RIETI政策シンポジウム

イノベーションの過程とそのパフォーマンス:日米欧発明者サーベイからの主要な発見と教訓

イベント概要

  • 日時:2008年1月11日(金) 9:45-18:00
  • 会場:大手町サンケイプラザ 3F (東京都千代田区大手町1-7-2)
  • 議事概要

    開会挨拶

    これまで、イノベーションの中心的な役割を狙う知識創造の過程が、企業の外部から見えなかった。今回の日本発明者アンケート調査により、その過程を明らかにし、イノベーションのパフォーマンスに結びつく研究が可能になった。アンケート調査には、5300名の発明者から回答を得ることができ、ご回答いただいた方々に感謝申し上げたい。また、先行して行われた欧州調査に加えて、今回ジョージア工科大学とRIETIとの間の協力で米国でも日本と同様な調査票による発明調査が行われており、国際的な比較分析により、日本型イノベーションの構造的な特徴も明らかにすることを期待する。また、シンポジウムには、イノベーション研究に関し、世界的に有名なネルソン教授、ホール教授も参加して頂き、多いなる成果を期待したい。

    第1部 基調講演と報告

    [概要]

    本セッションでは、日本・欧州・米国で行われた発明者アンケートに基づいて、イノベーションの過程において発見した事実、および日米欧の地域間の相違に着目している。
    基調講演1では経済学的な知見からイノベーションを解説、報告1、2では日米発明者サーベイを中心に概要を紹介、基調講演2ではヨーロッパ発明者サーベイの結果から政府政策面への示唆を報告、報告3では、日本の発明者調査のデータを用いて、発明者の動機についての研究結果を紹介するものであった。
    セッション全体から、以下の要点が得られた。

    • 日米欧の結果が多くの点で非常に類似している。研究開発競争がグローバル化し、同時に発明者というコミュニティが世界共通となりつつある。またイノベーションについて各国が共通の課題に直面していることを示唆している。
    • 発明者調査からイノベーション政策のあり方において、これまでの誤認や今後への示唆が得られた。
    • 企業のイノベーション経営でも国のイノベーション政策でも補完性に注目することが重要である。社会全体に「taste for science」つまり科学技術への興味を喚起することが、イノベーション促進に繋がる。

    [Bronwyn H.Hall氏基調講演の概要]

    (1)イノベーションは経済現象

    イノベーションの成果を図るには、企業・セクター・国の成長率・収益性・生産性など各種の外部市場が用いられる。インターネットの発明など、破壊的な発明に関し、経済的な説明がどの程度通用するかは疑問点もあるが、発明をイノベーションとするには資金と市場が必要であり、経済分析は重要な役割を果たせる。NelsonとArrowは、イノベーションは新しい情報の創造と定義している。新しい情報は、企業に規模の経済をもたらすと同時に、他社に模倣される可能性も潜んでいるため、企業レベルでも政策レベルでも、こうした情報の特性にどのように対処するかは重要な課題である。

    (2)イノベーションを左右する要因 - 需要・供給・環境

    経済学者は需要と供給から考える場合が多い。イノベーションの供給には、金利・税率などの資本コスト、ベンチャーキャピタル、技術者の能力と数などの要因を含む。また、国立研究機関が科学知識を蓄積し、技術開発機会の供給に関わる。これまでの研究でわかったことは、

    • R&Dに対する減税はR&D活動を活発にさせる効果がある。しかし、イノベーションの成功率が高まるとは限らない。
    • ベンチャー資金が占める割合が極めて小さい。しかし、スタートアップ企業の選別において、果たす役割は大きい。
    • 各国共に、国立研究機関と産業界の連携を問題として認識している。

    イノベーションへの需要は、市場構造、つまり市場の競争環境、消費者嗜好、下流企業の需要などの要因を含む。極めて競争的な市場環境は、企業にイノベーションから利益をもたらさない。一方、独占的な市場環境では、企業にイノベーションのインセンティブすら存在しない。市場は大体両者の中間にある。企業はイノベーションによるリターンを確保するために、リードタイムおよび戦略的な先行優位・企業秘密・補完資産・特許などを活用している。近年、特許の重要性が特に上昇している。
    イノベーションの環境とは、マクロ経済環境・政府の規制・教育システム・産学連携・標準化、つまり国のイノベーションシステムである。

    まとめ

    上記で挙げられた要因はイノベーションにどう左右するのか、これまでの研究から以下のことがいえる。

    • 大手企業、既存企業が新規参入企業、スタートアップ企業より、多くのイノベーションを行っている。イノベーションには、継続的なR&Dが重要である。
    • イノベーションの成功において、需要が供給より重要な決定要因である。
    • イノベーションのアウトプットは企業のR&Dインプットに比べ、よりばらつきが大きく、研究開発の不確実性が大きい特徴を示している。
    • 政府によるイノベーションの支援とイノベーションのパフォーマンスの関係において、一貫した結果がない。
    • 企業のプロダクト・イノベーションとプロセス・イノベーションの間などに補完性が存在することがわかっており、企業に総合的な戦略が重要であることを示唆している。また、国のイノベーション政策についても補完性が重要である。
    • ベンチャーキャピタルは、健全な金融市場による出口の提供を必要とする。
    • 良好な教育環境で訓練された技術者の多くが安定した国立研究所に就職する場合、イノベーションが促進されない。
    • R&D資金の投入は短期間において、技術者給与の増加につながり、R&D活動の効率性が逆に下がる可能性がある。

    [Q&Aの概要]

    フロアから、以下の質問がなされた。

    Q.企業内部において、イノベーションが連続的であるが、イノベーション代替のプロセスについての研究はなされたか?

    A.イノベーションの代替性については、1つの研究アプローチではあるが、今回は考慮していない。

    [報告1、2の概要]

    (1)発明者サーベイの目的

    イノベーション過程について、これまで体系的な情報が存在しなかった。発明者サーベイはこうした情報ボトルネックを解消し、イノベーション過程、たとえば産学連携・プロダクトイノベーションとプロセスイノベーションの割合・知識のスピルオーバーなど諸現象の実態を把握し、解明するのに役立つ。

    (2)調査対象となる発明

    日本では5300の回答、米国では1900の回答を得ている。うち、日本では70%の回答が日米欧3極出願の特許であり、米国では全て3極出願特許であった。日本の特許庁で日本人出願によって登録される特許の中の8%は3極出願であり(米国では全ての国の出願人による登録特許の23%)、従ってサーベイは主に質の高い特許を調査対象にしている。また、技術分野は化学・バイオ・半導体・IT・金属加工など多分野にわたっている。

    サーベイ結果からみる日米発明者の特徴

    • 発明者の平均年齢
      米国の平均年齢(53歳)が日本(約40歳)より高い。
    • 発明者の学歴
      大卒の割合は、日米ともに9割程度と高い。博士の割合は、日本1割強に対し、米国が5割弱である。
    • 女性の割合
      日米ともに数%(日本1.5%、米国5.4%)である。女性研究者の割合(日本10%、米国25%)から見ても低い水準にある。
    • 発明者の勤務形態
      日米では、8-9割の発明者が大企業(250人以上の企業)に所属している(日本の方が大企業の割合が高い)。大学に所属する発明者は、日米共に極めて低い。
    • 発明者の転職率
      米国が日本の倍(日本では派遣・出向を含めても12%、米国26%)である。ハイテク分野-バイオ・医療機器・半導体・ソフトウェア分野における日米転職率の差が大きい。大企業は大学から、中小企業は他の競合企業から発明者を獲得している。日本においては、サプライヤー企業など垂直方向の人材流動が、競合企業などの水平方向より多く、米国と逆の傾向を示す。
    • 発明者の所属部門
      日米共に、2割程度の特許がR&D以外の部門から生まれる。
    • 発明の動機
      日米の発明者共に、金銭的な報酬を受けることより、技術問題を解決することで得られる満足感や科学進歩への貢献を最優先のモチベーションとしている。

    サーベイ結果からみる日米発明のプロセスの相違

    • 研究プロジェクトの目的
      日米共にプロセスより、プロダクトイノベーションを目的とする傾向が強い。
    • 発明は研究プロジェクトの目標か、セレンディピティ(serendipity)か
      5割の発明は研究プロジェクトの目標であった。一方、米国では10.7%の発明は研究プロジェクト当初の主要目標と関係がなく、予想もしなかった副産物で、いわゆるセレンディピティであり、日本の3倍である(日本3.4%)。
    • 発明を必要とする人月
      日米の分布は非常に類似し、5割の特許が12人月以内、8割の特許が24人月以内で完成される。
    • 組織内外との協力
      日米共に1割の発明は組織外との共同発明である。サプライヤー・顧客といった垂直方向の共同発明が、競合企業といった水平方向より一般的である。また、共同出願以外の研究開発の協力について、3割の発明には組織内外との協力があった。競合企業間のコラボレーションは米国が日本より多い。大学とのコラボレーションは日米共に非常に少なく、日本が米国よりも多い結果であった。
    • 発明への情報源
      発明に有用な情報源として、(1)科学技術文献、(2)特許、(3)顧客・製品ユーザー、(4)自社の中の知識が重要であるが、発明の着想には科学技術文献といった外部知識がより重要であり、発明の実施には顧客・製品ユーザーが重要である。また、日本では科学技術文献より特許文献がより重要である。
    • 研究の事業上の目的
      日米共に、既存事業の強化を最大の目的としている(日本67%、米国49%)が、その割合は日本で高い。一方、米国は日本より当面の事業と直結しない、技術シーズの発見といった長期的な研究志向が強く(米国24%、日本8%)、特に半導体・メモリ・ソフトウェア・光工学分野では日米の差がより大きい。また、特許の価値とR&Dに費やした人月の関係については、コアビジネスの場合、費やした人月が高い程特許の価値が上昇する傾向があるが、新しい技術シーズの発見について、費やした人月と特許の価値との関係は弱くなり、他の要因がより重要であることを示唆している。
    • 発明の活用
      日米共に5割の特許が自社で使われている。半導体・バイオを除き、日本のライセンスの割合が高い。米国は自社で専用し、日本はライセンスの傾向が強い。特許が新しい企業の設立に使われた割合は、米国は日本より高く(米国7%、日本4%)、特にバイオ分野では顕著である(米国20%、日本6%)。1製品あたり必要とする特許件数について、2割の製品のみが1件の特許を必要とし、商用化には多くの場合特許の束が必要であることを意味する。発明が利用されない場合の理由について、特許が元々ブロッキングのために出願されたとの答えが最も多い。また、日米共に2割の特許が純粋な防衛目的で出願されている。
    • 発明の商業的成功のための企業戦略
      日本でも米国でも先行優位性が最も重要であるが、相対的に米国では市場投入における先行優位、日本では補完・補強する技術開発、特許網構築における先行優位を重要視している。半導体・メモリ分野において、米国の市場投入の先行優位性の重視傾向が非常に鮮明である。また、米国企業の方が特許権の執行の重要性をより高くおいても日米共に先行優位性を下回り、最も重要な戦略とはしていない。
    • 発明の資金源
      企業の内部資金(借り入れ、出資を含む)が日米とも9割を占め、ベンチャーキャピタル、政府のプロジェクトの割合は日米共に低い。しかし、米国ではベンチャーキャピタルがバイオ分野において高い(米国8.6%、日本1.2%)割合を示す。全技術分野における政府プロジェクトの割合も米国が日本より高い(日本4.5%、米国5.7%)。資金的な制約については、発明の段階よりも商用化の段階に受ける場合が多く、コアビジネスに関連した発明でさえ8%の発明が資金的な制約を受けている。

    まとめ

    • 日米の制度的な差にもかかわらず発明とイノベーションの過程は意外な程に類似している。特に、大学発明者の割合・産学連携による発明・発明者の動機・発明にかかった人月・特許の利用率・サプライヤー・顧客・製品ユーザーの果たす役割などにおいて非常に一致した結果が出ている。
    • 日米の違いは、米国の発明者の転職率、発明がセレンディピティの割合、探索的研究志向の割合などにある。また米国企業は市場投入による先行優位、特許権の執行をより重視し、日本企業はライセンス傾向が強いことがいえる。

    [Richard R.Nelson氏概評の概要]

    素晴らしい研究と賞賛し、以下の点に絞ってコメントされた。

    • 企業のイノベーションにとって最も重要な知識源の1つが、顧客・製品ユーザーであることは35年程前SAPPHOの研究で既に分かっている。当時イノベーションへの供給(technology push)が短期間において不変と考えられてきたが、今では状況が異なり、ハイテク分野のように、イノベーションへの供給が日進月歩である。しかし、今日の発表からもわかるように、依然としてサプライヤー、顧客・製品ユーザーが企業にとって重要な知識源であることは35年前とまったく同様である。
    • イノベーションはプロセスイノベーション(「もの」の発明)、プロダクトイノベーション(「方法」の発明)と分類されているが、この分類自体は相対的な概念であるのを念頭に置くべきである。下流企業にとっての1つのプロセスイノベーションが、上流企業にとってはプロダクトイノベーションとなり得る。

    [Q&Aの概要]

    フロアから、以下の質問がなされた。

    Q.日米の結果の比較において、統計的なテストを経たのか?

    A.まだ統計的な査定ができていない。3月末までにまとめる最終レポートには統計テストを経た結果を発表する予定である。

    Q.大学が占める特許の割合が少なく、また大学とのコラボレーションが少ないなど発表の中では大学の役割が過少評価されているのではないか?

    A.大学の最も重要な役割が発明者となる人材の訓練である。今回の結果からも大学が重要な人材源であることが示されている。出願特許から見れば、確かに大学が占める割合は低いが、これは大学が本来最も重要とする役割を否定するものではない。今後は更に解明していきたい。

    [Alfonso Gambardella氏基調講演の概要]

    欧州で行われた発明者サーベイを踏まえて、政府のイノベーション政策に示唆するものを取り上げる報告であった。

    (1)日米欧発明者サーベイの先駆けは欧州

    • 2003-2004年に発明者サーベイを実施。対象となる特許は優先権主張年が1993-1997年の間の発明である。ドイツ・フランス・イタリア・スペイン・オランダ・イギリスなど主要国が参加し、2万7000件のアンケートから9000件の回答を得た。
    • サーベイの質問は、(1)発明者の個人的な情報、(2)教育背景、(3)雇用形態および転職経験、(4)イノベーションプロセス、(5)特許価値の5つの部分で構成される。
    • 本格的なサーベイを実施する前に、予備アンケート調査を行った。発明者と上司、どちらをサーベイの対象にすべきかについて検討し、発明者の大規模な調査が適切と判断した。
    • 発明者の転職・転居により、住所を特定する作業に手間が掛かった。

    (2)日米欧サーベイの基本的な結果は非常に類似している

    • 発明者というコミュニティの特性は世界共通である。欧州においても、2/3以上の発明者が大企業に所属している。また、大学・国立研究機関の発明者の割合は、日米欧は同等に低い。学歴も同じ傾向を示し、医薬分野では博士出身の割合が高くなる。発明者の転職率は米国に類似する。欧州の発明者の平均像は、45歳・高学歴・企業勤務である。

    (3)サーベイ結果からイノベーション政策への示唆

    • 大企業の重要性
      政策面で、大学・中小企業が特許への貢献度を過大評価した可能性がある。
      サーベイでは、2/3以上の発明者が大企業に所属するという結果であった。
      これまでの政策では、大学・中小企業が特許への貢献度を過大評価した可能性がある。
    • 潜在的な発明者を増やすための政策
      女性発明者の割合が低い。女性のキャリアパスを構成しやすいような政策をとれば、潜在的な発明者の数が増える。
    • 発明者動機づけのための政策
      日米も同様であるが、欧州各国の発明者は、技術課題の解決から得る満足感を最も大きな動機としている。政策はこのような発明者のエトスを大事にすべきである。ドイツの発明者奨励金支給制度は効果をもたらしたかどうか疑問が残る。
    • 組織内外においての知識のスピルオーバー
      知識のスピルオーバーは、自社内で最も頻繁に起きている。地理的に近くても他社組織との知識のスピルオーバーは大きくないとの結果である。また高学歴者程ネットワークは広い。従って、多くのシリコンバレーを作るより、各地に多くのベンツ社を作ることが知識のスピルオーバーにとってより効果があるのかもしれない。地域内のスピルオーバーより地域内の人的資本の形成をより重視すべき。
    • イノベーション政策はイノベーションへの需要から考えるべき
      サプライヤー、顧客・製品ユーザーが発明にとって最も重要な知識源である。イノベーション政策を練るには、需要から考えることが重要である。
    • 特許がより活用されるための特許市場
      使用されない特許が質の低い特許とは限らない場合が多い。大企業のほうが中小企業より多くの特許が眠っており、これは大企業の取引費用がネックになっている場合が多い。これに対し、中小企業は特許を効率的に活用している。大企業の持っている特許がより活用されるためにも欧州における特許市場が必要であり、大企業からのスタートアップも促進すべきである。
    • イノベーションには近道がない
      40%の発明が研究プロジェクトの目標であるのに対し、40%は予想した副産物、残りの20%がセレンディピティである。従って、イノベーションのインプットに対し、アウトプットの不確実性が高く、R%Dへ人材、資金への投入を増加することが、イノベーションの数を増やす典型的な手法となる。

    [大湾秀雄氏報告の概要]

    日本の発明者サーベイの結果を用い、発明者動機と特許価値の関係について、探索的研究(exploration)と既存知識を活用した研究(exploitation)の違いや、企業が発明者に支払う金銭的報酬導入の内生性などに注意を払いながら効果を分析し、報告された。

    ■発明者動機についての質問内容

    発明への動機として、(1)科学技術の進歩への貢献による満足感、(2)チャレンジングな技術課題を解決すること自体への興味、(3)所属組織のパフォーマンス向上、(4)キャリア向上や、より良い仕事に就く機会拡大、(5)名誉・評判、(6)研究予算の拡大など研究条件での便益、(7)金銭的報酬、7種類の要因の5段階評価であった。

    ■サーベイ結果

    年齢、学歴、所属企業の大きさで発明者を分類してみた。ほとんどの分類において、技術課題解決への興味(2)、科学技術への貢献(1)が最も大きな動機であり、特に後者を「taste for science」と名付ける。また、金銭的な報酬が、最も評価が低い動機である。

    ■回帰分析の結果

    • 「taste for science」は特許の数、特許の価値に極めて相関関係がある。従って、研究者の「taste for science」は研究者の生産性を決める重要な要因である。これは、「taste for science」の強い研究者は、先端的科学技術に早い時期にアクセスすることが研究開発の生産性に良い影響を与えているか(生産性効果)、また「taste for science」と研究能力の間に高い相関関係がある(スクリーニング効果)か、この2つが考えられるからである。後者の影響が特に高いと見られる。
    • 金銭的報酬は一定の効果を持つ。その効果は、探索的研究(exploration)或いは応用的研究(exploitation)において大きく違わない。

    報告に対し、以下のコメントがあった。

    Bronwyn H.Hall氏:
    企業のR&D活動努力が過小であるかどうかと発明者自身の努力の動機は別問題である。
    発明者の高いモチベーションが、企業のR&D過少投資の問題を相殺するかのような議論は正しくない。

    藤田昌久氏:
    大変興味深い研究であり、今後更に研究が深まることを期待する。金銭的な報酬の効果について、より解明することにより、効率的な報酬制度の設立に役に立ってもらいたい。また、「taste for science」を日本人の「taste for baseball」のように社会全体で喚起できるなら、望ましい。

    [Q&Aの概要]

    フロアから、以下の質問がなされた。

    Q.Alfonso Gambardella氏の基調講演では、知識のスピルオーバーは、距離の近い他社の人間よりも距離の離れた自社もしくは他社の人間と頻繁におきる結果を示したが、元々遠くにいる人間の総数、つまり母集団が大きいからではないのか?

    A.Alfonso Gambardella氏:
    我々の質問は「あなたは発明にあたって誰と会話するのか」である。結果的には、会社内、つまり同一ビル、同一構内にいる人間と最もよく会話をする。しかし、同一ビル、構内の母集団が最も少ないはずである。従って、母集団の数が結果を決めてはいない。

    Q.Richard R.Nelson氏:
    MITの学者の研究によると、プロジェクト内ではコミュニケーションのパターンが存在する。自社内の交流・他社との交流は、それぞれの人間で役割が分かれている場合がある。プロジェクトにおけるコミュニケーションのパターンについて調査したのか?

    A.Alfonso Gambardella氏:
    そのような調査を特には行っていないが、学歴とコミュニケーションのパターンの関係は把握している。博士はinternationalレベル、大卒はlocalレベル、学歴は発明者が交流できる範囲を左右していることがわかっている。

    Q.(大湾秀雄氏の報告に対して)
    explorationとexploitationで効果を発揮している動機付けがどう違うか、および発明者の「taste for science」の違いを評価できれば、政策・戦略においてもっと適材適所することが可能となるので、非常に興味深い研究課題であった。今後どのような研究を展開していくのか?

    A.大湾秀雄氏:
    explorationとexploitationの定義をもっと明確にした上で、サーベイ結果を活用した分析を行っていくつもりである。そして、企業の戦略の選択がexploration、exploitation両活動にどう影響したかも分析していきたい。また、日米企業の比較、なぜ米国ではexplorationが多いと言われているのか、企業の多角化と両活動の関係について更に解明していきたい。