本稿では、温暖化対策としての表彰に関する研究論文を紹介する。温室効果ガス削減を目的として、事業所や企業の優秀な温暖化対策の取り組みを表彰するような制度は、世界に広く存在する。表彰は、いわゆる表彰状で自尊心を高めたり、優秀な事例として公開されることによる知名度の上昇などが、インセンティブとして考えられている。以下では、日本の制度を例にとり、その有効性について紹介する。
1.日本の表彰制度
日本では、都道府県を中心に、事業所や企業の温暖化対策に関する取り組みなどを表彰し、ホームページ(HP)などで社会的に公表するような制度や、そういった要素を含む制度が普及している(2014年の段階で25都道府県が導入)。ほとんどは、2000年以降に導入されている(別表1および別表2)。これらの制度には、①表彰だけを目的としている場合と、②エネルギー監査など、他の制度に表彰が付随しているケースがある。①の場合は、都道府県がHP上に公募を出し、それに応募された中から表彰する。他方、②ではエネルギー監査(注1)などの制度の中で優秀な取り組みが表彰される。また、表彰対象となった事業所/企業には、省エネ機器購入について低利子の融資を受けられる、といった特典があることもある(矢島 2022)。国レベルの類似政策では、省エネ法で実績が優秀な企業をランク付けして公開している。
このような表彰は一般に行動を促すインセンティブになると考えられてき+たが、Bénabou and Tirole (2006)によれば、必ずしも促さない可能性がある。すなわち、“報酬(ここでは表彰)目当てと思いたくない、思われたくない”といった感情が生じる可能性があるのである。これに加えて、金銭的な報酬がある場合、さらに“お金目的と思いたくない、思われたくない”といった感情が生じ得る。そのため、表彰制度が与える効果を検証する必要がある。
2.政策の効果
矢島(2022)では、先に紹介した表彰制度がCO2排出量削減に寄与するかを検証した。その際、低利子融資を金銭的報酬と捉え、その有無による効果の違いも検証した。具体的には、1990年度から2014年度までの製造業部門の都道府県別業種別データを用いた回帰分析の結果、金銭的な報酬を伴わない場合、2014年までで平均して9%程度のCO2削減効果が確認された。他方で、金銭的な報酬には追加的な削減効果は確認されなかった。
3.まとめ
表彰は、温暖化対策を促すことを目的として、さまざまな制度と組み合わせされている。本稿では、表彰だけを取り出してその効果を見たときの有効性について、CO2削減効果を検証した。表彰は温暖化対策に有効と考えられるが、金銭的な報酬の設定は有効でない可能性がある。

