海外在住の日本語学習者の日本での就労に対する意識とアクションの差異に関する調査と考察 ― インド・中国・ベトナムの3カ国の日本語学習者の比較より ―

執筆者 田村 一也(⼀般社団法⼈⽇本国際化推進協会)/ツェン・シュージェー・オスティン(⽂部科学省国費留学⽣協会)
発行日/NO. 2023年9月  vol.8
研究プロジェクト 人手不足社会における外国人雇用と技術革新に関する課題の実証研究

概要

本稿は、日本語を学んでいる海外在住者の日本での就労意向や日本企業のイメージについて定量調査を行い、考察をまとめたものである。本調査の目的は、今後さらに進むであろう日本国内の労働環境における人手不足問題の解決策の1つとして検討される、外国人労働者の海外からの受け入れに関して、実際にその対象となる外国人が日本に対してどのような考えを持っているのか、傾向を明らかにし、今後の受け入れ施策を検討するにあたっての課題を抽出することにある。調査対象として、今回は「インド」「中国」「ベトナム」の3カ国に絞り、各国で日本語学習経験がある方を対象に調査を行った。アンケートは、各国の言語に翻訳し、SurveyMonkeyを利用してオンライン上で実施した。その結果、インド:100名、中国:104名、ベトナム:103名より有効回答を得た。

そして調査結果から、各国平均で、日本で「生活」することに対しての意向は約85%がポジティブな回答をしたことがわかった。また、日本で「働く」ことに対しての意向は、同じく約85%がポジティブな回答をした。この結果は、2015年に一般社団法人日本国際化推進協会(JAPI)が日本国内に住む外国人を対象に行った調査結果と異なる傾向を示した。同調査の類似質問の結果は、日本の生活に対してポジティブに感じている外国人が約85%に対して、日本で働くことに対してポジティブに感じている外国人は約20%しかいなかった。また、海外在住者が日本で就労するために活用する手段は、総じて「Web求人メディアの募集に応募する」または「母国にある日本企業に連絡する」方が多いことがわかった。しかしながら、実際に日本企業に応募したことがある日本語学習者は、全体平均で20%弱しかいなかった。さらに、彼ら日本語学習者が希望する業界は、「教育」と「観光」が相対的に多く、全体平均で45%前後の日本語学習者が選択していた。その一方で、日本全国で人手不足が懸念される「介護」業界を選択した日本語学習者は、全体平均で10%も満たない比率であった。

さらに、「インド」「中国」「ベトナム」の3カ国の回答結果を相対比較することで、各国の日本に対するイメージが異なることがわかった。イメージに差異が生じる要因として、本調査では2つの要素があると考えた。1つ目は経済的なギャップ、2つ目は日本との関係性に関する量と密度である。前者に関して、各国の経済発展状況によって日本で就労することに対する魅力ポイントは異なることが考えられる。後者に関して、より多くの在日外国人が長くいる、言い換えると各国の日本国内コミュニティーの程度によって、各国の現地日本語学習者が得られる情報量に差が生じ、日本での就労意向や興味関心が変わるのではないかと考えた。

本調査結果及び考察は、各国の回答者属性、年齢や日本語力に違いがある点で、比較をする際には留意が必要であり、今回対象とした3カ国以外含め、今後更なる調査が必要である。そして、海外から日本語学習者を受け入れるにあたっては、各国の異なる経済水準、日本国内の各国コミュニティーの成熟度の違いによって、それぞれの国の現地にいる日本語学習者の日本に対する情報量や印象に差が生じることを考慮した上で、各国の日本語学習者に対して、日本での就労機会の提供や情報発信を行っていくことが重要になることがわかった。

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