新型コロナウイルス何を正しく恐れるか

藤 和彦
上席研究員

第一部「グローバリゼーションの逆回転は加速するか」

佐分利 応貴(RIETI国際・広報ディレクター(以下、佐分利)):
今日はお忙しいなか緊急インタビューにご対応頂きましてありがとうございます。早速ですが新型コロナの状況を踏まえ、これからどういうことに目をつけていくべきか、大局観的な話を伺えますでしょうか。

藤 和彦(RIETI上席研究員(以下、藤)):
まず冒頭簡単に申し上げますと、21世紀に入ってから世界はグローバリゼーションで成長してきましたけど、たぶんこのグローバリゼーションの動きが一時的に止まる、場合によっては逆回転が起こるかもしれないと。いま中国・韓国それからアメリカ・ヨーロッパ、日本もそうですけど世界各国でヒトの流れが止まり、いずれはモノの流れが止まればカネの流れも止まるということで、多分これまでのグローバリゼーションという成長エンジンがなくなった中にあって、日本を含め世界の経済はどうやってこの新型コロナウイルスによるダメージから回復し、さらには持続ある成長過程に入っていくかっていうのは全くゼロペースというか、これまでとは違った発想で政策を組んでいかなければいけないんじゃないかなと思っています。

佐分利:
まさに逆回転を起こすということですが、今回の新型コロナ関係の影響というのが、そうするとグローバリゼーションが逆回転を起こすほど、しばらく続くであろうというイメージでしょうか。

藤:
私は原油を中心に世界経済を見ているものですから、この2月ぐらいの中国のパンデミックによって、いま1日当たりの世界の原油需要ってのはだいたい1億バレルぐらいなんですけど、中国中心に約300万バレルぐらい原油の需要は落ちたと言われています。21世紀に入ってリーマン・ショックの後に一時的に少し原油需要が落ちましたけど、たぶんこの新型コロナウイルスがスペイン風邪と同じように世界的に広がるとすれば、3年間は蔓延して収束に3年かかるんだとすれば、少なくとも3年間は世界の原油需要が落ちるという、たぶん未曽有の事態、古くいえばもう第1次・第2次石油危機以来の原油需要が落ちるってことになるんじゃないかなと思っています。ですから、原油の需要が落ちるってことは当然のことながら、世界経済にとってみてもかなり問題が起きて、むしろ日本も一部にそういう動きが出てますけど、生産拠点を含めて国内回帰という動きはどんどん強くなっていくんじゃないかと思っています。

佐分利:
実際、前回のスペイン風邪の場合には第1波第2波という形で何度か来たわけですが、今回も恐らくすぐ収束という形には向かわずに、何度もそのような形で、いわばグローバリゼーションに対する逆風が吹き続けるという印象でしょうか。

藤:
多分いまこの新型コロナウイルスに対する脅威が世界全体で失われるには、1年か2年後にワクチンができ、ほとんどの方がコロナウイルスに罹って抗体ができて、普通の季節性のインフルエンザと同じようになるまで、平常に戻るのは難しいですから、それを考えるとやっぱり2年3年はかかるかもしれないと思っています。

佐分利:
ありがとうございます。グローバリゼーションを今まで引っ張ってきた様々な成長エンジンの部分なんですが、今回の急速な需要の落ち込みによって最初に現れるのが、ヒトの移動ということになりますでしょうか。

藤:
ヒトの移動はもう明らかで、実際にもう起きていることですね。私からすると、ある日突然アメリカが30日間とはいえ、ヨーロッパ全体からの受入れを止めたっていうのは、これは考えてみればすごいことじゃないかなと思っています。

佐分利:
ドイツの国境閉鎖とか、いろいろな国でそういった国境に対するバリアーが高くなってきたということですね。これもいつになったら収まるか分からないような障壁が国境にできてきたと。次にモノが動かなくなってくることですが、これは需要減によるものなのか、それとも交通インフラといいますかそういった運輸のトラフィックがダメージを受けて下がってくるのか、どういうイメージをお持ちでしょうか。

藤:
今回もいま日本の企業が本当に苦労しているように、中国で部品供給を頼んでいたらいつ入ってくるかわからない、自分たちの操業に想定外のことが起きてしまう、ということを考えた場合には、やや過剰反応かもしれませんけど、なるべく自分がコントロールできる範囲で、生産システムとかサプライチェーンをつくって行こうといった話になっていくと思いますから、多分そこが一番大きいんではないか、世界の需要も当然のことながら、昨日もゴールドマンサックスがすでにアメリカの第2四半期の経済成長率がマイナス5%と言ってますので、第1四半期が0%、第2がマイナス5%であればアメリカ自身もリセッション入りするという中にあって、需要も大きく凹んでいきますので、拡大する需要にどう対応するかということではなく逆向きのことが起こるんではないかと思ってます。

佐分利:
わかりました。モノに関していうと、1つは各国のマーケット自身がシュリンクするということ、それから更にそれを支えるサプライチェーンそのものが毀損をしてしまい、モノの移動そのものもかなり落ち込んでくるということですね。

藤:
はい、メリットというかコストというかデメリットが今回強調されてしまったので、多分企業はそちらの方に、やや少し過剰かもしれませんが行く可能性があると思います。

佐分利:
大企業中心にグローバルバリューチェーンの見直しが起こっていくのではないかということになると。

藤:
当然これまで中国が中心ですから、大企業中心に中小の方もかなり現地に進出しましたけど、合わせて日本に帰ってくるということになるかもしれませんね。

佐分利:
わかりました。マーケットの収縮そのものは、日本にとってはメリットになることもあるということでしょうか。

藤:
いえ、生産拠点が日本に帰ることによって、需要が回復すればそれだけ雇用も増えてメリットが大きいと思うんですが、日本の場合は人口構成上非常に高齢化も進んでいることもあって、他の国に比べて需要の拡大っていうのはなかなか難しいものがありますから、それだけで直ちにメリットとなるかどうかわからないと思います。

佐分利:
日本に、つまり各国において本国回帰が起こってきて、グルーバルバリューチェーンをもう少しショートライン化しよう、縮小させようと、リスクを減らそうということが起こったとしても、日本においては残念ながら労働力も足りないので、決して「世界の工場」がもう1回日本に戻ってくるわけではないというイメージでしょうか。

藤:
そうでしょうね。思い切ったロボット化とか合理化をすれば別でしょうけど、なかなかそういうことが起きないとすれば、日本ではそのチャンスを得ることはできないし、やっぱりその日本はもうすぐその高齢化率が3割を超える国ですから、従来と同じようにその生産人口中心の経済よりも、もっとその高齢化に備えた日本全体のトータルのデザインを考えていかなければいけないのではないかと思っています。

佐分利:
まさにそのトータルのデザインというところなんですが、その話の前にもう一つだけ。カネの話が残っているわけですが、お金はこれから世界各国で中央銀行をはじめ、金融緩和をして何とか中小企業をはじめとする資金繰りを支えようという動きはあるんですが、これも必ずしも十分ではないということになりますでしょうか。

藤:
これは一部の方がおっしゃっていますけど、リーマンショックの場合はですね、金融市場でパニックが起きたので、金融システムを維持するということで中央銀行が果断に行動して回復して参りましたけど、今回の場合は御案内のとおり実体経済の方が中心で来ているわけですから、実体経済が毀損した時に果たして中央銀行は前回と同じように活躍できるかといったら、まあ今日出ておりますそのFEDの実質ゼロ金利になってもほとんどマーケットが動いていないということを考えますと、やや力不足感は否めないし、むしろ各国がなかなか打つ手はないんですけど、どうやって効果のある財政政策を打っていくか、これまでのような公共需要でいいかどうか分かりませんけどそこでかなり知恵を絞らなきゃいけなくなると思います。

佐分利:
つまり各国が金融政策でお金を流し続けようとしても、実体経済が毀損をしているので、それではなかなか有効需要を作りきれないのではないかと。

藤:
はい、まあ一例をあげれば、観光会社にいくら融資するといっても、観光客が来なければ銀行からお金を借りてもどうしようもないですから、多分そういう問題が起きているのではないかと思いますね。

佐分利:
わかりました、ありがとうございます。次に実体経済に財政政策をはじめとする何らかの手を打たなければいけないとした場合に、いまこの足元でどういうところに力を入れるべきでしょうか。

藤:
なかなか難しいんですけれど、日本は従来から財政政策というと公共事業中心だったんですが。これは個人的に思っているんですが、いま公共事業をやると、またそこを中心に新型コロナウイルスが蔓延する可能性がありますので、なかなか収束宣言するまでは、さすがの中国といえ大々的な公共事業というのは取れないんではないかと。で、そうなると公共事業以外の財政政策ということで、例えば減税ですとか、現金給付って話も出てますけど、財政出動しても受け取った国民の側が現金を懐に入れるんじゃなくて、しっかりとお金を使うような形の政策をどうやって打っていくか、どうやって内需につなげていくかという政策が必要なのかなと思います。

佐分利:
そういう意味では、消費性向が高いといいますか、お金をどんどん使ってくれるところにお金を使うべきであろうと、公共事業では結果的にはその現場が動けないので糞づまってしまうという形なのではないかということですね。

藤:
あと、もう一つやっぱり90年代の日本の公共事業の一番の問題は、公共事業費の半分ぐらいが土地代で消えたんですよね。土地代に消えるというのは地主にお金が入るだけでなかなかお金が実体経済に回らない。むしろそのなけなしのお金を出動する場合には、先ほどおっしゃったような、すぐ消費に回るような、その方の生活水準が上がるような形のお金の出し方が重要かなと思います。

佐分利:
具体的には、フリーランスとか個人事業主になるんでしょうか。それとも別のターゲットを考えておられますか。

藤:
フリーランスの方なんかももちろん重要だと思うんですけど、私が思いますのは今回のコロナウイルスもそうですけど、国立感染症研究所っていうのはこの10年間で予算が20億円も減らされちゃった。さらには日本の医療現場・看護師の方、お医者さんの方含めて今もう手一杯の状況になっています。お金がなくて、いわゆる地方の病院も閉鎖されてという中にあって、むしろ医療だとか、それからさらには日本は非常に高齢多死社会ですから、介護の分も含めた、そういう方たちに対する人的資本っていうものをどうやって充実させるかっていうのが重要だと思います。

佐分利:
そこは何かいい方法はありますでしょうか。

藤:
単純な話で、財政とか含めていろいろ制約うんぬんって言ってますけど、むしろ本当にこれからの日本を支えてくれる、しかも短期的には今回の新型コロナウイルスを未然に防いでくれる前線部隊の方たちの待遇を抜本的に改正することではないでしょうか。

佐分利:
それは一時的なものではなく?

藤:
一時的なものじゃなくて、特にまだ新型コロナについては一時的でもいいとは思うんですけど、感染症の問題はもし新型コロナが治ったとしても、次から次へと出てくる可能性がありますので、そういう意味では、医療関係とか介護関係の方含めて日本という高齢多死社会、世界で初めてこういう社会を迎える日本にあって、その社会の底を支えるような、準公務員的で非常に社会に意味のある方たちに対して報いるという意味で、私は給料を倍にすればいいんじゃないか。今の財政制度では赤字国債うんぬんということでできないなんていうことを言われてますけど、それは所詮、財政当局が言ってるこれまでの仕切りに過ぎないのであって、もしそのお金を投入して財政赤字を拡大したところで、帳簿上たぶん日本の赤字が増えますけど、むしろこれで国力が強化されれば円という通貨の価値が上がるということで、そういう意味では私は非常に重要な政策ではないかなと思っています。

佐分利:
まさに高齢多死社会になっているからこそ、いま日本に求められているものがたくさんあると思います。例えば、高齢社会になっているから景気の変動が少ないとかですね、つまりみなさん年金で必ず一定のお金を使い続けてる人たちなんだと。そういった形で社会の仕組みは変わっている中で高齢者を支えるところの人材に投資をすべきであると。それはむしろ高福祉型、つまり福祉サービスを中心にした日本社会に切り替えていくというイメージでしょうか、例えば北欧型のようなイメージをもっておられますか?

藤:
北欧型という前に、たぶん日本という国は、財政学者に言わせると中福祉低負担だと言われているんですね。少なくとも中福祉中負担にすればいいし、まあできるなら高福祉高負担がいいと思うんですけど、そこは多分一般のコンセンサス次第ですが、やっぱり日本の介護の方は北欧に比べて給料が半分なのに、非常に頑張ってくれてるという話をよく聞くもんですから、それに報いればいい。特にその福祉関係とか医療関係の第一線の方っていうのはまさしく就職氷河期世代の方も多いわけで、そういう方を例えば国ですとか民間企業は採用しようとしていますけど、私は正直言って中途採用って本当に成功するかどうかは疑問に思っていまして、言い方悪いんですけどやっぱり20年前の例えば競争に負けた人たちがですね、今ものすごく高い倍率で入っていけばいいんですが、例えば20年もそのキャリアが遅く始まって、果たしてその方たちは大きな組織の中で報われるんだろうか。むしろ逆にさっきおっしゃったフリーランスじゃありませんけど、介護や医療現場のように、これはちょっときれいごとになるかもしれませんけど、人の痛みがわかる気持ちを持った方たちには、全く挫折を知らないで来た方に比べたらいいケアができるんじゃないかなってことを考えたら、むしろそういうところでやりがいのある仕事についていただく。問題は給与水準が悪いこと。介護は3Kなんて言われる、そのイメージを変えることが今回の問題を奇貨として、そういう位置づけに社会の質も変えていけないかなと思っています。

佐分利:
ありがとうございます。藤さんがおっしゃったこのショックを奇貨として日本社会をどう変えていくかということに関して言えば、社会の仕組みというか、高齢多死社会に変えていくそれを支える産業を作っていくということ以外に、例えばMETIの若手に今後伝えるべき、こういうことを考えるべきというのはありますでしょうか。

藤:
最近はIoTとかAIとか5Gなんて言われてますけど、日本が本当にやらなきゃいけないのはそれをどうやって真剣に、さっき言ったその多死社会を支えるシステムを作るときに入れるかどうかですね。例えばMETIのレポートとか見てても、こう言ったら失礼ですけど付け足しのように介護とかそういう話が出てまいりますけど、果たして本当にそれでこれから未曽有の多死社会を乗り切れて行けるのかということでは、あまり知恵が入っているとは思えない。ロボット関係でも、人の代わりに介護するロボットうんぬんとかいうのは、絵的には面白いんですけど、むしろそうではなくて、介護が必要な方に寄り添うのはやはり人の力であって、むしろIoTですとかAI、5Gにお願いしたいのは、センサーですね。特に徘徊される高齢者の方含めて人が見守るっていうのは相当限界がありますから、それをシステムでカバーして、それで負担が減った中で本当に目の前にいらっしゃる高齢の方をケアする、寄り添うってことだけでいいと思うんですけど、そういうことをやることがむしろ私は今の若い人たち、非常にソーシャルなものについての価値が高い人たちにとって、打てば響くような職場になると思ってるんですが、残念ながらイメージがあまりにも3Kということになっていますので、そこはやっぱり払拭していきたいなと思います。

佐分利:
ありがとうございます。まさに多死社会を支えることをMETIのあらゆる資源を使って問題解決する、技術をどう使うのか、制度設計をどうするか、規制緩和をどうするか、知財をどうするかということも含めて、あらゆることをそこに集約させ、多死社会を幸せなものにするためにはどうしたらいいか力をいま合わせるべきときではないかということですね。

藤:
社会は製造業からサービス化が進んでいて、そのサービス経済の中で究極のサービス化ってやっぱりケアの分野ですよね。特にターミナルケアを含めた部分に日本はシフトしてますから、そこで膨大な需要が生まれる。安心して満足して誰でも死んでいける社会になれば、たぶん今の日本の高齢者のように不必要に貯金を持つ必要はなくなると思うんですね。統計上一人当たりお亡くなりになると、金融資産だけで2000万とか3000万も残っちゃう、まあこれは平均ですからものすごく多い方と少ない方がいると思うんですけど、こんなに金融資産が残っていくってこと自身はちょっと社会としてはあまりにも不健全ですし、その分が一部でも消費に回れば日本にはまだまだベンチャーが育つ余地があるんじゃないかなと思います。そういう意味では本当に、日本と高齢者の関係は世界から見てもなかなか会話が成立しないし、日本の若者は高齢者に対して冷たい見方をしているっていうのは各種統計で出ているんですけど、ある意味では、年金問題を含めて常に何かマスコミ的にも世代間闘争的な話になってるんですが、やはり今の若い子たちもできればいずれ自分も歳とって死ぬんだと、死ぬのはみんな同じだと、生き方は別としても死ぬのは同じだということを考えてそういう中で団結できるような形になるといいかなと私は希望しています

佐分利:
まさに今回のショックを一つの契機として、世代間格差に関してもう一度考えて、若者も安心でき高齢者も安心してお金が使えて、いわば使われなかった、死蔵している財産がどんどん社会に回ってきて、日本全体のその需要も新しく生まれてくる、そういうイメージですね。

藤:
ええ。そういうことができるといいし、またそうでもしない限りはなかなか世界全体で需要不足、バブル崩壊後の日本みたいな形になってしまいますと、自ら日本でどうやって需要を作り出していくか、人口減少社会ですから日本の企業はもう日本のマーケットをほとんど相手にせずに世界ばかり見てましたけど、やはり日本国内にもう一度、需要も含めて回帰しなきゃいけないんじゃないかと、特に日本企業に国内にもチャンスがあるんだよというところを分からせるための政策を、ぜひ政策現場の方には考えてもらいたいなと思っています。

佐分利:
新しい社会をこれから作るということですね。

藤:
シリコンバレーは、本当かどうか分かりませんけど、彼らが日本のベンチャーと違うのは、どうやって社会を変えるかって意識が強いんですよね。日本のベンチャーの方もそういう方はいらっしゃると思うんですけど、なかなかその、今のシステムに追随するというか、どうやって社会を変えていくのかという意味では、ソーシャルイノベーションというのが、これは佐分利さんも前からおっしゃっていることですけど、今のシステムは2040年に団塊世代の方が高齢化した時には多分破綻するでしょうから、それに向けて大きなチャンスがあるんじゃないかと思っています

佐分利:
まさに時計の針をいま一気に早められた、逆にいま頑張れば将来の不安というのが先に取り込めて、かつその日本の成功モデルが世界中で導入される新しいモデルになるのではないでしょうか。

藤:
ちょっといやらしい言い方をすると、やっぱりこれまでは、一番難しい問題を見ないふりをして、日本の外で何か美味しいものを食べようという安直な発想だったんですが、それができなくなることによって、いよいよと自らが解決しなければいけない宿題に向き合うという意味で、ピンチをチャンスに変えてほしいなと思っています

佐分利:
ありがとうございました。

第二部:原油価格の下落がもたらすもの

佐分利:
世界でいま気を付けるべきこと、色々と藤さんがRIETIのコラムでも問題点を指摘されてますが、どの辺りに注目しておけばよろしいでしょうか

藤:
まず原油を見ている人間からすると、日本は未だに石油の中東依存度が9割あるんですけど、本当にこれで大丈夫だろうかというのが心配ですね。特に新型コロナウイルスによる需要の減少ということで、3年以上作ってきたOPECプラス、OPECの加盟国とロシアのような大産油国がカルテル的な形で原油の価格を下支えしていましたけど、3月上旬の会合で完全に決裂し、あろうことかサウジはもうロシア憎しとばかりにとんでもないことをやろうとしている。一方で、需要はどんどん落ちていきますから、もし原油価格が20ドルを割れるってことになった場合には、いまサウジを結構日本は応援していますけど、ムハンマド皇太子を中心に多分日本の明治維新と同じような建国以来の大改革をやっているんですが、一番リスクは高いんじゃないか。私は前から申し上げていますが、サウジアラビアは残念ながら非常に危険な賭けに出ていて、しかも今大逆風ですから、もしそのサウジアラビアで本当にシリアと同じような内戦が起きてしまったら、日本の石油の輸入の40%をどこから調達すればいいんでしょうかと。
資源エネルギー庁の方も一生懸命頑張っていて、自主開発原油という議論もあるんですが、なかなかうまくいってないし、一方で日本の同僚の方からお聞きしていると、中東から得られる原油に合った製油設備を作っている。

佐分利:
そうですね

藤:
他の石油を調達しようとしないという状況なんですが、多分これはどっかでかなり大きな破綻っていうか大逆風を受けるかもしれないと、それに対する備えをどうするかっていうことが重要でしょうねまず。

佐分利:
サウジリスク、ですね。

藤:
はい。

佐分利:
イラクはいかがですか。

藤:
イラクは、去年の10月に首相が辞任してから、2月の末にまた新しい首相候補が指名されたんですが、この方も組閣を諦めてしまって、また無政府状態が続いています。今回の原油価格の暴落が、中東の中でも一番イラクが政府収入に占める原油収入の割合が大きいですから、一番大きな問題になります。で、しかも今、イラクはまたアメリカとイランの代理戦争の場になってきていますから、このイランも日量380万バレルとか400万バレルとか石油を輸出していますが、日本はあんまり輸入はしてないんですけど、ものすごく大きな問題が出てくる、ですからOPECの生産の第一位、第二位、サウジとイラクは両方ともおかしくなったら、世界全体で輸出だけで見てても一千万バレル、一日の供給量の1割を超えますから、もしそうなったら、多分次くる石油危機っていうのは第一次第二次と違って、価格高騰だけでなくて本当に供給途絶まで起こるかもしれないと思います。ですから、コロナウイルスで非常に大変な日本に、もしこの供給途で問題が起きれば、多分この問題は多分欧米理解レベルで日本が一番深刻、まあ中国も深刻だと思いますけど、この問題をやっぱりどうするかっていうのはむしろ本当に経産省自身でどう考えるべきかということだと思います。

佐分利:
わかりました。ありがとうございます。原油の他に、何か、今、着目しておくべきポイントがありますか。国際情勢の話ですが。

藤:
国際情勢ですか、私の理解は、1930年代の大恐慌では、ずっとアメリカは不景気が続いて、その長い間の景気低迷を脱出できたのはパールハーバーだと言われています。ですから、もし世界がずっと、例えば10年、日本のように10年も20年もデフレが続いたときに、果たして日本のようにマーケットだけで抑え切れるか、社会の底が抜けるんじゃないか、更には国際紛争の火種も起こるんじゃないかっていうことを、実はリーマンショックの初期にそれを懸念してたんですけど、幸か不幸か中国はものすごい勢いで拡張政策やって需要が生まれ、アメリカのシェールオイルもあって世界は回復したんですけど、今回、この中国とそのシェール企業がいちばんダメージを受けますので、それを考えた場合に、じゃ次に打つ手はあるのか、一応アジアの地域を含めてまだ成長地域はあるとは思いますけど、とても中国、アメリカが少しおかしくなった時の代わりになるほどのボリュームはないので、それは非常に心配しています。

佐分利:
確かに、今この瞬間に中国、アメリカが同時におかしくなった場合に、誰がエンジンを吹かせるかというと、誰もいないという、そういう非常に恐るべき状態ではあるんですが、その状況下で、では日本は、と言われると、難しいですね。

藤:
日本からすればコントロールできる世界ではないと思うんですけど、日本としては日米同盟で、中国とも友好ということでやってきてますけど、それも果たしてどうしていくのか、そんなにすぐ起こることではないと思うんですけど、やっぱり5年10年で世界全体が長期の不景気、まさしく大恐慌以降みたいなことが続けば、もう何が起こるかわからない状況になりますんで、インバウンドを含めて日本ってのはものすごく外需中心の経済になってますが、なるべく、なかなかやれることは限られてますけど、少しでもコントロール、フリーハンドを持つためには、内需中心の経済成長ができる国になっていく、極端ですけど鎖国してもやってけるような国にしていくのが多分一番なのかなと思います。いま起きていることも多分これからどんどん悪くなっていきますので、更に。ちょっとこれもう冗談ではないような状況になるかもしれませんね。

佐分利:
資源を外国に頼っている日本としては鎖国というのが難しいんですが、それくらいの覚悟をしないと厳しい…

藤:
資源については色々言われていて、ややタッチーな議論ですけど、純国産といわれている原子力と再生可能エネルギーをどうするかということですね。原子力は問題で、3.11というあれだけのことがあって、今は福島の廃炉の問題を含めてなかなか難しい状況ですけど、その原子力の問題もありますし、それから再生可能もなかなか自然条件的には厳しくてもまだまだやれる余地もあるということで、なかなか難しいと思いますが努力は絶対やってかなきゃいけないと思います。

佐分利:
ありがとうございます。

第三部:不確実性の時代に我々はどう立ち向かうか

佐分利:
これから何がおきますかね? 世界中がある意味、麻痺状態になっていくと。スペイン風邪の後もそうでしたし、それから世界が大混乱をしてみんなが国際連盟ができればなんとかなるという変な幻想ができて、でもワークしなかったという問題はあるんですが、大恐慌が起きて10年後に世界大戦になったということなので、今回もコロナによる大不況が起きて、近いうちにどこかで紛争が起きるなり世界的な大きなレジュームチェンジなりがおきることはあり得ると思うんですが、それはたぶん今日明日ではなく、もうちょっと先、もうしばらくかかると思いますか?

藤:
すぐに起こることは無いと思いますけど、ただ中東は意外と早い可能性がありますね。

佐分利:
おっしゃるとおりですね。そのような中で、日本がこの瞬間にできることは何か。原子力・再エネはもちろん大問題でエネルギー・食料の安定供給・確保はまさにコロナのような話もあったので、皆さんたぶんBCPのなかのエネルギー、食料、必要物資、企業はもちろん政府もようやくこれでリスクアセスメントっていうのが表舞台に出てくると。つまり、いままで日本はリスクアセスメントができていなかったので、そのリスクアセスメント・リスクマネジメント・リスクコミュニケーションというのが、ようやくこれではじめて表舞台というか注目される事態になると思うのですが、何をいまから…

藤:
これから起きる問題はリスクじゃないと思うんですね。不確実性だと思うんですよ。リスクって言うのは、確率計算的にどうやってやればって合理的に対応できるんですけど、不確実性ですね、ブラックスワンなんていわれてますけど、そういうのがどんどん起きることを考えた場合、これは危機管理ですから、ある意味での平時の経済合理性を犠牲にしても有事に備えた対策を打つという発想になっていくんでしょうね。

佐分利:
たしかに。まさにいまは医療的なリスクと経済的なリスクがトレードオフ状態にあって、どっちを重視するかっていうことで経済的な犠牲を払ってでも医療的なリスクを押さえ込もうと、これは見えてる世界ですが、これから先は本当に見えないことが次々と起こってくる…

藤:
これは言うかどうか迷っていたんですけど、一番大きな問題は政治リスクですね。たぶんいま欧米で広がっているポピュリズム的なものはものすごく強くなりますし、今はもう残念ながらアジア蔑視とかいろんな形になってますから、今回のウイルスを奇貨としてものすごく排外主義的な動きが高まるだろうと。日本においては望ましいというかラッキーなのは、日本ではそんなにポピュリズム勢力が育っていない。ただ今後それも起きないとも限らないので、私はさっきの所得格差の問題も含めて、やはり政治っていうのが、確かに競争的な環境をつくっていくことも重要ですけど、やはり弱いものを作らない、弱いものに対してどうやって寄り添うかという日本的な政治のあり方も含めて考えていかないと、たぶんそこにポピュリズム、左派なのか右派なのかわかりませんけど、私は左派のポピュリズムが興るんじゃないかと思っているんですが、左派のポピュリズムの付けいる隙が大きくなって、それは結果的に日本の国際社会における安定的な立ち位置も含めて大きく揺らぎかねないんじゃないかと。確かに保守系の方からすると非常になんか全然言ってることと違うんじゃないかと言われてますけど、私が見てる限り非常にバランスのいい外交をとっていると思うんですが、たぶんそれがとれないような政治風土になるというのは、非常に日本からすると危ういと思います。

佐分利:
まさに各国の国内におけるイントレランス、格差拡大に伴う様々なコミュニケーション阻害と、それから近親憎悪といいますか、お互い同士の争いというのが顕在化してくるというのが見えてくる中にあって、お金を回し続けるのと同じように正しい情報を回し続けなければいけないということだと思います。

藤:
正しい情報って、自分に余裕がないと正しい判断てできないんですよね。切羽詰まるとどうしてもやっぱり自分が見たい情報しか見なくなるし、まあ日本って残念ながら少しずつ格差社会になってきて。

佐分利:
格差問題がこれから本当に大きな国際的な問題になっていくと思います。

藤:
そこがうまくできた国はある意味で一番生き残る可能性が高くなるんじゃないですかね。

佐分利:
つまり今までの国という大きな幻想の下にバインドされていた社会というのがガタガタになっていくわけですよね。

藤:
もう一度国民国家を復活できる国が、たぶん一番生き残れるということだけど、なかなか厳しい課題ですね。まあ、日本って、これは楽観論ですけど本当に切羽詰まった時って凄い力出しますもんね。

佐分利:
そうですね。まさにカオスの中から新しい芽が生まれてくると思うので、期待しましょう。 ありがとうございました。

(2020年3月16日取材)

2020年3月24日掲載