ブレイン・ストーミング最前線 (2008年4月号)

小さな政府政策の課題:1.4万NPO法人財務データベース分析に見る持続性問題

田中 弥生
(独)大学評価・学位授与機構准教授

問題意識-行政の下請化

NPO約2000団体を対象とした2005~06年調査の中で、収入規模が500万円以上の団体にアンケートを実施したところ、寄付金の占める割合が非常に少なく(2割近くが寄付金収入ゼロ)、公的機関からの委託金が主な収入源となっていることがわかりました。さらに、収入規模別にガバナンス、事業の運営方法、資金繰り等を比較分析し、九州、長野、関東圏の団体を無作為的にヒアリングしたところ、国内NPOのかなりの部分が行政の下請化していることを示唆する結果が出ました。

行政とNPOとのパートナーシップは重要ですが、NPOがその仕組みをテコに自立を図れずにいる結果、社会的革新を軸とする本来の強さが萎縮しているのではという印象を受けました。

NPO法人財務データベース分析

下請化を示唆する要素の中で特に問題と思われる、組織・事業の持続力不足と刷新力-新規ニーズを開拓し新たな事業展開につなげる力-の低下に焦点を当てたアセスメントツールの作成に昨年末から着手しています。その一環として、国内NPO法人の財務状況を把握するデータベースを構築し、下請化の原因と見られる慢性的な資金不足を財務的・構造的に捉えるべくデータ分析を試みました。

具体的には、「NPO成長5段階説」(Greenlee & Tuckman, 2007年発表、米国)のアプローチを参考に、同説でいう「誕生期」(組織を設立して軌道に乗せる時期)に相当する日本のNPOにとって課題と見られる、手元流動性と短期支払い能力に焦点を当てた分析を試みました。

分析結果

収入規模の分布から、職員を1人雇用する目安といわれる500万円以下の団体が全体の6割を占め、収入ゼロの団体が全体の15%(2300団体)に上ることがわかりました。設立後1年が経過した団体のみを対象としていますので、この結果は1年間収入が無いと申告した団体が結構あることを意味します。

新規事業開拓を測る上で重要な指標となる、経常収支差額と当期収入差額(経常収支差額と繰越金との合計)については、残金ゼロの団体が多くを占め、当期収入差額で100万円以下の団体が83%、ゼロ円以下の団体が61.7%となっています。正味財産の分布で見ても、マイナス(債務超過)の団体が14.9%ありますが、これは資本を有していないため借入が債務超過に直ちに反映されてしまうという問題もあるかと思います。ただ、いずれにせよ、経営的にかなり苦しい状況であることがわかります。

非常に小規模な団体が数多く存在する一方で、数億~数十億円規模の収入を得る団体がごくわずかに(1%程度)存在していますが、はたしてこれらが同等の性質・目的を持った団体であるのか、今一度検証する必要があると考えます。

誕生期のNPOにとっては、事業を軌道に乗せるためにもやはりキャッシュフローが当面の課題となります。現預金や流動資産の月額比は比較的良好ですが、それらは剰余金よりもむしろ低賃金・無償労働による支出抑制と借入によって確保している部分が大きく、安定的経営を示すものではないといえます。

政策的インプリケーション

冒頭で述べた下請化の問題と関連して、NPOが官製市場をテコに自立経営を図れずにいることがデータ分析から判明しましたが、問題の本質は行政からの委託そのものではなく、むしろ委託に振り回され、依存する状態であると考えます。

平成17年からNPO法改正の議論が進められていますが、草の根活動目的の小規模団体と専門的事業集団を目指す大規模団体とではかなり性質が異なると思われ、そうした多様性を踏まえた議論がもっと必要と考えます。要件緩和の議論が多く見られますが、むしろ質的向上を図るべきかもしれません。

我が国の民間非営利セクターの制度設計を描くにあたり、「自立経営モデル」と「市民市場」(NPOの運営を可能にする環境)をセットで考えていく必要があります。

「自立経営モデル」を確立するには持続性の検証が必要で、その鍵となるのが「余剰金」の取り扱いです。事業拡大の度に寄付を集めたり、身内から借りたりする体制では安定的な運営は期待できず、事業目的の基金を意図的に積み上げる環境が必要な時期に来たのではと考えます。また、NPOとしても自助努力によって自らの事業を常に刷新すると同時に、資金面で回っていく仕組みを作る必要があります。

さらに、官製市場と対峙する意味で、民間非営利組織、サービス購入者、寄付者(ボランティアを含む)から成る「市民市場」を整備することを提案します。民間主体がサービスを提供し、市民がそれを購入・支援する、租税によらないもう1つの公共領域があるべきで、そういう視点の欠如が寄付不足や資金難といった問題の根本にあると考えます。

市民市場を顕在化するには寄付行為に対する何らかのインセンティブが必要で、そのための税制上の優遇や税額控除があっても良いと考えます。ただ、その際には公益性の有無が問われますが、ここでも政府ではなく市民が判断するアプローチが重要です。寄付金の多寡によって公益性を測る、認定NPO法人制度のパブリックサポートテストもその一例です。これに、寄付金だけでなく、ボランティアを数値的に反映する仕組みを作れば、市民市場の規模ないし公益性の判断がより公平かつ正確に行われると考えます。

質疑応答

Q:

今後、公共サービスの分担化を進めるとしても、官民の線引きをするのは困難と思われます。国民が均質的で整合的な意思形成が可能ならともかく、格差社会が進んでいる現状において、すべてを住民の判断に委ねるのは社会の欧米化を加速しかねず、むしろ政府の拡充によって対処するのも1つの方法と考えます。

A:

仮に格差是正が国の政策課題であれば、国家が税配分で調整する仕組みを担保する必要がありますが、それとは別に民間が支援する分野があっても良いと考えます。市民の判断に委ねられない分野は政府が引き続きカバーするでしょう。基本的には政府と民間非営利組織とで公共領域を分担すべきと考えますが、その際の線引きは政治的決定や有権者の判断にかかります。

Q:

2000万円以上の事業収入型NPOと中小企業とでは政策上の接点がありますか。また、内部留保・資本が必要であれば、いっそのこと、株式会社にしてはどうでしょうか。NPOという形にこだわる必要は無いと考えますが。

A:

NPOと中小企業とでは規模の分布が似ていることから、ベンチャー支援との共通性を示唆する意見はあります。事業規模によっては、株式会社、あるいは英国のコミュニティ・インタレスト・コーポレーション(公的目的株式会社)のような制度で出資を募るのも1つの選択肢だと思います。ただ、寄付(ボランティアも含む) を通じて公益を支える市民の意志も尊重する必要があります。また、非営利であるが故の強みもあると思います。たとえば、言論NPOは日中関係が悪化している最中から日中フォーラムを開催していますが、そこに著名な政治家・有識者が無償で時には自腹を切って参加するのも、社会的使命を目的とする非営利事業であるからこそと思います。株式会社でこれらの公共領域を支えるのは少し無理があるのではないでしょうか。

※本稿は1月24日に開催されたセミナーの内容に一部加筆したものです。
掲載されている内容の引用・転載を禁じます。(文責・RIETI編集部)

2008年4月23日掲載