METI JPO-RIETI国際シンポジウム

標準必須特許を巡る紛争解決に向けて -Licensing 5G SEPs-(議事概要)

イベント概要

    • 日時:2018年3月13日(火)9:30-18:00(受付開始9:00)
    • 会場:紀尾井カンファレンス・メインルーム(東京都千代田区紀尾井町1番4号)
    • 主催:独立行政法人経済産業研究所(RIETI)、特許庁(JPO)

5G(第5世代移動通信システム)時代、IoT(Internet of Things)時代を迎えつつあるいま、イノベーションに対していかなる制限も課すことなく、標準必須特許(Standard Essential Patent : SEP)を巡る紛争を解決するにはどうすればよいか。本シンポジウムの前半では、元米国特許商標庁長官のデビッド・カッポス氏が「近年のSEPを取り巻く環境の変化と各国の動向」を、元連邦巡回控訴裁判所首席判事のランドール・レーダー氏が「SEPを巡る紛争解決のための国際仲裁の現状と課題」をテーマに特別講演を行った。後半では4つのパネルディスカッションにおいて議論が交わされた。

(敬称略)
※本文中の肩書き・役職は講演当時のものです。

議事概要

開会挨拶

岸本 吉生(RIETI理事)

本日、元米国特許商標庁長官のデビッド・カッポス氏と元連邦巡回控訴裁判所首席判事のランドール・レーダー氏を特別講師としてお迎えできたことを光栄に思う。お2人の講演後は、シンポジウムテーマの分野における専門家諸氏と、4つのパネルディスカッションにて、SEPの望ましいライセンス交渉のあり方、5G時代におけるSEPを巡る異業種間の紛争防止、FRAND(Fair,Reasonable and Non-Discriminatory:公平、合理的、かつ非差別的)条件を満たすライセンス料算定の考え方、SEPを巡る紛争解決手段としての国際仲裁の活用のあり方を議論する。

SEPを巡る紛争解決および5GのSEPライセンス供与に関して、交渉の円滑化を目的とするガイドライン草案が作成された。近年、特許庁はこのガイドライン草案についての意見を収集しており、今後その有用性が認められることが期待される。

日本では第4次産業革命が起こりつつあり、5G時代は目前に迫っている。今の間にSEPが広く活用されることが望まれる。本シンポジウムでは国際仲裁の機会など、5G時代の紛争と解決についての議論を行う。本日は多様なトピックが取り上げられるが、実りの多い議論となることを期待する。

基調講演「SEP ライセンスの円滑化に向けて 〜日本特許庁のアプローチ〜」

宗像 直子(特許庁長官)

さまざまなインフラや機器がインターネットを通じてつながり合うIoTの普及によって、通信技術を多様な業種が利用するようになり、例えば、自動車業界やサービス業界も通信技術のライセンス交渉に関わるようになっている。中小企業についても無縁とは言い切れない。

特許庁では、SEPを巡る紛争を未然に防止し、早期に解決するため、SEPのライセンス交渉に関する手引きの作成を進めている。この手引きは法的拘束力を持つものでも、これに従って交渉すればロイヤルティが自ずと決まるような「レシピ」でもない。交渉にあたって踏まえるべき考慮要素を整理したものである。

近年、SEPのライセンス交渉において当事者がどのように行動すべきかについての見方が、内外の裁判例において収斂してきているように見受けられることを踏まえ、手引きでは、各交渉の段階において当事者が提供すべき情報の範囲や応答期間についての考慮要素や、サプライチェーンのどのレベルの主体(例えば、最終製品メーカーか部品メーカーか)がライセンス契約の締結主体となるべきかについての考慮要素を整理した。

また、ロイヤルティの算定の基礎をどのように決定すべきかの考慮要素についても整理した。

特許権者からは、標準必須特許の技術が最終製品全体の機能や需要の牽引に貢献している場合は最終製品全体の価格を算定の基礎とする EMV(Entire MarketValue:全体市場価値ルール)の考え方を採用すべきとの声が聞かれる。一方、実施者からは、標準必須特許の技術が最小販売可能特許実施単位である部品に閉じていれば当該部品の価格が算定の基礎となるというSSPPU(Smallest Salable Patent Practicing Unit) の考え方を採用すべきとの声が聞かれる。

さらに、特許権者からは、同一の標準技術であっても、その技術が使われる最終製品が異なれば、その使われ方に応じてライセンスの料率や額が異なるべきであるという、いわゆるUse-basedライセンスと呼ばれる考え方を採用すべきとの声が聞かれる。一方、実施者から は、Use-basedライセンスは差別的であり、FRAND条件に反するとの声が聞かれる。

SEPを巡る紛争は、国際的な問題であり、複数の国で多数の権利について同時に発生する。調停や仲裁といったADR(Alternative Dispute Resolution:裁判外紛争解決手続)によれば、各国における多数の権利を巡る紛争を一括して解決することが可能である。特に仲裁については、ニューヨーク条約によって国際的な強制執行が可能なので、国際的な紛争の迅速かつ実効的な解決が見込める。

各論点について活発な議論が行われ、本シンポジウムが皆様にとって意義あるものとなるよう祈念する。

特別講演1「近年のSEPを取り巻く環境の変化と各国の動向」

デビッド・カッポス(元米国特許商標庁(USPTO)長官)

5Gを抽象的なものから具体的なものへと変換させたイノベーションの育成は、私たちがどのように知的財産や標準規格を評価・保護するかにかかっている。それにはバランスが求められる。

極めて重要な標準ベースのイノベーションを継続的に育むためには、インセンティブの実施が必要である。標準規格とSEPの間にバランスを創出するため、イノベーション保護の新たな優先順位が設けられるべきである。イノベーションのあるところに活動があり、それが最も重要であるからだ。

米国知的財産制度の衰弱を後押しした要因の1つはパテントトロールを巡る懸念であった。パテントトロールの問題に対応するため、米国最高裁判所は特許力の規模を縮小した。2011年には米国特許改正法が承認された。特許権者侵害に対してさらに下向きの圧力をかけることを目的とし、厳しい規則を定めた法律がほぼ全州で制定された。

反トラストへの懸念が特許全般、とりわけSEPを弱めるという誤った取り組みにつながった。独占禁止法と知的財産法は根本的に互換性がないとの見方もある。知的財産権の短期的代価は直接的で明白であるが、知的財産権の利益は長期的に発生する。

全員が獲得のインセンティブを与えられながら、与える人が誰もいないというシステムは、古典的なコモンズの悲劇を提示している。ライセンス供与は数少ないイノベーターと多くの実施者の間の価値観を共有する最も自然で拡張性のある方法だ。イノベーターのインセンティブにおいてリーダーシップを取る国々は、創造的取り組みから生じる莫大な経済的機会を得る態勢が整うだろう。

特別講演2「SEPを巡る紛争解決のための国際仲裁の現状と課題」

ランドール・レーダー(元連邦巡回控訴裁判所(CAFC)首席判事)

一般的にライセンス制度は非常に上手く機能しており、紛争となるのはわずかな割合である。ただし、これらの紛争はバランスを乱し、全過程に悪影響を及ぼしかねないという点でとても重要になることがある。

複雑なSEPの事例を扱う過程は難易度が高い試みを要する。数えきれないほどの特許が異なるポートフォリオにグループ化され、処理されることは珍しくない。

紛争解決システムをより効果的に機能させるため、4G分野には多様な企業が関わっている。これらの企業からの貢献は標準設定ニーズに対してバランスの取れたものでなくてはならない。

米国では、類似または同じ特許に関する事例について、裁判所によって異なる判決が下されることは損害となる。これは最終的な判決が不確実性になるからである。不確実性はイノベーターと実施者の間のバランス保持をもたらすはずのライセンス制度を混乱させる。

手段、救済方法、または反トラストが強い影響力となるのか、それが紛争解決過程にどのような貢献をするのかについて、合意があるわけではない。ただ、不確実性、複数の控訴、費用という3つの明確な規定があるように思われる。

世界有数の経済圏でありながら、バランスに対する開放性に優れた日本・東京に国際仲裁センターがあれば、世界中の特許専門家の第一人者を一堂に集めることができ大変有益だろう。

国際仲裁制度の難しさに対処するためには、まず長すぎるプロセスを改善すべきだ。また、控訴問題は主裁判官で構成される理事会に任せることで、理事会はすべての判決を審査し、当事者は主な間違いを指摘するためのヒアリングを要請できると考える。

パネルディスカッション1「SEPの望ましいライセンス交渉のあり方」

プレゼンテーション1

長澤 健一(キヤノン株式会社常務執行役員知的財産法務本部長)

私たちはバランスに対してもっと注意を払いたい。特許数は大幅に変化・増加している。記憶しているだけでも、公衆通信、ビデオストリーミング、圧縮、無線に対し10,000件以上のSEPが存在する。

SEPライセンスを取得するだけでは製品を生産販売することはできない。特許の相互使用の場合、除外すべき製品・技術、期限として採用すべき特定期間など、多くの契約要因を考慮する必要がある。SEPの所有者が他の特許も所有している場合、私たちはSEPのみのライセンス取得を試みるわけではない。それだけでは事業への保護が十分ではない。

SEPに関するFRAND宣言については、特許を特定しない白紙宣言が望ましい。全ての特許の必須性判断は実務上非常に困難だ。また、特定の特許の必須性に関しては「誰」が「どのように」判断したのかが重要となる。できる限り透明性が確保されることを希望する。

プレゼンテーション2

鈴木 將文(RIETIファカルティフェロー/名古屋大学大学院法学研究科教授)

FRAND 宣言されたSEPに関する訴訟は、紛争中の法的問題に応じてタイプが異なる。ここではSEP保有者が彼らの権利の強化を試みている種類の紛争に焦点を当てる。FRAND条件には2つの側面があり、さまざまな、または一連のライセンシング供与条件を指し、ライセンシング供与条件に同意する過程として機能する。私たちはライセンス交渉でFRAND条件について考える必要がある。FRAND宣言されたSEPの実施制限は世界レベルの傾向だが、裁判所で取られるアプローチは国により異なる。アプローチには大きく分けて契約アプローチと競争法アプローチがある。後者のアプローチではSEPの実施を制限するために、競争への影響が審査される必要がある。損害賠償請求の処理もこれらのアプローチ間で異なる可能性がある。

プレゼンテーション3

クリスチャン・ロヤウ(欧州電気通信標準化機構(ETSI)法務部長)

フランスの法律では、FRANDライセンス契約は知的財産権法に従うという条件において、リース契約とどこか類似している。従って、フランスは基本的に民事構造下にある。この民事構造下で、フランスは誠実な交渉という考え方を導入した。

私たちが気付いたのは、国により異なる基準が存在するということであった。標準化、ライセンス供与、紛争は国際的事象であるが、紛争解決は国内問題に過ぎない。仲裁はこれに対する解決策となるかもしれない。ADR(Alternative Dispute Resolution:裁判外紛争解決手続)において、私たちは重要な仲介段階を欠いている。委員会が言明したのはコミュニケーションであり、それは、主に透明性、評価、施行の3点を指す。

プレゼンテーション4

グスタフ・ブリスマルク(エリクソン最高知的財産責任者・知的財産権&ライセンス総責任者)

本日は5Gに焦点を当てる。私たちは新しいライセンス供与標準規格が求められる新しい時代を迎えている。新しい分野に参入するために5Gの採用が予期されることが主な理由である。今後、接続され得るすべてのものがそうなるだろう。エリクソンは両当事者が交渉し、合意に至るためのインセンティブの必要性を見てきた。私たちが見てきたホールドアップに関わる問題は、市場に参入する企業が交渉を必要とみなしてこなかったことによるものである。価格差別化は重要な役割を果たしている。異なる価格はIoTに対する標準化の最大採用を許容するからである。

ディスカッション

モデレータ:ハインツ・ゴダール(Boehmert & Boehmertシニアパートナー/独特許弁護士)

ゴダール:
ドイツの特許法では、もし特許の下でライセンスが認められれば、その特許の販売時に問題は存在しない。事業体は、特許を購入しライセンスを取り外すということはできない。彼らはライセンスを満了しなくてはならないが、契約が必要である。ドイツ連邦経済 省にとっては、ライセンスでもなく、法律によって自動的に特許に添付されている訳でもないFRAND宣言の扱いが主な懸念となっている。欧州電気通信標準化機構(ETSI)の見解はどのようなものだろう。フランスでは特許がどこかに販売された場合には、FRAND条件が特許に付随するのか。

ロヤウ:
米国知的財産権者協会(IPO)の方針では、FRAND宣言は特許に付随しなくてはならないと規定されている。宣言の義務の一部である。問題は、ライセンス取得または交渉が第三者受益者の義務なのかという点である。

ゴダール:
経済省で議論された可能な解決策は、FRAND宣言の実行者はライセンスを(パテント)プールに与えなくてはならず、プールはライセンスを保有するというものである。これによりライセンスを持つ特許にライセンスが付随することとなる。差別があるとすれ ば、またはFRAND申請が差別を回避するためのものだとすれば、参加者全員にライセンス取得が提供されなくてはならないのか。遠隔関係者がいる場合、彼らにはFRANDライセンスへの完全な権利が認められるのか。

ブリスマルク:
要するに、全員にアクセスできる必要があるということだ。ある一端の製品メーカーにライセンスを付与すれば、すべての関係者にライセンスを付与しなくてはならなくなるだろう。

ロヤウ:
基本的に全員がアクセスできるべきだ。しかし、ダウンストリームの価値連鎖にライセンスを付与する時、アップストリームの事例では何が起こっているのかという大きな疑問がある。オープンな標準化と継続的なイノベーションを目指すのであれば、それに関して何か対処が必要である。

鈴木:
全員にライセンスを付与することに賛成だ。しかし、特許権は登録国内のみで拡大適用され、紛争の可能性は特定の場所に限定されているため、事実上の地理的制限がある。

長澤:
もちろん全員にライセンスを付与することに同意する。契約アプローチの下ではFRAND宣言をしたものは義務付けられ、それが問題となる可能性がある。

Q&A

Q:
ホールドアップは問題だと考えられていた。訴訟や差止命令など、規定の特許権者の救済にはどのような手段があるか。

ブリスマルク:
特許権者の立場からは、長期的に考える必要があると考える。ホールドアップに関する問題は増加の一途をたどっている。最終的には法制度の整備により、交渉に基づく解決へのインセンティブが再び増加することを望んでいる。

鈴木:
ホールドアップはもちろん、ホールドアウトに対する懸念もますます重視され始めている。バランスの取れた紛争解決を達成するには、全く新しいメカニズムを導入するのではなく、FRAND概念を使用して、知的財産権政策に基づく現メカニズムに頼るべきである。世界的に調和したメカニズムを手にできることを望む。紛争解決はできる限り早急に行われるべきであり、現実的なアプローチが採択されるべきである。

長澤:
ホールドアップに対抗する交渉はほぼ不可能だが、パテントプールを作ることは1つの解決策となる。その場合、パテントプール会社が訴権を有するべき。ライセンサーになる場合は、全グループ会社のSEPを登録させるべきである。

Q:
反トラスト法は強制であることから常に適用される。契約アプローチと反トラストアプローチの違いは何か。

鈴木:
先に指摘したが、競争の効果は競争法アプローチにより審査されなくてはならない。損害賠償請求の処理に相違点があっても良い。両当事者がFRAND条件に則り行動する場合、SEP保有者による損害賠償請求の範囲は2つのアプローチ下で異なるかもしれない。

長澤:
契約法の場合はFRAND宣言の有無が重視される。より広範囲に適用する場合、もし標準設定の活動を行っているとすると、FRAND宣言をしなくてはならないルールとすべき。これにより、より多くのSEPにFRAND宣言が適用できる。競争法の場合は市場支配原則が適用される。しかし、SEPの所有権を保有するのみで、自動的に支配的地位を構成するのか。この点についてはさらなる議論が求められる。

パネルディスカッション2「5G時代におけるSEPを巡る異業種間の紛争防止に向けて」

プレゼンテーション1

ダン・ラング(CISCO知財担当副社長)

SEPを巡る紛争をイノベーターと実施者の間の問題とする考えには賛同しない。私たちは相補的形態のイノベーションを扱っている。SEPを巡る紛争を抱える時、イノベーターではなく、異なる種類のイノベーションを相対的に評価する方法について話す。特許保有の目標は、人々がテクノロジーから利益を得ることができるようにするためのイノベーションの促進だ。標準規格は、実施されるまで、またそれに続く莫大な量の相補的イノベーションがない限り、単独では有益とならない。ライセンス料に関わる複雑な事態は紛争の原因となる。ライセンス料を設定せずに成果を挙げている重要な標準規格は数多くある。紛争を軽減するため、評価額を定めるためにできることは何か、評価額をより予測可能なものとするためにはどのようなことができるのか。

私は、SSPPUに焦点を合わせるべきと考える。さまざまなSEPライセンス料を異なる使用方法に割り当てることは、SEP保有者が他者のイノベーションから評価を期待していることを意味する。

プレゼンテーション2

マックス・オロフソン(AVANCIライセンス部長)

特許保有者数と製品メーカー数は、私たちが標準化するすべての新世代製品とともに増加する。特許保有者は彼らの特許にライセンスを与えることが益々困難になっていると感じている。小規模企業にとってはほとんど不可能となりつつあり、特許がそうなるずっと以前に売却されるような状況につながっている。これは簡潔さと透明性に対して何の貢献にもなっていない。透明性の欠如がおそらく最大の問題だろう。異業種からのSEPを巡る紛争を防ぐための最も重要な要素は、簡潔さ、透明性、予測可能性である。

プレゼンテーション3

イルッカ・ラーナスト(ノキア最高特許ビジネス責任者・副社長)

ライセンス供与に基づくビジネスモデルを持つ企業においては、適正報酬を得ることは非常に重要である。私たちは、新規にコネクティビティ技術を採用した自動車業界が、通信規格標準必須特許のライセンスの許諾を得られるように活動を広げている。

消費者が追加で支払って良いと考える自動車のコネクティビティの付加価値を独立第三者機関に調査を委託した。一台あたり400ドルから1,000ドルというの付加価値があるという市場調査結果だった。ライセンス対象製品が何であるかという議論があるが、我々のライセンス方針は、常に完全なすべての機能を有する最終製品へのライセンス許諾である。

ディスカッション

モデレータ:デビッド・カッポス(元米国特許商標庁(USPTO)長官)

カッポス:
ライセンス供与ベースとしてのTCU(Telematics Control Unit::テレマティクス制御ユニット)について、自動車のセルラー方式接続コンポーネントに対するライセンス料請求ベースとして、TCUがどのように機能しているのか見解をお伺いしたい。

オロフソン:
ライセンスベースとライセンスレートの掛け算に焦点を合わせず、車体ごとの価格を重視してきた。重要なのは、エンターテインメントシステムをその他のユニットと混合しないため、自動車には複数の接続ユニットが存在するということだ。1台の自動車には多くのユニットがあり、そのため非常に高価になり得る。

ラング:
簡潔化し、他の技術では非常に一般的で複雑な問題にも巻き込まれていないSSPPUに焦点を合わせることが適切なアプローチだ。

オロフソン:
重要なのは透明性と予想可能性だ。私たちが話を聞いた自動車会社は、もしも彼らの競合相手がより少ない接続コンポーネントを有しているのなら、さらに支払うとのことだった。これを簡潔化する方法は、コンポーネントの数にかかわらず、車全体に対して1度の支払いを行うようにするというものだ。

カッポス:
第三者を持ち込むことは事態をただ複雑化することにもなる。1次サプライヤーを交渉の場に参加させ紛争解決の手助けとすることに問題はないだろうか。

ラーナスト:
難しいのは、ライセンス料の支払いを開始するかどうかについて、最終的に誰かが決定しなくてはならないということだ。

カッポス:
オロフソンさん、1次サプライヤーとの話し合いに関し、BMWでの経験を聞かせてほしい。

オロフソン:
当初は建設的な議論ではなかったが、変化があり、私たち三者全員が自動車のライセンス供与に有益性を見いだした。BMWは、ライセンスを持っていればどの特許や製品が使用許諾を受けているかに加え、それらの使用許諾期間も正確に知ることができ、あいまいな補償の約束に頼る必要はないことに気づいた。
1次サプライヤーが、車には多くのモジュールがあると気づいた時にひらめいたのだ。落ち着いて問題を分析し、解決策を見つけようとする意思があれば、解決策は見つかる。

ラーナスト:
ライセンス供与において、人々は大きな間違いを犯すことを恐れている。

カッポス:
実施者に伝えられる情報の一片が、彼らがライセンス取得について肯定的な決断を下し、悪意ある交渉をしているとみなされることを回避する助けとなるのはなぜなのか。

オロフソン:
私たちは製品メーカーと特許保有者の間に位置しており、解決策を模索するため両当事者の意見に耳を傾けている。互いが信頼し合えるよう、ここでは透明性が重要である。

カッポス:
ライセンシーの視点からだが、ライセンスを取るか否かについて良い判断を下すために何が必要なのか、ライセンサーが伝えてくれればと歯がゆく感じているのではないか。

ラング:
足りないのは情報の一片というわけではなく、むしろ金額が現実的かどうかということだ。製品とその価値に敬意を持っているなら、それはとても役に立つ。

ラーナスト:
私たちはライセンス供与に対して体系的なアプローチを取っているため、情報パッケージを提供している。1件の特許で相当量のライセンス料を手にすることは難しいだろう。

Q&A

Q:
技術ユーザーへの付加価値について話し合いたい。価値決定はどのように行うか。

ラーナスト:
例えば、私たちは外部の経済コンサルタントから自動車産業における接続性に関するデータの提供を受けている。意欲ある売り手と買い手を確保する必要がある。それはまた、両当事者の期待を反映する価格を生じさせることでもある。

ラング:
フラットバリューに戻る必要があると思う。また、ビジネスの他の側面で価格差別があり、それは標準規格の設定に適切ではない。

パネルディスカッション3「FRAND条件を満たすライセンス料算定の考え方」

プレゼンテーション1

ジョン・ハン(クアルコム上席副社長・ライセンス事業本部長)

クアルコムのような技術イノベーターは、標準規格採用を目指し、未知数の多い中、長年にわたり基盤技術の研究開発に何十億ドルも費やし、非常に大きなリスクを背負う。こうしてシステムレベルの問題解決をしながら、エコシステムを作り上げ、すべての人が市場に最高の製品を投入できる技術を提供している。クアルコムは研究開発に長期コミットし、知的財産権を重要視しており、アクティブな特許と特許出願を含む13万件以上から成るグローバル特許ポートフォリオを持ち、123カ国以上で特許保護の申立を行っている。

特許ごとのライセンス供与は、1件、2件、或いは限られた数の特許を保有している場合、クレームを見て、特定の管轄においてライセンスの議論に入る。当社の特許ポートフォリオの規模や、世界中で定期的に新規特許の取得と出願を行っていることから、特許ごとのライセンス供与は最も望まない。クアルコムとライセンシーは、1つの製品に対して特許1件1件のライセンス交渉を繰り返し行うといった非効率な手続きを避けたいと考えている。そのため、セルラー業界では、規模の大きな特許ポートフォリオについては両当事者が効率良く実用的なライセンス合意ができるよう、グローバルポートフォリオベースのライセンスを採用している。したがって、クアルコムのような主要特許保有者は、自社のイノベーションをポートフォリオライセンスしている。これにより、一つの契約で、取得済み特許のポートフォリオと契約期間中に新たに取得した特許は、ライセンシーにより製造・販売された全対象製品に対してライセンス供与される。

プレゼンテーション2

李大男(ファーウェイIPライセンス・取引担当副部長)

昨年時点で、私たちは世界中で74,000件の取得特許を有していた。これには特許申請中のものは含まれていない。特許ポートフォリオの大部分はSEPである。また、私たちは5G標準規格に対しても非常に積極的に貢献している。ライセンス範囲は製品の製造国や販売国、特許ポートフォリオの強さ、異なる国での法的環境など、さまざまな要因に影響されるだろう。5GとIoTに関しては、集計ライセンス料の割合を下げることができると考えている。5G・IoTの文脈では画一的なアプローチは望ましくなく、よって柔軟性が必要となる。5GとIoTにとって特許プールは素晴らしい考え方だと考える人は多い。しかし3Gと4G 時代には、3G・4GのSEPをライセンス供与する特許プールは、スマートフォン業界で全く成功しなかった。このことから、5GとIoTにおいてもその成功には疑問を持っている。

プレゼンテーション3

高橋 弘史(パナソニック IP マネジメント株式会社イノベーション知財部知財開発1課課長)

パナソニックは知的財産権において、ライセンサーだけでなくライセンシーとしても、両側面からの経験を得てきた。5GとIoTは新しい話題であり、それらがビジネスの一部を変えている。それによりSEPを巡る環境も変化している。

ライセンス料の算定については、ライセンス料ベースの決定は今も問題である。さまざまな実施者が多種多様なサービスと製品にコミュニケーション技術を使用している。従って、実施者によって得ることのできる利益の程度は、異なる可能性がある。業界標準に準拠する製品が市販される前にライセンス料を決定することは非常に困難である。集計ライセンス料の集積に制限を設ける方がより適正かもしれない。これは、SEPの集積された価値が標準規格全体の価値を超えることは合理的ではないからである。EMV(Entire Market Value:全体市場価値)は1つの極であり、SSPPUは 対極である。ライセンス料は、たとえ同じ標準規格内においても、製品分類、製品価格、販売数、利益率を考慮し、1人の実施者が標準技術から得る利益の程度に基づき決定されるべきである。最後は、より適切な単一の世界価格または地域価格についてである。これらの価格は国の経済発展段階、販売国、標準規格が採用されている地域を考慮したケースによって決定される。

プレゼンテーション4

BJワトラス(アップル副社長・最高知的財産法務部門責任者)

イノベーターと実施者間の戦いであるとの提案があったが、それは正しくはない。これは2人のイノベーター間で起こっている彼らの貢献と特許技術の価値についての議論である。私たちがバランスを失っていた2007年以降、私たちが多くの進歩を遂げてきたという事実を考えてほしい。2018年現在、ライセンサーとライセンシーは以前よりもFRAND評価やバランスについてずっと多くの共通点を持っている。SEPの差止命令は好まれない。それらはホールドアップを創出するため、FRAND評価を歪める可能性がある。重要なのは特許の価値である。ロイヤルティ・スタッキングも懸念される。分配が求められる。FRANDライセンスは標準化の価値や最終製品ではなく、特許技術と関連すべきである。

ディスカッション

モデレータ:長岡 貞男(RIETIファカルティフェロー/東京経済大学教授)

長岡:
SEPの価値を最終製品への付加価値と特徴付けることに対して、パネリストの間で異論はないと思う。ロイヤルティ・スタッキングが問題かどうか、先のセッションで疑念も表明されたが、何人かのパネリストによれば、重要な問題である。ライセンス料の集計に上限を設けることでロイヤルティ・スタッキングを軽減できる可能性があるが、この件についてハン氏からご意見を頂戴したい。

ハン:
技術が標準化される前で、特許ポートフォリオの強みや価値を知る前の段階で、特許技術に対して請求され得る累積ライセンス料に任意の数字を設定することは間違っている。第二に、すべての特許(またはSEP)の価値は同じまたは類似していると想定できない。故に、数値的比例は特許保有者にライセンス料を分配する正しいメカニズムではないだろう。単に特許数を数えることは安易に答えを提供するかもしれないが、特許発明の真の価値を反映せず、業界にとっても最善の策ではないだろう。

長岡:
よって、集約ライセンス料の設定が望ましいことであるとしても、その実施方法という問題が残っている。標準開発のための研究開発インセンティブに適切な配慮をしたライセンス料を事前交渉枠組みで決定することは複雑であるとのハン氏の意見に同意する。その他の問題については、パネリストの間で大まかな合意があるように思う。適切なライセンス料ベースの選択については、製品の性質とSEP特許の貢献範囲を反映し、交渉当事者に委ねることが最善である。異なる市場、発展レベルが異なる国々の間でのライセンス料の相違は、FRAND条件違反を構成するものではない。

パネルディスカッション4「SEPを巡る紛争解決手段としての国際仲裁の活用のあり方」

プレゼンテーション1

片山 英二(阿部・井窪・片山法律事務所弁護士・弁理士)

SEPを巡る国際仲裁に関して、各国における紛争を1つの仲裁で解決できるという魅力がある。仲裁において最も重要なのは適正な結論をもたらす仲裁人の質であるが、特許訴訟を各国の裁判所で判断してきた著名な判事の人たちを仲裁人として招くことができる。また、彼らは仲裁判断が適正であることをチェックするボードのメンバーとして選ばれる。この国際仲裁は、時間的には、裁判所における訴訟よりもはるかに速やかである。一方、いくつかの懸念もある。例えば、対立した当事者は仲裁に合意しない可能性があることだ。

プレゼンテーション2

クラウス・グラビンスキー(ドイツ連邦最高裁判所判事)

仲裁には仲裁合意が必要である。通常の仲裁順序では、関係者が同意書を作成し、万が一非合意が発生した場合には仲裁に進むことに同意する。SEPを巡る紛争においては、関係者が対立しているところから始まる。彼らはそれでも仲裁に合意しなくてはならない。仲裁を選択する動機には、関係者については内密の扱いにできること、仲裁は裁判所の訴訟よりも速やかに終えられる可能性があること、両当事者が仲裁者の選定に影響力を持っていることがある。デメリットは仲裁者には差止命令を発行する権限がなく、特許の有効性に関する管轄権を持たず、また仲裁には公的な事件記録がないことだ。仲裁と訴訟以外には、最初のSEP事例の裁判所への持ち込みとライセンス料の金額に関する裁定を仲裁に移すことによる、第三の選択肢がありうる。

プレゼンテーション3

蒋志培(元中国最高人民法院知的財産権法廷裁判長)

経済成長にとって紛争の効率的かつ公正な解決は不可欠である。中国は紛争解決のため2つの司法政策に力を入れている。司法の保護は知的財産権の保護が大半を占めており、複数の紛争解決方法が存在する。仲裁を通して紛争解決に取り組む際の障害は、関係者の仲裁合意が必要なことである。その実現のためには、仲裁合意が関係者に魅力的なものでなければならない。関係者は仲裁を信頼性があり便利な方法であると考えるべきである。

プレゼンテーション4

ランドール・レーダー(元連邦巡回控訴裁判所(CAFC)首席判事)

関係者は使用許諾取得のためすでに契約を締結しており、差止命令は不必要である。関係者は適切なライセンス料についての合意に至ることができない。仲介の構成要素は仲裁過程の段階では素晴らしい考え方である。また、東京に国際仲裁センターを設立するという案を強く支持する。この案の2つの素晴らしいメリットは、まず、1年という規定制限時間がある唯一の仲裁となることである。2つ目は、関係者が重大なエラーと考える何かを請願できる唯一の仲裁システムであることだ。このセンターはSEP ライセンス供与や他の形態の経済紛争に多大な貢献をもたらすことができるだろう。

ディスカッション

モデレータ:玉井 克哉(東京大学先端科学技術研究センター教授)

玉井:
SEPを対象とした国際仲裁センターを東京に設立するという案についてどう考えるか。

片山:
非常に良い案だと思う。裁判所制度は良くできているが、もう1つのフォーラムを持つことはこの種の物事が価値あることだと決定する。ユーザーにもう1つの選択肢を与えているのだ。

玉井:
時間制限の1年は適切か。

グラビンスキー:
審判員としての経験からは可能だと考える。とても厳しいタイムラインを付けなくてはならず、関係者はそれを守らなければならない。何百件もの特許を扱えないため、選択しなくてはならない。ワンストップ国際紛争解決を持つことのメリットも持つだろう。裁判所では訴訟は並行して行われる。私は重要な法について批判的である。

レーダー:
法律の選択についてだが、私はそれを仲裁の強みだと捉えている。3人の仲裁人に適用される好きな法律を選択できる。彼らはその法律を適用する義務がある。ただ、あなたはフランスの法律の使用を選択できる。

玉井:
どの法律を選択したいか。

レーダー:
法律質問の選択に関して議論することはよくあることだ。

グラビンスキー:
これは通常の仲裁状況ではない。当事者がお互いに行為を持っていれば適用可能な法律に同意することは簡単だ。当事者間にすでに紛争が発生している場合、当事者は彼らに有利になる法律を選択するだろう。

レーダー:
私たちも同様の法律選択過程を経験するだろう。しかし迅速な国際的決定をもたらさない方法で行う。国際仲裁センターを使って1年間で行う方が良いだろう。

玉井:
中国の裁判所で専門家に支援してもらった経験はあるか。

蒋:
退官した判事が仲裁に参加することも多い。近年、地方裁判所での仲裁の実施が増えている。実施を拒否するなら最高裁判所に申請書を提出しなくてはならない。

玉井:
国際仲裁の判断は裁判所での判決よりも予測が難しいだろう。仲裁の選択によるものだ。国際仲裁の統一された判断をどのように得ることができるだろうか。

レーダー:
統一判断を得るために、仲裁者は慎重に検討し結論を出さなくてはならない。統一判断に到達することを試みる強い伝統がある。従って、3人の仲裁者は多くの時間を議論に費やすだろう。それが信用できる法的判断の提供に資することになる。裁判所の決定よりも透明性があるように思われる。裁判所の決定は過去の判決に合わせたり、衝突を避けたりしなくてはならない。それは興味深いものだが、私が見た中で最高の法的業務は良くできた仲裁決断にあった。

グラビンスキー:
ドイツの裁判所と仲裁の間の審議もだいたい同じである。裁判所は一貫性を持ち、長期的に予測可能であろうとしていることは事実である。仲裁を管理することはできないが、一貫性を保つようにしている。アプローチはほぼ同じだと思う。

玉井:
ニューヨーク条約の締結国でさえ、判決が一般に反していればその国では強制できない。これは仲裁が最終的な解決策を提供しないことを意味する。この点についてどう考えるか。

片山:
訴訟の判決時には、仲裁者は十分に注意するだろう。

レーダー:
米国では信憑性のようなものがなく法律から極端に逸脱しているというわけでなければ、裁判所によって仲裁判決が実施される。

グラビンスキー:
懲罰的損害賠償は問題になるだろう。ライセンス料については、問題ではないと考える。

玉井:
中国の状況はどのような感じか。

蒋:
通常、仲裁は契約やビジネス紛争を扱う。いくつかの規制が可決された後、裁判所に送られた領域の事例はほとんどない。

玉井:
調停と仲裁の組み合わせについて、これらの統合方法と役割は何か。

レーダー:
調停は素晴らしいスキルである。両関係者を手助けするオフィサーが解決の価値を見いだす。私の経験では、調停は進行中の司法手続きと組み合わせた時により効果を発揮する傾向がある。裁判に行く前に調停に行く必要があるという、裁判所からの必須要件がある時ではない。

グラビンスキー:
ドイツの手順では、審判員が関係者間の調停を試みる。私たちは特許侵害の事例を話しており、結果が「侵害」か「侵害ではない」のどちらかの場合、仲裁は非常に困難だ。通常、特許侵害の事例では仲裁は見られない。

玉井:
私たちには3つの選択肢がある。1つ目は東京の国際仲裁センターであり、そこには控訴裁判所のようなシステムがある。2つ目の選択肢は、非常に例外的に、理事会への請願が認められるというものである。3つ目の選択は控訴も請願もなしというものである。