ブレイン・ストーミング最前線 (2008年5月号)

コミュニケーション力を伸ばさないとアウトプットは増えない

西山 昭彦
東京ガス(株)西山経営研究所長/東京女学館大学国際教養学部教授

はじめに―「傷付くから」で希薄化する若者のコミュニケーション

最近の学生は、「傷付くから」という理由で突っ込んだ議論を回避する傾向があります。「傷付く」、「傷付ける」ことを恐れるあまり、コミュニケーションが希薄化している現象があります。こうした視点は若者をはじめ、今、日本全体でコミュニケーション力の弱化が進んでいます。

コンテンツを「伝える力」=コミュニケーション力

企業における「人材」のスキルは通常、問題発見・解決能力(conceptual skill)、人を動かす力(human skill)、専門能力(technical skill)の3つに分けてとらえられますが、仕事の実現性の点からは「コンテンツ」とそれを「伝える力」=コミュニケーション力に分けられ、後者が重要な要素になってきていると考えます。

実際、企業602社に対する最近の経団連調査では、新卒採用時に重視する点として、コミュニケーション能力が5年連続で1位(2008年は79.5% 協調性53.0% 主体性51.6%)となっています。年収2000万円の300人を対象としたPresident調査でも、自らの価値を高めるために学ぶべきものとして、コミュニケーションが最上位(39%)を占めました。こうした調査結果のとおり、いわゆるhuman skill一般を超えたコミュニケーション力が最重要視されています。

リーダーに不可欠な要素とは

全米のできるマネジャーを対象としたコッター・ハーバード大学名誉教授の調査では、「自分の目標のために他人を巻き込んで仕事をする」、すなわち人を動員する力、が共通していました。同時に、組織・部門間の壁を超える部門横断型プロデュース力の重要性が指摘されています。

コッター教授は他にリーダーに必要な要素として、失敗・ストレスに対するマネジメント力も挙げています。日本では、幹部はストレス耐性が強いからストレスマネジメントは関係ないと捉える向きがありますが、現在の若年層を見ると、今後エグゼクティブにとってもストレスマネジメントが戦略的に重要になると見られます。

時間術=主体的な仕事の進め方

少し話はそれますが、先般、時間の使い方について、年収2000万円と600万円の収入層とで比較分析したのですが、調査では、さまざまな面において顕著な違いが見られました。たとえば、通勤時間に居眠りをするのは600万円で7.3%、2000万円で3.0%、休日に遅寝をするのも600万円に多く、2000万円では、平均では平日と同じでした。2000万円は、スポーツ、読書などに費やす時間も多く、仕事も趣味も充実したアクティブな生活をしていることが伺えます。また、2000万円の人の33.0%は、月曜日は早めに出社しています。また、52.0%が、嫌な仕事こそ先に終わらせる等、前倒し派であるなどの違いが判明しました。

さらに顕著な違いが対人関係に表れています。「人と会って話を聞く時間」は600万円の人で平日平均30分ですが、2000万円の人ではその倍以上の72分となっています。

ここでも、コミュニケーションは重要とわかります。結局、仕事でも趣味でも自分が没頭できて、忘我の境地になれる時間を増やすことに尽きると考えます。そのためには仕事に関しては、自ら企画・立案することと好きな仕事に就くことが忘我の度合を高めやすいと考えます。後者については、会社側で異動希望を実現する仕組みがあればベストですが、社員の方でも自らの異動に際して行きたい部署へ具体的な提案をする等、主体的に動く必要があります。全てやっても没頭できない時間は効率化します。

コミュニケーション力と転職

本題のコミュニケーションに話を戻します。

普段は饒舌なのにいざ面接や会議となるとうまく話せない人がいます。

そうしたコミュニケーション力不足は転職面接の実態調査からも読み取れます。「実力はあるのに面接で落ちる」候補者が実に全体の23.0%を占めているからです。実力(=コンテンツ)を「伝える力」がない故に失敗する人の数が「実力があって面接に受かる」候補者(22.1%)を上回っています。一方、「実力がないのに面接に受かる」候補者が全体の15.6%、つまり実力がない候補者の28.5%を占めていますが、そうした人は、コンテンツが乏しくても「伝える力」が優れていると考えられます。

プロに学ぶ「交渉術」

(1)広告代理店
代理店の社内プレゼン研究会の方によると、他社とのコンペ方式でクライアントにプレゼンする際は、会議出席者と意志決定者(キーパーソン)を把握したり会場の下見をしたりする等、周到な準備をするそうです。会議当日は先に到着して、クライアントと世間話をして「ブレーク・ジ・アイス」を図るそうです。そうすると、タテマエの論理だけでなく、「気持ち」を通じあえる説明や会話ができるようになります。そして、キーパーソンの目を見て「成功した」と判断したら、時間前でも会話を切り上げます。

(2)営業パーソン
異業種50人のトップ営業パーソンに取材したところ、「第一印象」に全エネルギーを集中するとの回答が目立ちました。説得においては、「商品が優れているから」という論理的判断以上に、「この人なら信頼できる」、「この人から買いたい」という気持ち、感情をゆさぶる方が効果的だというのです。

デルコンピュータのアジア地区のトップ営業パーソンは、法人営業の場合でも必ず1対1で会っていただくよう顧客側にアポを取るそうです。複数だとどうしても組織の代弁タテマエに終始してしまうのですが、1人で会うことで初めて本音で話せ、営業や事業の話が開けてくるというのです。

提案

コミュニケーション力はトレーニング次第で強化できると思います。国としては、コンクール等の発表の場やプレゼン検定のような制度を設けて、アウトプットが出せる機会を拡大することも重要です。

本来、子供の時に毎日屋外で遊ぶことが自然にコミュニケーション力とリーダーシップを培う格好の場ですが、昔のように遊ばなくなったことでコミュニケーションのファンダメンタルズを失った気がします。だから、事後的にでもその強化が必要だということです。

質疑応答

Q:

20代のモチベーションを上げるには、先述のような「刺激」を与えることが効果的でしょうか。それとも、まずは世代間のコミュニケーションギャップを解消すべきでしょうか。

A:

まず大学生のコミュニケーション力は、大学よりバイトやインターンシップで伸びる傾向があります。しかし、自分が教える大学では「クラス16人定員制」を実験的に導入して顕著な効果をあげています。クラスでは発表、質疑をくり返しています。そうすると、数年でぐんぐん伸びてきます。このように、授業をゼミ形式にして直接会話させることは、効果的です。

ご質問の件ですが、いまの20代の若者全員を50代並に強く鍛えるのは不可能だと思います。各自が無理をしない範囲で働ける方向に世の中の仕組みを変えていく方が、低コストで国家も本人も幸せになれるのではないでしょうか。タフな精神力を前提とした、かつての働き方は全体としては無理になってきていると思います。

※本稿は2月7日に開催されたセミナーの内容に一部加筆したものです。
掲載されている内容の引用・転載を禁じます。(文責・RIETI編集部)

2008年5月22日掲載