政策シンポジウム他

動きはじめたビジネス支援図書館~図書館で広がるビジネスチャンス~

イベント概要

  • 日時:2002年9月23日(月・祝)13:00~18:00(開場12:15)
  • 会場:一橋記念講堂 東京都千代田区一ツ橋2丁目1番2号 学術総合センター2階
  • 事例報告「SDIサービスモニター事業による地域支援の試み」

    新谷 良文 (北広島市図書館業務スタッフ主査)

    北広島市図書館の新谷と申します。当館が行っていますのはSDIサービスモニター事業という事業なのですけれども、それの事例報告をさせていただきます。月並みですけれども、とりあえず、札幌市に隣接する北広島市ということで地図が出ています(資料参照)。皆さん、北広島市といったので、おそらく広島県を想定したと思いますけれども、広島県には北だけなくて、東、西、南広島というのはあるのだそうです。もともと広島県の方の移住でできた町なので広島町といっていたのですけれども、市になった時に、北の名称はもらえたので、北広島市ということになりました。JRもたまたま北広島駅だったものですから、時刻表を変えることもなくすみました。実際には札幌のベッドタウンで、いま人口6万人くらいです。30年くらいで人口が4倍になって、ベッドタウンですと当然そうなるのですが、いきなり広島村から30年で、市になってしまったという町です。

    皆さん、札幌に行かれるとき新千歳空港で降りますと、途中で北広島駅というのがあると思います。そこの駅前に少し茶色い大きな建物があるのですが、それがホールと私たちの図書館になっています。そこで行っているサービスを、これからSDIに限って紹介していきますが、実は、私は正式な職名を図書司書というふうにつけられているのです。変だからやめてくれといっているのですけれども、これ実は二重の意味になっていまして、たとえば頭痛が痛いとか、馬から落馬したとかと同じで、本来司書だけでいいはずなのです。ないしは図書館司書です。何とかしてくれないだろうかという話をしていますが、なかなかしてくれません。多分図書館のないときに司書を雇ったので、図書館司書の館を抜いちゃって図書司書にしたというすごく乱暴な職名なのですが、それをつけられています。本来の用語の使用も少し問題なのですけれども、やはり今うちの町は、特に行政側ですが、司書というのは、図書を扱う仕事だというのがやはり大きいのです。そういう範囲を想定していますので、図書司書というほうがすっきりするのです。年配の役所の方はほとんど、図書司書という職名を何の抵抗もなく使われます。今も自分で自分の職名を変えるというのもなんだか嫌ですので、この職名がおかしいと言ってくれる市民の方を含めて、私は心待ちにしているのですけれどもそういう方は1人も出てきていません。

    ところで、今皆さん、お分かりでしょうけれども、図書館では視聴覚資料からデジタル情報まで、ほとんどの資料を扱っています。もう図書館が持っているいわゆる情報、商品というのは100通りパッケージがあると思ってよく、それぐらいやはりいろんな対象によって、手法によって、分かれていくものだと考えていただければいいと思います。ましてそれが様々な地域要望に答えていくのであれば、なおさらそういうものをどんどん扱っていったほうがいいと思います。

    SDI(選択的情報提供サービス)とは

    SDIサービスのお話しをこれからいよいよしていくのですけれども、画面にある通り、選択的情報提供サービスといいます。戦略的防衛構想ではありません。行く末はなんだか、それと同じになると恐いのですけれども、このサービスをやると役所に言ったときはよくからかわれました。似たようなものです、という話をしたものです。

    内容的には、あらかじめ決めておいた新聞記事などのデータベースの検索結果を、定期的にeメールで配信をしていくという情報サービスの商品です。基本的に図書館というのは本を並べてお客さんを待つという店頭商売なのですけれども、このパッケージに関しては、ネット通販とかe-ビジネスのようなものに図書館が手をつけたとお考えになれば、一番分かりやすいかと思います。ただ、うちのような小さな図書館がいきなり商品化するのは大変危険なので、今年度につきましては、3名の方にモニターをお願いして、やっていただいています。

    なぜこういうことをするかというと、大体うちの図書館はできたのが平成10年と遅く、まだ5年です。でも大体5年やると、店頭商売で拾えるお客さんは見えてきているのです。要は、夜8時くらいまでやっていても、使えないお客さんがいるのです。また時間があれば来るかといえば、そうでもないのです。あるかどうか分からない情報を聞きにわざわざ来るリスクを冒す人というのはそういないはずです。ある程度見込めるのであれば来ます。ですから、もう通販しかないと考えました。忙しく働いている人は、店頭商売では拾えそうもない、もう通販でいこう。そういう通販の場合、情報の正確性とか鮮度は、デジタルにはかなわないのです。もうこれはデジタルで通販をやるしかないという非常に乱暴な背景があり、SDIというのがスタートしています。

    SDIのモニターに関しては、少し公の立場の方が今は多い、といいますかほとんどです。市議会議員の方1名、中学校の先生1名、それと役所のセクションの方を1カ所お願いしています。SDIというのは、いわゆるレファレンスサービスの手法ですから、どこに使っていくかという選択肢なのです。要するに、向けられたところが議員さんであれば、案外議会図書室的な機能を持つかもしれないですし、先生であれば、学校教育、学校図書館との連携の機能を持つかもしれないのです。役所の中であれば、市政資料室のような機能を持っていくかもしれない。それこそ民間の会社であれば、いわゆる企業支援というひとつの機能を持てるかもしれない。そういう試みから、実はスタートしています。

    ひとつの、ワンパターンの手法で、結構多くの機能を包含できるという、なかなか面白いパッケージだなと、今考えています。実際に資料費が全然かからないのです。結構、レファレンスは、市立の図書館で20万30万の参考図書を買うとなるとやはり非常にきついリスクを負います。それを買っておいといて、使われるまでじっと待っているのが、今のほとんどのレファレンスです。非常にリスクが大きいのです。ところが、SDIというのは、引き合いがあるのを想定して情報を仕入れてきますので、ある意味では非常に、レファレンスのやり方が変わってきているなと、今認識をしています。やっていても非常に面白いと思います。

    議員さんの場合、自分の持つテーマについて、全国的な動向や背景に気付かせてくれる。うちの場合小さい町ですから、議員さんというのは、だいたい市政に関しては視野が届くのです。そうなるとむしろ全国的な、あるテーマに関する動向とか、法律解釈なんかが特に大きいのですけれども、そういうものが必要になるからこれも非常にありがたいという話をされています。いま、法律が分からないと何もできないとよくいわれていますので、そういう部分かと思います。

    次に、中学校の先生です。これは北海道の特質ですが、北海道新聞という、道内では非常にシェアを占めている地方紙があります。この地方版ですけれども、非常に細かく分かれています。ですから北広島の方が釧路・根室の地方版を見ようというのは、新聞紙面上ではほとんど無理です。ただ、データベースを使いますと、全道の地方版というのが網羅的に検索できます。道内のそういう状況が大変よく分かると好評を得ています。

    次が子どもサポートセンターという、役所の青少年課のセクションなのですが、全国共通で、役所の反応が一番鈍いのです。モニターとしてはピンときてないので、民間の子育て支援センターと実は調整中です。

    この様にモニター制のやり方で実はうちの図書館はやっています。自分たちの力に自信がないこともあるのですけれども、モニターといろいろな調整をしながら、定番化されたメニューをホームページ上で公開をして、登録をして、配信していきたいと考えています。ひとつは図書館の中にあるのですけれども、まちづくりや生涯学習という、大きなサイクルの真ん中といいますか、起点に実はこのモニター制度をおいていきたい、そうなれば非常に面白いと思っています。そういう思いがあるので、まだあまりやっていないのですが、これは何とか形にしたいです。

    北広SDIに勝算は?

    北広SDIに勝算はということで、自己分析をしたいと思います。間違いなく、レファレンサー、いわゆるレファレンス機能の強化というのは、図書館には絶対必要になってくると思います。ただ、単なる専門性だけではおそらく駄目です。今、レファレンスの担当は必死です。それぞれの方の直面するテーマに従って、検索式をたてたり、話し合いをしていきます。そうすると、相手のニーズをきちんとつかんでいくという作業が物凄く大事になります。それを用意していく。たとえば身近な人たちが何を求めているのか、何を知りたがっているのか、今市民は何をテーマに暮らしているのだろうかということです。そういう、成人女性、成人男性はどういうテーマのものを知りたいと思っているのだろうか、そういうニーズを知りながら、逆に仕事をするようになっていきます。

    調整機能としていろいろなヒアリングに入って、相手のニーズを確かめながら、進んでいく。よく社会性と言っているのですけれども、この社会性と専門性が合わさってはじめて、地域に指導性が出てくると思っていますし、専門性だけではなかなか難しいだろうと思っています。与えられた質問に対して答える専門性、というよりは、いずれぶつかるであろうテーマを予測して、その方が答えを出せるような、導くような、サポートするような機能として図書館はなっていかなければ駄目ではないかと考えています。そうなれば、産業側にも、いろいろなことをお願いできるかなと思います。

    すでに、始まってから課題が2つ出てきています。著作権の問題が一番厄介だと思います。それと法人向けの設定の契約が欲しい、そしてせめて個別交渉の余地を残して欲しいなど、ほかにもいろいろ出てきます。雑誌の記事索引のマークがないか、これ商売にならないのか、などいろいろ考えています。ただいずれにしろ、口ばっかりでああしてくれ、こうしてくれと言っても仕方が無いので、図書館側がそれなりに、ビジネス部分に寄与するのだという姿勢を見せないと、交渉のテーブルにはついてくれない話ですので、そういう動きがやはり必要だろうなと思います。

    最後ですが、ずっとやっていて、といっても6月の開始ですから、そんなに長くはないのですが、やってみて思うのは、結局人がやはり学びたい、何かを作りたいというのは、人間の本質なのだ、ということです。正直いって、このサービスを学習意欲のない人にやっても意味がありません。そういう意味では生涯学習というか、学びたいという意欲そのものをやはり喚起していく動きが必要だと思っています。最後は市民の方の学習意欲次第ですよと言ってしまいますと、非常に他人事に聞こえますけども、実際に今モニターになっていただいている方というのは、本当に仕事に対して一生懸命な方です。それはもう頭が下がるくらい一生懸命です。この方たちが、図書館のおかげで何かひとついい結果を出す。もしそういうことができれば、周りの人間、恩恵を受ける人間が、たくさんいるのだろう。そういうのが実感として分かってくるのです。

    ですから、何とかしてあげたくなる。やはりそういう気持ちになってくる。そういう図書館側の気持ちと、皆さんの学習意欲が結び付いて、協力体制を取れていければ、非常にいい図書館が出てくるのだと思います。しかし、これは案外難しいのです。僕らはよく住民エゴというか、そういうものによく出くわします。カウンター業務をやっていれば、当然そうなのですけれども、そういうのがやはりあるのです。そのたびにやはりぐらつくのです。そういうものばかり見ていると駄目なのだと思います。やはりいくつになっても人は勉強したいのだ、どんなに偉くなっても何か勉強して作っていきたいのだ、という気持ちが本来人にはあるということを、確認していかなくては駄目だと思います。いま北海道経済というのは本当にあまりいい状態ではないので、そんな中で産業はとても大事です。だからこそ、図書館が大事なのだといってくれる人をどれだけ増やしていけるのかなというところだと思います。