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経済政策レビュー6
日本人のための中国経済再入門-
著:関志雄
RIETI編集部による紹介文
中国経済に興味がある人も、そうでもない人も必読!
「日中両国の立場」を理解する筆者の視点で見る経済大国中国
本書はRIETIサイト内にある関志雄上席研究員のプロジェクト「中国経済新論」に連載中のコラムを書籍化したものである。本書の紹介の前に「中国経済新論」サイトについて触れておきたい。日本人のための中国経済再入門サイトと銘打って「中国経済新論」が立ち上がったのは2001年7月。日中関係、中国経済を中心とした関氏のコラム(「実事求是」)や論文を掲載する他、中国の著名な経済学者の論文を日本語に翻訳し、「中国の経済改革」、「世界の中の中国」などテーマ別に紹介している。
サイト開設当初、日本国内では中国脅威論が猛威をふるっていた。しかし、当時の中国の一人当たりGDPは日本の40分の1程度。関氏は発展段階にある中国は、日本にとっては競合相手ではなく、むしろ補完関係にあると当初から一貫して主張していたが、、世論にそぐわないという理由からか、関氏の意見は当時のマスコミには全く取り上げられなかった。このことがきっかけで、関氏は日本の読者に正しい中国情報を発信しようと思いたったのである。
たとえば「対中投資は日本の空洞化要因になりうるか」(2002年2月15日「実事求是」)では、日本の対米投資は対中投資を大きく上回っているのに、なぜ対中投資だけが日本の空洞化の原因とされるのか。それは日本経済の長期低迷からくる自信喪失の現れに他ならない、と世界対外投資国ランキングや日本の地域別対外直接投資のデータを分析しながら、冷静に結論づける。私が感銘をうけたのは「良い中国脅威論・悪い中国脅威論」(2001年11月16日「実事求是」)である。関氏はこのコラムの中で、中国の経済学者である樊綱氏の“中国国内における改革・開放路線に対して消極的態度をとる保守勢力に対する批判"を引用している。樊綱氏は、「弱肉強食」の論理に対し、自分がなぜ「弱肉」になっているかを反省せず、「強食」の行動を批判するのはおかしいと指摘する。これは現在の日本経済にもぴったり当てはまる。また、「瀋陽日本領事館事件から見た日本外交の建前と本音」(2002年5月17日「実事求是」)では、「主権侵害」を強調するあまり、被害者妄想に陥った日本のマスコミの論調に対していち早く異論を唱えるなど、タイムリー且つ独自性のある意見が読めることも、このサイトの魅力である。
関研究員のこのサイトに対する情熱には驚かされる。世の中の休日などはまったく無視し、サイト開設以来、よほどのことがない限り「中国経済新論」は週2回更新という驚きの更新頻度とその品質を保ち続けている。そのかいあって、「中国人の本音が読める」、「本格的な分析がわかる」と「中国経済新論」は固定ファンを着実に増やし続けている。
本書は前述の「実事求是」の文章を中心に、中国経済を体系的に学べるよう、サイトの時系列ではなく、テーマごとに分類し、章立てられている。今、日本は空前の中国ブームであり、本屋にはさまざまな中国関連書が並んでいる。やたら恐怖心をあおるもの、逆に中国はもうすぐ破滅するといったショッキングなタイトルのものありと、情報の出所を疑ってしまう内容のものも多い。そのような中で、豊富なデータに基づき、日本と中国は補完関係をもっと活かし、お互いに発展していくべきだとする関氏の主張は、不良債権処理も進まず、重苦しい雰囲気が漂う我が国にとって非常に勇気づけられるものである。
関氏は日本と中国はいい意味での“共存共栄"を築くべきだと主張する。現段階では日中の技術格差はまだまだ大きい。TVを例にとると、中国製のものと日本製のハイビジョンTV受像器の価格は一桁違う。お互いがハッピーであるために、日中は分業体制をとることが経済の原則に沿っていると関氏はいう。日本は中国の豊富な労働力を活かし、日本ではすでに衰退している産業を中国へ移行すべきで、最新の技術を中国に移転する必要はないというのだ(たとえばトヨタ自動車の工場を中国へ移転する必要はなく、国内に工場を構えた方がずっと雇用も確保できる)。こういった関氏の発言は日中の両方から嫌われてしまうという。しかし、関氏の発言には日中の潜在的補完関係を活かすことによるアジア経済の発展、ひいてはアジア地域の平和と発展への願いが込められている。
本書が日中国交正常化30周年にあたる2002年に出版されたことは感慨深い。中国経済について学びたい人はもちろんのこと、近年、日本にとって急速にその存在力が増している中国を正しく理解するためにも、すべての日本人に読んでもらいたい一冊だ。
広報グループ編集担当:谷本 桐子
著者(編著者)紹介
経済産業研究所上席研究員。1957年香港生まれ。香港中文大学卒業。1986年東京大学大学院博士課程修了、経済学博士。香港上海銀行、野村総合研究所を経て、2001年4月より現職。著書に『円圏の経済学』(1996年度アジア・太平洋賞)、『円と元から見るアジア通貨危機』、『最新中国経済入門』(編著)など。2001年7月より「中国経済新論」を主宰。「経済審議会」、「外国為替等審議会」など、政府の委員を歴任。