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コロナウイルス感染症の購買行動への影響:POSデータによる考察(動画)

小西 葉子
上席研究員

コロナショックはマスクから消毒液、トイレットペーパーへと次々と人々の購買行動を変化させてきました。
在宅勤務でパソコン需要は増えたのか、海外からの旅行客・インバウンド需要はどうなったのかなどについてビッグデータと統計の専門家である小西葉子上席研究員が、最新のPOSデータをもとに紐解きます。
こちらのコラムも併せてご覧ください。

本コンテンツはrietichannel(YouTube)にて提供いたします。

プレゼンテーション資料 [PDF:1.3MB]


経済産業研究所で上席研究員を務めております小西葉子と申します。

今日はコロナウイルス感染症の購買行動への影響をPOSデータによって考察した結果をご紹介したいと思います。

まずコロナショックが最初に現れたのはマスク市場でした。こちらはインテージ社が調べた結果ですが、赤の線が今年度の販売金額の推移になっています。黒の点線が2019年の水準になっています。前年水準と比較して大幅に上昇していて、かつ各種アナウンスと連動していることが見て取れます。

例えば、1月22日は中国政府がコロナウイルスに関して初めて正式会見を行った日、1月28日は日本人初の感染者を確認した日、そこから 1月31日のWHOの緊急事態の宣言までの間にマスク販売はピークが来ています。その後急激に落ちて、2月12日に菅官房長官がマスク不足解消に言及されたのですが、依然としてマスクや、手指消毒液などは全然市場に出回っていない状況になっています。私たちはこの1~2カ月ずっと予防のためにマスクや手指消毒液を探していたのですが、売り場にない状況が続いています。必要なものが入手できず、常に探している状態で消費者は疲弊しています。

その状況で何が起こったかと言いますと、2月27、28日ぐらいにトイレットペーパーが不足するというデマが SNS を駆け巡りました。これによって紙製品の買いだめが起こっています。こちらのグラフは経済産業省でオープンソースとして公表しているデータで作成したドラッグストアの販売額についてのグラフです。

最初に少しだけ見方の説明をさせてください。これは週次のデータになっていまして、前年同週比が0%になった場合には前年と同じだけ売れたと考えます。100%になった時には2倍売れたと言えます。9月、10月のところを見ていただきたいのですが、10月1日の消費税率引き上げを懸念して、駆け込み需要が起こって小さなピークが見えています。

次に右端2020年の1月、2月を見てください。赤色の線は、ドラッグストアの健康関連品で、これはマスクと手指消毒液を含みます。前年同週比が、非常に大きなピークで166%となっています。そして、それより1カ月遅れて青色の線の紙製品、トイレットペーパー、キッチンペーパー、ティッシュペーパーを含む製品が同じように153%となっています。これは、マスクを含む健康関連製品は2.7倍以上、トイレットペーパーを含む紙製品は2.5倍以上、前年よりも売り上げがあったことを示します。

この2月27、28日のデマ拡散と、安倍首相が翌週3月2日から一斉休校と在宅勤務の要請をしたタイミングが重なったことによって、紙製品、特にトイレットペーパーが爆売れしました。キッチンペーパーやティッシュペーパーについては戻ってきている部分もあるのですが、依然としてトイレットペーパーに関しては品薄が続いています。3月28、29日の週末には1都4県の外出自粛要請がありました。両製品とも前年と同率やマイナスになっているように見えますが、これは買いだめの需要が落ち着いたというよりは、どちらかというと、モノがないから売れてないと判断したほうが良いと思います。

ここで1つだけ POS データの見方をご紹介します。POS データというのは、私たちがお店で買ったものだけが計上されますので、お店が持っている量と消費者が買いたい量の、いつもどちらか小さい方しか観察されません。つまりお店が300個持っていても買った人が3個であれば3個の販売額しか観察されませんし、お店が300個持っているけど消費者が1000個買いたい場合も300個分の販売額しか計上されません。例えばこの健康関連品のピークが前年比の2.7倍だったというのも、もっと在庫があればもっと売れてピークは高かったかもしれませんし、最近販売額が前年より下がっているところも、買いだめ行動が落ち着いたというより、モノがないから売れていないということだと思います。

次は、3月2日からの一斉休校開始と在宅勤務の要請開始で市場に何が起こったのかを見ていきたいと思います。

まずコロナショックで販売増となったスーパーマーケットの食料品について見ていきたいと思います。食料品は今回軽減税率の対象になっていましたので、消費税率が上がった10月1日の前に大きな駆け込み需要は見られませんでしたが、10月に入って10月10日から13日に台風19号が本州に接近したことによって、関東地方(赤色の線)に台風に備えた大きな買いだめ行動が見えます。このグラフは関東、近畿と地域別に見ているのですが、近畿の場合は台風19号の影響がそれほど大きくなかったので、買いだめによるピークは見えません。

グラフの右側を見てください。3月2日の月曜日から一斉休校と在宅勤務の要請が始まりますが、関東と近畿で台風19号の時よりも大きな買いだめが起きています。つまり、コロナショックは台風よりも大きいことが分かります。また、3月28、29日の1都4県に対する外出自粛要請では、当然ですけれど関東の方が近畿よりも大きく買いだめが起こり、さらに、3月2日の一斉休校よりも大きな買いだめが起きています。今後も時々刻々と出される各種アナウンスによって、変動していくことになると思います。

先ほど POS データの特徴を言いましたけれど、食料品に関しては今のところトイレットペーパーやマスクのように品薄とか品物がないという状況はありませんので、消費者が買ったものの量をとらえています。

次に販売増から販売減になったものを見ていきたいと思います。在宅勤務やそれに伴うWeb 会議などが増加して パソコンが売れ、在宅時間が長くなったことによりテレビも売れています。売れているというのは前年と比べてという意味で、前年同週比がマイナスになっていないということです。

赤色の線がテレビ、青色の線がパソコン、緑色の線が冷蔵庫になっていますが、どれも10月1日の消費税率引き上げ前から、販売額が増えているのが分かります。冷蔵庫は、10月1日以降、マイナスで推移しています。冷蔵庫は一家に何台も買うものではないので、通常すごく売れた後は反動減といって消費が落ち込みます。一方で、青色の線のパソコンは、消費税率引き上げの駆け込み需要が終わった後はマイナスが続いていますが、1月のあたりに前年よりも2倍売れているピークが見えます。これは、Windows 7がサポートを終了することによる買い替え需要になります。しかし、サポート終了後に、販売額が急激に落ちることなく、なだらかに3月第1~2週までプラスが続いています。これは在宅勤務の影響が出ているのではないかと思います。

テレビに関しても同様に、駆け込み需要が終わった後はマイナスが続いていますが、年明け以降はプラスになって3月の第一週で前年の1.2倍売れています。テレビとパソコンは、3月28、29日の1都4県の外出自粛要請で、家電量販店の営業時間の短縮や買い物客の減少により、マイナスとなり前年を下回っています。

次に、販売減になっているドラッグストアの化粧品について見ていきます。在宅勤務の要請によって外出機会が減っていること、またマスクの着用率が上がっていることによって、メイクアップ商品の販売が減少し続けています。コロナ禍では、皆さんモノを買うことが多く、販売額が減っているものは限られています。その中で特徴的なのが、化粧品です。赤色の線がメイクアップ化粧品、青色の線が基礎化粧品、黒色の点線が化粧品の合計なのですが、1月末以降、特にメイクアップ化粧品の販売額が下がり続けていることが分かります。

そもそもこのコロナウイルスの影響について1月末にニュースになり始めた頃、私たち日本人はどちらかというと「せっかくインバウンドの波が来ていたのに、これでちょっと中国から来てくださる方が減るなあ」とか「今年は春節が盛り上がらないなあ」とのんびり構えていたと思います。ここでは、インバウンド市場への影響を見ていきます。

これは日本政府観光局(JNTO)のデータで作成したグラフです。2019年2月のインバウンド旅行者数が260万人なのに対して、2020年2月は108万人で58%ダウンしています。3月9日に韓国と中国に対する発行済みビザの無効化をし、現在は諸国に対して入国制限を行っており、この状況が長く続きそうな予想も立てられていますので、インバウンド需要に関しては3月以降ますます減少していくと思われます。

日本は、東アジア4カ国からの旅行者数が全体の約70%を占めていて、その中国、韓国、香港、台湾の皆さんのお土産として人気なのがドラッグストアでの化粧品や医薬品です。従って、先程の化粧品の落ち込みには、日本人の需要減ももちろんありますが、外国人観光客のお土産購入が減っていることも理由として考えられると思います。

引き続きインバウンド市場を見てみたいと思いますが、化粧品は日本人需要もインバウンド需要も下がっていることは先ほど申し上げましたが、こちらは化粧品と医薬品のグラフになります。青色の線が医薬品です。化粧品も医薬品も消費税率引き上げ前の駆け込み需要が観察され、その後は反動減で前年販売額を下回っています。2月末まで同じような水準で推移していますが、両方とも3月に入ってさらに下がり続けるという状況が見えています。この理由は、化粧品は在宅勤務による日本人の需要減とインバウンド旅行者減による販売額の減少、医薬品についてもインバウンド旅行者減による販売額の減少であると考えられます。

一方、医薬品については日本人の需要は下がっているのでしょうか。私は多分「イエス」だと思っています。なぜかと言いますと、2020年の冬はコロナウイルスの感染を避けるために、例年にも増して手洗いやうがいに励み、さらに手指の消毒にもかなり真剣に取り組んでいます。また、冬から春にかけて、もともとインフルエンザ予防、花粉症予防の目的でマスクを着用する方が多いのですが、売り切れているのを見ても分かるように、マスク着用に励んでいます。これらの感染予防行動によって風邪やインフルエンザの罹患率が下がっていて、インフルエンザは薬局で薬を買うわけではないですが、医薬品の販売額が減少しているのではないかと考えています。

こちらは国立感染症研究所のデータから作成したインフルエンザの医療機関の定点当たりの報告数になっています。オレンジ色の線は2018年、緑色の線は2019年ですが、赤色の線の2020年がかなり低水準になっているのが分かると思います。これは2010年以来10年ぶりの低水準になっていまして、2010年何があったかと言いますと、新型インフルエンザが2009年に見つかり、その冬が2010年に当たるのですが、やはり私たちは予防に努めました。

現在のコロナショックの状況下において、トイレットペーパー不足についてのSNSでのデマの拡散のように、印象的なものが瞬時に通信技術(ICT)、 IoT、ウェアラブルデバイスが発達したことによって、すごく拡散しやすくなっています。トイレットペーパーに関しては各国自給率がとても高いですし、マスクとは原料がまったく違うにもかかわらず、各国で不足している状態です。日本でもまだ買うことが難しく、デマが現実になってしまいました。

人間の移動が制限された今こそ、情報の移動が活発になってくるので、デマやフェイクニュースではなく正しい科学的な情報に基づいたもの、自身の経験に基づいた知識など、世界中で役に立つものが共有されることを強く望みます。

私が今後していきたいことですが、写真を見ていただいても分かる通り、写真や映像の持つ力というものは言葉を越えてメッセージ性が強いですし、非常にイメージしやすいです。そして間違いなくある時ある一瞬ある場所の何かを切り取っています。しかし、包括性、網羅性は高くないです。

一方で、データによる情報発信は、メッセージ性はとても低いですが網羅性や包括性はあります。私は写真や映像を撮ることはできませんが、研究者としてデータを使ってグラフや表、得られた知識などを供給・共有し続けることで、現状把握、政策提言に役立てたいと思います。また、今後落ち着いた後に科学的検証が行われると思いますが、その材料を1つでも豊かにしていきたいと思っています。 私の報告は以上です。ありがとうございました。

Q&A

Q:小西さんが取り組んでいる経済産業省のプロジェクトとはどのようなものでしょうか。

A:今年度は「令和元年度ビッグデータを活用した新指標開発事業(短期の生産・販売動向把握)」というプロジェクトに取り組んでいます。経済産業省の調査統計グループでは、2014年度から現在まで毎年名前を変えてプロジェクトを行っていますが、一貫してビッグデータを公的統計調査に生かすことができないかというテーマで取り組んでいますので、私たちは通称「ビッグデータプロジェクト」と呼んでいます。

私自身は2016年から参加しており、この2年は研究会の中でリーダーを務めさせていただいています。今日使ったグラフのほとんどは、経済産業省のホームページ内で、「BigData-STATSダッシュボード(β版)」を立ち上げていまして、そこで毎週金曜日に公表されるデータで作成しています。どなたでも無料でダウンロードできるものを使っております。私の立ち位置としては、プロジェクトのメンバーの1人として、RIETI内外でこのデータを使った発信をし、こういう面白いことができるのであれば自分たちも使ってみたいなという方々を増やして、社会的な重要性が示せればと思っています。それによって政府や経済産業省がデータの拡充や更新するというモチベーションになるような活動ができたらいいなと思っています。

Q:政府は今後ビッグデータをどのように統計に利用していくべきでしょうか。

A:もともと統計とかデータというのは平時の時は見向きもされないというか、他にも大切なことがたくさんあるので、どちらというと投資としては後回しにされることが多いです。けれどこういう有事にデータで市場を把握しないと政策が打てないような状況があると、そもそもどういうデータが日本にあるのかということを考える契機になると思います。

プロジェクトの中で、経済産業省が作っている公的統計調査をビッグデータで置き換えるという試みを実現したのですが、その際にはフィジビリティー調査といってどういうデータが企業にあるのかを時間をかけて調べました。それと同じように、コロナショックを乗り越えていくために、政府全体を通して、そもそも日本に活用可能な価値のあるデータがどれくらいあって、そういうデータでビジネスをしている企業(データベンダー)がどれくらいあるのかを調べる機会になると思います。データベンダーを活用して、そこから情報を収集して、政策に即時に活用していくことが重要です。それによって、現在非常に大変な局面にある個々の企業や業界団体に調査やデータの拠出を依頼せずにすみ、負担を軽減できると思います。

平時になったときに、今後技術やビッグデータを使ってもっといい統計を作るために、民間のデータで置き換えて行こうという活動をする時にも、国内のデータ力が分かっていれば、スムーズに取り組んでいけると思います。

2020年4月15日掲載

この著者の記事