政策シンポジウム他

動きはじめたビジネス支援図書館~図書館で広がるビジネスチャンス~

イベント概要

  • 日時:2002年9月23日(月・祝)13:00~18:00(開場12:15)
  • 会場:一橋記念講堂 東京都千代田区一ツ橋2丁目1番2号 学術総合センター2階
  • 事例報告「ノレッジセンター構想」

    柳 与志夫 (国立国会図書館主査)

    国会図書館の柳です。最初に2つお断りしておくことがあります。ひとつはこれまでのお三方は事例報告ということでしたが、私の報告は、これから事例にしたい報告ですので、まだ全く実現していませんし、実現するものかどうかも分かりませんが、そこのところを含みおきください。もうひとつは肩書きが国会図書館となっていますが、今日の報告は私がオフタイムに行っている、知的サービス研究会、そのメンバーの一人としての報告ということで、ご了解ください。

    知的サービス研究会(仮称)について

    それで、この知的サービス研究会について、まず簡単にご紹介したいと思います。この研究会は昨年の春、発足いたしました。厳密な組織ではなく、特にメンバーシップがあるわけではありません。従ってといいますか、未だに仮称のままで、実は、2年間の期限限定で行う予定なのですが、2年間終わるまでは仮称のまま、もしそれが社会的に受け入れられて今後も活動が可能になれば、きちんとした名称をと考えて、仮称を取ろうと、もし受け入れられなければそのまま消えればいいではないかということで始めています。

    この研究会の目的は2つあります。ひとつは、日本の分断された知的情報資源の生産、流通、あるいは利用に関わる人、あるいは組織が横断的に議論できる、そういう場を作ろうということです。第2に、その中でも特に知的情報資源の中で、利用提供に関わる部分、それをわれわれは知的サービスと名付けているわけですが、これを評価して、社会的に定着させていく方向付けをしたいということです。この時に、先ほどから知的情報資源という耳慣れない言葉を申し上げていますけれども、これは、単に学術情報のことだけではなくて、たとえば日本でいえば、ゲームや漫画、これを好きな方も嫌いな方もいらっしゃるでしょうけれども、これも十分立派な知的情報資源だと、われわれは考えています。

    それから知的サービス、これも実はここが確立しなければ、今言った知的情報資源というのは、実は眠ったまま、あるいは新たに創造されるということはないのではないかということをわれわれは一番感じています。これが日本でやはり今一番欠けている部分ではないでしょうか。この場合の知的サービスというのも、この言葉で想像されるような、ここで何度も出ています、コンサルティングですとか、あるいは情報サービス、もちろんそれも含まれますけれども、たとえば、レストランのソムリエが、今日の料理に合わせて、どういうワインがいいか教えてくれる、あるいは、デパートに行って、商品知識を十分持った店員さんが、自分に合う洋服を薦めてくれる、これもりっぱな知的サービスだと思っています。

    ノレッジセンターの全体像

    それでは本題のノレッジセンター、これはわれわれの研究会で少し討議して、中間的にまとめたものをご紹介するわけですが(資料参照)、このノレッジセンターというのは、今申し上げた知的情報資源を、実際に活用できる、そういう施設をモデル的に作って、提示してみようという発想で考えたものです。従って、図書館を何とか救おうというつもりでやっているわけではありませんので、これが成功して図書館がなくなっても私は別に構わないと思っています。

    もちろん、これまでの図書館がそれに生まれ変わってくれれば、それにこしたことはないのです。その特色ですが、資料にも書きましたけれども、3つくらいの特色があります。それぞれ見れば、これまでいわれてきたことかもしれませんけれども、紙だけではなくて、様々な資料、コンテンツを扱うということで、当然、デジタル資料、マルチメディア、そういったものを扱う。それから、運営については、公共的な利用を当然想定しているわけですが、それは単に、役所がやる、公的な機関が行うということではなくて、官民あるいはNPO、さらには個人の方、そういった方が、横断的に協力して支えていく、あるいは運営していくということを考えています。

    それから、既存の知的情報資源を単に活性化する、活用するということではなく、そこに今申し上げたような様々なセクターの方、様々な業種の方が集まることによって、新しい情報、新しい知識を生産する場にしていく、そういうものを生み出す交流の場にしていく、そういったことを考えています。

    今、図に示しましたけれども、これはノレッジセンターを実現するために、どういった機関、関係者が必要か、あるいはその関係はどのようなものかということを示したものです。これについて事細かく申し上げるまでもなく見ていただければいいかと思いますが、このなかでひとつポイントは、その基となる情報資源に従って、図書館だけではなくて、たとえばデジタルコンテンツについていえば、民間企業が持っている様々な情報も必要です。

    これはある企業の方とお話してやはり感じたのですけれども、その方は商事会社の方ですが、当然のこととして、あるプロジェクトを始めるためには、様々な情報を収集するわけです。いくつもの調査報告書ができ上がり、それからそのプロジェクトの進行に従って様々な文書が発生します。それがうまくいくこともあれば、失敗することもあります。ただある段階に来れば、その資料は必要なくなるわけです。その企業のなかではそういった情報は結局埋もれてしまう。ところが今作られている情報は大体デジタル情報ということで、実は利用しようと思えば利用できる、大変利用しやすい資料なのです。ただ、個々の企業の中ではそういった情報をあえて外にだしてまで、利用していただこうというインセンティブはありません。従って、たとえば、ここに保存委任とありますけれども、たとえ安いお金でもお支払いして、預からせていただく、これを利用提供する。

    その商事会社の方と話していて意外に思ったのは、もうある程度時間がたてば、仮にプロジェクトの失敗事例でも出しても構わないということをおっしゃっていたことです。そういう企業やその他、さまざまな機関で眠っているデジタル情報をいただいて、それを活用する、そういうセンターです。つまり、ここで考えているのは、消極的に情報が集まる、あるいは集まってくるのを待っているのではなくて、このノレッジセンターが中心になって、新しい情報を発掘する、見つけてくる、それから先ほど申し上げたように、このなかで実は生み出ししていく、そういったことを考えたいと思っています。

    今申し上げたようなことは、実は経営学の分野で今最近非常に流行している、ノレッジマネージメントについての文献に書かれていることです。ノレッジマネージメントの分野では、それぞれの企業の中でこのノレッジマネージメントをやっていこう、企業の中に眠っている様々な情報、それは文書などに明らかにされた形式知だけではなく、それぞれの社員が持っている暗黙知も含みますが、それを財産に、企業の戦略を考えていく、活用していく、そういう考え方があります。そして実際に、欧米の多くの企業、それから日本でも多くの取り組みが始まっているわけです。これを単に一企業の中ではなくて、公共的な領域、施設の中で、そのノレッジマネージメントを実践するような組織、施設、そういったものを作る必要があるのではないか、という発想です。

    ノレッジセンターのサービス

    では具体的に、どのような利用を考えているか、というのがその図(資料参照)です。このノレッジセンターは、すべての人に開かれているということを前提にしています。けれども、それは、無差別にということではありません。先ほどどなたでしたか、こういったサービスが結局差別化を必要としてくるとおっしゃっていましたが、まさにその通りで、ある種の差別化、つまり重点的にやはりどういった方にサービスをするかを明確にして、その方々に沿ったサービスを提供していく、これはもう企業であれば当たり前のことですがそれを考えています。

    では、重点対象はどういうものか、といいますと、図にありますように、芸術・芸能、それから、ここでは都を想定していたので、都庁になっていますけれど、行政、それからビジネス、この三本柱を考えています。この場の関係上そのなかのビジネスについて申し上げますと、ビジネス支援、これはサービス対象として、会員制、それから、ここで反発を感じる方がいらっしゃるかもしれませんが、有料制を前提にしています。もちろん、具体的な、どの程度の金額で、どの程度のサービスで行うか、そこまではとても考えていませんが、会員で有料制、ということが前提です。

    では、どんなサービスを提供するか、というのがここに書いてある、情報提供、調査、コンサルティング、この3つです。この情報提供については、実は、今新谷さんがおっしゃっていた、従来の図書館情報学でいえば、選択的情報提供、つまり、従来のレファレンスのようにお客さんが来てから答えるということではなく、お客さんのディマンズ、ニーズを想定して、積極的に情報を提供していく、という情報提供です。

    第2に調査、これも今の図書館では実際にほとんど行っていないと思いますが、たとえば私の勤める国会図書館ですと、国会議員に対してのみは立法考査局という局を設けて、調査サービスを行うことが法律で定められています。ただ当然のこととして、こうした調査サービスはそれの分野の専門家、それから時間、コスト、そういったものがかかりますから、今の公共図書館、そういったもののなかでこういったサービスをすることは不可能だと思いますが、これを会員制、有料制、あるいは、後で申し上げるように専門家の交流の場、総合利用という観点から調査も行っていき、そのサービスに基づいたレポートを作成するということはあります。

    第3にコンサルティング。これは、盛んに今まで出ていたものですので省略しますが、ただ、ここでいうコンサルティングはどの程度までコンサルティングを行うかという非常に難しい問題があります。研究会で想定しているのは、たとえば金融のある会社から、その業種に共通したビジネスの問題について、ご相談を受ける、そしてそれに共通した話題、問題についてコンサルティングに応じます。ただ個別各社の非常に細かい部分については、プライベートの企業を圧迫しないように、そちらをご紹介する、というようなことを考えています。

    今言ったサービスと、たとえば税金の問題で考えると、積極的情報提供ということでは、そのある企業に関連した税制改正があった場合に、その法律改正のポイントを事前に提供する。それから税制の仕組みについて、関連の外国はどうなっているかを調査してレポートを提供する。これが調査です。ではそういった税制に対応するためにどういう取り組み、あるいは、対応が必要なのか、ということのご相談に乗る、これがコンサルティングです。

    それからサービス対象としてではビジネス支援の場合、どういったところを考えているかといいますと、まず第1に登録企業、第2に専門職です。専門職の方はたとえばいろいろありますが、弁護士から弁理士、いわゆる侍業という方々です。こういった方々は個人の専門性は非常に高いわけですが、組織のサポートをなかなか受けられないという問題があります。従ってこういった方々をひとつのターゲットにできるのではないかということです。第3に皆さんがよくおっしゃる起業家、それからその予備軍である学生です。ではサービス提供者はどういう人を想定しているかというと、ここがポイントになるわけですが、プロパーの方、つまりこのノレッジセンターのプロパーの職員に専門家をそろえるというのは当然ですけれども、しかし、すべての分野を想定して、そろえるということはまた当然不可能ですから、今申しあげた、利用者としての専門家の登録をいただいて、その方々を逆に、今度はサービスの提供者としてもご活躍いただく。もちろんそれは有償ですが、そういったことを考えています。

    知的サービス研究会の今後の展開

    では、今後の展開ですが、このノレッジセンター、われわれは単に作文を作るために考えたわけではありません。実現を是非させたい、と考えておりまして、今のところ実は、2つお話を進めています。ひとつはビジネスに特化したもの。もうひとつはアート情報、アートに関連して特化したもの。それぞれ関係のところとお話を進めています。これが実際に実現するかどうかは全く、今のところはわかりませんので、もし実現の運びになったときには、あるいは新聞紙上で、「ああ、このことだったのか。」と思っていただけることがあるかもしれません。

    最後にもう一度知的サービス研究会のことに戻りますけれども、先ほど申し上げたように、2年限定で行っています。既に1年半たったのですが、何が見えてきたかというと、やはり知的情報資源の生産から流通、利用に関わる新しい公共領域、ちょっと固い言葉ですけれども、パブリックドメインを作っていく必要があるのだろうと思います。その場合に2つの道筋があって、それが共同していかなければならない。ひとつはいわゆる官の中から本来のパブリック、公共の部分を取り出すこと、これは当然ですけれども、しかしわれわれとして力を入れたいのはやはり民、これは企業、NPO、個人様々です。その中から新しい公共的領域を生み出していきたい。それを知的情報資源の分野で生み出したい。そういったことを考えています。この研究会は来年度はNPOにしたいと思っていますが、そこで想定される事業は7つあります。これはご覧いただければと思います。もちろん、これを全ていきなり始める、ということではありません。できるところから始めたいと思っています。