政策シンポジウム他

動きはじめたビジネス支援図書館~図書館で広がるビジネスチャンス~

イベント概要

  • 日時:2002年9月23日(月・祝)13:00~18:00(開場12:15)
  • 会場:一橋記念講堂 東京都千代田区一ツ橋2丁目1番2号 学術総合センター2階
  • 事例報告「運営面から見たビジネス支援ライブラリー」

    北之口 孝一 (東京商工会議所経営支援事業部部長)

    ご紹介いただきました、東商の北之口です。今回のシンポジウム開催までこぎつけられました、経済産業研究所およびビジネス支援図書館協議会の皆様、関係者のご協力、ご尽力に敬意を表します。なお、これから高い席からで恐縮ですが、約20分程、事例紹介をさせていただきますが、時間も限られていますので、ビジネス支援図書館の政策的な位置付けとか、コンセプト、それにつきましてはこれまでの説明と重複いたしますので省略させていただきます。あくまでも実務の視点から、本年6月28日開設以来、約3カ月近くの間の実績、実態、課題等についてご報告を申し上げます。資料の順で説明させていただきます。

    ビジネス支援図書館の施設、サービスについて

    本年1月以来、東京都の産業労働局と十数回の協議を経た上で、正直に申しまして、克服すべき課題が数多ありましたが、お互いの希望や願いがかなえられるかたちとして、本年の6月28日に一応開設の式典を開催いたしました。翌7月1日から実質的な開館に入りました。今回は都の委託事業として、約3000万円の事業費でスタートいたしました。

    話を進めます前に、本日は行政とか図書館関係者が多いと理解していますので、商工会議所制度について馴染のある方だけではないでしょうから、若干私ども東京商工会議所について、ご説明申し上げます。私どもは、23区内の産業振興、エリアはあくまでも東京23区です。この産業振興が最大の目的でして、約130年の歴史を持つ、地域総合経済団体です。現在、大企業から、個人会員まで約10万の会員を擁しています。その会員の声を国や、都に対して、たとえば、財政、税制等についての提言、要望、そういう意見活動を申し上げるとともに、さらに、民間経済外交、幾つかの国と、いろいろなミッションのやり取りをしたり、さらには、貿易証明、簿記検定に代表される各種の検定試験、さらには、長野県の方に保養施設を持っていまして、これの運営と、事務局員4百数十名を擁する、比較的幅広い活動をしている団体と受け止めていただければと思います。

    そんなこともありまして、私どもは約35年、経営改善普及事業ということで、いろいろな経営相談にあずかっています。そういう豊富な経験と実績、またさらには、ネットワークによる検索環境と交通アクセスが極めて便利で、わが国有数のビジネス街、丸ノ内の一角に、物理的なスペースを保有しています。ビジネス支援ライブラリーの目指す、各種サービスをワンストップで提供できるという意味で、少なくとも東京23区に関しては、数少ない組織と自負しています。場所ですが、正面に皇居二重橋を望む通称馬場先門という交差点の角地にあります、東京商工会議所ビルの1階です。

    インターネットに接続されたパソコン16台、それと創業・起業関連の図書約400冊、後30名分の閲覧コーナーを設けています。面積は約350平方メートル、昔の言い方ですと、100坪です。これまで約7年間、私どもの会員向けのインターネット体験コーナーとして運営してきた場所でして、私どもにとりましても、極めてフロントになる場所で、戦略的に活用すべき拠点でもあります。そこで今回、斬新な事業であるビジネス支援ライブラリーの設置場所として、あえて選択したという経緯があります。地下2階のほうには、これも歴史のある経済資料センターがあり、これが図書館です。こちらとは少し役割を変えようということで、あえて1階の、私どもにとっての看板の場所を提供いたしました。蛇足ながら、このスペースは営業ベースで外部にお貸し出しする場合は、年間約4000万円をいただいている場所です。ということで、先ほどの委託費3000万と4000万ということで、計7000万の事業ということになるかと思います。

    それとサービス概要ですが、情報収集用の商用データベースで、新聞社系が計3本、日経テレコン、朝日DNA、読売ヨミダス、そして金融為替情報が取れるブルームバーグ、この4本立てです。いずれも、データベースにつきましては、固定料金のものだけを採用しています。日経テレコンにつきましては、従量制の料金の部分がありますが、これはあえて割愛しています。従量制のものを採用しますと、後で面倒な問題が発生いたしますので、あえて固定料金のものだけを採用しています。プリントアウトサービス、細かい話ですが、これは実費を頂戴するということで、1件40円をいただいてます。先ほど、創業・起業関連の図書は現在約400冊と申し上げましたが、年末までには、約1000冊に増強する予定です。それと、先ほど地下2階の経済資料センターと申し上げましたが、機能分担をいたしまして、地下のほうのものとは当初は重複しないように、1階の400冊は選定しています。その他、新聞の切り抜きサービスも実施しています。また、年間3回の講演会、これはまだ開催に至っていませんが、年の後半で開催する予定にしています。

    以上の情報系のサービスに加えまして、創業・起業に関する基礎的な相談を受けるコーナーを設置しまして、常時1名のベテラン相談員が各種の相談に応じています。1名は、大手百貨店勤務の後、中小企業診断士として独立され、都内、足立区等で創業塾を経営した実績のある、40歳代の方です。もうお一方、これは東京都民銀行の支店長を経まして、関連会社の店頭公開までの実績のある方です。

    先ほど竹内先生のご説明の中にも創業・企業を阻む要因として、資金難を挙げる方が多い(56%)というデータがありましたが、そういう意味で、都民銀行の支店長のOBということで、お願いしています。幸い、お二方とも入り口の相談、これについてはあらかたできます。税理士とか、弁護士とか、さらには弁理士、ここらへんの相談につきましては、私どもの既存の組織で、中小企業相談所という組織があり、そちらに専門相談ということで、毎週、今申し上げたような方がお見えいただいていますので、ごくごく、専門的な相談、これにつきましてはそちらに振る、という体制で、とにかくお見えになった方に対して、一定の指針を得て帰っていただくような構成にしています。

    その他の要因といたしましては、相談員の他に、レファレンスのアシスタントが2名、男女各1名ですが、検索のお手伝い、庶務的な仕事を担当しています。開設日、時間は平日は午前10時から午後8時、第1、第3土曜日は午前10時から午後5時ということです。先ほど、日曜も開いていることが必要ではないかというようなご指摘がありましたが、ただ私どもの土地柄、日曜は全く、閑散とした場所でして、あえて開くまでもなかろうということで、少なくとも私どもに関しては、当初から日曜の開館は予定していませんでした。これは都側も同じことだと思います。

    実績と傾向について

    さて、実績、傾向の部分ですが、7月1日から9月20日、この間、延べ日数にしますと82日ですが、この内ライブラリーの開館日は延べ54日です。お盆休み等と第1、第3以外の土曜、それと日曜は除きます。それでこの間の延べ来館者は2、139名、1日平均40名です。先ほど、都の部長さんからお話がありましたように、1週平均200名の方がお見えいただいている計算になります。

    来館者の属性ですが、職種につきましては、会社員が61%、次いで自営業の方10%、後、創業予定者5%、そして頼もしいデータといたしましては学生が3%です。業種については、サービス業の方が27%、サービス業の方は幅が広いので中々具体的な中身まで見えてまいりませんが、いずれにしましても、サービス業が27%、金融保険業、これが意外ですが12%、その次が製造業で11%です。次いで、地域別。これは勤務先のことで、住所ではありません。勤務先につきましては東京都の方が96%、次いで神奈川が2%で、ほとんど東京都内の方です。事業所が東京都内にあるということです。

    あと年齢ですが、やはり先ほどの竹内先生のセミナー参加者データとほぼ一致しますが、30歳代が31%、50歳代が20%、40歳代が19%です。先ほど学生と申し上げましたが、延べ2000人の中に、19歳以下という方が1%おられます。ということで、単純に割りますと20何名か、19歳以下の方がいらっしゃるという、非常に心強い限りです。男女別、男性80%に対しまして、女性が20%です。

    時間帯別の傾向ですが、圧倒的に午後の1時から5時に集中しています。午前中はほとんどお見えにならない。相談時間が1時からとしているせいもありますが、時間帯は今申し上げましたように、午後1時から5時が圧倒的です。利用者、相談者の特徴的な傾向ということで、相談件数ですが、これは延べ59件、ただし、これは59名分で、リピーターは1件と、たとえば私が3回相談にきても1件とカウントしています。そういう意味での59件です。それと、土曜日の傾向ですが、これにつきましては長時間相談される方が多いように聞いています。休みの日に、じっくり腰を落ち着けてウェブを見るよりも相談ということを主要な目的にお見えになる方が多いようです。

    幾つかの事例を申し上げますが、会社の同僚2名、20歳代の方ですが、アパレル関連の創業を目指し、リサーチされた例などがあります。また有職主婦、すでに仕事のある主婦の事例ですが、愛犬家が集う喫茶店、それを始めたいという相談がありました。手持ち資金600万円を持っていて、育児で何かとお世話になった地域社会に何らかの関わりを持ちたいというのが動機だそうです。ただ、動機は非常によろしいのですが、現実にこれが成立つものかどうかです。これにつきましては、相当相談員から突っ込んだ質問をした結果、店舗を借りて、収支とんとんにするには、1日6万円の売上が必要で、どう見ても借金までするのは危険だということで、お帰りいただきましたが、その後どうなりましたか、追跡調査しないといけないと思っています。いずれにしましても、この女性の場合、地域との関わり、コミュニティー指向、地域貢献と申しますか、そういう傾向が一般的に女性には多いようですが、そのパターンの代表的な事例かと思います。

    あと傾向と特徴といたしまして、開設当初の7月の中旬からは、リピーターの数が上回っています。1日40名の来館者のうち半分以上がリピーターです。それと相談内容、これにつきましては、9割方創業・起業の入り口段階に留まっています。外国人は何名かいらっしゃいましたが、中国系の方が圧倒的です。後、都立中央図書館のレファレンスサービスも結構利用されています。非常に精緻なレファレンスを返していただきまして、当方からも感謝しています。

    今後の課題

    私なりに考えます今後の課題ですが、1番目がボランティアの参画で、今、総合商社のOBから年明けに参画したいという声がきています。こういう方を積極的に発掘していきたいと思っています。2番目にベンチャー支援組織との連携ということで、私どもの中のビジネスマッチング事業ですが、ここらへんとの連携を十分確保していきたいということです。

    3番目に委託事業の限界の克服で、行政の立場からどうしても公平という視点が先決になるのですが、やはりビジネスというのはそれだけでいいのだろうか、というのが素朴な疑問です。

    ビジネスというのは、極論すると差別化といろいろな意味でのスピード、それとマネージメントチームの良し悪しにかかっていますので、ある時点からは、やはり有償サービスで提供するものかな、とそのようなことも考えています。あとはデータベースの充実で、先ほど申し上げましたデータベースの他に目下考えているデータベースが2本あります。1本が、政府系金融機関の作りました経営相談事例集、ウェブで見られるものです。それと、ジェトロ(JETRO)の支援サイトでして、海外ビジネスサポートをするサイトです。ここらへんを採用していきたいと思っています。最後に申し上げたいのは、今回の事業はライブラリアン、プラスビジネスサポーターという色彩が非常に強いのです。そういう意味での発想の必要性のPRということ、私どももいたしますが、本日お見えの方を通じまして、そのへんの呼びかけというものを積極的に行ってゆくこと、それと私どもにとってはとにかく株式公開までこぎつけられるような事例を1件でも作ることが目下の急務と考えています。