夏休み特別企画:フェローが薦めるこの1冊'07

『経済財政戦記-官邸主導 小泉から安倍へ-』

鶴 光太郎顔写真

鶴 光太郎(上席研究員)

研究分野 主な関心領域:経済システム(コーポレート・ガバナンス、金融システム、雇用システム、企業組織等)及びマクロ経済を含む関連分野、経済政策の政治経済学、法と経済学

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『経済財政戦記-官邸主導 小泉から安倍へ-』清水真人箸 日本経済新聞社 (2007)

『経済財政戦記-官邸主導 小泉から安倍へ-』表紙 本書は、日経の記者・編集委員である清水真人氏が一昨年末に世に問うた『官邸主導 小泉純一郎革命』(日本経済新聞)の続編に当たる。前著は、橋本政権時代にまでさかのぼり小泉政権の誕生への過程とその後の歩みを郵政解散選挙までたどり、自民党の中での権力闘争、栄枯盛衰を活写しながら、小泉氏のとった手法の本質を人事権と解散権の徹底した活用と一刀両断に論じてみせた。その余りの切れ味の良さはあまたでてきた他の「小泉本」とは明らかに一線を画していた。

一方、本書のパースペクティブは郵政解散選挙の後の内閣改造から安倍政権が2007年初に「進路と戦略」を出すまでの1年数カ月という前著と比べ短い期間である。中でも、経済財政諮問会議における竹中平蔵氏を中心とする「上げ潮」派と与謝野馨氏率いる「財政タカ」派との攻防を中心に歳出歳入一体改革が「骨太2006」にまとめられていく過程を丹念に追いかけている。当時の諮問会議の状況については、財政再建の関連で成長率・金利の神学論争が行われ、党に歳出削減がまかされ諮問会議の役割が低下したという印象をお持ちの読者も多いであろう。しかし、本書を読めば、まさにその「戦い」の場に立ち会うかのごとき臨場感の中で戦いを繰り広げていた「武将」たちの真のねらいや熱い息吹が直接伝わってくるだろう。この「戦い」に関わったものが読んでもまるでタイムマシンに乗ってその時に戻るような錯覚にとらわれるのは個々のエピソードには必ず複数の裏を取るなど圧倒的な取材力が背景にある。しかし、それらが大きな1つの流れとなって大河ドラマのように読者を魅了させるためには、個々のエピソードを「ジグソーパズル」のように丹念にはめ込み、欠けている部分を予想するという想像を絶する作業が必要となる。それも「ジグソーパズル」のできあがりの「絵」、つまり、過去から未来に続く政治の本質的な流れを清水氏が常に見極めているからこそできる技である。

本書は主に財政健全化をテーマにしているため、経済(政策)の側から政治プロセスに興味を持つ読者には非常にアピールする内容であると思われる。しかし、むしろ読んでいただきたいのは政治を専門とする方々、政治部の記者、政治評論家、政治学者である。丹念なケース・スタディとそれを包括的に捉える理論と構想力に対して、日々、「床屋談義」に毛の生えた議論しかしていないような政治の専門家にとっては学ぶところは大きいであろう。

注:清水氏のコラム(NIKKEI NET)も本書の理解の上で参考になる。

2007年8月3日