独立行政法人 経済産業研究所設立記念コンファランス

モジュール化-日本産業への衝撃-デジタル時代の経営アーキテクチャ

イベント概要

  • 日時:2001年7月13日(金)10:00~17:35
  • 会場:一橋記念講堂
  • 主催:経済産業省、独立行政法人 経済産業研究所
  • 共催:経済同友会、日本経済新聞社

実施概要報告

会場風景2001年7月13日に開催された経済産業研究所設立記念コンファランスでは、会場の一橋記念講堂をほぼ埋め尽くす参加者のもとで、世界の最先端の研究が紹介されるとともに、これまた最先端のビジネスの観点から実務家を含めた活発な議論が行われた。

当日の詳細は、後日、東洋経済新報社より経済産業研究所の「経済政策レビュー」として刊行予定であるが、概要を簡単に紹介することにしたい。

青木昌彦青木所長のイントロダクションでは、IT革命の真のインパクトは、人と人、仕事と仕事の関係に大きな変化が及びつつあることで、産業組織進化のキーワードは「モジュール化」であることが指摘され、モジュール化に関する理論の三つの流れが紹介された。また、米国のベンチャー隆盛の背景には、独立して互いに隠された(hidden)モジュールごとに多数の企業による激しい競争があり、ベンチャー・キャピタルやシスコシステムズなどの先端企業が勝者を客観的にジャッジするというシリコンバレーの生態系システムを通じて、将来的なオプション価値が広がってくるとして、ボールドウィン教授とクラーク教授の最大の業績の一つが、モジュール分業によるオプション価値の分布に関する研究であることを指摘した。他方で、こうした成功確率の分布は、人間の努力で変わりうるものであって、シリコンバレーでは「トーナメント効果」によって大きな価値が生み出され、実験の重複のコストを補って余りあることが示された。

最後に、本コンファレンスのテーマとして、1.モジュール化の普遍性、2.モジュール再編成のメカニズム、3.日本の経営への影響、日本的な情報共有のあり方について、問題提起がなされた。

ボールドウィン教授ボールドウィン教授からは、IBMシステム360に始まるモジュール化の歴史とともに、モジュール化の特徴、すなわち、1.複雑性を取扱可能にする、2.並行作業を可能にする3.不確実性に強いこと、かつ、オプションを作り出すことが、説明された。モジュール化のためのさまざまな手法を紹介し、オプションと実験に数が増加することで、全体の価値が増大することを説明するとともに、モジュール化のコストについても言及された。さらに、モジュール化が、ベンチャー・キャピタルなどの新しい金融手法やストックオプションなどの新しい契約手法についても、その進化を促したことが示唆された。

午後のセッションでは、藤本ファカルティフェロー(東大教授)から、自動車産業においては、そのまま単純にモジュール化を援用することは出来ないと指摘するとともに、日本の強み(工場での摺り合わせ)を活かしつつ、弱いところは、モジュール化を含めて、世界のベストプラクティスに学ぶという二つの戦略が必要であると強調。「強い工場、弱い本社」を克服することこそが日本の課題であると示唆された。

これに対し、日産大久保副社長から、モジュール化による効率化の可能性とモジュール化での留意すべき落とし穴について、具体的に説明があり、自動車産業においてもモジュール化を積極的に追求することが重要であると強調され、部品ごとの状況に応じて仕分ける必要性が示された。

中馬ファカルティフェロー(一橋大学教授)から、史上最も精密な機械とされる半導体露光装置について、日本勢が急速に競争力を落としたのは欧州企業のモジュール化対応が主因との通説に対し、実証的な研究から、むしろ技術の高度化に対して、関連企業とのコラボレーション、情報共有のあり方こそが問題となっており、半導体露光装置では、モジュール化よりも、むしろ統合化に進む可能性もあることを指摘された。

反面、日本の工作機械が強い競争力を維持している背景として、モジュール化戦略を徹底して採用し、関連企業とのコラボレーションを進めたことに主因があると説明した。

藤村ANNEAL Corp. CTOから、半導体産業での技術の急速な高度化によって、要求されるパフォーマンスレベルが高まり、装置間の相互干渉が大きくなってきていることが指摘され、単に装置限界を上げるこれまでの日本的手法ではなく、物理限界の上昇努力とともに、さまざまな制約条件に対応できるようイノベーションを進めることの重要性(モジュール最適再設計の重要性)が指摘された。

パネルディスカッション

パネル・ディスカッションでは、キョウデン 橋本会長、ドコモ 榎取締役、総合科学技術会議 桑原議員(日立取締役)が参加し、國領慶応ビジネススクール教授の司会で、最先端の実務の観点から、モジュール化の功罪について活発な議論が行われた。

特に、「良いモジュール化、悪いモジュール化」の鍵を握るのは何か。誰が主導権を握るのか、アーキテクトの役割は何かという点を巡って、インターフェースの確立、リーダーシップ、人事システムの重要性が指摘されるとともに、誰が大きな利益を取るのかという点では、リスクを取っていち早く対応した者にオプション価値が帰属する点が強調された。

単純な総括は危険ではあるが、現代では、モジュール化がダイナミックなイノベーションの連鎖の源泉となっており、その条件として、多数の独立したプレーヤーが、公正で客観的なルールのもとで、モジュールの生み出す大きなオプション価値を巡って、モジュールごとに覇を競い合い、激しく凌ぎを削ること、これが、デジタルIT革命下において、企業組織と情報共有のあり方に大きな変革を迫るものであることが示され、同時に、既存の大企業組織のバウンダリーと慣性の残る旧来型の情報共有の仕組みを見直し、より小さくとも俊敏な組織によってイノベーションを活性化することこそが、激しくなる一方の国際競争に立ち向かい、生き残る一つの確かな方向性である、ということが示されたといっても過言では無かろう。

以上(文責:安藤)