日本における外国人労働者は、単純労働と高度人材に二分される。前者は労働市場の需給状況に応じて短期的に調整可能な労働力として見なされてきた一方で、後者は積極的に受け入れるべき労働者とされ、そのための政策が打ち出されてきた。高度人材である専門的・技術的分野の在留資格保持者は、2008年から2018年の10年間で3倍以上に増加しているが、国際的にみれば先進国の中では依然として低い水準にとどまっている (中村 2019, pp. 35-36)。以下では、高度外国人材の受け入れが自国経済に与える影響と、日本において高度外国人材の受け入れが進まない要因についての研究を紹介する(注1)。
高度外国人材を獲得する目的の1つに、イノベーションの促進がある。高技能移民がイノベーションに与える影響に関する研究として、Niebuhr (2010) が挙げられる。Niebuhr は、ドイツの1995年から2000年のデータを用いて、移民を背景とした文化的多様性が、その地域のイノベーションの水準を高めるかどうかを推定した(注2)。ここで注意が必要なのは、地域の文化的多様性とイノベーション水準の間に相関があったとしても、それが因果関係を表すとは限らない、ということである。例えば、イノベーションが進み生産性が高い地域は、移民にとって魅力的であるため、結果的に文化的多様性が生まれているのかもしれない。Niebuhrは、イノベーションには関わらないであろう低技能労働者の文化的多様性の指標を用いることで、この問題に対処している(注3)。分析の結果(注4)、移民によってもたらされる労働者の知識と能力の多様性は、地域のイノベーションの水準を向上させるという結論が得られた(注5)。
また、経営学の立場から、高技能移民が、その受け入れ企業に与える影響を調査した研究も存在する。Liu et al. (2015) は、英国で働く高技能移民の中国人に対するインタビューを基に、知識移転に関する先行研究を踏まえて、ケーススタディを行った。一般的に、独立した2つの企業間で知識や情報の交換が行われる際には、取引相手となり得る企業の特定、その企業との関係性の構築、および知識の共有という、3つの段階を踏むことになる。2つの企業の国籍や使用言語が異なる場合、それぞれの段階で文化や言語の違いが障壁となることが多い。Liu et al. (2015) では、英国で働く高技能移民の中国人が、英国と中国の企業間での知識移転において、重要な役割を果たしていることが示された。バイリンガルおよびバイカルチュラルの高技能移民は、企業間の交渉を円滑にし、高度に専門的な情報を、言語をまたいで伝達することができるからである。これは、高技能移民の受け入れ企業が、外部の知識へのアクセスにおいてアドバンテージを有するということであり、上述したイノベーションにも関係していると考えられる。
これらの分析結果がそのまま日本にも当てはまるかという点については注意が必要であるが、高度外国人材の獲得は多くのメリットをもたらすと考えられる。日本政府は高度外国人材の獲得のためにさまざまな政策を打ち出してきたが、上述のように十分な成果が得られているとは言い難い。日本が高技能外国人にとってなぜ魅力的でないかを調査した研究として、Oishi (2012) が挙げられる。Oishiは、日本で働く高度外国人材や日本で学ぶ外国人留学生、日本の企業経営者や国家公務員など126人に対して、詳細な聞き取り調査を行った。その結果、高技能の外国人が日本で働きづらいと感じる点として、昇進やキャリア形成の見通しが不透明であること、海外で身に着けたスキルが生かされにくく、日本独自のビジネススタイルを学ぶのに時間がかかること、労働市場に柔軟性がないこと、子供がいる場合、公立学校に子供を通わせることに不安を感じること、配偶者や子供がコミュニティの中で孤立してしまう可能性があること、外国人に対する年金制度が整っていないこと、女性にとって働きやすい環境ではないこと、ワークライフバランスを調整しづらいこと、などが挙げられている。言語や文化の違いという障壁によって高度外国人材を獲得しづらいというのは当然のことながら、それ以外にも考慮すべき問題は多いといえる。