政策シンポジウム他

動きはじめたビジネス支援図書館~図書館で広がるビジネスチャンス~

イベント概要

  • 日時:2002年9月23日(月・祝)13:00~18:00(開場12:15)
  • 会場:一橋記念講堂 東京都千代田区一ツ橋2丁目1番2号 学術総合センター2階
  • 活動報告「ビジネス支援図書館推進協議会 活動報告」

    竹内 利明 (ビジネス支援図書館推進協議会会長)

    ビジネス支援図書館推進協議会の竹内です。本日は秋の行楽シーズン三連休の最終日ということで、非常にこういうセミナーに参加しにくい日程設定かなと思いますけれども、そういう中で、先週末時点で約400名の皆さまにご登録いただきました。本当にありがとうございます。400名の内訳を見てみますと、図書館の関係者の方が約3分の1、それから産業界の皆さんが3分の1、そして残りの3分の1を自治体、官庁の皆様、報道関係、その他と、その他には大学関係者も入りますけれども、そういう参加者の構成になっています。ちょうどバランスが良いと思っていますけれども、非常に遠方からもご登録いただき、ご参加いただいている方が非常に多くて、直接お電話をいただいて参加できますか、というようなお問合せを寸前まで多くいただきました。

    こういう時期に開催したというのは、いろいろ準備の都合等もあったのですが、ひとつはやはり、政策シンポジウムということで、各地域で予算に反映していただくためには(来年度の予算に何とか予算化していっていただきたいとの希望があるわけですけれども)、9月の下旬というのはぎりぎりだろうということで、準備の都合とあわせて考えるとこの時期ということになりました。このビジネス図書館推進協議会というものの設立に関しましては、先ほどオープニングスピーチで安藤さんのほうからご紹介いただきました通り、今回このシンポジウムを私どもと一緒に主催していただいている経済産業研究所と最初から非常に密接な関係をもってスタートさせていただきました。

    みんながもう帰っていく、仕事納めの日の5時とか6時とかに、丁度会議室をお借りして、なに今から会議をやるのと皆に言われながら、やっと図書館の関係者の方をはじめ、いろいろ集まっていただいて、そこで話し合って、これはやはりビジネス支援図書館というものに取り組んでいくことは非常に重要だな、という思いを持ってはじめることができました。それが2000年の12月です。創業支援の重要性、それから中小企業およびベンチャーの支援が日本経済にとって非常に重要であるということは、これまでのお話しの中で、皆さんにも十分ご理解いただけたかと思いますけれども、私どもの協議会も、地域の経済に貢献していきながら、日本経済の発展に寄与していくという、高い目標を持って取り組んでいます。

    今回資料がいろいろあり、私の資料もたくさん文章が書いてあるのですが、短い時間で全部お話することはできません。しかし、その中で少しでも多くの情報を提供していきたいです。私どもは昨年、浦安でのビジネス支援図書館のいろいろな取り組みについても、できるだけ多くの情報を出していきたいと思っていました。そういう情報を見ていただきたい、今日このシンポジウムの中だけでは伝えきれないことも、できるだけ資料として皆さんにご提供したいということで、このシンポジウムの講演者の皆さんに無理を言いまして、いろいろシンポジウムの中でお話しきれないことに関しても資料としてご提供をお願いして、ぎりぎりまで粘って何とか全員の講師の方から資料をいただき、全部で相当ボリュームの多い資料を完成することができました。そういうことで、一部お話しきれないことがありましても、それは後で資料を見ていただくということでご了解いただきたいと思います。

    ビジネス支援図書館推進協議会の活動について

    私が本日お話したいのは、平成13年度の私どもの協議会が中心となって行ってきた活動についてです。それは、大きく分けて3つあります。1つ目がシンポジウム、2つ目がセミナー、そして3つ目に情報提供事業、こういう事業について主に取り組んできました。

    最初にシンポジウムについてお話させていただきますと、昨年度は7月2日に東京電機大学で、274名の方に参加いただいて、シンポジウムを開催させていただきました。アンケートの結果を見ても、非常に関心が高いと確認することができました。これはビジネス支援図書館への挑戦というテーマで、第1回目のシンポジウムを開催いたしました。続いて10月19日に秋田県の横手市ふれあいセンターというところで、約100名の方にご参加いただきました。

    秋田で開催するということから、それほど多くの人数は参加いただけないのではないかと思っていましたが、そういう中から100名の参加ということでした。農業中心の地域でのビジネス支援ということで、難しいのかなと考えていたのですが、やはり質疑応答を見ていくと、農村地域でどのようにやっていくかということについていろいろお話がありました。またビジネス支援というと少し引っかかるので、地域支援とか生活支援というほうがスムーズにいくという図書館関係者のお話しもありました。しかしそういう中でも、当然生活の基盤の農業もビジネスの1つであるという捉え方をしますと、非常に高い関心を得ることができると実感することができました。

    セミナーにつきましては、昨年度は浦安市立中央図書館を中心に、セミナーと、セミナーの講師による個別相談会を行いました。セミナーは10回企画して開催し、セミナー後、セミナー講師による個別相談会を7回行いました。10回のセミナーでは351名の参加者があり、1回平均35名です。これを多いと見るのか少ないと見るのか、非常に難しいところなのですが、初めての取り組みということで、私の持っているネットワークの中で、メーリングリスト等を駆使して、創業支援、ベンチャー支援、それから起業に関心のある皆さんに投げかけた結果、浦安だけではなく、いろいろ遠方からご参加いただいた人数として考えると、非常に多かったといえるのではないかと感じました。そのあたりをどのように分析していくかということなど、われわれにしても去年1年間の活動から学ぶことが多くありました。このあたりについては、後でまとめて話していきたいと考えています。講演テーマについてはここに参考に述べさせていただいています。

    このアンケートの結果を見ていただきたいのですけれども、非常に高い評価をいただいています。大変満足という回答が3分の1、満足という回答が2分の1、合わせると6分の5、約84~85%の方に非常に満足していただいています。そしてもうひとつ重要だったのが、セミナーに参加されている参加者のレベルが非常に高いと感じたことです。

    本日のシンポジウムの最初に、実行委員長としてご挨拶された森崎先生にお願いした「大学発ベンチャー」というセミナーの質疑応答を聞いておりましたら、講師と会場との質疑応答に対して、一緒に参加している皆さんが、「私の経験からいうとこういうことがあります」「私はこういう立場ですけれども、そのご質問にはこういうような傾向があります」という横からの議論がたくさん出てきました。これはやはり図書館でやるとこのようなセミナーもできるのだと非常に強く感じました。そういう意味からいいますと、本日は実は会場の皆さんとの質疑応答というのをもっとたくさん時間を取ってやればそれはまた、素晴らしいことだと思うのですけれども、ここでは情報提供ということを中心にして、議論する場は懇親会でといたします。またこういう全国大会レベルではなく、各図書館で行われるようなビジネス支援のセミナー、そういう中では参加者との議論をたくさんして、参加している皆さんとの情報交換、ネットワーク作りというものに力を入れていくということがいいのではないかと感じました。

    次のアンケート結果は、どのような年代層の方に参加いただいているか、ということを中心にまとめたもので、ビジネスにとって現役世代である30代、40代、特に30代の方の参加が非常に多いのです。逆にいうと非常に仕事が忙しくて参加しづらいというのが、30代だと思うのですけれども、土日に開催したセミナーということもありまして、30代の方に非常に多く参加いただいております。やはり雇用力のあるベンチャーの創出ということを考えますと、大企業のスピンアウトというもの、そしてまた大学発ベンチャー、この2つに力を入れていくべきだと感じていますけれども、大企業に入って10年の経験を積んで、30代でスピンアウトするという意味では、非常に魅力がある年代、参加者の年齢構成ではないかと感じております。次の参加者の職業というのを見てみますと、会社員が非常に多くて、会社経営者、そして創業準備中であるという方も、14名参加していただきまして、本日もスタートアップ企業や創業予定者という形でのご参加者もいらっしゃいますが、このあたりが非常に私どもの当初の狙いがある程度適えられていると感じました。

    3つ目の事業としては、情報提供事業というのを行いました。この情報提供事業は主に3つあります。1つがデータベースを導入して、それをレファレンスに利用するという形です。日経テレコンやジョイスなどを導入して、創業支援、中小企業のビジネス支援という形で整理しますと、53件のレファレンスを行うことができました。ここにひとつ問題がありまして、司書の皆さんが、ビジネスの用語というものに対して、やはりあまり強くないということから、質問とそのレファレンスの回答の結果を1つ1つ見ていくと、ビジネスの用語で記録することがなかなかできていない。ビジネス用語ではあまり分からないから、質問をする側が、生活用語とか、司書の方が分かる言葉に置き換えて質問をし直しているという傾向があることを感じました。そういう意味ではビジネス支援司書というものの教育に関して、用語等からの教育システムを考えていかなくてはならないことを感じています。

    2つ目には、専門家による個別相談を、ウェブの検索と特許、ビジネスプラン、それから会社投機というような形で行いました。これはやはりビジネスプランの相談というのが非常に多くて、予約制で1人30分ということで3時間、時間を取って6名の方の相談を受けるということで、2回ほどやったのですけれども、希望者が多くて、時間を延ばして対応することも行いました。ここで実際にこの相談を受けていただいた中小企業診断士の方は、日常、商工会議所などでビジネスプランの相談を受けている方なのですけれども、その方からの感想として、図書館で受けたビジネスプランの相談は、まだまだアイディア段階でこれからというものであるけれども、その内容自体は非常にレベルの高い、自分が聞いていてもわくわくしてくるようなものがあったということで、相談を受けた側からも、非常に高く評価していただくことができました。

    そして、3つ目には基本文献調査委員会というのを作って、司書のための資料集というのを作ったことです(資料参照)、これにつきましては、後でこの調査委員長をされた豊田恭子さんのほうからご報告していただきますので、私のほうでは割愛させていただきます。

    なぜ図書館が創業・ビジネス支援をすべきなのか

    なぜ図書館が創業・ビジネス支援をすべきなのかということについて、このへんで図書館の関係者、そして産業界の皆様がある程度納得できる、合意できるようなことをひとつまとめていかないと、なかなかこの活動が次に進んでいくのは難しいなと感じています。基本的にはこの十数年間ずっといわれ続けていることだと私は思うのです。90年代に入ってから、日本は欧米のキャッチアップがある程度できたという時期にきて、そこからまた厳しい、次の道、日本がどういうふうに歩むべきかというところで、非常に産みの苦しみをずっと続けていると感じています。

    これはもう、日本が新しい道を切り開いていくしかない、自分たちの知恵を使って、独創的なもの、創造力を発揮して、などということはずっといわれ続けていることですけれども、結局これができていないということが大きなポイントではないかと思います。製造業を見ると、せっかく今まで物作りで培ってきた、キャッチアップの中で良い技術をつくってきたこと、これを核にして自分たちがもっと独創力のある、創造性の豊かな新技術や新商品を生み出していくということが重要なわけです。商業やサービス業においてもやはり同じで、商店は、大企業が作ったナショナルブランドの商品を棚に並べて、そして大企業が行う、テレビのCMとか、いろいろな販売促進活動に乗っていれば売れたという時代から、自分たちが地域の自分のお店に来てくれるお客様がどういうお客様であるかということをきちっと把握して、そのお客様に対する独自の商品の提供、満足していただく商品の提供というところに知恵を絞っていかなければ、日本という国は、次の発展はないということではないかと思います。

    こういうことを考えていきますと、この知恵を活用する、創造的な社会に展開していくためには、やはり、情報収集、そして分析する能力、情報を活用する能力が非常に求められます。ところが産業界側から見ると、その情報を収集して分析して活用するということの重要性の認識が、まだまだ十分にできていないのです。ですから、浦安のこういうセミナーは、もちろんまだビジネス支援図書館という活動自体が十分に認知されていないこともあるのですが、認知されたとしても、さらに産業界において、情報の重要性というものがもっともっと高く認識され、それによってこういう活動が活きてくるという、一緒に進んでいく活動ではないのでしょうか。図書館が創業支援、ビジネス支援をできるような能力をつけながら、産業界においてもそういうものをもっともっと重視する、そういう関係になってくる、こういうことが必要ではないかと感じています。

    また、図書館は教育委員会に属していることから、ビジネスイコール金儲けと考える傾向というのがやはりありまして、一般的にはやはり熱心ではないのです。しかし、今の非常に厳しい経済情勢というものを考えると、一般市民においても、生活防衛の観点からも、より行政にビジネス支援というものを求めるという動きが今後も強まっていくのではないかと思います。図書館の利用者という視点から見ていくと、現状ではまだまだビジネス支援の拠点として図書館というものを十分認知してくれていません。しかし情報拠点というところからスタートして、いろいろな情報を提供していく、その中のひとつにビジネス支援のための情報提供というものがあるという形になっていく、ということが期待されていると感じています。

    そして情報というものも、官庁や大企業が従来独占してきたわけですけれども、ウェブ、データベースの発達から非常に比較的容易にアクセスできる環境が整ってきています。こういうことをとおして、創業者、そして中小企業者は、非常にリスクが高いといわれているけれども、情報をうまく活用して、ビジネスの成功率を高めていく必要があるということを感じています。そして図書館というものは市民に非常に信頼されている公共施設のひとつであると思っています。利用頻度も高いのです。そして知的レベルの高い市民が多く利用します。図書館の利用者というものを創業予備軍であると考えて、知的レベルの高い人たちから、どんどん創業を生み出していただく、それによって成功の確率を高めるということが重要ではないかと感じています。

    ビジネス支援図書館実現にむけて

    現在の経済情勢・財政情勢を考えると、地方自治体もお金がないという中から、なかなか図書館が単独で新しい事業に取り組んで、ビジネス支援をするから予算を増やすということは非常に難しいと思うのですが、既に経済政策を紹介するリーフレットはたくさんあるわけです。こういうものを集めて、もちろん図書館でこれを自由にお持ちください、という形で配布するだけの場所を作るというのはなかなか無理もあるかもしれませんが、これをルーズリーフ式の資料集にして、自由に見ることができる。また常に新しいものに差し替える。こういうようなサービスというのは、場所も取らないし、お金もかからないし、すぐにでもやることができると思います。

    そして、ビジネス支援図書館に取り組むということを表明し、それを市民に知ってもらうためには、やはりビジネス支援コーナーというのを積極的に設けて、そういうところで情報を提供していく、ということが重要だと思います。そして今まで取り組んでいてやはり感じるのは、図書館の施設が新しいかとか、また実際どんな高いデータベースを入れるかということよりも、まずお金をかけないで、本当にそういうことをやっていこうという図書館のトップ、館長がそういう気持ちをもって取り組んでいただければ、すぐにでも、あまりお金をかけないでできると感じています。

    その中で、私どもの今年の活動は、浦安と小平で実証事業を行おうということで取り組んでいます。昨年と違って今年取り組んでいるのは、図書館の利用者、そして創業やビジネスに関心のある地域の市民の皆さんに、セミナーの企画をしていただいたり、実際にセミナーの後で、名刺交換会をするなど、そういう活動をしていただくことです。このような支援組織を立ち上げるということが重要だと思っています。この活動については、できるだけ今年中、詳しく記録を取り、また来年度以降皆さんに情報提供できるようにしていきたいと思っています。

    それから商工会や商工会議所との関係というのも非常に重要です。私も商工会や商工会議所に伺って経営革新の講演をするケースが多いのですけれども、そこで一生懸命言っているのは、商工会・商工会議所はこういう活動を図書館が始めると、自分たちの競争相手が現れたのではないかと感じるケースが多いようだけれども、そうではないということです。図書館ができることというのはやはり限られていまして、情報へのナビゲートが中心であるということを考えると、創業支援もビジネス支援も、それで終わりではなく、その先が重要なのですから、その部分を商工会・商工会議所が担うのです。商工会・商工会議所が早い段階からどんどん図書館と組んで創業セミナーをやる、ビジネス支援セミナーをやる、そうすることによって、自分たちの将来の会員候補を早くから囲い込むことができる。自分たちにとって大きな市場があると、図書館の中に自分たちの会員獲得の大きな市場があるのだというような意識で積極的に図書館に仕掛ける、そうすると会場費もかかりませんし、非常に予算を有効に活用できるのではないかと思っています。

    既存経済施策の活用ということに関しては資料に書いておきましたので後で見ていただければと思います。今年の国内のビジネス支援図書館の動向としては、本日ほとんどの皆さんにお話しいただけるので、この後、見ていただければと思いますけれども、イメージとしては、このような図をイメージしています。一番下にビジネス支援の関係者と図書館関係者が一緒になってビジネス支援図書館のための組織を作る。その上に乗ってくるのがビジネス支援図書館で、そこでセミナー事業ですとか、情報提供事業、そして、いろいろな情報提供を行って、それが地域経済政策と連携していく。創業支援、中小企業支援ということで連携して、結果として地域振興活性化、他の地域との差別化を図りながら、地域の新規創業の倍増、そして地域企業の活性化、ついては日本経済の再生を図っていく、という形でできれば素晴らしいのではないかと思っています。