ブレイン・ストーミング最前線 (2005年5月号)

新生銀行の経営改革

八城 政基 新生銀行取締役・代表執行役員会長兼社長

将来性のないビジネスモデル~役割を終えた旧長銀

旧日本長期信用銀行(旧長銀)は、1952年の戦後経済の復興期、日本企業に対して長期的資金を提供するために創設されました。そして長い間、自己資本の数十倍にも上る規模の金融債を発行することによって資金を調達し、それを単に企業に対して貸し付けるという業務を繰り返してきました。日本経済が順調な限りは貸し倒れの発生もなく、安全かつ単調な業務であったわけで、一般の産業に比べると、経営陣としての訓練がなされない状態が続いてきたといえます。ところが経済成長が止まり、融資先が返済困難に陥り破綻してしまうと、貸した資金は焦げつきました。そうなって初めて、経営の重要性という事に気が付いたわけです。旧長銀を含む日本の銀行経営者で、バブル経済が崩壊する以前に経営の厳しさを認識していた人は、ほとんどいなかったと思います。

ビジネスモデルの変革~銀行の新しい役割

そういった状況への対応として、従来型ビジネスモデルを変革することに着手しました。単に預金を集めて貸付を行うというビジネスモデルには将来性がありません。一般の銀行が普通社債を発行し、国が中期国債を発行するようになると、旧長銀の持つユニークさや目新しさがなくなってしまいました。また、無記名式の金融債を発行するということが社会的に疑問視される流れの中では、やはりビジネスモデルを変えざるをえない状況となっていったわけです。

どのような変革を行っていくかというビジョンについては、最初からはっきりしていました。まず、リテール(個人金融)分野では、顧客が本当に必要としている金融商品を打ち出し、簡単かつ低コストで銀行との取引ができるようにしなければならないと思っていました。また、企業融資を行うことは確かに大事ですが、将来的に融資業務の重要性が薄れてくることは予想できました。企業において必要な資金の85%を銀行融資に依存する、というのは既に過去のモデルです。バブル崩壊後、銀行よりも優れた格付の企業が多くなり、企業自身が社債や株式発行等によってキャピタルマーケットから直接調達したほうが、低コストで安定的に資金を調達できる状況となりました。銀行が企業に貸付を行うことで優位に立つという時代が過ぎ去った時、銀行の役割が改めて問われるようになったわけです。

銀行の新しい役割として、企業が抱える問題の解決策を提供するということが挙げられます。解決策とは、例えばある企業が自らの事業を分析し、採算の合わない業務について売却を検討するとします。その際、銀行が売り手と買い手を結びつけることで、いわゆるM&Aというアドバイザリーサービスが成り立つわけです。日本では、サービスに対して手数料を払うことに抵抗が大きいため、手数料ビジネスはなかなか成立しないといわれますが、それが成り立たないのは、銀行の提案がごくありふれたアイディアだからだといえます。金融に関わる難しい問題への適切な解決策を提案できたならば、お客様は喜んで手数料を払ってくれるでしょう。法人の取引先に対し、こういった様々な投資銀行業務を提供すると同時に、個人のお客様に対しては、全く新しいタイプのリテール業務に乗り出すことが必要だったわけです。

新生銀行の経営改革の実例

(1)人事制度の改革
外資系投資銀行が日本のマーケットで展開しているようなサービスは、日本の銀行にも提供できると最初から考えていました。しかし、それを実現するためには、いかにして顧客の求める解決策を提案できるかということに頭を使い、力を注いでいかなければなりません。そういった外資系金融機関と競争していくためには、専門知識と豊富な経験をもつ人材と、高度な専門知識を育てることを可能とする人事制度が必要でした。

私が旧長銀へ入行したのは、新生銀行に改称する3カ月前のことでした。その時最初に着手したのが、人事制度改革です。当時は年功序列型の人事で、担当業務の2、3年毎のローテーションにも関連性が見出せない状況でした。これでは専門的な知識を持つ行員が育ちません。そこでまず、担当業務の異動については最低でも5年間は行なわないようにしました。そのために、自分のやりたい業務を初めに申告してもらい、100%とはいかなくとも、できる限り個人の希望が尊重されるようにしました。現在では、行員の大多数が各々の担当分野でじっくりと専門知識を養い、能力を発揮できる体制になっています。旧長銀が破綻し、国有化を経て新銀行がスタートするまでの過程で、行員の給与は幹部が旧長銀時代の3割減、一般行員が2割減となりました。今では給与水準は完全に元の状態に戻っていますし、個人の能力に応じた差をボーナスで大きく付けています。また、セカンドキャリアプログラム(早期退職制度)を今までに3回実施しました。そうした中で、外から入った人と旧長銀時代からいる人が一体となって仕事に取り組むようになっています。

行員を採用する際、人種や学歴、性別などには関心がありません。大事なことは、どういう経験を持ちどういう仕事をしてきたか、それが我々の求めているものかどうかです。新生銀行には、実に様々な人が採用されています。行員たちの国籍を数えれば10以上にもなるでしょうが、隔たりなく全員が同じ目的を共有しています。

(2)情報の共有と目的の共有
このように人の出入りが多くなると、内部のコミュニケーションをいかに充実させるかということが重要になります。トップの考えていることが全員に伝わり活発な議論ができる。そうでなければ、銀行がどこに向って走っているのか分らなくなり、バラバラになってしまいます。新生銀行で実践してきたことを具体的に紹介しますと、全支店と本店とをつなぐ週に1度の電話会議を極めて初期の段階から導入しました。今は2週間に1回のペースとなっていますが、毎回必ずリテール、事業法人、金融法人、企業再生を担当する部門の責任者が、その2週間の動きについて細かく報告します。この会議は全従業員が自由に参加してよいことになっていて、しかも役職を問わず、誰であっても質問することができるのが最大のポイントです。また、3カ月に1度ほどの割合で、私から業績の説明をする場合もあります。この会議の他にも、月曜日から金曜日までの業務時間のうち15%程度は内部での色々な情報を全体で共有するために充てられています。

現在の正式な行員数は2250人で、そのうち旧長銀出身者は1600人です。それ以外は外部からの採用で、新卒採用者は300人となっています。外部採用者は、主にリテール、IT、並びにリスク管理の各分野、企業金融の中でも投資銀行の経験を持つグループに分かれます。また、執行役員で外部から入ったのは、外国人を別とすると日本人では私だけです。つまり、旧長銀出身者も外部採用者も、まったく区別されていないということです。

ご紹介した人事や情報共有に関する様々な施策を通じて、旧長銀出身者のマインドセットが変わり、外部人材を含む行員のものの考え方が1つになったことがこの5年間の最大の成果であったといえます。全員が同じ目的に向かって、同じことを考え、一致協力して仕事をしているということが重要なのです。同じ目的とは、企業として長期にわたって安定的に利益を伸ばすこと以外にありませんから、一時的な利益を出しても仕方がありません。我々は常に、長期的に銀行の利益を伸ばすことに貢献しているかどうかという1つの観点で、全てを考えるべきです。当行では、毎年2ケタ成長の増益を維持していくというのが基本的な方針です。それに向かって皆が協力し、それぞれの業務の推進状況は、個人名を出さないまでも全員に報告されるということになれば、自ずと全員が同じ方向へ向かって努力するようになるのです。

(3)MISによる月次決算を開始
2000年5月のことですが、私が経理担当の幹部に「先月は利益を出したか」と尋ねたところ、「分りません」という答えが返ってきたので大変驚きました。当時の銀行は、半期決算しか行っていなかったのです。そこで、私はすぐにMIS(マネジメントインフォメーションシステム)を作りました。新生銀行で最初の月次決算を行ったのは、2000年8月の第2週、7月の月次決算でした。その後、MISの改良を重ね、今では新生銀行の経営に関するあらゆる分析が可能なシステムとなっています。それを少なくとも幹部は毎月確認し、どこに問題があるかを把握できるようになっています。そうすると、銀行というものは自然と良くなっていきます。これは銀行に限りません。経営ではMISを活用した経営情報の共有を徹底していかなければなりません。社長だけでなく、幹部だけでもなく、できる限り幅広い範囲で皆が情報を共有することによって、自分たちが何をすべきかが分るからです。

(4)コマーシャルバンク出身者と投資銀行出身者の融合
銀行のビジネスモデルの変更に伴い、外部の投資銀行から入行してくる人が多くなりました。旧長銀はコマーシャルバンクですから、この投資銀行とコマーシャルバンクを一体化させなければなりません。世界の銀行をみても、合併した銀行の中には、1つの銀行の中に2つの銀行が存在するような現象がほとんどのケースで起きていますが、銀行の規模が小さい場合は、それではビジネスになりません。

新生銀行には、旧長銀から引き継いだ地方銀行等金融法人のお客様が大変多いわけです。そうしたお客様にとって、現在、資産の流動化が大事な業務となっています。さらに、流動化によって得たキャッシュをどのように運用するか、または証券化された資産への投資家をどのように探すかといった金融法人が抱える問題の解決に、ビジネスを見出すことができます。こういった業務の大部分はキャピタルマーケッツの担当部門となりますから、キャピタルマーケッツ商品担当の責任者と金融法人顧客担当の責任者が共同で受け持つグループを作りました。法人取引を担当するインスティテューショナルバンキング部門には、今ご紹介した金融法人・キャピタルマーケッツ本部を始めとして5つの本部がありますが、すべてに於いて、顧客担当責任者と金融商品担当責任者の2人が、共同責任者として全体を把握するようにすることで、1つの銀行に2つの銀行があるような状況は避けることができました。

(5)高い自己資本比率
日本の銀行が抱える問題の1つは自己資本比率が低いということです。新生銀行には公的資金が優先株として注入されているため、配当が制限されています。配当性向は11%程度に抑えられ、毎年500億円もの資本が積み上がっていった結果、昨年2月のIPO(新規株式公開)の際には、自己資本比率が21%になりました。アナリストからは、資本の効率的な利用ができていないのではないか、過大資本を抱えているのではないかと言われましたが、「普通の企業には自己資本比率3割以上と言っているのに、なぜ銀行だけ8%でいいのか」と逆に尋ねたものです。この問いに対し的確に説明できた人は皆無です。それでは、なぜ銀行の自己資本が少なくてすむのかというと、結果として少なくないと困るから、と言えます。なぜなら利益が少ないからです。世界の優良銀行でも、総資産を分母にした利益率指標であるROAは1.5%程度です。日本は産業界全体でも平均的ROAが4.5%と低く、銀行だと不良債権が無い場合で0.5%出すのがやっとですから、レバレッジを効かせないとまともな会社とは見られないのです。さらに悪いことに、系列と称して1つの会社に貸し出している金額が大きすぎるので、リスクが大きい。また、一般的な事業会社は原料を購入し、加工して製品化し販売し利益を得る。その期間は2、3カ月程度で回転していると思いますが、銀行がお金を貸し出す場合、短期と言っても2、3カ月ではありません。事業会社の場合、回転が速いため、原料高などの要素を価格に反映できますが、銀行融資の場合は実質的に長期間固定されるケースが多く、とても薄い金利が付くだけです。銀行は、長期間お金を貸し出す場合の価値の劣化といったリスクも取っているのです。ですから事業会社に3割の自己資本比率を求めるのに銀行は8%でいいという事は、私にとっては永遠の疑問です。お金を貸すということのリスクマネジメントができないなら、銀行経営は成り立たないと思います。

(6)独自のITシステムとSPBの導入
新生銀行では、大変ユニークなITシステムを導入しています。どういう顧客に対して、どういう商品を提供するかということを第一に考え、そのために一番便利なシステムを作りました。特徴としては、開発コストをできるだけ低く、開発期間を通常の3分の1に短縮することを条件とした結果、メインフレームコンピューターはまったく使わず、金融環境や顧客ニーズの変化に柔軟に対応できるオープン系のシステムを独自に開発したことです。特に優れているのは、新商品・サービスを投入するのに2カ月程度ですべてのシステム対応が可能だということです。開発に関わるコストが非常に安いことから、すべての償却および人件費といったシステム全体に関わる経費は年間100億円に抑えられています。初期投資はわずか60億円でしたが、商品数は現在に至るまで比べものにならないほど増加しています。さらにATM利用料無料、インターネット送金も制限はあるものの無料という画期的な取り組みは、システムに加え事務手続きの効率化を含む低コストオペレーションを実現したからこそ可能なのです。

また、昨年2月から8カ月をかけて、新生銀行の将来についてのSPB(Strategy=戦略、Plan=計画、Budget=予算)を各部門で立案しました。3年先までの戦略を考え、達成するためにどのような具体的な計画を立て実行していくか、また、実行状況をモニタリングするための3カ月ごとの数量的・質的チェックも行っています。企業にとって最悪な事態とは、予想もしなかったことが起きることです。そういう意味で、SPBのプロセスは我々の将来にとって非常に大事です。SPBがある限り、誰が経営を行っても変わらない仕組みとすることが可能ですし、こういったことを組織にはめ込んでしまえば、危険なことは起きようがないわけですから。

質疑応答

Q:

人事改革によって、外部採用者と旧長銀時代の行員が融和されたということでした。他の銀行においてもこれまで色々な合併が行われてきましたが、人事的になかなか融和できないという状況があるようです。新生銀行の成功のポイントは何でしょうか。

A:

旧長銀が破綻した、ということが大きいと思います。旧長銀時代の人からみれば、今までのやり方で失敗したのだから、この際新しい経営陣のやり方にかけてみようという中途半端ではない心構えがあったのかもしれません。もう1つは、情報の共有を含めオープンな経営を心掛けたため、派閥ができようもなかったということもあると思います。新生銀行のマネジメントは公正だということを、皆がわかってくれたのだと思います。

Q:

現在、日本の銀行業界ではメガバンク志向が強くなっていますが、銀行におけるスケールエコノミーについてお伺いさせて下さい。

A:

日本の銀行は規模が問題ではないと思います。いわゆるメガバンクの規模は、世界の中でも大きすぎるほど大きいのではないでしょうか。日本の銀行全体にとっての問題は、ビジネスの中身が全然変わっていないという事です。例えば、手数料収入を増やす方針を打ち出すと、ATM手数料の収入まで計画数値に織り込んでしまいます。このように、ビジネスモデルが依然として変わっていませんから、収益性も低くなります。それが株価に反映されますから、日本の銀行の株価は、資産規模が3分の1程度の欧米有力銀行の株価とほぼ同レベルです。ですから、規模を大きくすることを目的とするのは問題があります。ビジネスの中身を時代の要請に応えてどのように変えていくか、というところに中心を据えるべきだと思います。

Q:

最近、これまでの日本的な慣行やビジネスモデルになかったことを打ち出して話題となる企業が出てきていますが、今後の日本のビジネスモデルをどのように変えていけばいいとお考えでしょうか。

A:

私がお話ししていることは、すべて当たり前のことです。ビジネスの基本というのはあくまで当たり前のことであって、奇をてらってうまくいくことはほとんどないのです。世の中がどう変わっているかを考えるならば、「世の中」とは、商売をしている以上「顧客」です。常に「お客様」という原点に戻らなければいけない、そのひと言に尽きると思います。しかし、当たり前のことをするのは大変難しいものです。それは、前例がないからです。だからこそ、当たり前のことを実現することが新しい挑戦となるわけです。

※本稿は2月25日に開催されたセミナーの内容に一部加筆したものです。
掲載されている内容の引用・転載を禁じます。(文責・RIETI編集部)

2005年5月25日掲載

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