政策シンポジウム他

動きはじめたビジネス支援図書館~図書館で広がるビジネスチャンス~

イベント概要

  • 日時:2002年9月23日(月・祝)13:00~18:00(開場12:15)
  • 会場:一橋記念講堂 東京都千代田区一ツ橋2丁目1番2号 学術総合センター2階
  • 事例報告「川崎図書館のビジネス支援」

    田村 行輝 (神奈川県立川崎図書館副主幹)

    ただいまご紹介いただきました、神奈川県立川崎図書館の田村と申します。よろしくお願いします。これから神奈川県立川崎図書館のビジネス支援について、お話したいと思います。簡単ですが、レジュメに添ってご説明します(資料参照)。

    ビジネス支援の歴史

    まず1番として、ビジネス支援の歴史についてなのですが、川崎図書館は開館以来ビジネス支援を行ってまいりました。川崎図書館は、神奈川県立の2番目の図書館として、川崎市川崎区に昭和34年1月に開館しています。ご存知のように京浜工業地帯に川崎は立地するわけですが、そういう条件を考慮しまして、開館当初から、科学技術、工学関係の資料を重点に収集してまいりました。商工資料室には、特許・規格、商工名鑑、カタログ、業界紙などをそろえ、「工業図書館」を指向してまいりました。以後、多少の紆余曲折はありましたが、この基本方針は変わっていません。

    少しここで説明を加えますと、開館当時、昭和34年ですが、川崎市の川崎区には、図書館がひとつもなかったわけです。そこで、科学技術・工学だけそろえたサービスをするわけにもいきませんので、地域住民にサービスする一般図書室、あるいは、児童室を設置して、地域サービスも行ってまいりました。従って、工業図書館という一面と市民の図書館という一面、この両面を併せ持つ図書館として運営してまいりました。それが平成7年に、川崎区のほうに川崎市立川崎図書館がオープンしましたので、それから機能の見直しを行いました。

    平成10年の4月に新しく機能を見直してのリニューアルオープンにより、今まで地域住民にサービスしてまいりました一般図書室および児童室を閉鎖して、科学技術・工学に特化した専門図書館として再出発、現在に至っています。(2)、川崎図書館の運営方針の概要ですが、「科学と産業の情報ライブラリー」、これは川崎図書館のキャッチフレーズとなっています。また「『科学産業技術系の専門性の高い情報拠点』として、その名にふさわしい科学技術系の専門資料・情報の収集・整備・保存に努め、県民の資料・情報ニーズに応えていく。」これは今年度の事業概要で、そこから抜粋しましたけれども、この基本方針に従って運営しています。

    ただ、川崎図書館は科学技術工学系しかありませんので、残りの分野はどうしたのだという質問があると思うのですが、これに関しましては、県立図書館、横浜のほうに神奈川県立図書館というものがもう1館ありまして、そちらのほうで人文社会科学系の資料を重点的に集めて、収集の分担と機能の役割分担を行っています。施設としては、開館当時の建物をそのまま使用していまして、総床面積約3、550㎡です。40年以上経ってだいぶ古びていまして、さらにエレベータもないということで利用者の方からは非常に不興を買っているのですが、なかなか新しくできず、財政が厳しいものですから、そのままの形で使っています。1階に知的所有センター支部、やさしい科学コーナー、これは子どもの理科離れを防ぐ目的で設置しています。先ほど児童室を閉鎖しましたと申しましたが、この科学理科関係だけ、まだ残っています。それから外国科学文献コーナー、これは後ほど説明いたしますが、ITコーナーがあります。2階はホール、事務室、3階は閲覧室、4階は社史の閲覧室となっています。社史についても、後ほど説明いたします。

    ビジネス支援のための所蔵資料

    ビジネス支援のための所蔵資料といたしましては以下の内容となっています。

    (1)、自然科学工学系の専門図書です。自然科学・工学系の学術書、専門図書を中心に、約20万冊を所蔵しています。これは規格や、先ほど申しましたやさしい科学等も入っていますので、純粋に専門図書というわけではありません。販売図書の他に、官公庁や研究機関で刊行される灰色文献など広く収集しています。灰色文献は一般に流通していない資料で、たとえば経済産業庁や環境庁などの審議会報告や各委員会の報告書、それから文部科学省科学研究費補助金研究報告書、あるいは各研究機関の研究成果報告書などの収集に努めています。最近では企業の環境報告書の収集に力をいれています。

    (2)、自然科学・工学系の専門雑誌、自然科学工学系の学術専門雑誌を中心に、5、233タイトルを所蔵しています。その内継続しているのが2、453タイトルになります。当館の雑誌の特徴としましては、特に学会協会の論文誌、学会の講演論文集、企業の技報が充実しています。技報は企業が出す技術報告書で、通常技報といっているのですが、たぶん公共図書館では一番多いのではないかと思います。純粋な技報が504タイトル、それから企業情報誌が248タイトル所蔵しています。

    それから(3)、規格です。国内規格として、JIS(日本工業規格)の全分野とJIS-TR(日本工業規格標準情報)、これはJISになる前の情報なのですが、日本工業規格標準情報です。JISにつきましては、本体差し替えするものと、ハンドブックと両方所蔵しています。それから、英訳のJISのハンドブックも所蔵しています。それから国内の団体規格としまして、JEM(日本電気工業会企画)、JASO(自動車技術会規格)、JEC(電気規格調査会標準規格)などを所蔵しています。また、外国規格として、ISO(国際標準化機構規格)のハンドブック、最近ISO9000とか、ISO14000とかで皆さんおなじみだと思いますが、このハンドブックです。ただ本体は非常に高いのでうちのほうでも手がでません。それからASTM(米国材料試験協会規格)、DIN(ドイツ連邦規格)のハンドブックなどもそろえています。その他に、国内半導体メーカーのデータブック、これは社内規格というのですが、それぞれの企業が自分のところの独自規格を作るのですが、それのデータブックもそろえています。規格の問合せというのは、非常に多いのです。ただその規格に対応しきれていないというのが実際の現状です。特に外国規格は非常に高価なので、なかなか手がでませんし、維持していくのが非常に困難という、特に今、財政、予算上も厳しいものですから、より維持していくのが難しい状況になっています。

    (4)として会社史です。先ほど社史の閲覧室が4階にあると申しましたが、川崎図書館のコレクションとして、会社史、労働組合史、経済団体史11、772点を社史閲覧室で公開しています。公共図書館としては、全国で一番のコレクションだと思います。図書館全体でも龍谷大学の長尾コレクションという社史のコレクションがあるのですけれども、それに並ぶ双璧のコレクションだと思います。このあたりの経緯につきましては、今年の3月にダイヤモンド社から出ました、村橋勝子さんが書かれた社史の研究に、川崎図書館のことが出ていますので、ご覧になってください。それから、このコレクションにつきましては、館外貸出しもやっていまして、また利用は全国から来られまして、北は北海道、南は九州まで、各地から来館して、利用なさっています。貸し出しにつきましては、神奈川県以外の方にも貸し出ししていますので、遠くからの方も借りていかれるようです。

    (5)、外国化学文献、こちらは日本化学会より、昨年、洋書約800冊、洋雑誌140タイトルの寄贈を受けて、外国化学文献コーナーで公開しています。これはうちの1階にあります。特に雑誌については、各国の化学会同士の交換資料などで、貴重な資料があります。これは各国に、日本に日本化学会があるように、それぞれの化学会があるのです。その化学会がいろいろな資料等を刊行しているのですが、それを化学会どうしで交換する資料ということになります。大きいところ、たとえばアメリカやイギリスでは、どこの大学でもかなり持っているかと思うのですが、この化学会からいただいた資料の中には、アジアとかアフリカの国々の化学会と交換を行ったものなど非常に貴重なものが多くて、ついては、インドやパキスタン等の文献複写依頼が結構あります。なお、この交換資料については、日本化学会をとおして、できるだけ最新の物を維持するように努力しています。

    (6)、CD‐ROMです。科学技術文献速報、俗に言う文速です。それから、雑誌記事索引、など21タイトルを保有しています。その他は児童向けのものもありますが、ここでは割愛します。(7)として、産業安全ビデオ・フィルムです。産業安全、労働衛生関係を中心にビデオが334本、16ミリ746本を保有しています。公共図書館ではなかなか収集しない分野だと思いますが、企業が安全教育とか社員教育で使うために借りていかれるようです。

    ビジネス支援サービスの現状について

    ビジネス支援サービスの現状については、次のとおりです。

    (1)、在宅利用文献複写サービスです。郵送またはファクシミリで文献のコピーを送るサービスです。事前登録をした継続利用者には、迅速な対応が可能です。平成13年度の利用は、郵送45、582枚、ファクシミリ12、321枚と相当な数に昇っています。利用のほとんどが、企業関係になります。この事業については、神奈川県資料室研究会、後でまた出てきますけれども、これは神奈川県内の企業の資料室などで運営する研究会なのですが、あくまでもこの神奈川県資料研究会を通した事業として行っています。高度な資料だとなかなか著作権法がうるさくてクリアできないという問題があり、これでも若干問題があるかなというご指摘はだいぶ受けているのですが、とにかく、図書館単独の事業では特にファクシミリとか商用のコピーについて、図書館単独の事業はできないのが実情なのです。従って公共図書館がビジネス支援していく上で、非常に大きなネックになるのが、この著作権法なのではないかと思います。現在、文化審議会著作権分科会、図書館ワーキンググループでいろいろ議論されているようですが、たとえば保証金の支払いなどの方向により、ビジネスマンが利用しやすいような著作権法を考えていただきたいと思います。そのあたりにつきましては、この後パネルディスカッションで取り上げていただきたいと個人的に思っています。

    次に(2)、コンテンツシートサービスです。希望の雑誌の目次を複写して、定期的に送るサービスです。利用も少なくて、川崎図書館としても宣伝していませんので、あまり大々的にはやっていません。 (3)、知的所有権センターです。川崎図書館は、開館以来、特許方法閲覧所として指定されていたわけですが、現在は神奈川県の知的所有権センターの川崎図書館支部としてやっています。特許庁と専用回線で結ばれた特許電子図書館一台、民間データベース、「JP-NET」二台を設置して、特許検索に対応しています。ご存知のように、特許は現在インターネットで検索できるようになっています。しかし回線が混み合うのか、非常に検索しにくいというか、レスポンスに時間がかかるため、やはり専用回線だとすぐに検索できますので、利用される方が結構います。また、CD-ROM版の公告特許公報を13タイトル保有しています。そのうち継続して受け入れているのが、商標、意匠など5タイトルになります。

    (4)、こちらも特許に絡みますけれども、特許検索アドバイザー検索講習会。特許庁の事業により配置されている特許検索アドバイザーにより、水曜日と金曜日の週2回、特許電子図書館の検索相談を実施しています。派遣される弁理士により月1回発明相談を開催しています。商用データベースは2種類有りますが、やはり、利用者の実費負担ということにしていますので、あまり利用はありません。

    (5)、主題別文献目録・科学EYES、こちらは川崎図書館の刊行物になります。科学技術における最新の話題について、テーマ別文献リストを作っています。それから、科学EYESは川崎図書館の館報として年2回発行していまして、特集論文記事と文献リストを掲載しています。

    (6)、集会・行事なのですが、毎年「かながわオープンカレッジ」として、科学技術とビジネス関係の講座を開催しています。昨年は、「イタリアの都市と建築」でした。今年は、「今、社史が面白い!-企業の奇跡と経営革新を読み解く-」を開催予定しています。これは資料集に入っていますから、ご覧なっていただければと思います。10月19日から11月9日までの毎週土曜日、全4回で開催いたします。講師は先ほどの会社史のところでお話した村橋勝子さんをはじめ、3人の方を予定しています。それから去年やったイベントなのですが、小中学生を対象に、「君も未来の発明家-インターネットで学ぶ発明発見-」と題して、インターネットで、特許電子図書館にアクセスし、特許検索を実際に体験し、発明発見の歴史を学んでもらうという行事を開催しています。少し対象年齢が低かったので、利用が少なかったです。

    (7)、神奈川県資料室研究会。神奈川県内を中心とした企業の資料室や、県・研究機関資料室により構成される団体で、事務局を川崎図書館が担当しています。現在126機関が加盟、月例会やレファレンス分科会などで、会員の研鑚を図るとともに、複写やレファレンス等を通して企業の資料室を援助しています。この神奈川県資料室研究会の存在が極めて大きく、その会員の方、特に民間企業の方が多いものですから、貴重な意見やアドバイスをいただいて、その都度図書館運営の参考にさせていただいています。

    ビジネス支援としての課題とこれからの政策研究

    ビジネス支援としての課題としては、まず経営関係資料の欠如です。平成10年度のリニューアルの結果、科学技術関係のみの資料になってしまいましたので、少々経営関係やマーケットが弱いということです。2番目として、起業家支援としての視点の欠如です。どちらかというと大企業や研究機関向けのサービスを中心にしてきましたので、起業を志す人への支援が少し欠けていたと思います。また、これからの政策研究として、神奈川県自治総合研究センターの平成14年度一般研究のテーマとして、「進化する図書館~市民活動の支援に向けて~」を取り上げています。今年度中に報告書をまとめ、神奈川県に政策提言を行う予定です。本日のシンポジウムでの貴重な意見や事例を参考にして、これからも研究に反映していきたいと思います。以上時間が足りませんので、ざっと駆け足で、川崎図書館のビジネス支援について述べてきましたが、説明不足等で分かりにくい点が多々あったかと思います。もし疑問な点や何か問合せがありましたら、神奈川県立川崎図書館のほうへお問合せください。どうもありがとうございました。