世界の視点から

緑の産業革命が始まる

アレッシオ・テルツィ
Economist, European Commission; Lecturer, Sciences Po Lille

社会問題、環境問題の深刻化により、経済成長の有用性を疑問視する声が多く聞かれる。本稿は、経済成長と環境保護は本質的に両立できる概念だと主張するものである。成長と技術進歩は表裏一体であり、グリーン・トランジション(経済の脱炭素化)は、地理的集中、非人間的な反復作業、自動化や非地方化の影響を受けにくい「良い仕事」の創造に貢献できる。グリーン・トランジションは、人と地球に共存共栄の時代をもたらすだろう。

人類が気候変動という手に負えない課題に取り組むとなると、経済規模はどうなるのだろうか。これは、「反成長主義」を唱え、所得と消費の縮小が気候変動上の目標達成に不可欠だとする異端派の経済学者だけが投げかけている問いではない(Hickel 2020, Jackson 2021)。主流派の経済専門家の間でも、「ビルド・バック・ベター(米国バイデン政権によるインフラ投資計画)」や欧州グリーン・ディールなどの計画の約束に反して、脱炭素化は成長と雇用を刺激しないという考え方が注目されている(Claeys et al.2019, Pisani-Ferry 2021)。

マクロ経済が経済モデルを用いてグリーン・トランジションの影響の定量化を試みたところ、GDPへの影響と雇用創出から見た社会全体への利益の総計は控え目なものに過ぎず、想定にもよるがわずかなプラスからわずかなマイナスの間になるだろうと結論付けている(欧州委員会2020、IMF2020、OECD2017)。同様に、計量経済学者は、過去のカーボンプライシングの導入効果を分析し、GDPと雇用への影響は限定的だったとの結論を出している(Metcalf and Stock 2020, Yamazaki 2017)。

しかし、私は、今回上梓した「Growth Good」(2022)において、こうした分析とは根本的に異なる結論を示している。こうしたモデル化はいずれも、気候変動時代における長期的な経済成長に関する問いに適切に答えるには視野が狭すぎる。そもそも経済学の文献のほとんどがカーボンプライシングの分析に集中しているが、カーボンプライシングは往々にして、労働所得への課税を炭素排出にシフトする気候変動の緩和策・適応策にすぎない。

逆に、欧州グリーン・ディールを早期に導入した国は、先進的なグリーン技術において比較優位を確立していくだろう。未来の生産方式の技術的ノウハウを習得することは、必然的に、世界全体の競争力に重要なリバランス効果をもたらすことになる(Lund and Bughin 2019)。換言すると、気候変動問題への取組は、生産体制や経済構造そのものを根本的に変化させるものであり、標準的なマクロ経済モデルはこうした全体的な影響を評価するツールとしては不十分なのだ。専門用語では、かの有名な「ルーカス批判」(経済政策の変化の予測を過去のデータに基づいて行うのは現実的でないとする米国経済学者ロバート・ルーカスの批判)のグリーン版ということになるだろう。

過去の緩やかなカーボンプライシング導入の試みに基づく実証評価は、本格的なグリーン・ディール・パッケージの経済的インパクトを予測する上であまり役立つとは思えない。Aghionら(2021)は、技術革命には以下の基本的なイノベーションの特徴がみられるとしている。
(i)持続的なコスト削減を意味する改善の余地があること
(ii)経済の全部門に広がる普及性があること
(iii)オリジナルの技術が各部門で適応され、二次的なイノベーションの波及が生じること
生産、消費、エネルギー、農業、住宅、交通など幅広い分野に影響を及ぼすことを考えると、グリーン・トランジションは、限界効果によって直線的に評価される単独の公共政策というよりも、おそらく技術革命や産業革命に近いものといえるだろう。

アダム・スミスの誤謬

こうした考え方に基づく場合、中途半端な過去のカーボンプライシングに関する実証的推定値を用いて、グリーン・トランジションが経済に与える影響が小さいと結論づけるのは、方法として間違っているといえる。これは、英国で18 世紀後半に綿紡績の機械化を初期に導入した企業の生産性向上が限定的であったことを以て、第一次産業革命が経済に及ぼした影響は軽微であったと結論づけるようなものである。古典派経済学の創始者であるアダム・スミスは、当時まだ始まったばかりの綿紡績の機械化と蒸気機関の技術が、やがて国家の富に決定的な影響を及ぼすということを全く見抜いていなかったわけであり、「アダム・スミスの誤謬(Adam Smith fallacy:ごびゅう=誤りのこと)」と呼ぶことができるだろう(Wrigley 2011)。

産業革命の初期段階においては、実際のところ、新規技術の経済的効果は小さかったため、こうした誤謬は完全に正当化できる(Pezzoni et al.)。Juhászら(2020)は、18世紀における機械化の「試行錯誤」が、当初は生産性の低下を広く分散させ、初期の平均生産性を低下させたことを示している。その後、新規参入者が改善された生産方法と組織を採用したため、数十年後になってようやく生産性の大きな向上が見られた。同様に、第二次産業革命において初めて電気が企業に普及したときも、旧来のラインシャフトシステム(水車や蒸気機関の動力を軸とギアやベルトで伝える方式)を廃止して組立式生産で電化のメリットを十分に活用できるようになるまで、初期の経済効果は小さかった(Aghion et al.2021, McAfee 2019, Smil 2017)。

21世紀に入り、企業が技術の普及によってイノベーションを起こし、変わりゆく(グリーン)経済の展望に自社の経済活動を合わせられるよう新しい解決策を考案することによって、生産性が飛躍的に向上する可能性がある。水力発電や化石燃料のような成熟した技術とは対照的に、グリーンテクノロジーのコスト削減にはまだ長い道のりがあると考えられるからである。再生可能エネルギーは、歴史上最も安価なエネルギー源となり(IEA 2020)、経済全体の生産性を全体的に押し上げる可能性がある。下記に、SternとStiglitz(2021: 61)の言葉を引用する:

「200年もの間、化石燃料を基にした技術が模索され、そして収穫逓減(入力を増加しても出力があまり増加しなくなること)が始まった。気候変動は、技術フロンティアにおける別の分野の新たな探索を誘発している。(中略)グリーン・エコノミーは生産性の高い新時代を切り開くかもしれない。」

グリーン・グッドジョブ(良い仕事)

初期段階において、グリーン・ディールには、国土全体のインフラ、気候変動への適応、再生可能エネルギーの導入や改修に関わる大規模な投資プログラムという特徴がみられるだろう。こうした活動の大部分は、経済の中で最も労働集約的な部門の一つである建設部門を後押しするものと期待されている。

初期の建設段階に続き、再生可能エネルギー源は定期的なメンテナンスサービスを必要とすると予想されるが、こうしたサービスはその現場で行う必要があるため、海外に移転されることはほぼあり得ない。これには労働者のリスキリング(新しい技能の学びなおし)が必要な場合もあるが、複数の研究によると、環境関連の職業の多くは、必ずしも全くレベルの異なる学校教育やスキルが必要になることはないという。そのため、職業スキルの再編成のほとんどは、おそらくオン・ザ・ジョブ(OJT)での再教育を通じて行われ、デジタル革命などの他の経済変革に比べて、シームレスな(再教育のための休職期間がない)転職の確率がはるかに高くなる(Bowen et al. 2018)。

最近の複数の研究は、こうした職業は反復作業が少なく、対人スキルを必要とする傾向があり、近い将来の自動化によるリスクが限定的であることを示唆している(Consoli et al.2016、Vona et al. 2018)。また、環境関連の先駆者である英国で得られた初期のエビデンスは、雇用創出の可能性が、都市以外の貧困地域にも広がっていることを示唆している(Martin et al. 2020)。

産業革命の初期段階においては、その後の紆余曲折を正確に予測することは困難である。しかし、現在のエビデンスは、グリーン・トランジションが雇用の創出に貢献するだけでなく、特に、地理的な集中が少なく、非人間的な反復作業が少なく、自動化や非地方化の可能性が低い「良い仕事」を生み出すということを示唆している(Rodrik and Sabel 2019)。

勝ち組と負け組

グリーン・ディールによって生産と消費のパターンが変化すれば、国家間の貿易と投資関係の地図は完全に塗り替えられ、地政学に影響を与え、経済的な勝者と敗者は再定義されることになるだろう(Leonard et al.2021)。例えば、ロシアやOPEC加盟国のように、主に化石燃料の輸出に特化している国は、経済モデルの多様化に成功しない限り、敗者となる可能性が高い(Gustafson 2021, IMF 2020)。生産と消費が変化するにつれて、比較優位は変化し、国家の富はこの新しい技術的領域で定義され、争われることになる。

以上を踏まえ、2つの結論が導き出される。第一に、グリーン・トランジションの加速は、気候問題への配慮を抜きにしても、経済的にも戦略的にも意味があるということである。各国は、将来のエネルギー・生産システムにおいて優位に立つために、これらの新技術の採用を急ぐ強い(利己的な)動機を持っている。それにより、ネットワーク効果を獲得し、規制と技術の標準を設定し、将来のイノベーションの方向性そのものを効果的に形成することになるからである(Aiginger 2020)。第二に、この世界規模の急速な経済変革により、一部の国、特にこの技術シフトへの適応を拒否する国や乗り遅れる国は、取り残されることになるだろう。こうしたことを踏まえ、政策立案者は、経済的インパクトは小さいという現在の予測に惑わされ、独善に陥らないようにしなければならない。グリーン産業革命はもう始まっているのである。

筆者注:見解は筆者のものであり、必ずしも欧州委員会の見解を反映しているわけではない。

本稿は、2022年6月28日にwww.VoxEU.orgにて掲載されたものを、VoxEUの許可を得て、翻訳、転載したものです。

本コラムの原文(英語:2022年7月7日掲載)を読む

参考文献
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  • Aiginger, K (2020), “A green deal will not work without refocusing productivity”, VoxEU.org, 20 January.
  • Bowen, A, K Kuralbayeva and E L Tipoe (2018), “Characterising green employment: The impacts of ‘greening’ on workforce composition”, Energy Economics 72: 263–75.
  • Claeys, G, S Tagliapietra and G Zachmann (2019), “How to make the European green deal work”, Bruegel Policy Contribution 13: 21.
  • Consoli, D, G Marin, A Marzucchi and F Vona (2016), “Do green jobs differ from non-green jobs in terms of skills and human capital?”, Research Policy 45(5): 1046–60.
  • European Commission (2020), “Impact assessment, accompanying communication ‘stepping up Europe’s 2030 climate ambition – investing in a climate-neutral future for the benefit of our people”, SWD – Staff and Joint Working Documents, European Commission (176 final).
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  • Hickel, J (2020), Less is more: How degrowth will save the world, London: Penguin.
  • International Energy Agency (2020), Renewables 2020, Paris.
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  • Jackson, T (2021), Post growth: Life after capitalism, Cambridge: Polity.
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  • Metcalf, G E, and J H Stock (2020), “The macroeconomic impact of Europe’s carbon taxes”, NBER Working Paper 27488.
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  • Pezzoni, M, R Veugelers and F Visentin (2019), “Technology diffusion trajectories: New evidence”, VoxEU.org, 3 September.
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2022年7月27日掲載

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