RIETI政策シンポジウム

第4次産業革命と日本経済の展望(議事概要)

イベント概要

日本を含む先進各国では、生産性上昇率の低下に伴う長期的な経済停滞が懸念されている。こうした中、経済産業研究所(RIETI)では、2016年4月から2020年3月の第4期中期計画において、「世界の中で日本の強みを育てていく」「革新を生み出す国になる」「人口減を乗り越える」の3点を重点テーマとして数多くの研究を行い、主な成果を『第4次産業革命と日本経済』と題した書籍として刊行することとなった。第4次産業革命の波を日本経済の新たな成長軌道に結びつけるにはどうすればいいか。本シンポジウムでは、日本を代表する各分野の経済学者が一堂に会し、RIETIにおける最新の研究成果をもとに「第4次産業革命と日本経済の展望」について議論した。

議事概要

開会挨拶

中島 厚志(RIETI理事長)

現在、米中を中心とした経済グローバル化に呼応する貿易通商面での動きがある一方で、AI(人工知能)など大きなイノベーションも進んでいます。日本においても、経済や社会には多くの課題や挑戦が生じています。このような状況では、政策対応においても、従来にも増して多くの視点や考察を踏まえなければなりません。RIETIでは、2016年4月から2020年3月に至る過去4年間の第4期中期計画において、3点の重点テーマを掲げ、政策シンクタンクとして新たな知見や政策的含意の発信に努めてきました。本シンポジウムでは、日本を代表する各分野の経済学者の先生方から、第4期中期計画期間における最新の研究成果について、新たに刊行された書籍の内容も踏まえてご報告いただきます。

挨拶(ビデオメッセージ)

梶山 弘志(経済産業大臣)

RIETIでは、2016年度から今年度までの中期計画において、第4次産業革命が日本経済に及ぼす影響などをテーマに、最先端の政策研究を進めていただきました。本日のシンポジウムでは、RIETIの研究活動をリードしてきた研究者の方から、この4年間の集大成として最新の研究成果と政策提言をご披露いただく予定であり、活発な議論を期待しています。RIETIは、経済系研究機関の国際ランキングでも常にアジアトップクラスのシンクタンクとして位置づけられるなど、その研究成果は国際的にも高い評価を受けていると承知しております。また未来投資会議の資料や通商白書にも多数引用されるなど、わが国の経済政策の議論の基礎を支えています。このようにRIETIがレベルの高い政策研究を進めることができてきたのも、中島理事長、矢野所長、森川副所長のリーダーシップと、本日ご参加いただいている方をはじめとする、RIETIの研究プロジェクトにご参加いただいた研究者の皆様のご協力によるものであり、改めて感謝を申し上げます。RIETIはこの4月から新たな中期計画期間に入ります。次の4年間も世界水準の政策研究を進め、質の高い政策提言を行っていただくことを期待します。経済産業省としては、十分な予算措置を講じ、RIETIをしっかりバックアップしてまいります。最後になりますが、本日のシンポジウムが、ご出席の皆様にとって実りの多いものとなることを祈念し、私の挨拶とさせていただきます。

来賓講演

新原 浩朗(経済産業省経済産業政策局長)

日本の労働生産性が低い理由

日本の実質GDP(国内総生産)成長率、完全失業率、有効求人倍率は回復傾向にあります。一方、労働生産性は依然として低い状態が続いています。マークアップ率をみると、欧米が急速に上昇している一方、日本はさほど変わっていません。いかに日本の強みであるリアルデータを仮想空間での取り組みと統合し、顧客にとっての付加価値を生み出していくかが、日本企業にとって重要な課題です。

設備投資率や研究開発費率の高い企業は、マークアップ率が高くなる傾向があります。営業利益に対する設備投資や研究開発投資の比率を比べてみると、米国では2011年以降伸びていますが、日本では下がっています。OECDによると、2012年から2014年の間に、製造業やサービス業において新製品や新サービスを投入した企業の割合が先進国の中で最も低いのは、日本であることが明らかになりました。一方で、日本企業が保有する現預金は増えており、利益が出ている割に設備投資や研究開発費用に資金が回ってないことがわかります。

ベンチャー企業との連携

日本には他の先進諸国と比較して企業年齢の長い企業が多く、これがイノベーションの阻害になっているといわれています。しかし、米国企業は企業年齢が長いほど利益率が高くなる傾向にあります。米国では企業年齢が長くても積極的に新たな分野に進出し、革新的なベンチャーを買収することで成長しているからだと推察します。欧米企業と比べて、日本企業のオープン・イノベーションの実施率は低く、特にベンチャー企業との協働に大きな差があります。

2016年には、市場別新規上場会社数で日本が米国を上回りました。米国のベンチャーがM&Aを重視し始めたからです。事業会社のベンチャーへの投資(CVC)も、世界的に非常に増えています。CVCから投資を受けた企業は特許件数が多くなっています。事業会社から産業・技術の知識提供を受けることができ、またCVCも技術がよくわかった上で投資をするためです。一方で、日本の大企業によるベンチャー企業のM&A件数は欧米と比べると極端に少なく、契約慣行についても多くの課題が残されています。

第4次産業革命から生じる多くの課題

労働市場では、対個人サービスや、高付加価値な技術・専門職が増えているため、四大卒よりも、修士、博士の賃金にプレミアムが発生するようになりました。創造的な人材を育成していくことが重要です。労働市場の流動化という観点から、副業の促進も有効です。副業には、多様な経験を積む機会となる、本業への忠誠心が増すといった効果も観測されています。また、起業にはリスクが伴いますが、実は多くの人が副業で成功してから本業を辞めた、または副業のまま経営しています。

インターネットを通じて短期・単発の仕事を請け負う「ギグ・エコノミー」も拡大しています。特に、40代以上の中高齢者に就業機会が広がっており、収入よりも、達成感/充実感、スキル/知識/経験の向上において、満足度が高い傾向にあります。これを健全な形で成長させていくことが大切です。5Gについては、多数同時接続、超低遅延という大きな課題が残っています。また、GAFAのようなプラットフォーム企業との関係についても、利用事業者からは、取引関係の透明化が求められています。

さらに、地方圏では人口が減少を続けており、「公共交通が減り自動車がないと生活できない」という不安の声が大きくなっています。高齢者の死亡事故は運転ミスによるものが最も多いため、まずはサポートカーの普及、最終的には自動運転によってこれを解決しなければならないと思っています。

講演「第4次産業革命と日本経済」

矢野 誠(RIETI所長,CRO)

市場の質理論とその回復に必要なこと

われわれは、世界の中で日本の強みを育てていく、革新を生み出す国になる、人口減を乗り越える、の3つを第4期中期目標として掲げ、第4次産業革命をどう使っていくのか、牽引していくのかについて研究してきました。

私は常々、市場の質理論を主張してきました。産業革命の後には必ず、経済危機が起きるという理論です。大きな技術革新が起きると市場の質が下がり、経済の生産性が悪くなります。それを反転させて経済を回復させていくには、市場制度の整備が重要です。制度を整備してうまい市場を作り、経済を活性化していくことが必要です。

第4次産業革命における市場の質

第2次産業革命の際は、1855年に高炉の発明が生産性の向上をもたらした後、1870年頃から1890年頃まで長期不況に入り、それが制度の整備とともに反転した後、もう一度ベルトコンベア等の工作機械による大きな技術革新が起きました。その後、1914年に第1次世界大戦、1929年に大恐慌、1939年には第2次世界大戦が起きました。これらは制度構築の失敗によって起きたと考えられます。その結果として、GATTや国連といったものができたというのが、第2次産業革命の図式です。

現在の第4次産業革命も、これと同様、2度の技術革新が起きて、市場の質が大きく低下していると考えられます。1985年頃にPCが発明された後、一時的に市場の質が下がり、2000年以降、世界金融危機やインターネットバブルなどのさまざまな大きな問題を抱える経済が続きました。その後、経済は回復したように見えましたが、GAFAなどのプラットフォーム産業に代表される、ビッグデータやAIを使った大きな技術革新が再び起きたのです。今まさにわれわれはこの技術革新を経験しつつ、新しい世界を築いていかなければなりません。ここで制度構築の失敗をしてしまうと、市場の質が大きく低下してしまう恐れがあります。

本日はRIETIの第4期中期計画期間の研究成果を皆さんにご報告し、皆さんと一緒に、これからどういう制度を作っていくべきかについて、考えていきたいと思っています。

第1セッション:イノベーションと人的資本

「第4次産業革命と日本産業のイノベーション能力」

長岡 貞男(RIETIプログラムディレクター / 東京経済大学経済学部教授 / 特許庁知的財産経済アドバイザー)

第4次産業革命の広がりとソフトウェア発明

第4次産業革命では、情報通信技術の累積的な発展の上に、AI等の革新が加わり、幅広い持続性のあるイノベーションが起きています。その原動力は、汎用基盤技術(GPT:General Purpose Technology)の進歩と垂直分業の進展です。汎用基盤技術の進歩は広汎な産業分野のイノベーションを促し、それがまた汎用基盤技術の進展を更に促す関係にあります。

ソフトウエア発明によって、第4次産業革命の広がりを把握出来ます。米国特許の約半分を占めるようになっています。産業別では、たとえば自動車産業に関わる研究開発の約3割がソフトウェア発明です。医薬バイオは、現段階では少ないものの、最近はデジタルセラピューティクス(デジタル技術を用いた疾病の予防や診断、治療など)が広まっているため、今後の拡大が予想されます。ソフトウェア発明をさらに、AI等の狭義のソフトウェア、広義のソフトウェア、それ以外、に分けて日米を比較すると、狭義のソフトウェアの発明の割合は米国が高いことがわかりました。一方、ソフトウェア全体の割合では大きな差はなく、第4次産業革命に取り組む潜在的な蓄積は日本産業にもあるといえます。

研究開発投資と垂直分業

他方で、日本の情報通信分野への投資は、2007年をピークに減少しています。ここ数年は落ち込みが止まっていますが、2007年から2016年では約3分の2に落ちました。情報通信分野の研究開発投資の収益率をみると、1990年代の後半から持続的に減少しています。特に減少幅が大きかったのは、日本の産業を支えてきた情報通信機器です。一方、減少幅が少なかったのは、GPTに分類できる電子部品です。

これには、垂直分業の力が大きいと考えられます。世界におけるIT分野の研究開発企業を、GPTを供給する企業、取引型のプラットフォーム企業、通常のIT最終製品企業の3つに分けて比較したところ、最も大きな研究開発を行っているのはGPT企業で、収益率も高いです。これに対しIT最終製品企業では、日米企業共に研究開発の伸び率がマイナスである企業が多くありました。

第4次産業革命をうまく活用するために

これらを踏まえて、4つの政策含意を申し上げます。
1.イノベーションの今後の主役は解くべき技術課題を持っている利用側企業
2.独占化が進む市場セグメントでの研究開発競争の促進
3.産業の基礎研究の重要性の認識と支援
4.世界に人材と知識を求める
第4次産業革命が日本のイノベーションを活性化することは間違いありませんが、これをうまく活用するには、こうした点に留意することが重要です。

「第4次産業革命における競争政策」

大橋 弘(RIETIプログラムディレクター / 東京大学公共政策大学院副院長・大学院経済学研究科教授)

シェアとマークアップから見た競争

日米の上位4社のマーケットシェアの和を比較してみると、わが国では特に製造業で上位4社集中度が高まっている傾向が見られました。米国では、セールスと雇用のそれぞれのシェアを比べるとセールスで集中度が高く、従業員数でみて規模の小さい企業で大きなセールスを生み出している企業が存在していることが分かります。また、上位4社だけでなく全ての企業についてシェア(HHI)の動きをみると、わが国では微増、特に製造業で集中度が上がっている一方、米国ではそこまで上がっていません。

次に、マークアップ(原価と売価の比)でみると、海外主要26カ国では伸びている一方で、わが国はほぼフラットです。特に米国ではマークアップの高まりが顕著で、競争阻害をコントロールできたのかどうか、競争政策について振り返るきっかけにもなっています。企業間格差について、マークアップの高い上位10%の動きとその他の企業の動きを見てみると、海外では高マークアップ企業以外の企業ではマークアップが全く伸びていませんでした。わが国では、上位10社とその他で平均的にみると大きな違いはなさそうに見えます。

残された課題

IO(産業組織論)から見た課題として、1つは集中度と市場支配力との関係が挙げられます。マークアップが高いことと、市場支配力があること(つまり、市場競争が阻害されているということ)は別の話です。そもそも競争的な状態においてもマークアップは観察されます。マークアップが高まるのは付加価値づけができているという点でプラス要素もありますが、そのうちどれだけが競争阻害に起因するのかを識別することが必要です。

2つ目は、このマークアップがどの程度、要素市場に起因しているのか、それとも財市場に起因しているのかという点です。この点についての理解を深めるためには、一国全体での分析には限界があり、もう少し産業に特化した分析をしていかなければいけないと思います。

政策立案への糸口

わが国における状況は、米国と似たような点もありますが、明らかに異なる側面もあります。似ている点は両国ともに、集中度が高まってきていること。他方で異なる点は、集中度の高まりに反して、わが国ではマークアップは上がっていないこと。わが国におけるマークアップの低迷は、人口減少に起因するとも考えられ、今後の分析が待たれます。内需主導型の産業に特化している企業は、人口減少等によって市場が縮小すると、従来のキャパシティを維持できなくなり、統合や合併を志向します。そんな中で価格を上げることはなかなか難しい話です。すると、集中は高まるけど価格は上がらないという現象が起きるのだと考えられます。

「新たなテクノロジーは働き方をいかに変えるか―AI時代に向けた展望」

鶴 光太郎(RIETIプログラムディレクター / 慶應義塾大学大学院商学研究科教授)

デジタル化の働き方への影響

現在はICTにより、あらゆる情報がデジタル化されてきています。ペーパーレス化が進み、机にはPCのみ、会議資料はタブレットといった職場も増えています。こうしてペーパーレス、デジタル化が進んでいくと、かなり働き方が変わっていきます。たとえば、仕事が共有できるようになれば、長時間労働が改善されます。また、仕事の標準化が促進されます。そしてフリーアドレスが進み、多様なインタラクションが可能になります。テレワークも可能になります。さらに、ホワイトカラーの生産性の「見える化」が促進され、生産性が向上します。

自動化について、物理的な処理を行うハードウェア(ロボット)やソフトウェア(RPA)が、定型的な業務を代替していくことは望ましいことです。しかし、AIとは区別しないといけません。AIに関する経済学での第一人者、Agrawalは著書の中で、AIの本質=予測と述べています。AIは人間行動を全て代替するわけではなく、予測するためには、大量のデータが必要になります。

テクノロジーの導入状況

ペーパーレスやフリーアドレス、タブレット端末などは、多くの企業がすでに取り組んでいます。一方で、AIやウェアラブル端末など、AIに関連するところは少し遅れています。AIが雇用を奪うという非常にショッキングな分析もありますが、これはロボットの分析に集中していることが一因です。雇用や賃金に悪影響を与えるという分析結果もあれば、むしろプラスの影響が出るという分析結果もあります。現時点では一定方向の効果は出ていません。

AI に特化した分析はまだ少ないですが、機械学習とタスクの関係性を見た分析では、雇用や賃金に悪影響を与えるという結果はまだ出てきていません。ジョブの中にもさまざまなタスクがあり、AIに代替されやすいものとされにくいものがあるため、丸ごと代替される可能性は低いでしょう。人間とAIとの補完的関係を構築することが重要です。また、かつての産業革命の時のように、新たな仕事を創出していかないと、労働分配率は下がる一方です。

AIとの補完的な関係

AI活用で重要なキーワードの1つは、「パーソナライゼーション」です。教育や医療の分野では、すでに個別の利用者に応じたさまざまなサービスの提供が始まっています。働き方、企業組織でも、ウェアラブル・センサーなどを使って従業員の行動に関するビッグデータを収集することで、どんな組織形態や働き方が効率的かをAIで分析できます。ただし、個人のプライバシーにどこまで入り込んでいくのかが、今後の大きな課題となるでしょう。

「第4次産業革命の経済効果」

森川 正之(RIETI副所長)

自動化技術の利用実態の重要性

第4次産業革命では、医療・介護サービス分野をはじめ、AI、ロボットなど自動化技術の労働集約的な業務への導入が期待されています。その効果を研究するには、AIやロボットの利用実態に関する企業・事業所、あるいは個人レベルの情報を、できれば政府統計の中でシステマティックに収集することが必要です。米国ではセンサス局がそうした統計調査に着手しており、製造業におけるロボットの利用実態を工場レベルで捉えたり、全産業を対象にAIをはじめとする自動化技術の利用実態を調査したりしはじめています。

日本での企業向けアンケート調査

日本は残念ながらそこに至っていないので、本日は私自身が行ったアンケート調査の結果を紹介します。まずAIなど自動化技術の利用実態について、AIやビッグデータをすでに利用している企業は3%ですが、今後利用したいと回答する企業はかなり多くありました。ロボットをすでに利用している企業は、製造業を中心にかなり多くありました。

自動化技術の利用と従業者の学歴には非常に強い関係があります。特にAIやビッグデータを利用している企業は、主に理系大学院卒の従業者の割合が高くなっています。一方で、ロボットの場合にはそれほど明確な関係は見られませんでした。つまり、ロボットとAIでは労働市場への影響も随分違うことがわかります。

AIやロボットが将来の経営や事業活動に及ぼす影響について、企業はポジティブに捉えています。一方で、自社の雇用への影響については、自社の雇用を減らす方向に働くと考えている企業が多いことがわかりました。

日本での個人向けアンケート調査

さらに、個人に対しても調査をしました。AIやロボットが生活に及ぼす影響については、ポジティブに評価している人が多く、マイナスの影響を予想する人はごく少数でした。一方、自分の仕事に及ぼす影響についての見方は、かなり分かれています。大学院卒業者や理系出身者は、自分の仕事が失われるリスクは小さいと考えている傾向があります。自分の仕事のうち何%が置き換わると思うかを聞くと、平均的には約1/4との回答が得られました。

誰がAIを使っているのかをみると、20代と30代、大学、大学院卒の人が多いことがわかりました。また、AI・ビッグデータ利用者の賃金はかなり高いことが確認できました。ただし、その人自身が利用していなくても、勤務先企業が利用していれば、賃金が高くなるという関係も観察されました。

最後に、AI利用と働き方・生産性の関係について、勤務先がAIやビッグデータを利用している場合には、働き方改革が進んでいる、仕事の効率性が上がったと回答した人が多くいました。働き方改革と生産性向上を同時に進めていく上で、AIやビッグデータなどの新技術は重要だといえます。

ディスカッション・Q&A

モデレータ

小西 葉子(RIETI上席研究員 / 大阪大学経済学研究科特任教授(常勤) / 東北大学大学院経済学研究科特任教授(研究))

小西氏:
第4次産業革命により、距離や時間のコストが大幅に節約されています。このことが日本のイノベーション力、産業競争力、働き方、企業の生産性に与える光と影とはどんなものでしょうか。

長岡:
汎用基盤技術の進歩によって、イノベーションの機会は拡大していきます。ただし、国際競争も同時に厳しくなっていきます。その中で、独自性が高い技術やコンテンツを創造し、世界に出していけるかどうかが鍵になります。

大橋:
AIやIoTは、従来取れなかったようなレベルのデータの取得、そして、それによる想定外の発見をもたらします。ただし、個人情報の問題も生じます。制度もアップデートしていかなければなりません。

鶴:
情報の入手・伝達・共有・処理が、ほとんどゼロコストで瞬時に正確にできるようになっています。それだけ大きな変化が起こっているにもかかわらず、われわれはそれを不思議に思わなくなってしまっています。インプリケーションを考えて、ビジネスの応用も含めて、根本的な問題をきちんと考える必要があります。

森川:
グローバル化とデジタル化は、所得格差を拡大する二大要因になっています。また、グローバル化では、時差の存在が厄介になってきます。たとえば、対象はノルウエーですが、大企業が輸出を始めると、輸出相手国の時間帯に対応したり、急な海外出張をしたりしなければならない業務が重要になり、これを担えるのは男性が多いので、企業内の男女間賃金格差が拡大したという研究があります。

小西:
日本は2000年頃のIT革命に関して出遅れた印象があります。第4次産業革命についても、やや乗り遅れている印象がありますが、技術開発の足かせになっているものは何でしょうか。

長岡:
第4次産業革命のコアの汎用基盤技術の研究開発を担ったのは米国のスタートアップ企業です。日本経済ではスタートアップが起きにくいことが根本的な問題だと思います。また、日本では、新しいアプリケーションを作る際に、古いシステムへの大きな投資がサンクコスト(埋没費用)になってしまっています。しかし、日本には各産業の技術領域と情報通信技術を融合させてイノベーションに活用する基本的な力があり、その能力を今後もっと発揮してほしいです。

小西:
第4次産業革命に対して政府は補助金などの産業支援政策を講じるべきでしょうか。ルールの整備に留めてサポートしていく方がいいのでしょうか。

大橋:
産業支援策は、やること自体が目的になってはいけません。解決したい課題があって、その課題を解決するために新しい技術を導入するといった思考回路にならないと、産業政策もうまくいきません。補助金も持続性があるものにすべく、EBPMによる政策立案から学びを得ていく必要があるでしょう。

小西:
第4次産業革命ではAI人材の重要性が高まっています。どういった人材がAI人材で、企業はどういった人材を必要とするのでしょうか。

鶴:
問題設定が重要です。単にテクニカルなことではなく、何が大切か、何を解決すべきかを考えられる人材が必要です。

森川:
かつてPCを使うには特殊技能が必要でした。しかし、今や誰もがPCを使っています。AIもゆくゆくはマン・マシン・インターフェースが飛躍的に改善され、誰もが使える道具になるでしょう。そうなると、特殊なデータサイエンスの知識だけではなく、地頭が良くて、社会性がある人材が求められるようになります。非認知スキルや対人スキルなどはAIには代替できません。そういうスキルを高める教育訓練投資も重要だと思います。

小西:
企業が競争を通じて製品サービスを高付加価値化し、日本が国際競争で優位に立つためにどのような取組が期待されるでしょうか。

大橋:
供給者目線では、高付加価値製品は耐久性が高くて安全性も担保されているため、受入国あるいは消費者にとっても良いはずだと考えられがちです。他方で需要者側の目線でいうと、耐久性が低くても安い方がいい場合もあります。

小西:
第4次産業革命の波を日本経済の新たな正常軌道に結びつけて、世界の中で日本の強みを育てていくためには、どのような人材が求められるでしょうか。

長岡:
外国人と一緒に仕事ができる人材が求められています。日本の場合は、研究開発の分野でも海外の方との共同研究開発が非常に少ないです。

大橋:
海外では、競争政策に取り組んでいるにもかかわらず、マークアップ率が上がり続けていることを競争政策が機能していない点で問題だと捉える考え方があります。競争阻害行為が社会に広がっているとして、それがシカゴ学派への批判に繋がっているのですが、学問的な蓄積がある学派に異を唱えることは勇気がいることです。わが国でも、こうした発言ができる人材、そうした人材に対して寛容な社会が求められると思います。

鶴:
部門間、人間間のコーディネーションが競争力を生みます。産業や経済がなかなか成長しない現状では、人と違うことをやるといった意欲がないとイノベーションは起きません。

森川:
地頭がいい、しかも対人スキルやソフトスキルも持っている人を作って、そういう人がいかに高いモチベーションを持って仕事ができるようにするかが大切です。それには教育がとても大切です。いかに優れた先生を処遇して、確保していくかは重要な課題です。

第2セッション:世界経済と産業・地域構造

「日本経済停滞の原因と必要な政策」

深尾 京司(RIETIプログラムディレクター / 一橋大学経済研究所教授 / ジェトロ・アジア経済研究所長)

超長期で見た日本の経済停滞

まず、日本の超長期1700年から2010年代までの日本の人口一人当たりGDPを、技術フロンティア国(1900年までは英国、1900年以降は米国)を分母にして比べました。第1次産業革命では、鎖国により日本と他国との差がどんどん開いていきました。明治維新の後は落ち着き、第2次産業革命後の1920年代、30年代には少し追いつきましたが、その後、太平洋戦争に負けて格差が広がりました。戦後は急速に高度成長、それから安定成長期に伸びていきました。第3次産業革命では、1990年ぐらいまでは好調でしたが、1990年頃からは米国に引き離され、差が拡大しています。日本の人口一人当たりGDPを技術フロンティア国と比較すると、日本は過去300年間で3度目の深刻な停滞を経験していると言えます。

産業レベルで見たTFP上昇及び国際比較

ここ3、4年、日本産業生産性(JIP)データベースを2008SNAに対応するように改訂してきました。これにより、海外と同じ基準で産業レベルでの生産性の比較ができるようになりました。JIPデータベース2018を使って、マクロ経済及び産業別の成長会計分析をしました。2005年から2015年は、団塊の世代が退職したことで、生産年齢人口が減りましたが、女性や高齢者の労働力化が進んだことで、マンアワーはそれほど減少しませんでした。一方でTFP上昇と資本投入増加の寄与が停滞し、GDPの成長率を下げています。2010年以降は、労働時間あたり資本投入増加の寄与がほとんどなくなっています。ほとんどTFP上昇だけで成長していることになります。製造業全体のTFP上昇への寄与を分析すると、ごく一部の産業がTFP上昇を支えていることがわかります。

主要5カ国について、日本における資本蓄積の停滞が他国に比べてどれほど深刻かを分析しました。日本のTFP上昇はドイツに次いでむしろ堅調です。しかし、資本ストックの増加率をみると、日本だけが自然成長率を下回っています。一方、米国と日本の資本構成を比べると、日本の資本投入がICTおよびR&D以外の非ICT有形資本に特に偏っているわけではありません。資本ストック全体の蓄積が少ないことが問題であって、構成の問題ではないのです。

なぜ資本蓄積が低迷しているか

資本蓄積が停滞している1つの原因は、生産年齢人口の減少です。また、欧米は世界金融危機後の金融緩和によって、一時的に投資が増えている可能性もあります。いずれにせよ、日本は生産年齢人口も減り、投資が停滞しているため、第4次産業革命の見通しは暗いのではないかと感じています。

「これからのマクロ経済政策のフレームワーク」

小林 慶一郎(RIETIプログラムディレクター / 公益財団法人東京財団政策研究所研究主幹)

低成長と低金利

過去20年から30年を振り返ってみると、日本経済の現状は、低成長と低金利であるといえます。特にここ2、3年のマイナス金利政策が始まって以降の状況は、安全資産の金利が経済成長率よりも低くなっていて、それが定着してしまっています。実質経済成長率は過去30年にわたって1%弱で、実質金利はマイナス1%程度という異常な状況が、公的債務の累増の下で続いています。この状況は必ずしも日本だけではありません。アメリカの元財務長官ローレンス・サマーズの研究によると、OECD諸国全体の経済成長率は足元で1.5%以上の成長率を保っている一方、自然利子率は足元でほぼ0%に近いところまで来ています。これが世界的なセキュラースタグネーション(長期的停滞)です。

日本の経済低成長の要因は、政府の過剰債務による将来の不確実性かもしれません。ディザスター・リスクを企業経営者や家計が感じる可能性は十分にあります。低金利の要因について、サマーズは先進国で想定外の長寿化が起きているために貯蓄過剰を生んで、それが金利の低下に繋がっています。また、所得格差、技術的な不確実性が社会あるいは個人の所得の不確実性を高めていることも要因だと考えられます。

これから先の2つのシナリオ

これから先のマクロ経済運営は、良いシナリオと悪いシナリオの複数均衡の世界になるでしょう。財政への信認が維持されて国債が安全資産となり、金利が成長率を下回り、債務比率があまり上昇しないで財政への信認が正当化されるというのが、良いシナリオ。逆に悪いシナリオは、財政への信認が失われて国債が安全資産でなくなり、金利が成長率よりも急上昇して、財政破綻に陥るというもの。われわれが考えるべきは、良いシナリオをどれだけ維持するかです。低金利の状態が続けば、債務比率は漸減していくため、政策経費の支出に余裕ができて、成長戦略のために財政資源を使っていくことも可能になります。ただし、低金利が続くことの副作用もあります。仮説ですが、金利が下がっていることによって生産性の低い企業が生き延び、結果的に生産性が低下したり、リスクを取った研究開発投資や資本への投資が起きなくなったりするかもしれません。

いずれにせよ財政への信認を維持することが、政策の鍵になると思います。よって、方策としては、①プライマリーバランスの赤字が上限を超えないようにする、②金利が成長率よりも上昇した場合の危機対応プランを政府で準備することが必要です。また、長期的な制度改革としては、①財政について独立財政機関を設置して、長期的な財政運営を中立的にモニターする、②将来世代の視点に立って現在の政策をレビューして、長期的にやるべきことを決めていく、フューチャー・デザインのような政策決定の手法を取り入れていくことが必要です。

「第4次産業革命の中で変容する国際貿易・海外直接投資」

冨浦 英一(RIETIプログラムディレクター / 一橋大学大学院経済学研究科教授)

深化したグローバリゼーション

日本の輸出構造を過去30年以上にわたって遡ると、最終消費財の輸出量が80年代以降ほとんど横ばいの中で、部品の輸出が伸び続けていることがわかります。第四次産業革命の先駆けともいえる90年代からの情報通信技術(ICT)の発達・普及に伴って様々な経済活動が国境を越えるようになったため、海外との繋がりを捉えるには、最終財の貿易だけでなく広く企業活動の海外移転を指すオフショアリングに注目しなければなりません。こうしたグローバル化の深まりは、貿易政策によっても後押しされています。途上国でも貿易自由化が進んで、関税よりも輸送費の与える影響が相対的に重要になりました。さらにFTA(自由貿易協定)が世界中で多数締結され、原産地規則が複雑になってきています。FTAの数だけではなく、利用促進も重要になっています。

ICTも通じて企業間の取引ネットワークは複雑に絡み合っていて、多数の企業と取引している企業が存在する一方で、海外との取引はまだ数が比較的限られます。国際経済を理解する上で、ショックがネットワークを通じてどのように波及するのかという分析も重要になってきています。

第四次産業革命の中で、国境を越えて移動するデジタル化されたデータが、経済活動を進める上で重要になっています。IoTを活用して海外でデータを収集している企業については、中国やロシア等のサイバーセキュリティ規制の影響を受ける企業が多く、貿易政策を論じる上でデジタル保護主義も重要な論点になってきています。

グローバリゼーションの変調

しかし、グローバル化は、ここ数年、若干変調をきたしているかもしれません。政策の不確実性指数をグラフ化すると、通商政策の不確実性はここ数年急上昇しています。世界貿易の基本的な潮流にも変化が生じている可能性があります。世界の輸出数量をグラフ化すると、日本は輸出の停滞が続いていますが、中国も、リーマンショックで急落した後に上昇を続けてきましたが、米国と同様、ここ数年は輸出量が停滞に転じています。

こうしたグローバル化の変調にも対応して、通商ルールの面では市場メカニズムからの逸脱としての国有企業、あるいは国内補助金をめぐるルールが大きな論点として注目されてきました。また、米国と中国の間での貿易紛争が日本へも影響を及ぼしています。オフショアリングが進んでいる現在の国際分業の状況を考えると、影響が複雑に絡み合っています。さらに欧米で保護主義を支持する動きが力を得ているように見えますが、心理的、行動経済学的な要因、具体的にはリスク回避や現状維持バイアスといったものが保護主義の流れに繋がっていることも明らかになっています。

今後の政策研究上の課題は、大きく2つにグループ化できると思っています。1つは、国境水際での関税引き下げを越えた国境の内側に至るより深い経済統合に関わるテーマです。それには、ICT、輸送インフラ、サプライ・チェーン、デジタル貿易についての議論を今後さらに深めていく必要があります。他方で、欧米を中心に明らかになってきているアンチ・グローバリズムへの対応として、輸入制限・補助金に関する国際規律や、心理的側面にも配慮した広範な国内対策等についての議論が必要です。

「知識創造社会の地域経済」

浜口 伸明(RIETIプログラムディレクター / 神戸大学経済経営研究所教授)

地域経済の現状

日本経済のドライバーとしては、企業業績の拡大や投資の拡大による、賃金増加、消費拡大といった好循環が挙げられますが、こうした要因はなかなか地域経済には波及しません。また第4次産業革命・Society 5.0を実現する技術革新は、さまざまな社会問題を解決する技術として期待されますが、やはり大都市で起こっています。また、規制緩和や国際化が進んでいますが、これも地方は置いていかれがちです。その中で人口減少、少子化、長寿化といった問題はどんどん進んでいますし、毎年各地で自然災害も大きな影響を与えています。経年的な傾向として、地方財政の行政再編、自治体の合併、広域連携が課題になっています。

消費市場は大都市に集積するため、なかなか地方の需要拡大は進みません。インフラやさまざまな中間投入サービスの集積は都市にあるため、生産のコスト、人件費が安くても、地方によっては中間材部品を調達するコストは高くなります。集積の経済を大都市で生かして、大都市におけるイノベーションを促進することも重要ですが、過剰に東京に一極集中することは、必ずしも社会的な最適とはいえません。都市の集積は実現しつつも、ローカル・リソースの革新的な利用により高い収益性を実現していく必要があります。こういったところにIoTやAIといった技術をどう活用していくかを考えなければならなりません。

今後の課題

規制緩和や国際化に関していえば、地方で地域の特徴を生かしたスタートアップ企業を育てることと、今育ちつつある企業を国際化する企業に育てていくことを考えていく必要があります。地方にスタートアップを増やしていく環境整備としては、初期費用をいかに下げていくかが重要です。国際化に関しては、われわれの研究で、すでにある地域の産業集積の中から生産性の高い革新的な企業が生まれ、地方の技術関連集積を活用しつつ国際的な輸出企業に成長していく、という実証が得られています。過去の産業集積力をうまく使って、新しい創造的な企業をサポートしていくことが肝要です。地域の留学生など高度人材の活用も大きな課題です。

ディスカッション・Q&A

モデレータ

中島 厚志(RIETI理事長)

中島理事長:
企業成長に繋がる投資を促すために政府に期待されることは何ですか。

深尾:
過剰な企業貯蓄の使途として、現在はほとんどが社会保障を維持するための財政赤字補填に使われていますが、社会保障に偏らずに、もう少し社会的なインフラへの公的投資も必要だと思います。

中島:
長期的な視点に立った、財政再建への取組を全国規模で展開する際の課題、また対応策についてご意見をお聞かせください。

小林:
財政再建は、現在世代がコストを払うと将来世代が利益を得るという構造になっています。将来世代の利益を代表する者をどうやって意思決定の場に連れてくるかが課題です。現実的なアプローチとして、独立財政機関を作っていくことが必要だと思います。

中島:
国家間の対立を乗り越えるために経済学に何ができるでしょうか。

冨浦:
競争政策では経済学の分析が政策議論にかなり組み込まれています。貿易政策でも同様のことができるかもしれません。また、グローバル化から取り残されている方々の特徴を捉えて、状況を改善するための政策を分析していくことも必要です。必ずしも保護主義や関税の引き上げが有効でないことがわかれば、経済学の一つの貢献になると思います。

中島:
グローバル化について、外国生産の急激な途絶に備えて国内で生産拠点を一定程度維持する必要があるのではないでしょうか。

冨浦:
リスクを避けるためには、複数の供給源を確保すること、特定の一国に依存するリスクを考えることが重要です。ただ、供給源を確保する場合、その立地が日本国内かどうかは別の問題です。

中島:
第4次産業革命は地域経済にどのような影響を与えますか。人口減少に直面する地方は第4次産業革命にどう取り組むべきでしょうか。

浜口:
現在、テレワークが本格的に進み始めています。これにより生産性が高くなるのかを検証しつつ、日本経済全体に良い影響を与える可能性があるとすれば、さらに進めていくことが期待されます。地方に住むという動きも一部では進んでいますし、これを好機として、東京に住んでいなくても生産性の高い活動ができることが認知されていくことは地域経済にとって有益です。ただし、経済的にも持続可能な形で進む見通しが立たなければ、なかなか進まないでしょう。

中島:
日本で就職したい留学生と、企業が採用したい留学生の効果的なマッチング方法について、ご意見をお聞かせください。

浜口:
地域で学んでいる間に、その地域の良さを知ってもらう機会や、さまざまな地元企業との交流を進めるなどその地域に関心を持ってもらう機会を提供することが大切です。

中島:
第4次産業革命の進展は、マクロ経済のフレームワーク、国際貿易、対外直投、地域経済、産業投資に、どのような影響があるでしょうか。

深尾:
中小企業の生産性をいかに引き上げるかが大きな課題です。また、労働全体の3割弱、女性の過半数が非正規雇用で働いていて、熟練が蓄積されず低賃金であるという問題をいかに解決するかも大切です。この二重構造と非正規雇用の問題を解決する上で、デジタル経済がいかに活用できるかを考えていく必要があります。

小林:
ビッグデータを取れるようになると、所得分配の問題に、何らかの政策を打つことができるようになるかもしれません。また、今後は人によってや、時期や状況によって商品の価格が日々変動していくことが当たり前になるかもしれません。日本では、ゼロ金利政策が、実はデフレ期待を長引かせる要因になっている可能性があります。こうしたことも考えながら政策を組み替えていく必要があると思います。

冨浦:
データの移動は増えますが、モノの貿易が活発になるかは明らかではありません。また、労働賃金の安さだけをテコにして成長している国にとっては、人件費の強みが弱まります。一方、先進国も個人情報に敏感な国はビッグデータが集まらないなど、従来と違った尺度で国際的な優位性が決まってくると思います。

浜口:
地方の社会問題の解決に役に立つと思います。ただし、どこまでコストが下げられるかが課題です。

中島:
第4次産業革命の進展が、日本経済が抱える課題の改善・解決に役立つためにはどうすればいいでしょうか。

浜口:
第4次産業革命の技術は、地方が抱えているモビリティの問題と人手不足の問題に貢献するでしょう。地方を試験的な導入の場として積極的に活用すると良いと思います。

冨浦:
生産性の面で劣っていると思われるバックオフィス事務や中小企業、あるいは国際的な繋がりの遅れを改善できれば、大きな課題の解決に貢献できます。

小林:
大きな基幹技術が変わり始めるときには、一時的に格差が広がって成長も鈍化し、基幹技術が成熟すると、社会構造もそれに合わせて適応して変わっていき、技術と社会がうまくマッチしたときに高い成長と格差の縮小が起きます。今は第4次産業革命によって基幹技術が大きく変化しようとしているときです。いかに社会の構造を変えるかを考え、誰もが新技術を使いこなして所得を得られるようにすることが目下の課題です。そうすることで、21世紀の前半のうちに、また高度成長や格差是正が起こるのではないかと考えています。

深尾:
日本的雇用慣行の下で、若い労働者が終身雇用で安定した雇用を求めるため、大企業に優秀な人材が集まります。中小企業の生産性の向上や技術の普及という観点では問題があります。終身雇用制度を変えて、会社を興しやすい状況に変えてくことが一番の課題です。また、大学間の競争をもっと自由にして、特に、偏差値の低い大学の質を高めることも大切です。

中島:
日本経済を活性化する手立てはあるのでしょうか。

深尾:
中小企業の問題と非正規雇用の問題をいかに変えていくかが大きな課題です。

小林:
金利が低い状態が続くことによって、企業、事業会社がリスクを取らなくなり、イノベーションや投資が行われていない可能性があります。また、金利が低いのに設備投資が起きないことにも、何か企業の意思決定に構造的な問題があるのかもしれません。もっと、経営者が低金利の環境を生かして合理的に投資するようなプレッシャーを作るなど、制度環境を作ることが必要です。

冨浦:
海外の企業とコラボレーションできる組織になることを指摘しておきたい。第4次産業革命の時代であればこそ、基本的な教育が重要になります。また、将来の不確実性に対する不安を払拭することも大切で、ルールやシステムを見通しよく整備することが求められます。

浜口:
地域経済にとっては、大企業を誘致してくることに加えて、地域のリソースを使って新しい事業を興していくための人材や環境整備をしていくことが重要です。そのためにも、地方大学におけるアントレプレナーシップ教育を進めていく必要があります。