RIETI EBPMシンポジウム

エビデンスに基づく政策立案を推進するために(議事概要)

イベント概要

    • 日時:2017年12月19日(火)13:00-18:00(受付開始12:30)
    • 会場:全社協・灘尾ホール(100-8980 東京都 千代田区霞が関3丁目3番2号 新霞が関ビル1F)
    • 主催:独立行政法人経済産業研究所(RIETI)

Internet of Things(IoT)の急速な進展により、膨大なデータが蓄積されていくなか、世界ではEBPM(Evidence-based Policy Making/証拠に基づく政策立案)への関心が高まっている。EBPMとは、データ分析によるエビデンスに基づいて、政策を立案するという考え方である。イギリスやアメリカでの活用が活発化する一方、日本におけるEBPMの推進は、本年5月にようやく政府レベルで意思決定がされるなど、大幅に立ち遅れている。RIETIでは、来年度からEBPM推進チームを発足し、これまでの学術的な視点でのEBPM研究に加え、政策に直結したEBPMの強化を図る予定である。本シンポジウムでは、国内外の実例を紹介しながら、日本での普及、活用を進めるためにはどうすればいいのかについて、RIETIを含む各機関の専門家が意見を交わした。

議事概要

開会挨拶

中島 厚志(RIETI理事長)

昨今では、証拠に基づく合理的な政策の立案、すなわちEBPMへの関心が高まっている。日本経済の成長の実現に向けて、経済産業政策のあり方を客観的なデータに基づき理論的、実証的に研究し、政策に貢献することをミッションとしているRIETIにとって、今回こうしてEBPMに関するシンポジウムを開催できたことは大変光栄である。

限られた予算の中で、効果的な政策を選択していくことは、政府の骨太の政策の1つであり、財政事情が厳しい中で今後ますます重要性を増すことは間違いない。そして、EBPMについてはイギリスやアメリカで研究が進められており、日本もこれを学び、その手法や枠組みを取り入れていくことが必要である。

RIETIでは、RIETI客員研究員でありシカゴ大学ラルフ・ルイス記念特別社会学教授でもある山口一男先生をリーダーに、「日本におけるエビデンスに基づく政策の推進」というテーマで研究プロジェクトを進めている。

本日のシンポジウムでは、山口先生を中心に、イギリスとアメリカの最新動向、並びに具体的な事例や手法などの研究成果を紹介する。EBPMについて、皆さまのご認識を深めるものとなれば幸いである。

イントロダクション

山口 一男(RIETI客員研究員/シカゴ大学ラルフ・ルイス記念特別社会学教授)

エビデンスとは、結果の一般化可能なデータを用いた統計的分析や社会実験による、因果関係に関する、実証的根拠をいう。特に政策や行政で、事実認識の違いが意見の違いに結びついているときは、実証的根拠により事実認識のギャップが埋められ、合意が得られやすくなる。

また実証的根拠のない政策は「意図せざる結果」を生むことも多い。これは、人々の選択や行動が環境によって変わるという事実を無視することから生じる。政策の成功には人間の行動原理をよく理解することが重要だ。人の選択は必ずしも合理的なものではない。政策に伴う状況の変化において、人々がどのような選択をし、またそれが政策の意図と合致するかについての、実証的根拠が、政策の実効性の判断には欠かせない。

実際の制度作りに際しては、エビデンスを「つくる」「つたえる」「つかう」こと(技術的問題)と、それを解決するのに必要なインフラを作ること(組織的問題)の両面を解決していく必要がある。後者においては、イギリスとアメリカのケースが参考になるが、英米と異なり、日本にはいわゆる「縦割り行政」の構造があり、EBPMに必要な横の連携の実現が難しいなどの問題もある。

セッション1:イギリスとアメリカの最新動向

報告1 「イギリス政府におけるEBPM」

内山 融(東京大学大学院総合文化研究科教授)

イギリスと日本の政策形成について

イギリスにおける政官関係の原則は「官僚が助言し、大臣が決定する」、すなわち政治主導である。大臣が政策の方向を示したのち、官僚との対話に基づき政策が形成されるのが一般的だが、最終的な決定権は大臣にある。一方、人事における大臣の権限は相対的に小さい。

少子高齢化社会の到来を迎え、財政が逼迫するなか、日本でも、経済学を始めとした社会科学の専門性を政策形成に取り入れる必要がある。そのためのルートとしては、諮問機関の非常勤委員として社会科学の専門家を採用する、任期付き常勤職として一定のポストに政府外の専門家を採用する、といったものがあるが、それらには不十分な点がある。そこで、社会科学の専門性を習得した者を専門職の国家公務員として採用し、長期的に雇用を継続するというルートを考える必要がある。

イギリスの政府エコノミスト

そこで参考にしたいのが、イギリスの政府エコノミスト。イギリスでは、政府エコノミストが、政府経済サービス(GES)と呼ばれる集団を形成している。その基本的役割は、大臣の諮問に応じたアドバイスを行うこと。具体的には、政策形成のためのエビデンスに基づいた分析、実施された政策の監視と評価、経済効果や効率性の観点からの政策の優先順位付け等を行っている。政府エコノミストは各省に配属されており、各省の政策形成で一定の役割を果たしている。その数は、ブレア政権が「エビデンスに基づく政策形成」を唱道したことにより急増した。またキャメロン政権以降、行動経済学を積極的に取り入れる動きが活発化し、外部機関と連携して実験的手法を活用するようになった。

政府エコノミストの新卒採用は、財務省の政府経済・社会調査(GESR)チームが全省横断で一括して行い、最初の配属先を割り当てている。その後の異動は基本的に公募によるが、研修等は同チームが運営している。最近では、省庁間での異動や政府内外の人材流動化も活発になっている。

GESは省庁の枠を超えた、横割り的集団であり、政府エコノミスト全体に関わる戦略や政策ガイドラインについては、GES長(通常は財務省の首席エコノミスト)と各省の首席エコノミストからなる評議会で決定する。また各省にまたがる政策については、しばしばGES内でサブグループが編成され、検討される。もし各省の首席エコノミストがその大臣の政策に対して懸念を持った場合には、GES長に照会を行い、基本的に尊重される仕組みとなっている。GES長は、首相および財務省事務次官との協議に基づき、内閣官房長によって任命される(イギリスの内閣官房長は日本と違い、大臣ではなく、官僚である)。また各省の首席エコノミストは、上級GESメンバーとの協議に基づき、各省によって任命される。

日本でも、経済学を始めとした社会科学の専門家を政策形成プロセスで適切に活用する仕組みが検討されている。ただし、社会科学・自然科学の知見は万能薬ではない。専門家の助言に真摯に耳を傾けるとともに、関係者・世論等ともコミュニケーションを取ることで、総合的に判断することが重要である。

報告2 「イギリスの独立機関によるEBPM」

小林 庸平(RIETIコンサルティングフェロー/三菱UFJリサーチ&コンサルティング経済政策部主任研究員)

イギリスの独立機関によるEBPMの具体的事例

イギリスでEBPMが推進されてきた背景には、2つの理由がある。第1に、リーマンショック直後に誕生したキャメロン政権は厳しい財政制約に直面しており、効果的な政策に歳出を絞っていく必要があった。第2に、エビデンスに基づく医療(EBM)の進展が他分野へ波及し、社会科学や政策の分野で取り入れられるようになったためである。ここでは、イギリスの3つの独立組織によるEBPMを紹介する。

1つ目は、WWC(What Works Centre)。WWCは、効果のある施策・取組が効率的に展開されることを促進するための組織として、キャメロン政権下で2010年頃から設立されており、現在、医療、教育、犯罪防止など、政策分野ごとに7つのWWCが設立されている。その基本的な役割は、エビデンスを「つくる」「つたえる」「つかう」こと。イギリス政府はWWCの中間評価を行っており、資金的援助などを通じてこれらを長期的に維持・強化させる方針を示している。

2つ目は、BIT(Behavioural Insights Team)。BITは、2010年に内閣府の組織として設立され、2015年に民間機関に移行した。通称「ナッジユニット」と呼ばれ、行動経済学の理論や知見を使って政策を改善する役割を担っている。BITはアニュアルレポートを公表しているが、毎年約160ものランダム化比較試験を行って、政策の効果を検証している。たとえば、初期の取組では、徴税率が低いという課題に対して、手紙の内容を少し変えるだけで最大で20%も上昇することを明らかにした。このように、行動経済学的知見の活用は政策課題を効果的に解決できる可能性がある。

3つ目は、IGL(Innovation Growth Lab)。IGLは、2014年にできた新しい組織で、イノベーション政策や起業政策のなかでエビデンスを創出、普及することを役割としている。具体的には、財団等からのファンドレイジングによって、デリバリー・パートナー(政府機関)のニーズと、研究者のアイデアをマッチングして、多くの効果測定を実現している。イギリスに限らず、オーストラリアやスウェーデンなど他国の政府機関と連携することで、効果測定のための研究の場を確保し、世界中の大学の研究者との協力を可能にしている。

イギリスの独立機関によるEBPMからの示唆

まとめとして、イギリスの独立機関によるEBPMから学べる点を3つ挙げる。第1に、政府と密接な関係を有しつつも、独立性と専門性の高い組織があることによって、継続的なEBPMの取組が進んでいること。第2に、イギリスのEBPMではランダム化比較試験をはじめとした実験的手法が活用されているが、専門家と実務をつなぐプラットフォームが出来上がっており、政策実施前の段階から専門家がリサーチデザインに関与する仕組みが出来上がっている。最後に、一次研究や既存研究のインプリケーションを実務者にわかりやすく伝える役割を重視していること。個人的な意見ではあるが、日本であればRIETIのような組織がいずれの役割も担いうるのではないかと思っている。

報告3 「アメリカ政府におけるEBPM」

津田 広和(RIETIコンサルティングフェロー/横浜市財政局財政部財政課財政担当課長)

オバマ政権のエビデンス・アジェンダ

米国のEBPMは、オバマ政権下で、大統領やOMB(Office of Management and Budget)、各省庁幹部がリーダーとなり、大きく進展した。オバマ政権では、エビデンスをポートフォリオとしてとらえ、質の高い複数のエビデンスがバランスよく整うことを重視していた。それぞれのエビデンスの特性や信頼度の差などを踏まえ、それぞれのエビデンスが補完しあうことが重要だと考えたからである。その中でも、政策介入と介入効果との因果関係を分析するインパクト評価、特に、その中でゴールドスタンダードとされるランダム化比較試験(RCT)に高い優先順位が置かれた。

OMBは、2009年以降毎年度、予算編成に向けてEBPM関連のガイドラインを各省庁に発出。予算等によるインセンティブを活用しながら、戦略的に、既存のエビデンスの公表や活用、新規エビデンスの創出、革新的手法の導入を促進。また、OMBが中心となり、省庁横断、外部組織との連携を促進し、エビデンス・インフラを整備した。2013年のOMBガイドライン(OMB(2013))においては、以下の4つの項目ごとに各省庁のベストプラクティスを紹介し、これらを連邦政府のスタンダードにすることが目指された。4つの項目とは、①革新的補助金スキームの活用、②低コスト、短期、繰り返しのプログラム評価、③エビデンス・インフラの確立、④行政データの活用促進である。労働省を例に4つの柱の取組みを紹介する。

労働省ケーススタディ

レーガン政権時代の大幅予算削減以降、調査・評価部門は激減し、労働省はエビデンスの蓄積と活用で大幅な遅れを取っていた。オバマ政権初代労働副長官のSeth Harris氏は、マネジメントとプログラム評価の両面から、全面的な見直しを図り、労働省をエビデンス・アジェンダのモデル省庁に躍進させた。専門人材と資金を備えたCEO(Chief Evaluation Office)を設置して、労働省のプログラムを横断的に評価し、組織のあらゆる重要意思決定にエビデンスを反映させる仕組みをつくったことが最大の勝因であった。

OMB(2013)の柱の1つ目である革新的補助金スキームから3つを紹介する。1つ目は、WIF(Workforce Innovation Fund)。エビデンスレベルに応じて補助金を配布することで、既存エビデンスの活用、エビデンスを踏まえたプログラムのスケールアップと新規エビデンスの創出を促すもの。2つ目は、Pay for Success。社会的課題の解決に民間資金を活用し、成功を条件に、一定のプレミアムを加算した報酬を、投資家に支払うという仕組み。3つ目は、P3 ( Performance Partnership Piot )。社会とのつながりを絶たれた若者を救済するため、労働省や教育省等の補助金を組み合わせて活用できるプログラム。こうした革新的補助金では、RCTを原則とする厳格な評価が行われているが、それには時間とコストがかかる。それをもっと低コストに短期間で実施できないかという問題意識から、OMB(2013)の第2の柱である行動経済学が注目され始めた。行動経済学を活用して既存政策を改善し、その改善効果は原則RCTを活用して因果関係レベルで検証するのであるが、既存政策の行政データを活用することで評価の時間もコストも大幅に引き下げることができる。そのため、短いサイクルで政策改善と評価を繰り返し、不断の政策の改善を図ることが容易になる。

さらにCEOは、エビデンス・アジェンダを進めるため、OMB(2013)の3つ目の柱であるラーニングアジェンダやクリアリングハウス、職員向けのEBPM研修、評価における技術支援など、エビデンス関連のインフラ整備も進めている。また、OMB(2013)の4つ目の柱のように行政データの活用がEBPMを一層推進する鍵であるとの認識から、行政データの一般公開や内部利用などについて、プライバシーを保護しつつ促進する仕組みも整えられている。なお、超党派で2016年に設立されたCommission on Evidence-Based Policy-makingにおいても、行政データの活用促進に向けた連邦政府の取組みが検討され、2017年9月に最終報告書が公表された。今後は、本報告書の提言に基づき、法制度の整備が進められる見込みである。

Q&A

Q1:イギリスの地方自治体におけるEBPMについて

A1(内山氏):率直に言って、まだ調査できていないため、今後詳しく調査していきたい。あくまでも個人的イメージだが、イギリスの自治体は日本に比べ相対的に自律性が小さいので、事例は少ないかもしれない。

Q2(農水省の関係者):イギリスの第一次産業、農林部門でのEBPMについて

A2(内山氏):環境・食料・農村地域省にも、政府エコノミストが52名いる(2012年のデータ)。比率としては経済関連の省庁の方が多いものの、重要政策についてインパクト評価により費用対効果を明示することについては、全政府的に義務付けられているはず。

Q3:EBPMが適応しやすい分野とは

A3(内山氏):経済など量的指標で測りやすい分野に馴染みやすい。一方、質的な分野には馴染みづらく、慎重な検討が必要になるだろう。

Q4:WWCの財源について

A4(小林氏):7つのWWCの仕組みは、それぞれ異なっているが、教育分野の場合には、教育省からファンドが出ている。それを長期間にわたって、少しずつ使いながら評価している。

Q5:WWCの成果の活用・インパクトについて

A5(小林氏):教育分野では、現場レベルでの認知が進んでいる。イギリス会計検査院のレポートによると、現在では約3分の2の学校が、WWCが作成する「エビデンスのツールキット(どういった教育プログラムに効果があるかを整理したツール)」を参照しながらカリキュラムを作成している。

Q6:イギリスでは各省が自ら政策を評価しているのか、または政府エコノミストが横断的に評価しているのか

A6:(内山氏):各省が自ら評価している。横割りといったのは、研修や人事異動が中心。また、政策を形成する際はチームを作るが、うち少なくとも1名は政府エコノミストとしていることが多いようだ。

Q7:EBPMにAIやITを活用している事例はあるか

A7-1(小林氏):教育政策によって改善すべきアウトカムは多様であり、学力のように定量的に測定しやすいものから、意欲のように測定の難しいものも多い。しかし例えば、タブレットPCやウェアラブル端末の利用などが進んでいくと、いままで測定の難しかった要素も測定できるようになる可能性がある。そのため、ビッグデータの活用が、今後ますます必要になるだろう。

A7-2(津田氏):アメリカではデータ処理がとても重要で、そこにAIが導入されることは十分に考えられる。Googleなど民間企業ではRCTが日々行われているが、既にAIが介入している。

Q8:政府エコノミストの影響力はどのように担保されているのか

A8(内山氏):確かに政策形成においては限界もある。ただし、人事の中立性はかなり担保されている。

Q9:横浜市において、EBPMの知見を活用できる分野とは

A9(津田氏):横浜市では、既に社会福祉分野を中心に、効果検証の重要性が盛んに議論されているが、効果検証手法やデータのとり方などがうまくデザインされていない。こうした分野から始めるのはいいと思う。他方、横浜市であっても、地方自治体がRCTを主導するのは難しい面もある。

セッション2:エビデンスの政策への活用のあり方

報告4 「ミクロデータを活用した政策評価のあり方」

大竹 文雄(大阪大学社会経済研究所教授)

政策評価の手法

これまでの政策評価には数々の問題点があった。政策評価には、InputやOutput指標(中間的指標)ではなく、OutcomeやImpact指標(最終的指標)を用いるべきである。また、その政策をしなかったら成果はどうなっていたかという反事実と実際の結果の比較が不可欠である。とはいえ、反事実の情報は、実際には存在しない。クローンを使えば実証可能だが、現実的には不可能。代わりに、介入前の段階で同じような属性のグループを比較すれば、平均値の差によって介入の効果が測定できる。このとき、同一グループから介入グループをランダムに割り当てること、また処置グループへの介入の間、比較対照グループがほかの介入を受けないよう調整することができれば、妥当な結果が得られる。これがRCTと呼ばれる手法である。

しかし、これにはデメリットもある。将来の政策を評価するには適しているが、過去に行った政策を事後的にRCTを用いて評価できないのだ。また事前ではランダムに抽出したプログラムであっても、実際の参加者はランダムにならない可能性もある。このようにRCTが実行できない場合には、DID(差の差の分析)やRDD(回帰不連続デザイン)など、サンプルサイズの大きい、過去の行政データを用いて政策評価をする手法もある。

具体的な事例

効果測定ではパネルデータ、つまり長期間にわたり一定の集団を追跡調査することで、優れた分析ができる。有名なRCTの研究に、Heckmanの就学前教育の効果がある。これは恵まれない境遇にいる子供たちを対象に、その効果を実証したものだが、就学直後には差が出ず、失敗と思われた。しかし、長期間で見ていった結果、実は大きな効果があることがわかった。日本では2017年に、保育所利用の効果に関する論文が発表され、恵まれない家庭で、しつけの質や、母親の幸福度、子供の多動性・攻撃性に効果が見られた。他にも、労働時間規制、ゆとり教育、最低賃金などの影響について、DIDやRDDを用いた多くの評価がされている。

報告5 「途上国開発分野におけるエビデンスの活用」

青柳 恵太郎(株式会社メトリクスワークコンサルタンツ代表取締役)

エビデンスの蓄積状況

EBPMの基となるEBMの基本概念は、意思決定に際して、既存のエビデンスを十分に活用すること。「エビデンスに基づく国際開発事業」においても、要請される基本的な行動様式は変わらない。重要視すべきは、アカウンタビリティとしての過去の政策評価ではなく、政策決定時に評価結果を参照していくという点である。ある課題を解決するに際して、考えうるさまざまなアプローチの中から、最適な選択をするために必要となるのがエビデンスである。エビデンスを活用するためには、利用者の意図に加えて、参照可能な十分なエビデンスが存在していること、それが利用者に適切に伝えられていることが必要である。

国際開発領域では、ここ十余年で、エビデンスが急増している。ただし、分野や地域は偏りをみせており、「つくる」取組がまだまだ必要とされていることも事実である。一方、産出されたエビデンスは、International Initiative for Impact Evaluation(3ie)という非営利組織が集約し、データベースを作って提供している。ここでは、サーチ機能や、さまざまな介入についてアウトカムごとに既存エビデンスが一覧化されたEvidence Gap Map等、利用者に「つたえる」ためのインフラが構築されている。

エビデンスの活用実態

国際開発領域では、エビデンスを「つくる」作業に傾注し、作られたエビデンスが意思決定に十分に活用されていないという認識が持たれるようになってきている。これを受け、この原因を探求する調査・論考が、世界銀行や各大学、NPO等によって、提示され始めている。各論考から、エビデンス活用の阻害要因として、①「つかう」側(=実務者)の意識、理解力がまだ不足している、②外的妥当性に不安が残る、③実務者が意思決定しなくてはいけない事案に応えるエビデンスがない、といった点が共通して読み取れる。特に、研究者によって蓄積、産出されているエビデンスの多くが、実務者のニーズに合致していないという3点目の阻害要因は重要であると考える。これには、研究者によってつくられるエビデンスの多くはKFE(Knowledge-Focused Evaluation)によるものであるためという分析もなされている。

エビデンスの活用を促すためには、研修等を通じて実務者の評価キャパシティを高めていくこと、KFEに加えてDFE(Decision Focused Evaluation)を推進することが有用であると考える。後者については、研究上の興味・関心ではなく、実務者のニーズに寄り添ってエビデンスをつくる必要があるということ。蓄積された既存エビデンスに過度な期待をせず、自分の目の前の課題には、実務者が自らテイラーメイドで「つくる」ことも大事なのではないかと考えている。

JICAにおけるEBPM

日本のODAでは2006年頃から、当時のJBICにてインパクト評価の試行が始まった。2008年のJICA/JBICの統合以降、組織的取組が本格化し、現在までに50件程度のインパクト評価を実施している。JICAでは、事業実施部門に対する評価部による支援体制が構築されている。評価部ではEBP実施支援部隊(メトリクスワークコンサルタンツ)を設け、事業部門と一緒になってDEF的なエビデンス産出を行っている。ODA分野以外においても、エビデンスに基づく意思決定を促すためには、実務者と評価者の間に入る仲介機能が必須になってくるだろう。

報告6 「経済産業省におけるEBPMの取り組み」

三浦 聡(経済産業省大臣官房政策評価広報課長/RIETIコンサルティングフェロー)

政府全体の動き

日本における、証拠に基づく政策立案(EBPM)の推進は、平成29年5月の第3回統計改革推進会議において最終とりまとめとして文書化され、政府レベルで意思決定された。一般的に「証拠、エビデンス」という言葉は、いわゆる「ファクツ」を意味することも多いが、ここではそうではなく、政策と効果の因果関係を示すデータ分析の結果であることをよく認識する必要がある。

この統計改革推進会議の最終とりまとめには、EBPM推進体制を政府内に構築することが明記されている。これに基づき、各府省はEBPM推進統括官(仮称)を設置することとなった。その役割のなかでも特に重要なのは、統計等データの利活用状況のモニタリングや利活用に関する指導・支援等を通じた、事実・課題の認識、政策の立案と評価における統計等データの取得・整備・利活用や評価の質の向上だと考えている。

政府はこれを受け、9〜10月には各府省でEBPM模範事例の作り込みを実施し、有識者によるヒアリングを行った。その際に有識者からなされた指摘や示唆の内容は、各府省が参照・共有できるよう、行革事務局が「ヒント集」として取りまとめて公表しているので、関心があればご覧いただきたい。また、11月には秋の行政事業レビューにおいて、EBPMの観点から外部有識者による検証を試行し、ニコニコ動画を通じて配信した。ここでは、事業の有効性検証に必要なデータを十分に収集可能な事業設計を行うこと等、重要な点が指摘された。

今後は、統計等データの提供等の判断のためのガイドラインと、人材の確保・育成等に関する方針の2つのガイドラインを、本年度内を目途に策定する予定である。

経済産業省としての取組

経済産業省では、上記の他、独自で中小企業庁の戦略的基盤技術高度化支援事業を対象とした、RDDによる効果測定を委託調査にて実施している。これは本年度末以降に公表予定である。平成30年度の予算要求においては、新事業について、ロジックモデルをつくり、全体像を把握した上で事業を検討することとした。省内啓発としては、EBPMと関連性の高いテーマについてBBL等を実施している。来年度から始める新政策の立案に向けた議論においても、EBPM導入を明示し、政策評価広報課や調査統計グループ等が常時フォローしながら、EBPMの観点からサポートすべき案件について、必要なデータやツールを提供する仕組みを構築している。

RIETIとも連携し、RIETIにEBPMユニット(仮称)を設置して、経済産業省の政策立案・評価プロセスについて、高度専門的な知見の提供・助言を頂く予定である。EBPMでは、先行研究の蓄積を活用することが有効であるが、行政実務の現場が、時に膨大なページ数にのぼる論文をうまく処理できるように、その論文の位置づけや評価を含めて、サマライズして、直接対話ができることが望ましく、同ユニットにはこの機能を期待している。その他、EBPMを進めるインフラとしては、統計コンシェルジュ・チームの支援による経済統計の拡充、各府省庁のHP等で公表されている法人活動情報等を活用していければと思う。

これからの論点としては、対象事業の選び方、行政官に必要なリテラシーの高さ、EBPMの特質と政策当局のマインドセットなどが挙げられる。

Q&A

Q1:RCT、DIDなど、どの手法を用いるべきかを、いかに判断するのか

A1(大竹氏):RCTはこれから実施する政策について評価する手法で、その他はどんな情報が得られているかに依存するため、その都度考えるしかない。

Q2:外交や安全保障など、反事実を想定できない場合、何をエビデンスにできるのか

A2(大竹氏):マクロ経済学と同様、理論モデルを構築してシミュレーションを行い、反事実を理論的に構築することができる。または、歴史的なデータから、部分的に分析できる物を使うこともできるかもしれない。

Q3:行政データ活用を進めるために、国や自治体に望むことはあるか

A3(大竹氏):業務データが評価をするために構築されていないため、情報が不十分な場合がある。またフォーマットがまとまっていないこともある。この辺りを改善してほしい。

Q4:都道府県の行政データ・業務データで、公開を進めて欲しいデータがあれば教えて欲しい

A4(大竹氏):研究者はどんなデータがあるかわからない。逆に、テーマに対して活用できそうなデータを提案してもらえれば、それを検討することができるかもしれない。

Q5:専門家によって実験結果は異なるが、専門家を行政が選ぶ段階で生じるバイアスはどう克服しているのか

A5(大竹氏):実験結果については外的妥当性が大事である。またバイアスについては、学問的なチェックがどこかでなされるべきだと思う。

Q6:評価が目的化し、途中で政策を変更しにくくなるのでは。また途中で変更した場合の評価手法はどうなるのか

A6(大竹氏):政策評価とは、そもそも効果がどれだけあるかわからないのが大前提。途中で政策が変更された場合、それでも評価できるような仕組みを作ってもらえれば、対応可能。また、評価の途中で効果の有無が判別した場合は、評価が継続できなくても仕方ない。

Q7:実務者がエビデンスを「つくる」「つかう」ための主体/プロセスを一体化させるために必要なアクションは何か

A7(青柳氏):評価には事業実施部門からの独立性が必須ということはない。評価者が実施部門と共同してエビデンスをつくっていくという考えを持つべき。また、エビデンスを作る過程では効果を産まなかった介入を実施してしまうということは当然有り得る。失敗を繰り返しながら有益な介入を選別していくということが受け入れられる仕組みがなくてはいけない。

Q8:JICAの事業実施部門は、どのようなインセンティブで評価部に支援を要請しているのか

A8(青柳氏):JICAには制度的なインセンティブはないと思う。他の機関に後れを取らないために、必要に迫られてやっているのが現状ではないか。トップダウンでインパクト評価の実施検討を義務付けている機関もあるが、場合によってはそれも1つの手だと思う。

Q9:KFEとDFEとの、評価作業・手続き・内容面での違いとは

A9(青柳氏):学問と実務のどちらのニーズに端を発する評価設問を設定するかが異なっているだけで、評価に求められる作法としては大きな違いはない。

Q10:青柳氏の実務に使われない評価は意味がないという意見について、アカデミズムの側の意見を伺いたい

A10-1(内山氏):青柳氏の意見はKFEに意味がないということではなく、DFEも必要だという趣旨であることを補足したい。

A10-2(大竹氏):社会科学は理学と工学の両方を含んでいるが、これまでは理学に集中してしまっていた。今後は、EBPMの実用化が進めば、個別事例に応じて、学問的にバックアップする仕組みが発達すると思う。

Q11:経済産業省では既存の政策評価とEBPMの関係をどのように構成しているか

A11(三浦氏):既存の政策評価制度では、全ての政策が評価対象になっているところ、EBPMの観点から政策効果の因果関係分析を行うことは、全ての政策を対象とすることはできないため、規模や内容に応じて予算を確保し、実施していくことになると思う。

パネルディスカッション 「エビデンスに基づく政策立案を推進するには」

モデレータ

大竹 文雄(大阪大学社会経済研究所教授)

パネリスト(五十音順)

中室 牧子(慶應義塾大学総合政策学部准教授)

三浦 聡(経済産業省大臣官房政策評価広報課長/RIETIコンサルティングフェロー)

矢野 誠(RIETI所長・CRO/京都大学経済研究所教授)

山口 一男(RIETI客員研究員/シカゴ大学ラルフ・ルイス記念特別社会学教授)

プレゼンテーション1 「RIETIとEBPM」

矢野 誠(RIETI所長・CRO/京都大学経済研究所教授)

現代の世界の潮流は社会のエビデンスベース化にあるが、日本は立ち遅れている。これからは、IoTによってさまざまな経済活動のデータを集め、Bigdataとして、AIで分析し、IoTを通じて、分析結果を経済活動に反映させる時代がくる。そういう社会では政策のあり方も変わらなくてはならない。単なる根拠ではなく、汎用的な高精度のデータを用いて、社会を正確に観察し、因果関係をきちんと解明する。それに基づいて、新しい政策を立案していくことが必要となる。喜ばしいことに、日本の各府省も、EBPM推進に係る取組を総括するEBPM推進統括官の設置を始めた。

自身としては、エビデンスベース人間科学を、長い間、提唱している。これは、理論とデータと実証の三位一体を図ろうというもので、労働経済学や経済政策論、教育分野では盛んに行われてきた。ただ、それをもっと広い範囲で観察し、因果関係に基づいた社会現象の分析をやるというのが、これからの社会科学のあり方となるだろう。

EBP研究と、EBPMの実施は別物だが、RIETIは、アジア最大級の国際的EBP研究拠点であるといえる。長年蓄積された膨大なデータをデータベース化し、社会に提供している。来年度からは、RIETI内にEBPM推進チームを発足し、政策に直結したEBPMの強化を図り、政策実務者と政策施行の研究者とのハブ機能、政策形成過程におけるコンサルティング機能、政策効果の事後評価機能を果たしていきたい。それを実現するための人材育成が、今後の課題であり、臨床政策に力を注いでいくつもりである。

プレゼンテーション2 「『科学的根拠に基づく政策』に何が必要か」

中室 牧子(慶應義塾大学総合政策学部准教授)

今年の夏、2020年開催のオリンピック・パラリンピックに向けて、健康増進法改正案の議論が山場を迎えた。これを受けて、厚生労働相が、記者会見を異例の2回実施した。この背景には、政界における「受動喫煙規制を緩めよう」とする議論に対し、煙草を吸っていないかもしれない85%の国民にも意思決定に参加してもらおうという意図があった。

この記者会見の後に、「たばこ煙害死をなくそう」という署名活動を始め、これには多くの支持が集まった。しかし、国民的な関心を高めるために使った、「日本で年間1万5000人の人が受動喫煙によって亡くなっている」という研究結果について、多くの経済学者から批判が殺到してしまった。この研究結果は、観察研究のメタアナリシスであったため、エビデンスの質は確かに高いものではなかった。これについては、自身も説明不足であったと反省したが、同時に、科学者は不完全なエビデンスをどう国民に伝え、それを政策に生かしていくかについて、深く考える好機となった。

こうした体験を通じ、政策的な議論と学術的な議論の溝はまだまだ深いということを改めて実感した。これをどうクロスさせていていけばいいかということを、時間をかけて考えていかなければならない。「つくる」「つたえる」「つかう」という3つのステージにそれぞれ課題がある。また研究者とのコラボレーションをどう促すかについても、議論が必要だと感じた。

プレゼンテーション3 「EBPM-筆者の少子化と女性活躍の研究結果の例」

山口 一男(RIETI客員研究員/シカゴ大学ラルフ・ルイス記念特別社会学教授)

RIETIは計量経済的な分析において、政策に関するエビデンスをたくさん持っている。その意味で、日本はエビデンスを「つくる」点では優れているように思う。しかし、「つたえる」「つかう」ためのインフラが整っていない。自身としては、「つたえる」ための取組をしてきた。

たとえば、少子化に関するパネルデータ分析研究結果は、広く普及し、ある程度の影響力を与えてきた。第1子出生率にはワークライフバランスが達成でき子供を産んでも女性が継続就業できる職場、第2子出生率には夫の育児参加、第3子に出生率には経済支援が重要などという研究のインプリケーションである。また、女性の生産性の低さや育児離職率の高さが予言の自己成就であることも、実証的に示してきた。これは、従来の女性への統計的差別は企業にとって合理的という考えに大きな疑問を投げかけ、女性の人材活用推進施策や継続就業促進施策を強める1つのきっかけとなったと考えている。

エビデンスは、さまざまな形で政策に生かせる。自身は比較的よく伝えてもらえたが、まだまだうまく伝えられていない、または使われていないエビデンスがたくさんある。そういった点も、重要視していかなければならないと思っている。

パネルディスカッション

大竹氏:まずは矢野所長のプレゼンについて、今不足しているのは臨床研究とのことだが、これは研究者と実務者のニーズが合致していないという意見と関連すると思うが、政策現場からの意見を聞かせてほしい。

三浦氏:自分の経験の範囲内での話になるが、アカデミアの研究結果については、分野によっては、非常に役立つ研究もあり、むしろ行政側に使おうという発想が少なかった面もあると思う。したがって、お互いに歩み寄れる可能性は十分にあるし、これは今後の課題だと思う。

大竹氏:山口先生の研究の動機について、基礎研究的関心と、臨床研究的関心のどちらが高かったのか。

山口氏:社会学が何の役立つのか、という精神から実証研究を行ってきた。特に政策と結びつけたときに、アメリカと比べ、日本は就業でも、家庭のありかたでも自由なようで自由でないと感じた。これについて、日本でのエビデンスを明らかにしたかった。社会科学を研究するからには、社会に役立ちたいという風に考えていたところに、たまたまRIETIが研究の場を与えてくれたから実施した。

大竹氏:日本のアカデミズム全般で、そういった意識を持つようになると変わってくるだろうか。

山口氏:そこは、アカデミズムと政策で分業していいと思う。関心はそれぞれ違う。ただし、日本はアカデミズムは基礎研究が主で政策に関係する応用分野が弱く、そこに連続性が欠けている。英米のように、実務者と理論家がうまく連携できる仕組みを構築していけるといい。

大竹氏:こういう場で、実務者から研究者にアプローチをしていただければ、我々の関心ももう少し高まっていくと思う。もう1つは、全く新しい知見を求めないと、なかなかジャーナルに載らない、または評価が低くなってしまうというアカデミズムの問題点もある。そのなかで、実務者からの要望に必ずしも進んで応じられないことがある。中室氏は、そういうジレンマに直面したことはあるか?

中室氏:自身も、そこのすり合わせが一番難しいと思っている。まだ若手なので、質の高い研究をたくさんしていかなければならない。そうすると、政策に関する研究はプライオリティが低くなってしまう。政府の仕事に対しては十分に関心もあるが、それが自身の研究につながらないというジレンマがある。もっと自身の研究につながる仕事をさせてほしい。たとえば現在、文科省の「トビタテ」プログラムに関わっているが、これについて「留学の効果」を研究してほしいといわれれば、意欲的に研究に臨める。ある意味では、研究者は無料で使えるコンサルタント。行政にも、研究者をもっとうまく活かしてほしい。

大竹氏:研究者は無料といっても、ある程度は研究費について有料でないと、実施が難しい部分もある。有料であれば、修士課程の学生が研究の主体となることも可能だし、これはひいては人材育成にも貢献できる。また研究が蓄積されれば、その中で評価体制も整っていくと思う。

次に、中室先生のプレゼンについて、不完全なエビデンスがある場合、どういう風に政策議論と対応していくのかということだが、この問題は複層的である。1つは、エビデンスが政策にどの程度影響を受けるべきかという大きな問題がある。エビデンスは評価の1つであり、エビデンスと価値観のバランスを、コストを絡めて考えていかないといけない。もう1つは、たとえば地震予測のような、不完全なエビデンスに基づいて、どこまで政策的な判断をすべきかという問題。この2つは分けて考える必要がある。これについて、矢野先生にご意見を伺いたい。

矢野氏:視点を変えると、これは我々がエビデンスに対してどのように向き合っていくかということに関係している。たとえば、天気予報は不完全なエビデンスだが、長期にわたって使用していくことで、我々はそれをうまく活用できるようになっている。

大竹氏:つまり、エビデンスに対する、一般のリテラシーをどう高めていくのか、その成熟度に応じて対応が変わってくるということかと思う。山口先生は、どうお考えか。

山口氏:たとえば、喫煙に対する禁止について、アメリカでは他者の行為の意図せざる悪影響を強く嫌うので文化的に通りやすいが、日本は通りにくいといった問題はあると思う。またエビデンスの普及については、ニーズとエビデンスのマッチング具合が大きく関与している。教育に関するアメリカの政策のガイドラインは、現場ではなかなか普及しない。これは、学力を伸ばしたい行政と、学力以外の要素を重視する学校側との目的の違いが原因。多くの人が重要だと感じるトピックでは共感が得やすいが、そうでない場合には、エビデンスがあっても普及しない。

三浦氏:不完全なエビデンスに基づいて、どこまで政策的な判断をすべきかという問題については、その不完全なエビデンスが、どの程度不完全か、それが誤っていたときのネガティブなインパクトはどの程度か、具体的な使い方、当該政策の内容などによって異なるため、ケースバイケースだと思う。たとえば、地震予測にしても、使い方として、単純に公表するということだとパニックを起こすかもしれないが、政策を決定する機関に持ち込んで分析するという使い方ならば有用なこともあるはず。または政策分野によっては、それほどパニックは起こらないわけで、それぞれの事象を切り分けて考えればいいと考える。

中室氏:皆さんのおっしゃる通り、エビデンスにどう影響力を持たせていくか、不確実なエビデンスをどうやって政策に取り入れていくか、の2つは分けて考える必要がある。その上で、いずれの問題についても、「つたえる」部分に圧倒的な不足があると感じる。これを研究者の資質だけに頼るのではなく、WWCのような機関を作って、その中でわかりやすくエビデンスを「つたえる」ことに予算を投じてもいいのではないかという印象を持った。

大竹氏:RIETIはこれまで「つたえる」という役割について、かなり努力をしてきた。ジャーナルの掲載前に、ディスカッションペーパーを英語だけでなく日本語でも作成したり、シンポジウムを定期的に開催したり、研究成果について日本語の本を出版し、それを英語でも公表したり、幅広く活動している。

矢野氏:英語で公表しないと世界で認知されない一方で、英語だけで書かれた膨大なデータは国内ではなかなか活用されない。その間を取り持つ役割を、RIETIが果たしていかなくてはいけないと思っている。

Q(会場から):エビデンスには一定の限界があるが、政治の流れにうまく引用されることについて、どう考えるべきか

A(中室氏):昨年から、色々な議員と議論してきたが、正しく理解されていないと感じることが多い。たとえば、幼児教育の無償化について、確かに自身は幼児教育の重要性を強調してきたが、無償化を勧めたつもりはない。このように、部分的に解釈されてしまうケースが多々あり、危険性を感じている。その解決策はまだまとまっていないが、研究者として研究成果を発信しないわけにはいかない。研究者側も、正しく理解してもらう、「つたえる」技術を高めていかなければならない。

Q:経済産業省内でEBPMを進めるために、インセンティブとして考えているものはあるか

A(三浦氏):ポジティブな結果を得るためには、何らかのインセンティブが必要であるという議論はあるが、まだ具体的には決められていない。ただ、行政官としては、よいエビデンスを用意することによって、自分の提案・実施する政策の実現可能性や実効性が高まるのを見ることができるのであり、それが最大のインセンティブになるはずであると思っている。

Q:受動喫煙や女性活躍は、嗜好に基づく部分があるため、政策が効果を生まない場合もある。これをEBPMではどう考えるのか

A(大竹氏):伝統的な経済学の考え方としては、モラルや嗜好は政策で変更できないというものだ。しかし、行動経済学では、モラルに働きかける仕組みを作ることが大切だとされる。また、ちょっとしたモデルケースで意識を変えられる場合もある。きちんとした検証をすれば、両方の効果が得られるはず。男女雇用機会均等法や高齢者雇用安定法も、罰則なしでスタートしたが、一定の効果が出た。

Q:矢野先生への質問として、EBPM人材育成についてのRIETIにおける具体的な計画はあるか

矢野氏:人材育成は極めて重要である。人間の意識は、エビデンスの積み重ねで変わる。喫煙者の減少も、長期間を経て結果が出てきた。推進チームを作り、臨床と基礎の間を理解できるような専門家を育てていくことが、来年度よりRIETIの中で可能になる。同時に、専門家と政策担当者との橋渡しをしていくことが重要である。ただし、これには時間がかかる。

総括として、本日のようなシンポジウムを通じてデータの需要側の認知を広めるのが必要だと、改めて感じた。「つかう」のは政策側ではなく社会全体であり、社会全体がエビデンスを使うという体制を構築していくことが、今やらなければいけない最終的な目標であると思う。RIETIが基礎と臨床のインターフェイスを提供することを通じて、EBPMの推進に協力できるのではないかと考えている。

大竹氏:それでは、本日のパネルディスカッションはここまでとしたい。ありがとうございました。