本稿では、企業や事業所の優秀な温暖化対策の取り組みを表彰することで促す政策について、海外の制度を取り上げて紹介する。表彰は、優秀な企業として認知されることが主なメリットである。中でも、企業の自主的な参加をベースとした制度とそれに関連する研究を紹介する。
1.米国の事例1:Climate Wise
Climate Wiseは1993年から2000年にかけて、米国の環境保護局(Environmental Protection Agency, EPA)が実施していた、自主参加型の企業向けプログラムである。参加企業は、温室効果ガスを削減するため具体的な手段を検討し、自主的に削減に取り組む。参加に必要なのは、直接排出量の算定のみだった。EPAは600を超える参加企業に対し、主要なエネルギー削減手段のチェックリストの提供、省エネに関する技術的支援や専門家による無料電話相談などを提供していた。削減を進めるに当たり、EPAは燃料転換、マネジメント面のベストプラクティスなどを推奨していた。また、実績の優秀な企業を表彰するイベントを毎年開催していた。現在、制度的な効率化などの事情から、当該制度はエネルギースタープログラムに統合されている。
Pizer(2011)によれば、Climate Wise参加企業では、ガス等から電力への燃料転換により、電力消費量がむしろ増加した可能性が示唆されている。他方で、Brouhle et al.(2013)は一部の企業では技術開発投資が促進された可能性を明らかにしている。
2.米国の事例2:33/50プログラム
33/50プログラムは、1991年から1995年にかけてEPAによって実施されていた、17種の毒性化学物質排出量を一定量以上排出する事業所(およびその所属企業)に対して、排出量および移動量の自主的削減を促すプログラムである。なお、参加候補となった事業所・物質は、特定の有害物質の排出量算定と報告を義務付けるToxic Release Inventory (TRI)制度の対象でもあった。33/50プログラムでは、1992年までに1988年比33%、1995年までに50%削減することを目標としていた。他方で、目標の立て方や削減に使用する手段は各事業所と企業が柔軟に決めることができた。当時の他のプログラムと比較しても多い1,294の企業が参加し、1995年までに約55%の削減が実現したとされる。TRI制度ですでに排出量の算定・報告はしているため、プログラム参加に伴う費用が少なかったことが背景にあるとされている。また、特に優秀な実績を出した企業は、“Environmental Champion”として表彰、公開された。
Bi and Khanna (2012)によれば、33/50プログラムに参加した企業の事業所では、参加していない事業所と比べ、削減率が約15から23%高かった可能性が示唆された。
3.まとめ
Climate Wiseや33/50プログラムのような、自主的取り組みをベースとした政策において、参加企業/事業所の取り組みをどのように促すかは重要な課題である。その有効な方法の1つとして、優秀な取り組みの表彰があると考えられる。ただし、本稿で取り上げた制度の有効性に関する研究では、表彰を含むプログラム全体の効果をとらえていることに注意が必要である。