ワークショップ

Financial Networks and Systemic Risk Analysis

  • 開催報告・資料

イベント概要

  • 日時:2013年7月17日(水)~7月19日(金)
  • 会場:京都大学 百周年時計台記念館 国際交流ホール

開催報告

本国際会議は7月17日から19日まで、3日間にわたって京都大学で開催された。12カ国から参加者が集まり、参加者数は、日本人39名、外国人31名であった。この会議の翌週、7月22日から26日までソウルでSTATPHYS25という大規模な国際会議があり、そのサテライト会議であったため、海外からも多くの参加者が集まった。組織委員代表はRIETI ファカルティフェローの青山秀明京大教授。組織委員副代表はRIETI ファカルティフェローの吉川洋東大教授で、RIETI ファカルティフェローの渡辺努東大教授は組織委員を務めた。

初日:開会宣言、Calderelli氏(IMT, Lucca)の基調講演の後、経済危機の予測測度として提案されているDebtRankについての講演などが行われた。この中で、日本側が提供した日本の金融ネットワークデータ(金融機関から企業への融資等の情報)の解析についての講演が3件あり、金融ネットワークについての実証的研究の重要性が再確認された。第2セッション「科学・技術の科学とInnovation 政策」では、日本の研究者グループが、R&D投資の効用診断やInnovationのための共同研究について、実証的データに基づいた研究を発表した。豊富な日本のデータを用いたことが特徴的な研究で、ヨーロッパの研究者から、データの特質や解析方法についての熱心な質問があった。

2日目:基本的なネットワーク・モデルの構築や解析の新手法についての基調講演の後、吉川洋氏が、マクロプルーデンシャル政策の数学的理論についての講演を行い、政策論議に科学的根拠を提供することの重要性を訴えた。その後午前中に行われたポスターセッションにおいて14の発表があり、アジアでのCO2問題の産業連関テーブルを利用した解析(山崎氏(東京情報大学))が、環境と経済の間の関係をどう考えるかという視点から、また、オンライン市場での解析データの報告(水野氏(国立情報学研究所))の中で分析の対象となった日本のデータが、特に多くの質疑の対象となった。また、このポスターセッションは、日本の学生が欧米の研究者の多くの質疑に対応していたことや、日銀の研究者(磯貝氏)がポスター発表を行ったことが特徴的であった。現在金融ネットワークの研究が国際的に注目され、世界各国で国内のデータの収集・解析を目指す動きがあり、このポスターセッションでは、Calderelli氏等から、データの公開の可能性等についての質疑がなされた。午後には、 経済危機に直接に関係する研究成果が報告された。Mauro Gallegati 氏(Polytechnic University of Marche)は、信用ネットワークの耐久性についての講演を行い、注目を集めた。Souza氏(ブラジル銀行)は、ブラジルのデータの解析結果につき発表した。Cristelli氏、Tacchella氏(いずれもイタリアのISC, CNR)は、ネットワークの成長に関する新しい測度の導入に関する発表を行った。

3日目:最初に、EUの超大型研究計画を推進してきたHelbing氏(ETH, Zurich)が、複雑系としての経済・社会ネットワーク、個人のプライバシー保護、危機の現れ方等について、今後の研究の大きな方向付けを含めた講演を行った。その後、金融市場での各種の変動や特に危機の現れ方についての実証的解析(増川氏(成城大学)、Chakraborti氏(Ecole Centrale Paris)、Nguyen氏(Vietnam National University))や、そのダイナミクス(佐藤氏(京都大学))等についての発表が行われた。

3日間にわたる会議全体を通して、企業や金融機関などのネットワーク、ネットワークの基本理論、政策への科学的寄与、金融市場の解析などの多くの重要なテーマを網羅した日本側、欧米側の最新の研究が発表され、議論・交流が進んだことから、今後、幾つかの新しい研究への視点が浮かび上がり、 共同研究の立ち上げにつながっていくことが期待される。また、世界各国からの参加者を多数集めた会議が日本で大変スムーズに行われたことから、日本の研究態勢とその多くの成果についての欧米の研究者の認識を深める良い機会になったことが期待される。

資料