から活発化した和平に関する外交活動の中で、米国側から提示された28ポイントの和平計画は、ウクライナ軍の規模に上限を設けること、北大西洋条約機構(NATO)加盟の断念を確約すること、ドネツク・クリミア・ルハンスクに対するロシア主権の承認など、過度にロシア寄りの内容であった。

2025年11月23日から24日にかけて実施された米国、ウクライナ、欧州の同盟国との協議では、詳細は公表されていないものの、報道によれば、ウクライナの主権の担保や安全の保証、ドネツク、ルハンスク、ザポリッジャおよびヘルソン地域において合意時点での部隊展開線を事実上の接触線として認識することなど、20項目の新たな和平案(注2)が提案された。2025年12月末、トランプ大統領と会談したゼレンスキー大統領は、可能性のある和平交渉の90%は合意されたとの認識を示している。しかし、ロシア側は妥協の意志をほとんど示しておらず、2026年1月から2月にかけて行われた米国、ウクライナ、ロシアによる協議でも突破口は開かれてない。ウクライナ側は3月1週目に協議が行われるとの見方を示しているが、執筆時点(3月3日)で開催が確定したとの情報に接していない。

ウクライナおよびロシア双方にとっての最大の懸念点は領土問題である。ウクライナでは、憲法(注3)第2条で領土の不可分性および不可侵性が定められ、第73条では領土問題は国民投票によってのみ解決されるとされている。一方、国民投票法(注4)(第3条)では、ウクライナの独立を否定し、国家主権と領土保全を侵害し、国家安全保障に脅威を与え、民族間・人種間・宗教間の憎悪を扇動することを目的とする国民投票は禁止されている。領土の変更については国民投票が解決策の一つであるものの、今回の侵略にみられる力による一方的な現状変更を容認するか否かを問う国民投票は、国民投票法によって禁止されている。そのため、今回の侵略に基づく領土問題は、どのような文脈で議論されるかによって判断が分かれるであろうし、よって国民投票は現在の接触戦で凍結することを含む和平案を容認するかどうかを問うものになるのではないか。

なお、憲法第72条ではウクライナ領土内に外国軍の基地を設置することは認められておらず、欧米との安全の保証の議論においては、例えば英国やフランス軍の駐留についての議論を残すものとなっている。

いずれにしても、ロシアは特別軍事作戦の正当化を、ウクライナは領土の不可分性および不可侵性の保護を求めており、いずれも何らかの成果を得られなければ国民の納得は得られないだろう。さらに、今回の全面侵略の終わらせ方によっては、双方の協力者を通じて政治を含めた体制の弱体化を図る動きが活発化し、政治の不安定化や国内治安の悪化が懸念される。

3.エネルギー分野への攻撃と人道的危機

2025年10月からのエネルギー関連施設に対する繰り返しかつ集中的な攻撃は、国内のエネルギー状況に深刻な影響を与えている。特に2025年は大寒波に見舞われ、筆者が生活するキーウでも2013年以来の大雪となった。最低気温はマイナス22度、最高気温もマイナス11度という極寒の状況である。

大寒波のなかでの電力や熱供給設備への攻撃により、電力、暖房、上下水道の断絶が発生している。筆者にとっても極寒の生活は負担が大きいが、特に水道の断絶は深刻である。このような状況は国民生活に大きな影響を及ぼし、結果、国民の疲労は極限に達している。2026年1月14日、ゼレンスキー大統領はエネルギー非常事態を宣言。電力輸入や緊急復旧作業のみならず、「不屈の拠点」と呼ばれる暖房やカウンセリング、携帯電話の充電が可能な仮設施設を国民に提供している。

ロシアによる冬期のエネルギーインフラ攻撃は2022年以降毎年継続されているが、本年は大寒波との複合的な要因により人道的危機に発展。各国にはこれまで以上の発電機や電力設備の支援が求められている。日本政府は国際協力機構(JICA)や国連開発計画(UNDP)を通じ、ジェネレーター137台、変圧器63台、コージェネレーションユニット2台、インバーター13台を今冬のエネルギー分野支援として供与。順次到着次第、必要箇所へ設置される予定である。

エネルギー分野の停戦は国民生活維持のために必要不可欠であり、2026年には一時的な停戦が1月30日から2月1日まで実施されたが、2月3日未明にはエネルギー分野への大規模攻撃が再開された。

電力需要が高まる冬期はエネルギー分野への攻撃が増加する。しかし、そもそも今回の全面侵略は後述するようにハイブリッド戦と呼ばれ、ドローンやデジタル技術を多用する戦略が採用されている。このため、ロシアとしては前線を含むウクライナ国内への電力システムを弱体化させることが、軍事戦略上の有効な手段と判断しているのではないか。

4.経済面からみる継戦能力

2022年2月以降、G7諸国やEUを中心とする西側諸国はロシアに対する経済制裁を実施しており、日本も2022年2月26日以降、ウクライナ情勢に関する外国為替および外国貿易法に基づく措置(注5)を2026年2月24日までに24回実施している。

具体的には、ロシアに対する広範な輸出入禁止措置や個人・団体の資産凍結などが含まれる。また、ロシア産原油については同志国と連携し、上限価格(プライスキャップ)を超える価格で取引される場合、その輸入等を禁止する措置を導入している。2025年9月12日からは上限価格を1バレル当たり60ドルから47.6ドルに引き下げた。 図1はロシアの産業構造を示したものであり、網掛け部分は国内自給率を表している。そもそもロシアはフルセット型の産業構造を有しており、経済活動が輸入を増加させるような構造にはなかったと考えられる。

さて、全面侵略前の2021年と2024年を比較すると、ほとんどの産業で国内自給率が低下していることがわかる。これはロシアからの外資企業の撤退や金融アクセスが困難となったことなどにより企業が市場からの退出したことに加え、各国による経済制裁の影響によって産業構造の弱体化を示している。特に、原油を含む鉱業・採石や石油精製製品を含む石炭・石油精製・原子力燃料は国内需要を上回る生産を維持し、引き続き輸出余力を有している一方で、これら部門の産業構造は大きく弱体化したことが明らかであり、経済制裁は一定の成果をあげているといえる。

一方、機械、電気および光学機器、輸送機器の国内自給率は拡大しており、国内リソースをこれらの分野に集中させ、産業基盤を強化していると考えられる。これが2025年以降にみられるドローンやミサイルの飛来数増加につながっていると推察されるが、依然として輸入が必要な状況にある。なお、グラフには示していないが、繊維・繊維製品および皮・革製品・履物も同様に国内自給率が拡大している。これは労働力不足の影響で女性や高齢者にも労働参加が求められており、雇用の受け皿としてこれら労働集約的な産業の裾野が広がり、輸入代替を進めることで自給率が改善しているものと考えられる。

このように、2021年と比較するとロシアの産業構造は弱体化したものの、依然として国内需要を満たすだけの産業構造を有しており、係る観点からロシアは引き続き経済的に継戦能力を維持していると考えられる。

図1:ロシアの産業構造
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図1:ロシアの産業構造
注:当該グラフはスカイラインチャートとよばれるものであり、横軸が生産額構成比、縦軸が国内需要に対する国内生産の割合を示している。なお、2024年の網掛けは2021年時点での国内自給率。
出典:「Regional Input-Output Tables」(アジア開発銀行(ADB))

一方、ウクライナの全面侵略前の産業構造をみると、ほとんどの産業部門で国内需要を満たすような産業構造を有しておらず、経済活動に伴い輸入が増加する構造であることがわかる。経常収支をみると、2022年以降、国内でのエネルギー、ドローンおよび同部品の輸入増加や各国からの支援物資の輸入により貿易収支は悪化、それをドナーからの金融支援が支えることで経常収支を維持している状況にある(図3)。

本来、外国企業による直接投資は、技術やノウハウの移転を伴い産業の高度化を含めた産業構造に変化をもたらすことが期待される。ウクライナでは、既存投資家は事業の拡大を含めて投資意欲が旺盛である一方、新規投資家の動きは鈍いといわれる。最新の統計が発表されていないことから現時点の産業構造の状況を把握することは困難ではあるが、産業高度化に向けて米国政府と合意した投資復興基金の実施を含め、ウクライナ政府には外国投資家の誘致に向けたさらなる取り組みが求められる。

特に、ウクライナの防衛費に歳入の9割が割かれる財政状況の中において、継戦能力を維持するためには有志国をはじめとするドナーからの支援は必要不可欠な状況にある。 いずれにせよ、継戦能力の有無にかかわらずロシアによるウクライナへの全面侵攻は国家主権と領土一体性といった国際秩序に対する挑戦であり、力による現状変更は許されるべきではないというのが国際場裡における一般的な理解であり、早期にウクライナにとって公平かつ永続的な平和が達成されることが最も優先されるべきことである。

図2:ウクライナの産業構造(2021年)
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図2:ウクライナの産業構造(2021年)
注:当該グラフはスカイラインチャートとよばれるものであり、横軸が生産額構成比、縦軸が国内需要に対する国内生産の割合を示している。
出典:“input output table”, State Statistics Service of Ukraine
図3:経常収支の推移
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図3:経常収支の推移
出典:“External Sector Statistics”, National Bank of Ukraine

5.ウクライナからの学びと日本への示唆

現在、日本は戦後最も厳しく複雑な安全保障環境に直面している。東アジアにおいても同様の危機が発生する可能性は否定できず、現在のウクライナ情勢を放置することは日本の安全保障体制に対して重大なリスクとなり得る。このため、欧州で発生しているウクライナ危機は対岸の火事ではなく、「今日のウクライナは明日の東アジアかもしれない」という問題意識のもとで取り組む必要がある。また、今次ウクライナが直面する課題や経験は、日本にとっても多くの教訓を含んでいる。

以下では、ロシアによるウクライナへの全面侵略によって生じた軍事戦略の転換の状況を整理することで、日本が学ぶべき点を抽出し、今後の日本の安全保障についての示唆を得るとともに、当該分野を通じた日ウクライナ間の協力の可能性について考察を行う。

(1)軍事戦略の変化

ロシアによるウクライナへの全面侵略は軍事のみならず、サイバーを含む非軍事要素が介在するハイブリッド戦といわれている。特にドローンをはじめとするデュアルユース製品の戦場投入は、これまでの軍事戦略を根本から覆すものとなった。また、デジタル技術を用いたサイバー攻撃や、生成AIを活用したフェイクニュースを通じたプロパガンダの流布など、デジタル技術が戦争の形態を新たな段階に移行させた。さらに特筆すべきは、データ収集技術の向上により、ドローンや巡航ミサイルをはじめとする兵器の飛翔経路や兵士の動きといった戦闘データが収集されている点である。これにより、状況を客観的な事実に基づき分析し、戦場における適切なリソース配置が可能となった。皮肉にもこのような動きはウクライナ、ロシア双方において行われており、これが戦局をさらに複雑化させ、戦争を長期化させている可能性は否定できない。

防衛分野のイノベーションについては、ウクライナ政府はBrave1というスタートアップ・アクセラレータを設立。Brave1はスタートアップファンドの交付のみならず、製造者とのマッチングを通じて量産化を達成するとともに、技術実証よりも実地での運用を優先することで、新技術の導入を迅速化した。理論に基づいて開発された技術は、実際の戦場での実証を通じてデバッグが行われる。この過程で不具合の発見、原因の特定、修正が進み、防衛装備品のさらなるイノベーションが促進されている。また、この実証プロセスは新たなスタートアップの防衛産業への参入を促す一方で、技術革新や激しい競争に適応できない企業は淘汰(とうた)されるという市場メカニズムが機能することで、プライムサプライヤであったとしても、オープンイノベーションやアジャイル経営といった経営の変革が求められている。

(2)ウクライナの経験の日本への示唆

①安定的電力供給の維持

今次戦争ではドローンが初めて実戦投入され、多くのデータの収集、分析が行われるなど、これまでの世界が経験したことのない戦争の形態があらわとなった。特に、ドローンやミサイルの飛行経路や戦地におけるデータの収集、保存、分析には大量の電力が必要であり、いわば電力多消費型の戦争に移行したといえる。ウクライナでは国内の電力供給能力が低下しても、西側諸国からの電力輸入により一定の対応が可能である。しかし日本の場合はそうした選択肢が限られているため、有事だけでなく、自然災害時にも電力の安定供給が可能な強靱(きょうじん)な電力システムの構築が平時から求められており、その一つの選択肢として分散型電力システムの研究・開発・社会実装が進んでいる。

電力システムの防護、特に原子力発電所の安全規制における有事と平時の区分けなどのあり方は、日本としても検討すべき重要な課題であり、ウクライナから学ぶべき点があると考えられる。また、世界の安全保障環境が悪化し、各地で紛争の懸念が高まる中において、日本の分散型電力システムの技術や制度的枠組みを横展開することは、日本のソフト、ハード双方のインフラシステムの輸出に貢献すると共に、世界の安定的な電力供給に資すると考えられる。

②実戦データの平和利用とデータ流通規制

過去4年間にわたって蓄積された実戦データは、将来的に平和利用が期待される分野の一つであると考える。特に、これらビッグデータの分析は従来の技術による解析では十分ではなく、量子コンピュータを用いた高度なAI技術の利用などが求められる。日本は現時点で、殺傷能力を有する防衛装備品を含む防衛協力は難しい状況にある。しかし、量子コンピュータとウクライナのAI技術の融合といった防衛分野の協力は、日ウクライナ関係を次のレベルに引き上げると共に、国際平和に向けた礎となることが期待される。

また、日本はデータ移転に関してDFFT(Data Free Flow with Trust)を提唱し、個人情報保護やセキュリティ確保を前提に国境を越えたデータ利活用を推進している。一方、ウクライナでは平時の際にはデータローカライゼーション規定を定め、データは原則自国内で保存することが求められており、有事におけるデータの物理的防護やデータ流通に関する規定は平時とは異なるものとなっている。日本においても有事と平時におけるデータ流通に関する規定を検討する契機となるのではないか。

③オープンイノベーションの促進

前述のようにBrave1というスタートアップ・アクセラレータを通じたスタートアップの防衛産業への参入は、大企業を含めて国内におけるオープンイノベーションのみならず、企業の新陳代謝を促した。特に技術開発から社会実装の短期化と実地でのトライ&エラーといった技術的失敗の許容は開発企業の裁量を認めるものであり、より自由な発想に基づく技術開発が行われた。これは、さらなるデュアルユース技術の利用を含めた新技術の開発に拍車をかけたと考えられる。ウクライナにおけるスタートアップの資金調達は不確実性が高いことからエンジェル投資が主流であり、ベンチャーキャピタル(VC)や機関投資家の本格的な参入はまだ十分ではないといわれている。しかしながら、ウクライナが構築したイノベーションの基盤はVCや機関投資家の参入の余地を残すものであり、状況が改善すればスタートアップの資本市場にはさらなる資金が流入することが期待され、イノベーションが促進されるだろう。

そもそもスタートアップやイノベーションは将来の事業や収益に対して不確実性が高い。今次の戦争はイノベーションが戦局を支えると共に変化させており、常に技術変革が求められ、さもなければ敗北しか残されていない。こうした状況下で、いかにイノベーション市場で資金を循環させるかという取り組みは、日本にとっても有益であると考えられる。

④防衛協力のあり方

ウクライナ政府は防衛装備品の海外輸出を検討しており、一部の同志国と調整を進めていると認識している。しかしながら、技術の革新速度はその技術の陳腐化速度に比例するものであり、時期により導入国間で技術差が生じる懸念がある。

ウクライナでは無人航空機(ドローン)の国産化の動きがみられるものの、表1にあるように、部分品(注6)の多くは中国からの輸入に頼っている状況にあることがうかがえる。本体については、小型ドローンは中国製が9割以上の割合を占める一方で、中型はポーランド、大型はドイツやチェコ製が多くなっている。これはウクライナ国外で製造することで攻撃の対象となるのを避けるほかに、欧州企業との共同生産を進めることにより、資本強化や技術開発を推進させたいとの狙いがあるものと考えられる。

表1:ウクライナの無人航空機および同部品の輸入
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表1:ウクライナの無人航空機および同部品の輸入
注:輸入国は2024年構成比10%以上を抽出。
出典:“Comtrade”, UNSD

一方、ロシア側の貿易統計が入手できなかったことから、各国の輸出統計から同様に無人航空機の貿易状況をみると、小型ドローンはタイからが多く、部分品(注7)でもタイ、中国、インドの割合が大きい(表2)。

表2:各国からのロシア向け無人航空機および同部品の輸出
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表2:各国からのロシア向け無人航空機および同部品の輸出
注:輸出国はHS6桁単位で各国からのロシア向け輸出額を集計し、2024年の構成比が10%以上となる国を抽出した。
出典:“Comtrade”, UNSD

ウクライナで開発されたドローンは、実際の戦場での実証を通じて不具合の発見、原因の特定、修正が行われている。特に自国で開発・調達できない部品および部分品はウクライナ、ロシア共に輸入に頼らざるを得ず、これらの供給企業は新たな技術への対応、不具合の改良を通じて自社製品の品質や技術を向上させている可能性がある。

このため、ウクライナとの防衛装備品における協力は単に装備品を購入するにとどまらず、同志国を含めた多国間での共同開発を念頭に検討すべきであり、ウクライナのドローンに利用される要素技術はそのサプライチェーンを特定し、日本をはじめとする同志国が協力して技術を維持していかなければならない。それはウクライナを含めた広範な防衛産業のさらなる発展にも資するものであり、安全の保証の一部を担うものになるのではないか。

特に、本件に限らず企業が安価な供給源を重視し、代替サプライチェーン構築の努力を相互に損なうような「囚人のジレンマ」を回避することは経済安全保障の観点からも重要である。

6.日本の支援のあり方

(1)政府開発援助(ODA)

筆者は過去のコラム(注8)において、被支援国の要望に過度に寄り添う支援が、援助慣れを招く懸念を指摘したが、これは被支援国だけの問題ではなく、支援国側の姿勢にも起因する問題である。支援国としては、納税者への説明責任や政策との整合性、自国への裨益(ひえき)を考慮しつつ、被支援国にとって最も効果的な支援を行う必要がある。そうした中、日本は2023年6月に「開発協力大綱」を改定し、新たに「オファー型協力」というODAの枠組みを策定した。

この「オファー型協力」は、外交政策上戦略的に取り組むべき分野において、日本の強みを生かした協力メニューを積極的に提案し、被支援国の開発課題の解決と同時に、日本の課題解決や経済成長にもつなげることを目指すものである。こうした新しい制度は、日本とウクライナ双方に裨益をもたらすと考えられ、積極的に活用すべき枠組みであると考える。

ウクライナ向けの円借款が再開されるには時間を要するため、引き続き無償資金協力が主体となる。無償資金協力は、必要な資機材やサービスを購入するための資金を贈与するものであり、現物支援ではないとされるが、実際にはJICAを通じた調達が行われている。また、調達された資機材の引き渡し後の維持管理は相手国の負担となるため、相手側が予算を確保できなければ、故障や不具合が生じた場合に放置される可能性も否定できない。

さらに、日本企業のウクライナ市場への参入は、汚職や経済の不確実性の影響もあり、メインコントラクターというよりはサプライヤーとして、JICAによる資機材やサービスの調達に依存しているのが実情である。

ウクライナでは戦時下にありながらも、同時に復旧・復興事業が進められている。例えば、オデーサ港の港湾事業をPPP(Public Private Partnership:官民連携)方式で導入するプロジェクトがあり、このような事業への日本企業の参入は将来の投資への試金石になるだろう。こういった事業に対しては、「事業・運営権対応型無償資金協力」という枠組みが有効である。これは、民間企業が施設の建設から運営・維持管理までを包括的に実施する公共事業に対して無償資金協力を行うものであり、企業の公共事業参入に伴う一定のリスクを軽減する制度である。

戦後の本格的な復興期には、多数の公共事業が実施されることが想定されており、日本企業の投資を促進する観点からも、「オファー型協力」と「事業・運営権対応型無償資金協力」を組み合わせるなど、既存の枠組みを柔軟に活用した支援を構築していくことが求められている。

(2)産業分野での支援と弊害

①ビジネス環境および制度整備

経済産業省では、国連工業開発機関(UNIDO)と連携した「日本の民間企業からの技術移転と新たなビジネスの共創を通じたウクライナにおけるグリーンな産業復興プロジェクト」を実施するとともに、グローバルサウス未来志向型共創等事業費補助金の一環として「ウクライナ復興支援・中東欧諸国等連携強化事業」を展開し、ウクライナの復旧・復興に資する事業の創出を支援している。また、JICAもウクライナ・ビジネス支援事業を通じた投資促進事業を実施している。

これら事業は限られた期限の中で フィジビリティスタディ(FS)や技術実証を実施し、ウクライナもしくは周辺国でのビジネスにつなげることを目的としている一方で、調査や実証の結果、企業が事業化を決定した場合には補助事業が終了した後も事業を継続していかなければならない。このため、日本政府、ウクライナ政府には、採択された企業が実際に投資を行い将来にわたって安定的なビジネスを行うための環境や制度整備が求められている。

例えば、UNIDOやJICAの支援事業ではウクライナの戦争瓦礫を利用した建材の生産を計画しているが、ウクライナには再生骨材を利用する素地が整っていない。このため、ウクライナで瓦礫のリサイクルを行うためには、リサイクルが一つの産業として成立する必要がある。公共工事の調達において再生材を一定割合以上含むことを条件とすることは一つの解決策となるだろう。もちろん予算に制約があるなかで調達価格が上昇するような制度変更はウクライナ側としても困難を伴うだろうが、行政機関が率先して入札要件に再生材割合を導入することは再生材産業に競争を促し、将来的には価格の安定化をもたらし、リサイクル産業が振興することにつながるのではないか。

このように新たな制度の構築を促すことは、最終的には日本企業の将来にわたるウクライナでのビジネスに資するものとなる。

②縦割り行政の障害

日本のアグリテック(Agritech)やメドテック(Medtech)、サイバーセキュリティ、ドローンなどの分野におけるスタートアップ企業は、ウクライナ企業に強い関心を有しており、両国企業の連携は両国経済を新たな価値創造社会へと導くことが期待されている。

ウクライナにおけるスタートアップ支援については、例えばJETROが既存のマッチングプラットフォームであるJ-Bridgeを活用し、日本および世界のスタートアップ企業とのマッチングやセミナーなどビジネス支援を実施している。一方、報道(注9)によれば、JICAもウクライナにおいて国際的に競争力を有するウクライナのテック企業と日本の企業・自治体との連携を促す仕組みを検討している。具体的な支援内容には違いがあると考えられるものの、双方ともスタートアップ支援を軸としているにもかかわらず、十分な事業のすり合わせがないまま検討・実施されている点には違和感が残る。これは被支援者に混乱を招くとともに、日本側の納税者に対する説明責任の観点からも問題であると考えられる。

内閣府では、官民による復興促進に向けて関係省庁の緊密な連携を図り、ウクライナ経済復興推進準備会議を設置している。会議では関連省庁の取り組みを共有しているが、依然として縦割り行政の弊害がウクライナ支援に影を落としている状況にある。

各機関が問題意識を持つことは重要であるが、組織の自己満足に陥ることなく、最終的な受益者やドナーの利益を第一に考慮した支援を行うべきである。

③円滑なキャッシュフローの実現に向けて

無償資金協力の対象は原則、政府、国営企業となることから民間企業はファイナンスを含めて支援へのアクセスが限定される傾向にある。日本からのビジネスを促進させる上でもファイナンスは大きな課題であり、例えば国際協力銀行(JBIC)、民間金融機関の協調融資を含めたファイナンスがより柔軟に実行可能であれば、今後のビジネス促進への一助となる可能性がある。一方で、ウクライナ企業の経営や財務状況は必ずしも好調とはいえず、海外企業の子会社であれば親会社保証による借り入れも可能となるが、地場企業の場合にはファイナンスへのアクセスが限定される。

2025年12月23日、フィッチ・レーティングスはウクライナの長期外貨建て発行体デフォルト格付け(IDR)を「CCC」に引き上げたことは、ウクライナの銀行格付けに影響を与えないと述べている。その上で、ウクライナの銀行7行(注10)の格付けを引き上げるにはためには経営環境の大幅な改善による支払能力リスクの低下が求められるだろうとしている。

一方で、国内銀行は貸し出し余力が拡大しているといわれている。Servetnik, Versal, Prykaziuk, Balytska(2025)(注11)は2024年第2四半期時点で、家計の預金だけで銀行の貸出総額の2.2倍に達し、これらの預金は貸し出し以外の資産である国債に振り向けられたと分析している。その上で、国債の購入がロシアによる侵略への対抗資金として活用されたとの利点を示す一方で、戦時下における信用活動の継続的な減少と政府証券への依存度の増加は、特に預金者の観点から長期的な金融安定性に対する新たなリスクを孕(はら)んでいるとしている。

このようにウクライナの国内銀行は貸し出し以上の預金を保有しており、貸し出し余力が拡大しているものの、貸し出しは停滞している。これは、輸出者はより信用力の高い金融機関による融資を望むことによるウクライナの国内銀行の信用力の問題、また、ウクライナ企業側の返済余力やバランスシート懸念による借り控えなどがあると考えられるが、経済を活性化させるためには市中への資金供給量を増加させる必要があり、民間金融機関からのファイナンスに対する保証がいかに確保されるかが重要なポイントとなる。

要するに、貸出資金を増加させることも重要ではあるが貸出資金に対するウクライナ政府保証を含めた保証制度の構築が求められている。例えば日本がERA(Extraordinary Revenue Acceleration Loan for Ukraine:ウクライナのための特別収益前倒し)として貸与する円借款の一部をウクライナ政府が政府保証枠として設定し、日本との取引に利用することが可能となれば、邦銀を含めファイナンスが促進される可能性もあるのではないかと考える。単に財政支援を提供するだけではなく、支援においてもゼロイチの視点が重要となっている。

繰り返しになるがロシアによるウクライナへの全面侵略は5年目を迎えた一方で、和平の見通しは依然として不透明な状況にある。しかしながら、世界情勢が混沌とする中において現在のウクライナ情勢やそこからの学びは世界情勢に対する示唆となるだろう。

読者の中には本稿が理想論であるとの考えを持つ方もいると思われるが、理想を現実に変えるための努力を怠ってはならないと考える。特に、多くの犠牲の下に成り立つウクライナからの学びを通じて、日本のこれまでの支援を振り返ることや将来の外交・安全保障政策を考えることは責務であると考える。

具体的には、紛争の実態や国際社会の対応の在り方を客観的に評価し、より効果的かつ持続可能な支援策を模索するための多面的なアプローチが求められる。また、ウクライナ情勢はグローバルな安全保障の枠組みの変化を象徴していることから、多国間協力の重要性を再認識し、国際社会と連携しつつ、地域の安定と国際秩序の維持に貢献するための戦略的なビジョンを明確に示すことが求められる。

理想を掲げることは決して現実逃避ではなく、不断の努力によって現実に変えていくべき目標である。ウクライナの苦難を風化させることなく、平和の礎とするために、不断に学び、行動し続けなければならない。

脚注
  1. ^ https://www.csis.org/analysis/russias-grinding-war-ukraine
  2. ^ https://guardian.ng/news/world/full-list-the-new-20-point-us-ukraine-plan-to-end-russian-war/
  3. ^ https://unece.org/fileadmin/DAM/hlm/prgm/cph/experts/ukraine/ukr.constitution.e.pdf
  4. ^ https://zakon.rada.gov.ua/laws/show/1135-20#Text
  5. ^ https://www.meti.go.jp/policy/external_economy/trade_control/01_seido/04_seisai/crimea.html
  6. ^ 無人航空機以外の部分品が含まれている点には留意が必要。
  7. ^ 無人航空機以外の部分品が含まれている点には留意が必要。
  8. ^ https://www.rieti.go.jp/jp/special/special_report/226.html
  9. ^ https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA182GR0Y6A210C2000000/
  10. ^ Joint-Stock Company Commercial Bank PrivatBank, JSC State Savings Bank of Ukraine (Oschadbank), The State Export-Import Bank of Ukraine Joint Stock Company (Ukreximbank), JSB Ukrgasbank, Joint-Stock Company Sense Bank, Joint Stock Company First Ukrainian International Bank and Joint Stock Company ProCredit Bank
  11. ^ https://www.researchgate.net/publication/400632968_HOUSEHOLD_DEPOSITS_AND_DEPOSIT_GUARANTEE_SCHEMES_DURING_CRISES_IN_UKRAINE

2026年3月6日掲載

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