政策シンポジウム他

動きはじめたビジネス支援図書館~図書館で広がるビジネスチャンス~

イベント概要

  • 日時:2002年9月23日(月・祝)13:00~18:00(開場12:15)
  • 会場:一橋記念講堂 東京都千代田区一ツ橋2丁目1番2号 学術総合センター2階
  • 実施概要報告

    菅谷 明子 (RIETI研究員)

    2002年9月23日、経済産業研究所(RIETI)は、ビジネス支援図書館推進協議会と共催で、創業・中小企業支援の新しい戦略基地として公共図書館を位置づけるべく「RIETI政策シンポジウム-動き始めたビジネス支援図書館」を開催いたしました。

    当日は、三連休の最終日にも拘わらず、全国各地から、図書館、民間企業、官公庁・自治体、シンクタンク、教育関係者など、幅広い分野に属する400名ほどがご参加くださいました。

    シンポジウムは、岡松壯三郎氏(RIETI理事長)、森崎弘氏(電気通信大学教授)の開会挨拶からスタート。岡松理事長からは、ベンチャー支援、構造改革、情報社会における市民の力、地域社会のあり方などを考える上で、重要かつタイムリーなシンポジウムであるとの評価をいただき、また森崎教授からは学生が社会に出てから情報収集を行ったり、自らを研鑚する場が欠けていることを指摘、図書館がその役割を果たせるのではないかとの期待のお言葉をいただきました。

    オープニングスピーチでは「日本経済の現状と公共図書館におけるビジネス支援の意義」と題し、安藤晴彦氏(RIETI客員研究員)が、日本では1991年以降、廃業率が開業率を上回っていること、また、OECD各国のうち日本が「創業」において最下位であること、さらに創業希望者と実現率の開きなどをあげ、「知的資源を持ち」「土日夜間に開館し」「司書がいる」といった図書館の機能に注目、ビジネス支援図書館の有効性を日本経済の現状に照らした上でアピールしました。

    続いて乾敏一氏(東京都産業労働局産業政策部長)が「東京都におけるビジネス図書館政策」と題して基調講演を行い、中小企業を取り巻く厳しい現状について解説した上で、地域の経済政策、産業政策における自治体の役割や、創業のネックとなっている情報へのアクセスに対して、図書館と産業政策を結び付けていく重要性を指摘。その具体例として、2002年6月に丸の内にオープンした東京都のビジネス支援ライブラリーについてご報告されました。

    このように、ビジネス支援の拠点として図書館の重要性が認識されるにつれ、ビジネス図書館の動きは徐々に広がりつつありますが、その中心的な役割を果たしているビジネス支援図書館推進協議会の竹内利明会長は、公共図書館で行ってきたセミナー事業などをはじめとする活動報告を、また同協議会基本文献調査委員長の豊田恭子氏は、起業やビジネスに役立つ情報源をリストアップした文献作りの成果を発表。ビジネス支援図書館において、司書が情報のナビゲーターとしての専門性を持つことの重要性を語られました。

    さらに事例報告では、各図書館によるビジネス支援サービスの先進的な4つの取り組みについての発表がありました。「運営面から見たビジネス支援ライブラリー」では、北之口孝一氏(東京商工会議所経営支援事業部部長)が東京都のビジネス支援ライブラリーについて立ち上げから現在までの詳細を、また昭和34年の開館以来ビジネス資料を中心とした資料を収集しサービスを行ってきた神奈川県川崎図書館副主幹の田村行輝氏による「川崎図書館のビジネス支援」。一方、選択的情報提供サービスというユニークなサービスを展開している北海道北広島市図書館業務スタッフ主査の新谷良文氏は「SDIサービスモニター事業による地域支援の試み」について、そして国会図書館主査である柳与志夫氏が、分断された知的情報資源の生産・流通などを網羅する「ノレッジ構想」を提案。今後ビジネス支援サービスの導入を検討する図書館や、起業家、起業支援団体にとっても参考にすべきところが多い報告となりました。

    最終セッションとなったパネルディスカッションでは、モデレータの慶應義塾大学糸賀雅児教授がデジタル時代の図書館司書講座「デジタル・ライブラリアン講習会」について発表。続いて、五十嵐伸吾氏(財団法人UFJベンチャー育成基金)が「図書館で広がるビジネス・チャンス」と題して、ベンチャーキャピタルなどが相手にしないような層など、図書館だからこそ可能になる人たちに向けたサービスを行なう重要性について語っていただきました。

    一方、図書館のヘビーユーザである栗田仁氏は、(建築家・東海大学非常勤講師)ご自身の体験をベースにした図書館活用法について、さらに図書館を活用しながら専業主婦から起業家に転身されたハーストリー代表取締副社長のさとうみどり氏は、起業と図書館についての体験を報告されました。そして、菅谷明子(RIETI研究員、ビジネス支援図書館協議会副会長)が、米国のビジネス図書館の現状について報告を行いました。

    その後、糸賀教授をモデレータに、ビジネス支援サービスを積極的に行っている、千葉県浦安市立図書館の常世田良館長、秋田県立図書館山崎博樹副主査を加えて、ベンチャー支援、起業家、図書館利用者、図書館関係者といったさまざまな立場から、ビジネス支援図書館に対する期待や可能性、課題や提案など、多角的な議論が交わされました。

    アンケートの結果からも、今回の内容は参加者の皆様にご満足いただけるものとなったようです。その後も、ビジネス支援図書館についてもっと知りたい、実際にサービスを展開したいがアドバイスが欲しい、といったご意見ご感想などもいただいております。シンポジウムは、ビジネス支援図書館に対する理解を深めていただき、各地の取り組みにさらに弾みをつけることにもつながったようです。

    文責:菅谷明子