METI-RIETIシンポジウム

対内直接投資の効果と促進―経済成長に向けて (議事概要)

イベント概要

  • 日時:2015年3月10日(火)13:00-17:00(受付開始12:30)
  • 会場:イイノホール&カンファレンスセンターRoom A (東京都 千代田区内幸町2丁目1-1)
  • 海外企業・資本をわが国に呼び込むことは、海外から優れた技術やノウハウを積極的に導入・活用し、イノベーションの活性化を図る上で欠くことができない。政府は2013年の「日本再興戦略」で、対日直接投資残高を2020年に35兆円へ倍増させるという目標を掲げているが、2013年時点の投資残高は国内総生産(GDP)比で4%弱と、世界的にみても低い水準にとどまっている。対日投資を促進するためには、わが国の市場環境や外国企業が進出するための土壌について再検証する必要がある。本シンポジウムでは、4氏が対日直接投資の現状と課題について報告した後、日本で展開している外資系企業から2氏を招き、対日直接投資を増加させるための方策などについて議論した。

    議事概要

    開会挨拶

    宗像 直子 (経済産業省貿易経済協力局長)

    対内直接投資は、雇用創出や新たな技術・サービスの導入などに加えて、経済効果を超える気付きや刺激をもたらすこともある。福島県にある日本ベクトン・ディッキンソンの工場の和風建築は、私たち日本人が忘れがちな日本の魅力を取り入れている。

    政府は、対日直接投資残高の倍増目標に向け、市場環境整備や外国企業誘致のための施策に取り組んできたところ。2008年のリーマンショック以降低迷していた対日直接投資も、足元では増加傾向を見せており、日本の投資先の魅力も向上している。政府としては、この機を逃さず、日本の魅力の発信、個別の投資案件のサポートに全力を挙げたいと考えている。日本に立地した外国企業の実績により、さらに日本への注目が集まるという好循環が生まれることを期待したい。

    本日のシンポジウムでは、御登壇の皆様には是非活発な御議論をいただき、参加者の皆様にとっても、変わりつつある日本の状況を御理解いただく良い機会となればと考えている。

    問題提起「グローバルサプライチェーンにおける日本の位置づけと対日投資の促進」

    藤田 昌久 (RIETI所長・CRO / 甲南大学特別客員教授 / 京都大学経済研究所特任教授)

    RIETIでは日本経済の成長のために、世界の成長をどう取り込むか、新たな成長分野をいかに切り開くか、社会変化に対応する経済社会制度をどう作っていくかという3つの視点を設けている。本シンポジウムでは、いかにして外国企業による日本国内への直接投資を増やすかを議論する。

    国連の統計によると、2013年末の対内直接投資残高のGDP比で、日本は199カ国中196位と大変低い。これは見方を変えれば、日本が発展する余地が大きく残されているということでもある。その中で、昨年12月、アップルが研究開発拠点を横浜に置くことを発表したのは朗報だった。その主な理由として、主力製品の中核部品の多くが日本の部品メーカーで製造されていることと、最近において画期的な新製品を生み出せていないアップルが、高齢化が進む日本こそ健康分野の技術革新の場とみていることが挙げられる。実際、今朝のニュースでは、アップルが4月24日に健康管理機能が付いたウェアラブルのアップルウォッチを発売すると報じられていた。

    本日は、日本の対内直接投資の趨勢と現状、対日直接投資のメリットとデメリット、これまでの努力の成果と課題、対日直接投資倍増の方策と見通し、日本の大きな方向性、必要とされる統計の整備について議論してほしい。

    研究発表

    報告1「対日直接投資の論点」

    清田 耕造 (RIETIファカルティフェロー / 慶應義塾大学産業研究所教授)

    対日直接投資のメリットは、雇用創出と生産性向上への寄与である。特にグリーンフィールド投資(M&Aではない新規投資)の効果は大きく、外資系企業の雇用は1996~2006年に15万人の純増があったとされる。外資系企業から国内企業への波及効果については、プラスの見方と必ずしも生産性が向上するとは限らないという見方が混在している。

    他方、デメリットとして外資系企業はリストラが厳しいといわれるが、必ずしも外資系企業の方が国内企業よりも雇用を削減しているとはいえない。また、外資系企業はすぐに撤退してしまうともいわれるが、国内企業と比べた撤退確率は必ずしも高いとはいえない状況となっている。

    では、対日直接投資を阻害する要因は何かというと、これは明確になっていない。よくいわれているのは(1)規制の存在、(2)日本の実効税率の高さ、(3)円高や高賃金、(4)言語の違い、(5)日本企業特有のコーポレート・ガバナンスである。

    (1)については相関関係があるという見方や、1990年代以降の規制緩和や環境整備である程度効果があったとする見方があるが、それはあくまで日本の過去との比較での話であって、世界全体の中で比較する必要がある。また、日本はG20の中で5番目に制限が緩いという結果も出ている。規制が及ぼす影響の定量的研究は十分な蓄積がなく、さらなる研究が必要である。

    (2)については、法人税率の高さが対内直接投資に負の影響を及ぼしているのは事実だが、諸外国も投資環境を改善しているので、日本が法人税を下げたからといって対日直接投資が拡大するかは不透明である。

    (3)、(4)、(5)についても、これらが対日直接投資の阻害要因になっていることを示す定量的なエビデンスは存在しない。

    また、これまでの定量的な分析は既に日本に参入した外資系企業に注目したものが多く、日本に参入したくてもできなかった潜在投資企業の要因を分析することも重要である。

    報告2「対日直接投資の動向と特徴」

    田中 清泰 (日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア経済研究所研究員)

    日本への外資系企業の進出は、1995~2007年に急激に増大したが、2008年のリーマンショックによって急減した。2009年以降は、売り上げ・雇用ともに回復傾向にある。また、景気後退期にも雇用の極端な削減は見られなかった。

    産業別に見ると、この間大きく雇用を増やしているのは卸売業、小売業、その他サービス業で、情報通信業、金融保険業への進出も増加している。外資系企業が日本に進出する大きな目的は、製品やサービスの販売であり、最近は日本の産業構造のサービス化に伴ってサービス関連の外資進出も活発化している。

    国別で見た場合、進出企業が一番多いのはアメリカで、企業数で約3分の1、雇用数で約2分の1を占める。次いでドイツ、フランス、イギリス、スイス、オランダなどの先進国が続くが、1995年以降は韓国、台湾、中国、香港など東アジアからの進出が増えている。

    また、日本本社所在地は東京都が70%と圧倒的に多い。その他は神奈川県、大阪府、兵庫県、千葉県、愛知県など、大都市近郊に集中している。しかし、事業所の所在地別に従業者シェアを見ると、2009年の東京は製造業が20%、サービス業が47%となる。

    進出形態別に見ると、2002~2010年のデータでは、単独新規設立が625件で約7割を占める。合併買収は、相対的に件数は少ないが、一般機械や電気機械ではやや多くなっている。ただし、合併買収は買収額が巨額になる可能性が高いので、インパクトは単独新規設立よりも大きいといえる。

    以上、長期的に見れば日本に対する外資系企業の進出は増加傾向にある。今後の投資誘致に向けては、第1に、サービス業(卸小売、金融、情報通信)、欧米先進国や東アジア新興国、国際展開に積極的な海外企業などに焦点を当てるべきである。第2に、実施可能な政策手段として、投資手続きの迅速化(ワンストップサービス)を進めるべきである。第3に、外資に対する地方の立地利便性を向上すべきである。

    質疑応答

    Q:日本の高賃金と特異な賃金制度は、対日直接投資に影響を及ぼしているか。

    A(清田):そもそも指標の作り方が問題となる。経済協力開発機構(OECD)が労働市場の規制度を示すインデックスが発表されており、これを使ってOECD加盟国の比較分析はできるかもしれないが、これにも限界はあると思うし、それを考慮した分析は見たことがない。また、非OECD加盟国を含めた分析は困難だと思う。

    Q:外資系企業動向調査と経済センサスを集計された県別の事業所のデータの合計値には、どの程度の差があるのか。

    A(田中):企業数には大きな差はないが、従業者数は外資系企業動向調査の方がセンサスの7割ぐらいなので、実際にはもっと多いのかもしれない。

    Q:対日投資促進を継続的に行ってきた組織の立場から、対日直接投資がこれまで増加してこなかった背景には何があると考えるか。

    A(田中):先進諸国から日本市場が遠いことや、英語で事務処理やコミュニケーションができるスタッフが不足していることは問題だと思う。外国人にとって働きやすい、住みやすい環境整備も必要ではないか。

    報告3「対日投資の拡大に向けたジェトロの取り組み」

    前田 茂樹 (日本貿易振興機構(ジェトロ)対日投資部長)

    JETROは2003年以来、対日直接投資促進の活動を本格化している。一時、日本企業の輸出促進や海外進出支援に注力していたが、2013年の日本再興戦略の中で対日投資残高の倍増が掲げられ、JETROも再びその活動を活発化させたところである。

    主な事業としては、ホームページやセミナーを通じた日本のビジネス環境・支援制度などの情報発信、首脳・首長によるトップセールスの演出、個別企業のサポートがある。個別企業へのサポートでは、IBSC(Invest Japan Business Support Center)が国内での拠点設立支援のために貸オフィスを提供しているほか、地方創生の観点から外国企業が日本の地方で展開してもらえるよう、自治体との連携を密にしている。また、今年度からは自治体が狙った企業にJETROが代わって営業に行くことも始めている。

    この11年間で約1万2000件の進出企業の案件をサポートし、1136件の誘致に成功した。アメリカ、ヨーロッパ、アジアがほぼ3分の1ずつだが、アジアの伸びが大きい。日本進出目的の8割は販売拠点の形成であり、これが東京に立地が集中する背景である。進出分野は環境、健康、観光、小売の4Kが有望であるとして力を入れている。また、外資系企業はIKEAやLUSHのように、最初は小規模な投資でも年々ビジネスを拡大していくケースがある。また、外資系の格安航空会社(LCC)の3割はJETRO支援物件である。

    地方誘致に成功した例としては、シンガポールのダウ・イー社がフイルム液晶ディスプレイの製造拠点と研究開発拠点を広島県庄原市に立地している。ベルギーのユミコア社は、リチウムイオン電池の製造拠点を神戸市、研究開発拠点を愛知県常滑市に置いている。

    投資誘致には王道がなく、JETROでは駐在員の日本での生活の立ち上げまで担当者がサポートするという地道な努力を続けて、対日直接投資の促進に努めている。

    報告4「対内直接投資の効果と促進」

    飯田 博文 (経済産業省貿易経済協力局貿易振興課長)

    日本の対内直接投資残高は他の先進国と比べて低い一方で、2014年の対日直接投資フローは、前年比約3倍と増加傾向を見せているとともに、大型の投資案件の公表が相次ぐなど、対日直接投資は再び増え始めている。さらに、アジア域内の投資先の魅力についての調査において、2011年度では全ての項目で中国が1位であったが、2013年度調査では日本がR&D拠点と販売拠点で1位になっており、日本にとって良い流れとなっている。

    外資系企業を誘致する理由として、日本に進出している外資系企業は日本企業に比べて生産性が高いという調査結果がある。さらに、外資系企業との投資提携を行った日本企業へのアンケートでは、外資系企業と組むメリットとして、商品の新規開拓、社内人材の成長、国内外販路拡大、経営管理の高度化などが挙げられている。医薬品分野では、外資系企業のシェア拡大によって、業界全体の生産性が向上するという相関関係が見られる。

    対日直接投資促進のため、政府は規制制度改革による商品力強化と、積極的な誘致活動による営業力強化を図っている。  商品力強化策としては、法人税の改革とともに、これまで外資系企業の参入が容易ではなかった農業・医療・電力の分野の規制改革を進めている。また、国家戦略特区による規制改革も加速的に推進していく。

    営業力強化策としては、昨年ロンドンとニューヨークで開催された対日投資セミナーにおいて、初めて総理が出席してスピーチを行うなど、トップセールスを実施した。また、地方自治体の取組支援として、地方拠点強化税制を創設し、補正予算で地方創生交付金が盛り込まれた。

    韓国の大韓貿易投資振興公社(KOTORA)やシンガポールのEconomic Development Board(EDB)など他国の誘致機関との間には未だ体制・機能面での開きが存在するものの、JETROにおいて、「東京開業ワンストップセンター」を開設するなどの取り組みを強化しており、東京オリンピック・パラリンピックを大きなチャンスとして、対日直接投資拡大につなげていきたいと考えている。

    パネルディスカッション「対内直接投資の効果と促進のための課題と対策」

    ダニー・リスバーグ(株式会社フィリップスエレクトロニクスジャパン代表取締役社長):フィリップスはオランダの会社で、世界100カ国以上でビジネスを行っているが、日本ではヘルスケア事業が売り上げの大半を占める。今、日本には製造拠点がなく、輸入と販売を行っている。日本でビジネスを展開するに当たって望むのは、品質マネジメントシステム(QMS)の相互承認をはじめとする国際標準との整合性、医療機器審査のさらなる迅速化、償還価格の制度見直し、建設工事管理責任者の設置義務の見直しである。

    小笠原 隆裕(アクサ生命保険株式会社執行役):アクサグループは世界59カ国にプレゼンスを持ち、日本では生損保、資産運用会社など全7社で事業展開している。グリーンフィールドで日本に投資をした後、商工会議所とパートナーシップを組む日本団体生命と経営統合し、全国600カ所に拠点を持っている。

    1994年の日本への参入は、世界第2位のサイズを持つ生命保険のマーケットであることと、ニーズの多様化により、成長の余地があるとみたからである。1990年代後半、日本の金融機関の破綻が相次いだ時期にあって、2000年に顧客の信用を完全に守る形で日本団体生命の強固な事業基盤を引き継ぎ、それ以降も生保の買収や新会社の設立などを行って、クリティカルマスに到達した。また、東日本大震災以降は被災地支援を継続し、地域社会への責任を果たしつつ、BCPを見直し、昨年11月、200名規模の札幌本社を開設し、強固な事業継続体制を確立した。

    外資系企業の日本進出の課題

    モデレータ:中島 厚志(RIETI理事長)

    中島:議論に当たり、3つの論点を提示したい。1つ目は外資系企業の日本進出の課題、2つ目は対日直接投資拡大の方策、3つ目は対日直接投資が地方創生に果たす役割である。

    まず、論点1に関して、直接投資に当たっての日本が他国と比べて特に特殊という点はあるのか。

    リスバーグ:日本人は非常に細かい。また、市場の構成員が日本人だけであることも、日本市場の面白い点だと思う。

    対日直接投資が少ない理由は1つではないと思う。企業は、ビジネスの成長のために長期的に何が必要かを考えて投資を行う。だから、たとえば税金が安くなれば日本に投資をするかというと、それは違う。従って、個別の問題を直すのではなく、システム全体を考えることが課題だと思う。

    また、フィリップスは今年、アメリカの会社を買収した。この企業の本社はアメリカにあるが、グローバルなビジネスをしているので、日本にも法人があり、150人ほど日本での雇用が増えている。従って、対日直接投資とグローバルな投資の両方を考えるべきだ。

    小笠原:日本の消費者やビジネスパートナーは、長期の関係を重んじる。ただ、企業文化としては、物事を受け入れ価値観を転換するのに時間がかかるので、企業文化の融合には他の国よりは時間を要する傾向がある。

    中島:先進国では直接投資の大部分がM&Aで行われているが、日本ではそれが極めて少ないのはなぜか。

    小笠原:当社はグリーンフィールドで日本に入ってきて、6年後に企業買収を経験している。グリーンフィールドの時代には成長手段が限られていたので、もともとM&Aを前提とした参入だった。特にサービス産業、金融機関は、日本ではM&Aの方が参入しやすいと思う。

    中島:日本の参入障壁について、パネリストの皆さまのご意見をお聞きしたい。

    深尾:労働市場の問題を1つ指摘したい。大企業は別として、かなりの直接投資は中小企業として始まるが、日本は中小企業がかなり参入しにくいといわれる。その原因として、優秀な労働者が中小企業に集まりにくいことがある。MIT(マサチューセッツ工科大学)の卒業生はかなりの割合が中小企業勤務で、半分以上が転職を経験しているのに、東京大学や東京工業大学は9割が大企業で働いていて、転職していないという調査がある。日本では新しい企業がなかなか人材を確保できない。

    清田:人材の育成が大事だと思う。普通の隣人として外国人と付き合っていける国際感覚を持った方がどれだけ育つかが課題だろう。

    前田:まず、「失われた20年」や「六重苦」といわれる日本市場の問題は、国内外の企業に共通するもの。その上で、外国企業にとって障壁になっているのは、コスト(税金)の高さ、日本市場の特殊性や英語の問題、生活の利便性の問題である。また、M&Aにも2つ問題がある。1つは、外資へのアレルギーから日本企業の側が売りたがらず、売り案件が出てこないこと、もう1つは雇用の維持が条件になることが多いことである。

    飯田:規制改革を一朝一夕に進めるのが難しい分野もある。特区を使って先行的に改革を進め、成功モデルを積み上げていきたい。

    リスバーグ:基本的に英語の問題があることは間違いない。トップ同士の理解が進まないと、意思決定ができないこともある。日本は住みやすいが、日本に来て最初の半年は言葉が全く分からないので、ほとんどギブアップしてしまう。コミュニケーションは重要である。

    小笠原:日本人の経営陣を見てみると、語学力の問題というよりも、日本独特の考え方に対する思い入れがあり、文化の多様性、経営判断の多様性を受け入れられるかどうかが大事なのではないか。語学ができなくても国際性豊かな経営陣はいる。

    対日直接投資拡大の方策

    中島:深尾先生は著書の中で、日本経済が雇用創出と生産性向上を同時に達成するためには対内直接投資拡大が必要とし、大企業の国内回帰を促すのと同じ施策すなわち環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)をはじめとする自由貿易協定(FTA)、経済連携協定(EPA)の締結、法人税率の引き下げ、円高対策、規制緩和などが必要としている。これらは実施可能なものも多いと思うが、どうか。

    深尾:重要なのは、日本の立地競争力を高めることである。その点では、TPPをはじめ、FTA、EPAなどで、外国のマーケットを日本の財やサービスの輸出に開いておくという視点や、法人税の引き下げ、人材育成が必要だろう。また、日本はOECD諸国の中でも、外資系企業を差別しない内国民待遇を守っている方だが、OECDの統計では日本企業、外資系企業の区別無く、参入障壁が高く、特に公益事業などでは参入しにくいという問題があるといわれている。

    日本の経済産業省は、対日直接投資と立地に関わる政策を別の部署が担当している。シンガポールや上海、ソウルと比べて日本の立地の弱みはどこにあるのか分析した上で、対日直接投資や空洞化の問題を考える必要がある。

    前田:シンガポールのEDBは担当者がインセンティブを与える権利を持っている。また、韓国のKOTRAも背後には補助金のインセンティブを持って交渉している。日本には投資インセンティブが足りず、また、自治体も外資だけを優遇することはできない。日本は競争するにも武器がないという状況にある。

    飯田:アメリカに次いでオランダからの対日直接投資が多い背景には、オランダでは租税条約が整備されているなどの税制上のメリットにより、ヨーロッパの企業が拠点を置いているという事情がある。租税条約やEPAの締結が外国企業の拠点を誘致するための1つの要素になると思う。

    中島:直接投資を増やすために、業種や国籍の幅を広げるという視点ではどうか。

    前田:昨今JETROに、政府系投資機関が運営する中東のファンドや公的年金の運用会社からのアプローチがある。倍増計画を実現させるためには、JETROの得意分野ではないが、M&Aと同時に、そういった資金を集めてくることも重要である。また、マレーシア、タイ、中国、韓国、台湾などのアジア諸国が資金の出し側になっていることも注目したい。業種でいえば、観光が圧倒的に関心の高い分野であり、中国、韓国、台湾あたりは電子・電機を中心とした製造業分野への関心が高まっている。

    中島:IT、医薬、ロボットなどの高度技術において、研究開発(R&D)の拠点を日本に置いたり、日本の研究者を利用したりという動きが生まれないのはどうしてか。

    深尾:日本はアメリカと比べて研究開発拠点の立地競争力の面でそれほど優位にないということだと思う。

    前田: R&Dには基礎に近い部分と応用に近い部分があるが、後者は市場に近いという意味で、今は圧倒的に中国である。日本は基礎といっても、大企業や政府に近いところがそこを囲い込んでいるため、外資は良い人材を採れないと言う。しかし、外資が大学の研究室と組んで研究を始めるパターンが最近出てきている。

    飯田:先進国からのR&D拠点の設置は今でも決して少なくない。新興国の設置がないのは、その国の研究開発投資の水準がまだそれほど高くないことの反映だろう。ただ、医薬の分野では、インドの企業などが活発に日本に投資している。

    リスバーグ:我々は先月、将来の成長が見込まれるアフリカに大きな研究所をつくることを発表した。我々にとってR&D拠点は非常に重要だが、利益がないものに対して簡単には投資できない。地方に資金が流れるようになれば、貿易も活発化し、投資する意味がある。日本はスピード感を持って方針を決め、実行することが求められる。

    小笠原:株主への利益還元を適切に行うことによってこそ、事業を長期的に継続できるというのが私どもの考え方である。日本への投資拡大は、成長の曲線を描けるかどうかにかかっている。また、パリ本部に話しているのは、高齢化やデジタルマーケティング、日本の市場が超低金利に世界でもいち早く到達したという観点から、日本からいろいろなことを学べるメリットがあるということである。

    対日直接投資が地方創生に果たす役割

    中島:対内直接投資の地方への誘導も含めて、全体を包括するご意見を頂きたい。

    深尾:事業所レベルで見ると、地方での雇用は既に結構作り出されている。政府目標で倍増を目指している直接投資残高という指標は非常に不安定で、外資の雇用の方が信頼できる指標になる。従って、統計自体に改善の余地がある。また、今後、中国などのアジア諸国からの直接投資が増えると、米国で昔反日感情が広まったように、反中国感情などが日本で起きる可能性がある。そうした対外的な摩擦を起こさない上でも、統計を整備し、何が起きているのかを透明にしておくことが大切である。

    清田:私は総合特区の仕事を頂いたが、企画書を拝見していると、企業誘致に非常に力を入れていても、外資系企業の誘致には触れていない。そういう意味で、自治体とJETROの連携に期待したい。また、既存の外資系企業の投資拡大も重要だと思う。

    中島:会場から(1)東京以外の地方にワンストップサービスセンターを設置する可能性はあるか、(2)関東以外への外資系企業の進出のきっかけは何か、(3)法人登記には日本に住所を有する者が最低1名必要という要件が今春撤廃されることのプラス効果は何か、(4)サプライチェーンが国内回帰する可能性があるかどうか、との質問をいただいている。前田部長にお答えいただきたい。

    前田:(1)は国家戦略特区で決まった話であり、既に福岡市、神奈川県、大阪府から特区の内容として申請が出ている。(2)は、日本のものづくりの集積地である名古屋を中心にした愛知県、三重県、岐阜県のエリアに、外資も随分工場を造っている。ロジスティクスの関係では、日本列島の東と西に倉庫を持つケースがあるし、小売では東京のほか大阪、福岡などの大都市に展開するケースが増えている。日本企業の産業立地とほぼ同じであり、外資も進化・成熟すれば国内中に展開していくだろう。(3)については、外国企業が日本に法人を持つためには、最低一人の代表者は日本に住所を持たなければならない一方、外国人が日本に住所を持つためには、その人が所属している会社が国内になければいけないという非常に矛盾した規定があった。撤廃により、日本に身寄りがない外国企業も日本で企業を設立しやすくなる。(4)については、アジア域内でサプライチェーンを確立させる動きのなか、よく見通せない。

    飯田:アベノミクスの第3の矢を政府が一体となって迅速に進めていくことが重要。今、日本に注目が集まっているので、この機会を捉えて、外資系企業を誘致していきたい。