METI-RIETI政策シンポジウム

クロスボーダーM&A:海外企業買収における課題とその克服に向けて(議事概要)

イベント概要

    • 日時:2017年11月29日(水)13:30-16:35(受付開始13:00)
    • 会場:ベルサール半蔵門(102-0083 東京都 千代田区麹町1-6-4 住友不動産半蔵門駅前ビル2F ベルサール半蔵門)
    • 主催:経済産業省(METI)、独立行政法人経済産業研究所(RIETI)

日本企業が海外企業を買収するクロスボーダーM&Aが近年活発化していることを受け、経済産業省は今年8月、その実態と課題を分析するため、「我が国企業による海外M&A研究会」を設置した。本シンポジウムでは、研究会における検討と、RIETIが取り組んでいるプロジェクト「企業統治分析のフロンティア」の成果を踏まえ、学識経験者や実務家らが意見を交わした。基調講演では、宮島英昭RIETIファカルティフェローが研究会の成果を交えながら、海外M&Aによる自社の成長ストーリーを描く重要性を指摘し、永守重信日本電産株式会社代表取締役会長兼社長(CEO)は同社の取り組みを紹介し、自律的な成長を伴った海外M&Aの展開が重要であると述べた。

議事概要

開会挨拶

中島 厚志(RIETI理事長)

近年、日本企業が海外企業を買収するクロスボーダーM&Aはますます活発となり、規模も大型化している。最近の良好な内外経済環境や日本企業の収益改善も、クロスボーダーM&Aを後押ししている。しかし、買収後に当該海外子会社で経営問題が生じるとか、想定していた成果が上げられないといった事例が顕在化するなどして、クロスボーダーM&Aが順調とばかりはいえない状況も生じている。

経済産業省は、このような日本企業によるクロスボーダーM&Aについて検討すべく、「我が国企業による海外M&A研究会」を立ち上げている。本シンポジウムでは、その研究会の座長であるRIETIファカルティフェローで早稲田大学教授の宮島英昭先生と日本電産株式会社代表取締役会長兼社長の永守重信様にお話しいただいた後、知見と経験の深い学識経験者と実務家の皆さまが議論する。

本日のシンポジウムが日本企業のクロスボーダーM&Aについての皆さまの認識を深めるものとなり、課題の改善につながれば幸いである。

大臣挨拶(ビデオメッセージ)

世耕 弘成(経済産業大臣)

こんにちは。経済産業大臣の世耕です。激しいグローバル競争の中で、日本企業が海外で稼ぐ力を高めるためには、時間を買うことができる海外M&Aを積極的に仕掛けて、スピード感を持った成長を実現することが不可欠です。

実際、海外のグローバル企業は、海外M&Aを戦略的、積極的に活用して、さらなる成長に結び付けています。こうした海外企業に対抗してM&A大競争時代を勝ち抜くためには、海外M&Aの賢い活用が待ったなしの状況です。海外の成長市場の恩恵を日本経済の好循環の拡大につなげていくことは、アベノミクスにおいても重要なテーマです。海外M&Aを活用したグローバル規模での日本企業の成長を、政府としても推し進めてまいります。

もちろん成長にはリスクもつきものです。海外企業を買収した後の経営統合、いわゆるPMI(Post Merger Integration)など、特有の難しさやリスクが伴っています。実際、率直に申し上げて大失敗ともいえる事例がある一方で、チャレンジングな案件についてリスクを戦略的にコントロールして成功を収めている事例も多数あります。こうした事例から得られる教訓を整理して、今後の案件に活用できるよう、今年8月、「我が国企業による海外M&A研究会」を立ち上げました。これまで内外の企業が海外M&Aに取り組む上でどのような課題に直面し、それをどう乗り越えていったか、企業や専門家を交えて議論を行っているところです。

本日はM&Aの現場経験が豊富な方々や学識経験者にご参加いただいて、多角的に議論を深めていただきたいと思います。本日の議論も参考に、研究会でさらに議論を深めて、今年度内をめどに海外M&Aにおいて留意すべきポイントとそれに対応したベストプラクティスを提示したいと考えています。これによって海外M&Aに取り組む企業の成功を、これまで以上に後押ししていきたいと思います。

本日の議論が、海外M&Aに真剣に取り組む全ての皆さまの戦略的な取り組みの契機となることを心から祈念いたしまして、私からのご挨拶とさせていただきます。ありがとうございました。

基調講演1 「海外企業買収における課題とその克服に向けて―『我が国企業による海外M&A研究会』での議論をふまえて」

宮島 英昭(RIETIファカルティフェロー/早稲田大学商学学術院教授・早稲田大学高等研究所所長/経済産業省「我が国企業 による海外M&A研究会」座長)

海外M&Aの重要性

海外M&Aの金額は1件当たりの規模が大きくなり、日本企業同士のM&Aや国内M&Aを上回っている。海外M&Aが重要なのは、企業が海外で稼ぐ力を引き上げるだけでなく、国民所得を増大させる重要な要因になっているからであり、クロスボーダーM&Aと買収後の子会社の適切な運営は重要な課題である。

ただ、バブル期に行われた海外M&Aが大きな損失を計上したように、M&A自体は他の投資に比べてリスクが高いといわれる。とくにクロスボーダーM&Aは、幾つかの要因からリスクがさらに高い。相手国の事情が分からないのでターゲットの情報が不足したり、買収プレミアムが高くなったり、文化的な差から買収後の経営がうまくいかなかったりすることが海外M&Aを難しくしており、近年は大きな減損事例も目立つ。

企業が資金を配当に回し、それを機関投資家が運用して国際分散投資すればリスクは小さくなるが、あえてそうせずに企業が資金を内部留保して海外M&Aを行うならば、企業が持つノウハウやネットワークを使って企業価値を創出することが不可欠となる。そして、そのときに創出される企業価値が国際分散投資による投資収益を上回ることが重要で、そのためには企業が海外M&Aを通じた価値創出のシナリオを持つことが重要である。

本研究会のこれまでの検討状況

本研究会は、先進企業からグローバル企業へ移行中の企業や海外M&Aを検討中の企業に、これまでの経験やノウハウを共有知識としてスピルオーバーすることを目的に、今年8月から議論を始めた。企業の成長を実現するツールとして非常に重要な海外M&Aを、エンカレッジしたいと考えている。ただ、M&Aはグリーンフィールド投資に比べて難しく、いろいろなリスクもあるので、リスクを最小化して成功に結び付けるための必要条件のようなものを探っているところである。

海外M&Aを有効活用している企業に共通するポイントは、M&Aによって何を実現したいかというストーリーや戦略的ビジョンがはっきりしていて、トップも積極的にコミットしていることである。また、グローバル経営体制を的確に構築し、グループ全体のガバナンス体系が強化されていることも特徴である。

海外M&Aのプロセスを3つに分けると、検討すべき点、共通認識となった点や成功のポイントが浮かび上がる。

Pre-M&A段階では、なぜM&Aを成長に活用するのかという明確な成長ストーリーを描いていることが非常に重要な条件である。また、買収対象についても、主体的に選択している。

ディール実行段階では、戦略的ビジョンや事態の進行、デューディリジェンスや交渉プロセスで生じる齟齬を調整することが鍵となる。こうした齟齬がはっきりしたときは撤退も視野に入れることが重要で、ディールを始めたら必ず実現させるという方向性は大きな問題を含む。とくに、買収プレミアムが高過ぎること(高値づかみ)が問題になっており、買収価格が上がった場合に誰がどうやって止めるかという議論が研究会でも行われている。

Post-M&A段階では、トップが買収やPMIのプロセスで、ターゲット企業に対して積極的に自社の経営理念を共有させるよう、対話を進めることが重要である。ディール担当者がそのままPMIを実施する体制を取り、連続性を維持することも重要である。

PMIでは海外の子会社が増えることになるので、グローバル・ガバナンス体制を構築することも継続的な課題である。具体的な論点としては、海外子会社の統括組織としてどういう形が適切か、海外子会社の株式保有の割合はどうすれば適切か、海外子会社の運営に当たって本社の権限をどの程度置くかといったことが挙げられる。

集権化を強めようとすると、優秀な人材の離散や意思決定スピードの低下を招き、分権化を高めようとすると、子会社の暴走やシナジーの喪失というマイナス面が生じる。両者をいかに適切に組み合わせて、自社の企業価値に結び付けるかが重要な問題である。また、子会社を管理する場合、管理・評価指標の明確化が課題であり、最終利益だけを基準にするとシナジーが実現できない可能性がある。

基調講演2「日本電産の海外M&A」

永守 重信(日本電産株式会社代表取締役会長兼社長(CEO))

M&Aを活用した成長

当社の成長の糧は、基本的にオーガニックの成長(自律的な成長)とM&A戦略が半々であり、全体のマーケットが非常に低成長の中、大きな成長を遂げてこられたのはM&Aのおかげである。しかし、規模を拡大するためにM&Aを行うのは間違いであり、私は強い企業をつくるためにM&Aを活用してきた。

1980年代にM&Aを始めた当初は、安く買える企業を買収していた。海外で安い企業を買うのは非常に難しいので、国内企業からスタートしていった。安いということは倒産寸前なのだが、私は倒産した会社は絶対に買わない。そうして倒産寸前の安い企業を買っていくと、再建を伴うので非常に多くの時間と労力をかけて企業価値を上げていかなければならなかった。

国内のM&Aの実績を積み、収益・資金も増えてきた2000年以降、海外企業の買収が活発化した。わが社がこれまでに買収した56社のうち、6割近くが海外企業だ。海外の企業は、最も価値が高いときに、さらにそれを「化粧」して売るので、安くはならないし、リスクも高いのは事実。

M&A成功の3つの条件

M&Aが成功する条件には3つある。1つ目に価格である。いくらで買うかは成否を分けると言っても過言ではない。自分だったらいくらで買うか計算してみて、こんな値段で買ったら1年で減損は避けられないと思うこともあるが、だいたい8 割くらいは実際に後で減損している。

2つ目に、誰が買収後の企業のPMIをやるのかという点である。日本人が海外の企業を経営したり、掌握するのは相当困難。人心掌握して、経営して、成果を出せる日本人はそういない。したがって、その会社の国、その国の経営者に徹底的に任せる。日本人がやらない。意識改革はやるが、経営は、現地の人が行う。

買収したら終わりではなく、自社の経営理念をしっかりと定着させることが重要である。他方で、多くの日本企業は買ったら終わり。トップが自ら買った企業に行って、経営理念を何度も語るなんてことはしない。

3つ目に、シナジー効果である。海外の企業は、最高の企業価値の時にさらに化粧して値段をつり上げるので、その値段で買収して、それ以上の価値を実現するのは至難の業。自分としては(単発のM&Aで考えるのではなく)もう1つ買ったらどういう効果が上がるか、と考える。本社とのシナジー、他の買収会社とのシナジーによって利益を上乗せしていく。

例えていえば、パズルのように、始めに両目、次に耳、鼻、口、というようにピースを埋めるように買っていく。順番も重要で、順番を考えて、その順番に買っていく。目より先に口にはいかない。そうしないとシナジーがうまくいかないし、しばらく利益が出ない。投資銀行等外部から持ち込まれた案件についても、このパズルにはまっていなければ買わない。

だから、相手が売ってやろうと思っている企業を買うことはほとんどなく、こちらが欲しい企業を買いにいく。したがって、相手は簡単に売ってくれない。だから時間が相当かかる。

えいやで買ったりすると、失敗する。誰がPMIするのか、誰ができるのか、そのままの経営者でいけるか、しっかり吟味する。その結果、しばらくは延期するという判断をすることもある。物を買う時に焦ってはいけない。

価格については、永守式の企業価値算定方式がきちんと出来上がっており、それに合わなければ買わない。しかし、中には戦略的に、この企業を買えずに競争相手に取られてしまったらトータル的に困るという場合は、高めに買う。だから、M&Aはいろいろな意味で辛抱の世界である。競争相手が買ったから自分たちも買わなければならないというふうにやると、とくに海外企業の場合は大概失敗するだろう。

当然、業績の良い会社には良いマネジメントがいるが、価格は高い。だから、リターンを完全に回収するまでに非常に時間がかかるので、どちらがいいかということになる。少々高い企業を買ってもいいのは、資金の余裕がある企業であって、お金のない企業がすると何倍ものしっぺ返しを食らう可能性が高い。

M&Aについては、常々「石垣」と「詰め物」であると思っている。石垣は遠くから見ると大きな石組みのように見えるが、その隙間を詰めている小さな石が、石垣を強固にしている。M&Aもこれと同じで、大きな石を支える要素を2、3 社買う。それが収益の源泉。

M&Aを行って規模拡大を図った方が企業も強くなるかもしれないが、成長戦略の一環としてM&Aを行っているのであって、膨張戦略の一環としてやっているわけではない。ただ会社を膨らませばいいわけではなく、必ずきちんと利益を上げ、買収してすぐに回収段階に入れることが求められる。

日本企業による買収を見ていると、ほとんど高値で買っている。なぜそういう価格になるのかというと、相手ではなく仲介者が価格を上げているのだろう。高く売れば仲介者に報酬が入る。だから、わが社は仲介者を使う場合も、絶対に仲介料を固定せず、安く買えば買うほど手数料が上がる方式にしている。最近買った企業でも、本来より20%ほど仲介料を高く払っている。それは安く買えたからである。

最近、M&Aの予算を付ける企業の話を聞くことが多いが、高値で買って終わりで、PMIを誰がやっているのか分からない、シナジー効果も出てこない状況では、大きな穴を開けるような問題が次々と出てきてしまう。日本のM&Aをもっと健全化していかなければならない。

価格の妥当性の算定

価格の妥当性を算定することは重要である。仲介役の言うことを信用してはいけない。まずは価格の算定基準を明確にしておかなければならない。それから、PMIの場合でも、その企業を買った後に大体どれぐらいの売り上げや収益の成長を計画しているのかを見ておかなければならない。

仲介者は大体、売り上げや利益がこれだけ伸びるというプランを持ってくる。今まで全く伸びていなかったのに、これから5年間はこういう成長をするといったプランを持ってくるケースが多いのだが、それは高く売りたいからであり、ほとんどは嘘である。だから、プランの目利きが必要である。

PMIへの関与

私は、買収したイギリス、フランス、ドイツの3社の工場を順に回っている。買収後にどういう変化が起きているかを見るためである。行ってみると、相手が出してきた事業プランどおりにいっていない場合も多いので、トップが行って、分析してPMIの編成を行っている。実際に見に行くことで、誰にPMIを託せばいいか、何をしてやればいいのかが分かるのである。そうしてただちにPMI活動のサポートを始めるのだが、指揮権はその企業の責任者に与えなければならない。日本人はサポーターであり、現場で困っていることを聞いて、世界中のグループ会社で協力して助ける立場だということを明確にする。

PMIで最も重要なのは意識改革であり、さらにその中でも重要なのは目線感である。日本電産は現在3%の利益を上げているが、10%以下は赤字と捉えている。しかし、買収企業の利益が上がってきたら、また次に業績の悪い会社を買うので、平均値はなかなか上がらない。10%を超えると次にまた2〜3%の会社を買うので、売り上げはある程度増えても、営業利益は12%前後にとどまる。

買収をやめれば数字上はすぐに15%に届くが、15%の企業ばかりになってからM&Aをしていたのでは遅い。そのため、絶えず待機組を置いている。常時10〜20社の買収を検討していて、その中で買えるのは1〜2社である。全て買おうと思えば買えるが、そんなことをしていては会社はつぶれてしまう。

M&Aのトップは常にハンズオンできていないと駄目なのである。マイクロマネジメントが重要である。実際に買収したら、すぐにトップが現地を見に行き、従業員に新しい方針をきちんと植え付けなければならない。華々しくM&Aを行っても、しばらくして減損すれば、もうかるのは仲介業者だけである。

M&Aの定石

M&Aにも基本的な定石がある。それが分かるまでにだいぶ時間がかかったが、定石どおりちゃんとやっていけば、M&Aは成長戦略にとって重要な鍵となる。わが社は買収によってシナジーを出してきた。それがなければ、オーガニックだけで現在の企業規模にするのは絶対不可能である。

良い会社と高い会社は別である。安い会社の中にも良い会社はある。だから、誰かがきちんとPMIをすれば良い会社になると思うところを買えば、大きなリターンを得られて、また次の企業を買うことができる。わが社は、買収によって生み出したキャッシュでまた企業を買っているので、バランスシートはそれほど傷んでいない。

損を出すような買収などしない方がいい。だから、われわれは全てメークマネーしている。買収した会社から着実にお金を生み出すことができれば、M&Aほど大きな成長戦略のツールはない。だからこそ、日本企業はぜひもっとM&Aを行ってほしい。国内市場はどんどん縮小しているので、海外へ出掛けていって勇敢に戦うしかないのである。

私に会社を売りたい方は、ぜひ私たちに買わせていただきたい。そうすれば会社は必ず良くなる。それだけ自信を持っているし、企業のPMIはそんなに難しいことではない。しかし、難しいと思っていないと、やられる。今日の話をぜひ参考にして、活発なM&Aを行っていただき、企業の健全な成長を図ってほしい。

パネルディスカッション

モデレータ
  • 森川 正之(RIETI副所長)
パネリスト(五十音順)
  • 小田 裕之(株式会社三菱東京UFJ銀行執行役員戦略調査部長)
  • 加藤 信也(日本たばこ産業株式会社(JT)経営企画部部長)
  • 圡居 浩一郎(JPモルガン証券株式会社投資銀行部M&Aグループ責任者マネジングディレクター)
  • ヨアヒム・バチェフスキ(ボッシュパッケージングテクノロジー株式会社代表取締役社長)
  • 松江 英夫(デロイトトーマツコンサルティング合同会社パートナー/経済産業省「我が国企業による海外M&A研究会」委員)
  • 宮島 英昭(RIETIファカルティフェロー/早稲田大学商学学術院教授・早稲田大学高等研究所所長/経済産業省「我が国企業 による海外M&A研究会」座長)

森川副所長(RIETI):海外M&Aは、日本経済にとって大きな稼ぐ力であり、海外M&Aを成功させることはとても重要である。

加藤氏(JT):海外M&Aで重要なのは、トップマネジメントのコミットメントがなければうまくいかないことと、統合計画をなるべく早く策定して事業をスムーズに進め、意思決定のルールもなるべく早く周知することである。M&Aは、オーガニック成長がうまくいって初めて活用できると感じる。買収後の青写真をいかに細かく現実的につくるかが重要である。

バチェフスキ氏(ボッシュ・パッケージングテクノロジー):当社は、何十年もかけていろいろな企業を買収し、しっかりPMIを行った結果、今の事業がある。M&Aの重要なポイントは価値観であり、国や部門によってやり方はばらばらでも、ニーズは価値観で決まると思うので、それをうまく使えばM&AやPMIは成功する。

宮島氏(RIETI):海外M&Aを進めるときには、国際的な人材を育成することが求められるので、体制ができるまでには長いプロセスが必要である。

森川氏:まず、Pre-M&A段階を中心に伺いたい。

松江氏(デロイトトーマツコンサルティング):M&Aの「成立」と「成功」は違うということが重要。成功のためには、PMIまでを見据えて、いいかえれば成立から成功までを見据えて取り組むことが前提として重要であり、ポイントは3点ある。1点目は比較的中長期で時間軸を取ってM&Aに臨むこと、2点目はターゲットに対して能動的なアプローチを取ること、3点目はリーダーシップの継続性であり、リーダーが代わっても組織としての軸足がぶれず、長期にコミットできることである。

加藤氏:「青写真」という言葉をつかっているが、その言葉自身より相当精緻なものを作っている。最初に長期の事業計画を作っておくことが求められる。弊社は、買収に取り組む前に取得後10年ほどの事業計画を作っている。その10年間どういった事業運営ができるのか、たとえば、その10年間で、どのブランドのどの品種を、どのタイミング・価格で投入するのか、それによってシェアをどの程度とっていくのか等を見通していく。これを、デューディリジェンス等に基づいてファインチューニングしていく。統合計画でも、元々の青写真をファインチューニングして、実行可能なものにしていく。長期の事業計画をつくっていくことが、ディール自体や統合のためにも重要。

小田氏(三菱東京UFJ銀行):金融機関として、事業会社のM&Aをサポートする立場から話すと、先方のプロジェクションを信じることなく、ノンエレメントをなくしていくことが大切。

また、M&AのエクゼキューションをサポートするFAを拝命する際には、株主の付託を受けた取締役会にお仕えする経営企画部の臨時増員であるとの意識で臨んでいる。私どもMUFGもMorgan Stanleyへの出資を契機に彼らと共に働く機会を得て、外資系投資銀行のクオリティの高さを体感。ディールのプロセスに対する正当性を示すFairness Opinion Letterを提出する際の内部審査は非常に厳しく、決して単なる仲介業者ではない。ぜひとも厳しく使っていただきたい。

圡居氏(JPモルガン証券):米国の上場会社が最たるものだが、一度ディールに入ると契約成立まではタイトなスケジュールで行わなければならない。相手企業がどういう企業で、どういうビジネスを、どういう人が経営していて、買収後にどう統合されるのかを最初からよく理解した上でM&Aに臨まないと、正しい価格で、正しいターゲットを、正しいタイミングで買うことはできない。

バチェフスキ氏:M&Aは相思相愛であることが重要であり、将来図を描けなければ無理だと思う。各事業部が戦略の中でグリーンフィールド投資と比較し、シナジーを意識してビジネスプランを立てることが求められる。

松江氏:ディール段階において、限界性のようなものを感じる。時間がなく、しかも売り手と買い手の競争関係があるので、情報が出てこないリスクを見極めなければならない。一方、買いたい意欲が高まったときに、意思決定の暴走をいかに止めるかというガバナンスの観点もポイントである。

宮島氏:暴走を止める問題は、2つの局面で考えた方がいい。1つは、買収価格が高くなり過ぎる局面である。そのときに、どういうメカニズムで止めるかを想定しておかなければならない。社外取締役とCFOが、社内で持っているディールの一定の基準に照らして考えていくことになるだろう。

もう1つは、事前に設定したシナリオが外部環境の変化によって変わる局面である。戦略の変更が遅れた結果、M&A後の収益率が上がらないケースが起こり得る。計画が精緻であればあるほど、事後のことは予見できないので、その対応が大きな問題である。

加藤氏:経営企画部には、経営陣が適切なM&Aの意思決定を図れるようにする責任がある。また、もともと描いていたプランが達成できないことがあるので、経済合理性がある形の意思決定を事前から心掛けることで、リスクヘッジを取っておくことも一手だと思う。

バチェフスキ氏:リスク管理をきちんとした上で、マイナスシナジーも必ず入れて考えなければならない。それから、高過ぎる価格で買おうとしても、リターンを考えるとディールがなかなか成り立たないので、早い段階で売却側に本音を伝えてお互いに納得すれば、もしかしたら価格調整ができるかもしれない。

小田氏:売り案件のTeaserが配られてくる場合、不必要なものもついてくるし、企業の戦略とすべて合致するものではない。「No」といえる雰囲気の醸成も必要だろう。

森川氏:Post-M&A段階の議論に移りたい。

バチェフスキ氏:確かに会社を買うとリスクはあるが、買われる側もリスクを感じている。日本企業にはみんな一緒に協力し合おうという雰囲気があるが、外資系の場合は個人で判断するので、コミュニケーションの方法を考えなければならない。

そのためには、Post-M&A段階で、各々のコンピタンスを発揮できるように働く環境を用意することが重要である。われわれが2012年に買収した日本企業では、キックオフミーティングを実施して全体的な戦略を確認する中で、買収した日本企業が育んできた「カスタマー・ファースト」という考え方を「カスタマー・フォーカス」という言葉で、当社のグローバルの戦略方針に織り込んだ。買収された側の良き文化を尊重することも、M&Aでは重要と考える。「その会社や国民の持つ文化は変えられないが、双方の振る舞いやコミュニケーションの方法は変えられる」。社員が、同じ方向を見て、振る舞い、コミュニケーションが取れるように、コアとなる方針を明確に打ち出すことが重要だと考える。

加藤氏:われわれは、買収後3カ月間で統合計画を作るが、その間においても買われた側も買う側も事業自体は進んでいるので、トランジション期間の意思決定の仕方を暫定的にでも決めておくようにしている。

小田氏:PMIで大事なのは、オーナーシップである。モルガンスタンレーと日本でJVをした経験からすると、PMIにおいて大事だったのは強烈なオーナーシップ。これまでの株主とは違うケイパビリティをもった株主が何をやってくれるのかを示すべき。また、現況を担う方々が新たなオーナーの強みにアクセスできる仕組みを作っておくことも大事。

松江氏:日本企業のPMIの課題は、事業家視点と投資家視点の双方で見なければならないが、特に投資家の視点においては見劣りがあることである。PMIのフェーズでは、プロジェクションを上回る対価の回収をしなければならないが、日本企業にはそういうロールで動く人はほとんどいない。買収後に価値を高めてゆく意識をより強く持つ必要があるが、その前提として求められるのは事業の可視化である。買収後は“見える化”をしたうえで、「任せて任さず」の経営を出来るかがポイントである。

圡居氏:PMIが下手なのは日本企業だけでなく、世界共通の課題である。海外企業と日本企業に違いがあるとすれば、うまくいかなかったとき、すぐに売る決断ができるかどうかである。その点は、海外企業の方が現実的だと思う。

森川氏:PMIを担う人材の在り方について伺いたい。

バチェフスキ氏:われわれはグローバルリーダーシップのガイドラインを作っており、そういうコンピタンスのある人材を自前でつくらないと、うまくいかないと思う。

松江氏:相手企業に誰をどういうポジションで送るかは、結構悩むポイントである。そのソリューションとして提案するのは、チーフ・インテグレーション・オフィサー(CIO)である。シナジーのリエゾンの役割を果たすCIOのポジションを置くことで、相手にベネフィットを渡すことが有効なアプローチの1つだと思う。

森川氏:目的や成功の基準が明確でないM&Aが多いのはなぜか。

圡居氏:偉い人の鶴の一声でやっているからという理由はあると思う。それから、同業他社に引きずられて行う形のM&Aも当てはまる。

小田氏:M&Aを手段としてどう使うかについてこなれているかどうかに違いがあるのではないか。永守さんのお話にもあったように、目的が明確な会社は常日頃からM&Aのリストを作っている。ただ、トップのみに情報が入るような場合もあるので、普段からトップとコミュニケーションをとっておくべきと思う。ただ、恐れる必要はなくて、FAを利用してもらうというのも一案。

森川氏:議論全体を踏まえて発言があればお願いしたい。

松江氏:海外M&Aは、自分の会社が変わる大きなきっかけをもたらす。まさに、PMIの成功は相手だけでなく、自分がどう変わってグローバル化していくかという問題と向き合っていくことである。

バチェフスキ氏:相手(被買収側)が変わるのではなく、自分(買収側)も変わることが日本にとって必要な刺激にもなるのではないか。

森川氏:宮島先生に、議論を総括していただきたい。

宮島氏:本研究会の狙いは、M&A成功の必要条件を明らかにすることと、M&A成功企業の事例を各社が共有する機会をつくることである。その点では、成長ビジョンの中にM&Aを位置付けることが不可欠である点では一致したのではないか。買収価格に関しても、上昇傾向にあるという問題意識は共有しているので、社内で明確な基準を立て、高過ぎる場合はやめる、あるいは待つ勇気も必要である。Post-M&Aについては、ターゲットになった企業のやる気を引き出す工夫を各社なりにすることが、重要な成功条件になるだろう。