第28回

Alan A. Powell Award受賞記念インタビュー

川崎 研一
前コンサルティングフェロー

川崎研一前コンサルティングフェローが、GTAP (Global Trade Analysis Project)の活動の功績により、2005年6月にAlan A. Powell Awardを受賞されました。
本コーナーでは受賞記念インタビューとして、GTAPとは何か、GTAPはどのように活用されているのか、GTAPの活動で苦労した点等について川崎前CFにお話を伺いました。

RIETI編集部:
この度はAlan A. Powell Award受賞おめでとうございます。受賞コメントをいただけますでしょうか?

川崎:
皆様のお蔭で、10年来の努力が認められました。息子からは、「立派な論文を書いたというよりも、長い間がんばったねということじゃないの。ノーベル賞でいえば、経済学賞というよりも平和賞だよね」と言われました。私にとっては、世界経済モデル分析の「殿堂入り」とも言うべき、一生に一度の名誉です。世界各国の友人が祝福してくれて、嬉しい限りです。

RIETI編集部:
読者にはGTAPを知らない人も多いと思うので、そもそもGTAPとは何か、どういった事に役立っているのか等について、ご説明いただけますでしょうか?

川崎:
GTAP (Global Trade Analysis Project)は、1993年に設立されました。世界経済データ・ベース、応用一般均衡世界貿易モデル、ソフトウェアなどを開発・改良し提供しています。共通のデータやモデルを基に研究できることで、個々の研究者の手間が省け、研究成果の比較が容易になり、国際経済問題の定量的な分析の質の向上に役立っています。現在では、貿易投資自由化などの経済効果分析の道具としてはグローバル・スタンダードとなり、世界各国で幅広く利用されています。

また、GTAPでは、研究者間の世界的なネットワークを構築してきました。そのWEBには、世界全体で4000名ほど(我が国では250名ほど)の関係者が登録されています。

事業の推進に当たっては、米国パーデュ大学のGlobal Trade Analysis Centerを本部事務局としつつ、学界に加えて、主要な国際機関(WTO、UNCTAD、OECD、世銀他)や日米欧豪の各国の政府・研究機関の代表からなる理事会が活動を支援しています。多くの国際機関をも会員とする世界的な組織といえます。

RIETI編集部:
川崎さんのGTAPでの活動についてお聞かせ下さい。

川崎:
1995年に、APECの経済委員会の研究プロジェクトを担当したのがきかっけで、GTAPの活動を始めました。当初、どのようにして研究したら良いのかとまどっていたのですが、OECDの旧友やWTOの専門家に紹介してもらい、安心して取り組むことができました。

その後も、GTAPのモデルを使って経済効果分析を行い、政策判断のために重要な定量的な情報を提供してきました。たとえば、ASEAN各国、韓国、メキシコなどとのFTA交渉の開始に当たっては、マクロ経済効果を試算しました。最近、新聞紙上などで報道されている「FTAによって我が国のGDPが○%増加」といった試算は、ほとんど全て私が行い、政府の報告書などにも引用されているものです。

6月21日に閣議決定された「骨太2005」では、FTAの経済効果分析を活用することが織り込まれました。我が国でも、経済政策の効果分析が定着しつつありますが、更に発展して欲しいと思っています。

また、GTAPの応用について、東京大学を始め大学で授業を行ってきたほか、JICAの専門家としてインドネシアやタイへ講義にでかけるなど、その普及にも努めてきました。学生さんやシンクタンクなどの研究者の方々から、GTAPの利用につき問い合わせをいただき、応対したりもしています。電子メールのおかげで、アジア各国の方々からの問い合わせも多くなっています。

RIETI編集部:
GTAPの啓蒙活動でご苦労なさった点はありますか?

川崎:
好きなことの活動で苦労は感じませんが、普段は国家公務員として勤務しており、GTAPの活動は夜間や休日の余暇時間に行い、本業に支障が生じないように気をつかっています。GTAPの重要な会議があっても、本業との関係で都合がつかなければ、休暇をとれず、参加する訳にいきません。

GTAPの活動が忙しくなる一方、公務員としての役責も重くなり、仕事の傍ら趣味として続けるのは難しくなってきました。経済モデル分析に仕事として専念できればと思っているところです。

RIETI編集部:
ご自身では何が受賞の決め手になったのだと思われますか?

川崎:
一言で言えば、10年間、継続して、積極的に活動に係わってきたことだと思います。我が国、たとえば政府では、ほぼ1、2年に1度、定期異動があり、1つの仕事ばかり担当することはできません。RIETIでは、コンサルティングフェローという形ですが、それ故に異動もなく、GTAPの活動を続けることができました。国際社会で評価されるための1つの条件は、顔を覚えてもらえることだと思います。

具体的には、既に述べた活動のほか、内閣府とRIETIという2つの機関の代表として理事会に参加し、また、日本語でGTAPの教科書(注)を出版したことなどが選考理由に挙げられているようです。
注) 『応用一般均衡モデルの基礎と応用:経済構造改革のシミュレーション分析』、日本評論社、平成11年11月

RIETI編集部:
今後の研究活動の抱負についてお聞かせ下さい。

川崎:
GTAPでは、毎年、国際会議を開催しており、世界各国から200名ぐらいが参加しています。これまで米国の他、オーストラリア、オランダ、デンマーク、ドイツ、台湾で開催され、来年は、エチオピアで開催されます。

オリンピックやワールド・カップの誘致ほどではありませんが、組織委員会の設置、運営資金の確保など、各国間で競争もあります。我が国でも、近いうちに開催できればと思っています。

取材・文/RIETIウェブ編集部 谷本桐子 2005年6月27日
関連リンク

GTAPのウェブサイトで授賞式の様子等が見られます。

2005年6月27日掲載

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