Research Digest (DPワンポイント解説)

在日外国人は居住地をどのように選択しているのか?

解説者 劉 洋(研究員)
発行日/NO. Research Digest No.0146
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人口減少・少子高齢化に直面する日本社会は、将来的な労働力不足が懸念される。特に近年、外国人労働者受け入れの議論が進められているものの、十分なエビデンスがないために政策立案が困難な状況も見られる。RIETIの劉洋研究員(京都大学東アジア経済研究センター外部研究員)と近藤恵介上席研究員は、特に労働市場における外国人の状況をより深く理解するため、労働経済学と都市経済学の研究に基づき、在日外国人と日本人の通勤行動と居住地選択の決定要因を比較分析した。本研究の問題意識と分析から見えてきた政策的インプリケーションについて劉研究員に話を聞いた。

本研究に至った経緯と問題意識

松本:これまでのご経歴を教えてください。

劉:私の専攻は労働経済学で、主に雇用、労働市場や人的資本などに焦点を当てて研究を進めています。これまでに日本企業の雇用の創出と消失、中国の労働市場などについて研究してきました。

近年は、日本に居住する外国人の経済的なアウトカムについて関心を持っています。なぜなら、外国人受け入れが政府の成長戦略にも大きく掲げられ、外国人労働者の活用が期待されているからです。

しかし、日本の雇用慣行は多くの国と異なります。労働力の流動性が低く、終身雇用・年功序列の雇用慣行が残る日本に外国人が移住すると、どのような行動を取るか、それに基づいてどのような経済的なアウトカムになるのかというのは非常に興味深く、これまで研究を進めてきました。

松本:今回の研究の問題意識としてはどのような点がありますか。

劉:通勤行動や居住地の選択は、就労や雇用形態と関係するため重要です。日本人の通勤行動と居住地選択についてはこれまでも多くの研究が行われ、海外とは異なる興味深い結果も示されています。しかし、日本人とは異なる行動を取る外国人が日本に移住すると、日本人と同じような行動を取るのか、それとも出身国と同じように行動し、日本人とは異なる行動を取るのか、いまだに明らかになっていませんでした。

通勤行動と居住地は、労働者が経済要因に基づいて、自らの効用最大化を図ることによって決めますが、日本人と外国人では経済要因・労働者の効用が異なる可能性があります。

一方、移民研究にはアシミレーション(同化)という概念があり、受け入れ先である移住国に長期間生活すると、受け入れ先の住民と似たような行動になる傾向が観測されています。従って、日本人と外国人の通勤行動、居住地の選択に関する比較も、外国人との共存政策を推進する上で明らかにする必要があると考えました。

米国の研究では、人口密度の低い郊外は社会的なアメニティーが豊かであり、高収入層がより郊外に住む傾向が観測されています。これについては非常に多くの文献があります。一方、日本の場合、高収入層が郊外に住むイメージはあまりなく、人口密度が低い郊外は社会的アメニティーの点で都会より劣ると考えられています。ただ、郊外は住宅コストが低い分、居住空間が広いというメリットがあります。この点も米国とは異なります。

日本人の居住地の選択に関しては田渕隆俊先生(中央大学教授)が2018年のRIETIのディスカッション・ペーパー(18-E-020)で、日本では高収入層と低収入層が都市の中心部に居住し、中間収入層が都市の中心部から郊外に広く分布するという傾向を理論モデルで説明しています。

このように、日本人と在日外国人の間では、同じ日本社会で生活していても社会的アメニティーや居住空間に対する選好が異なる可能性があるため、必ずしも同じような行動を取るわけではないのです。このことも本研究を行うきっかけの1つになりました。

通勤行動についても多くの研究が行われ、男女間の差異が注目されています。中でも、女性の通勤距離は男性より短いということが多くの国の研究で観測され、その解釈として、「家庭責任仮説」(household responsibility hypothesis)が採用されました。また、結婚すると、特に男性の場合は通勤距離が長くなるという研究もあります。

日本の場合も同じような結果が得られていますが、日本は労働市場における男女格差が比較的大きい国なので、通勤行動の男女差は経済・社会的な要因も考えられるし、男女の役割分担意識が要因の可能性もあります。在日外国人は日本人と同じような経済・社会環境の下にいるため、もし日本人とは異なる男女差が観測されれば、それは、男女の役割分担意識によるものだと考えられます。そのため、日本人と比べて、通勤に関する外国人の男女差も興味深いものです。

松本:本研究は近藤恵介上席研究員との共同研究ですが、その経緯についてお教えください。

劉:通勤行動と居住地選択について興味を持ち始めたのは、2018年にRIETIのDP検討会で勉強した、日本人の通勤について分析された森川所長の実証論文(18-J-009)と、日本人の居住地の選択についての田渕先生の理論論文(18-E-020)がきっかけでした。どちらも非常に興味深い論文で、日本人特有の結果もあれば、海外と共通する結果もありました。そして、ちょうど同じ2018年の12月頃から、国によって外国人の共生政策が決定されたこともあって、さらに興味を持ち研究を始めました。この分野は労働経済学と都市経済学にまたがっており、都市経済学がご専門の近藤上席研究員にお声掛けし、共同研究を行うことになりました。

研究の理論背景とデータ

松本:実際、研究結果はどのようになったのでしょうか。

劉:まず理論背景からご紹介すると、既存理論に基づいて変数を選定しました。本研究は都市経済学と労働経済学にまたがっているわけですが、労働経済学の考え方では、労働者は居住地を所与として、高い賃金によって通勤の非効用が補償されます。つまり労働者は、居住地から離れた地域では賃金が高い職のみを受け入れます。企業側は、労働生産性が高い労働者に高い賃金を提示します。簡単に言えば、労働者の教育水準は、労働者の通勤距離にも影響を与えるのです。

一方、都市経済学の考え方では、労働者は勤務地を所与とし、職場から離れた郊外に住むと通勤距離が長いが住宅コストが低いというメリットがあり、低い住宅コストによって通勤の非効用が補償されます。

ですから、居住地と勤務地のどちらも固定せずに、その間の距離である通勤距離が労働経済学と都市経済学の両方の要因によって決められることになります(注1)。そのため、本研究でもどちらも固定せずに、通勤距離を分析対象としています。

この研究に利用したデータは、「国勢調査」2010年の調査票情報と、同調査の公開データです。回帰分析には、調査票情報のうち、外国人の全数データと、日本人の10%無作為で抽出したデータを利用しました。さらに、一般世帯の16歳~64歳の男女かつ、世帯主または世帯主の配偶者に限定しました。また、在学中の日本人と外国人、5年前に海外居住の日本人、技能実習と短期滞在の外国人が除外されました。なお、本研究における外国人は、「国勢調査」の調査対象で、調査時点で外国籍である人を指します。

通勤距離についての研究結果

劉:通勤距離に関しては、1つの要因を考察する際に、観測できるほかの要因による影響を除去した方法によって、下記のような結果が得られました。

  • 外国人・日本人いずれも学歴が高いほど通勤距離が長い。
  • 男女間では、外国人の方が日本人よりも差が小さい。(外国人は日本で生活しても男女差が日本人ほど広がらない)――日本人の男女差は意識による部分が大きいと考えられます。
  • 結婚後に通勤距離が長くなるのは男性の方。(ただし、日本人男性の方がその傾向が強い)――外国人男性が日本人男性よりも多くの家事を担っている可能性が影響していると考えられます。
  • 外国人は日本人と同じ経済・社会環境にいるにもかかわらず、外国人出身国の主要10カ国において、すべての国籍の既婚男性は日本人男性より通勤距離が短い。それも、外国人と日本人の間の選好の違いによる可能性が高いと思われます。他の国と比べて日本人の通勤距離が長いと言われているが、それは、経済・社会の影響のみならず、労働者個人の選好にも大きく影響される可能性が高いと考えられます。
  • 外国人女性の通勤距離は日本人女性と同等。
  • パート・アルバイトは日本人・外国人ともに正社員よりも通勤距離が短い。
  • 同居する子どもや高齢者の影響は日本人・外国人ともにあまり大きくない。

居住地についての研究結果

劉:居住地に関しては、主に居住地の人口密度と労働者の各要因間の関係を調べ、通勤の分析と同様に、1つの要因による影響を考察する際に、それぞれほかの要因による影響を除去した方法で得られた結果、以下のような結果が見られました。

  • 外国人・日本人いずれも高学歴層と低学歴層は中間学歴層より人口密度が高いエリアに居住する傾向がある。――田渕先生の論文では、住宅価格を代理変数として使って似たような傾向が示され、主に理論モデルで研究されていましたが、本研究では個人レベルのデータを使って、その結果を支持する実証的なエビデンスを提供することができました。
  • 5年以上の滞在歴を持つ外国人は、来日初期の外国人よりも人口密度が高いエリアに居住する傾向がある。――つまり来日して時間がたつにつれ、日本人の行動に近づく可能性があると推測されます。
  • 子どもを持つと、日本人も外国人も人口密度がより低いエリアに居住する傾向がある。――要因は、子育てによる居住スペースの需要増だと思います。ただし、年齢が高い子どもの場合は年齢が低い子どもの場合より影響が小さい結果となっています。
  • 日本人の場合、男女ともに既婚者は未婚者より人口密度が低いエリアに居住する傾向がある。外国人の場合は、来日5年未満の既婚者が未婚者より人口密度が高いエリアに居住する傾向があるが、来日5年以上になると日本人と同じような傾向になる。――つまり、日本に居住する時間が長くなるほど、日本人と似たような行動になっている可能性があります。

結果をまとめると、全体的に在日外国人は独自の特徴を持つものの、特に来日5年以上の外国人は日本人に近い行動と選択をしていることが分かりました。

研究結果を解釈する上での注意点

松本:研究結果を解釈する上での注意点を教えていただけますか。

劉:1つは内生性の問題です。内生性の疑いがあるのは、子どもの変数と婚姻状況の変数です。子どもがいると通勤距離が長くなることは、通勤距離が長い人、より広いスペースに住んでいる人が子どもを持つことを選択しやすいという逆の因果関係の可能性もあります。ですから、どちらが原因でどちらが結果になるのかということは、この研究では特定していません。

もう1つは、パネルデータが得られないため、クロスセクションの分析を行っている点です。1人の外国人をずっと追跡しているデータはなかなかないため、来日期間による影響を考察するために、同一時点にある異なる来日期間の外国人について、学歴、世帯の特性、経済状況、従事する職業と産業などの変数をコントロールした上で得られた結果です。この方法はimmigrantsの量的研究によく利用される手法の1つですが(他国でもimmigrantsの追跡データが得られにくい)、共通する制約点として、分析に利用された変数以外にも観測できない要因が存在する可能性があることです。そのため、受け入れ国での滞在期間によって異なる結果には、観測できない要因も存在する可能性に留意していただきたいです。

政策的インプリケーション

松本:政策的インプリケーションを教えていただけますか。

劉:まず、海外で見られる移民の同化の傾向が在日外国人にも観測されたことから、2018年から国が実施してきた「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策」に対して1つのエビデンスを提供できたと思います。

それから男女間の差異に関しては、これまでは主に経済・社会的要因の面から改善を行ってきましたが、経済・社会的要因だけでなく、個人の意識による要因もあると思います。外国人が日本人と同じように経済・社会に居住しているのに、通勤行動における男女差が日本人より小さいのは、外国人と日本人の間で男女役割分担意識が異なることが要因だと思います。日本の男女差を縮小するには、男女役割分担意識を変える必要もあると考えます。

居住地に関しては、日本では特に地方の人口減少が深刻化しているため、これまで外国人受け入れを地方の人手不足対策の1つとして考えてきました。しかし分析の結果、多くの外国人は日本人よりも、人口密度が高い地域に居住する傾向があります。来日期間で見ると、日本に長期的に居住すると来日初期より人口密度が高い地域に居住する可能性が非常に高いという結果もあります。そのため、地方の労働力を補うために、単に外国人労働者の受け入れだけでは、長期的には効果が薄い可能性があると考えられます。

今年(2023年)発表された「令和5年版科学技術・イノベーション白書」では、「地域から始まる科学技術・イノベーション」の章が設けられており、人口減少対策として、地域のイノベーションを1つの選択肢とすれば効果が持続すると考えています。地域でイノベーションを行えば、地域内でも労働生産性の高い仕事が増え、地方で日本人も外国人も増える可能性があります。ただし、イノベーションは時間がかかるため、地方において足元の人手不足に対応するためには、外国人の受け入れは即効性があると思います。外国人受け入れの長期的な効果を求める際に、国際競争力の向上とイノベーションの促進のための、国際人材の獲得と定着に力を入れる必要があります。もちろん、即効性と長期効果の両方とも重要です。近年新設した外国人受け入れ制度のうち、「特定技能1号」は即効性に、「高度人材ポイント制」は長期的な効果に着目したと思われます。国際的に労働力と人材の獲得競争が激しくなる中、具体的な施策を一層充実すれば、良い効果が期待できると考えます。

松本:今後どのような研究を行っていかれますか。

劉:今回は2010年1年間のデータを用いた研究なのですが、今後は長期間のデータを使って変化を見ていきたいと考えています。近藤上席研究員とはこのような共同研究を今後も続けていく予定です。

解説者紹介

劉洋顔写真

劉 洋(RIETI研究員 / 京都大学経済学研究科東アジア経済研究センター 外部研究員)

2012年3月京都大学大学院経済学研究科経済学専攻博士課程修了/博士(経済学)学位取得、2011年12月-2012年3月独立行政法人国際協力機構JICA研究所研究助手(非常勤)、2012年4月-2013年3月京都大学大学院経済学研究科非常勤講師、2012年4月-2015年3月大阪大学社会経済研究所招へい研究員、2012年4月-2014年3月一般財団法人アジア太平洋研究所研究員、2013年4月-2014年3月摂南大学経済学部非常勤講師を経て2014年3月より独立行政法人経済産業研究所研究員。

インタビュアー紹介

松本広大顔写真

松本 広大(RIETI研究員(政策エコノミスト))

脚注
  1. ^ White, Michelle J. (1986) “Sex differences in urban commuting patterns.” The American economic review, 76(2): 368–372.