CEPR-RIETI 国際ワークショップ

金融のグローバル化と安定

イベント概要

  • 日時:2007年9月6日(木) 10:00~15:00(受付開始及び開場:9:45)
  • 会場:経済産業研究所セミナー室(経済産業省別館11階1121)
  • 開催言語:英語⇔日本語(同時通訳あり。先着40名)
  • 参加費:無料
  • 主催:Centre for Economic Policy Research (CEPR)、独立行政法人経済産業研究所 (RIETI)
  • お問合せ:石原千恵子
    Tel:03-3501-1375 Fax:03-3501-8416
  • 議事概要

    第3セッション「グローバルな金融市場の展開の政策的意味」

    (要約)

    Philip Lane氏からは経常収支不均衡の調整シナリオを経済モデル化させて得られた影響の分析が報告されました。分析によると、米ドルの急落を伴うハードランディングシナリオの下における日本・中国・欧州に対する資産効果を通じた影響は、米ドルポジションの少ない欧州では資本損失がGDP比で見ても小さい(4.1%)なのに対し、米ドルポジションの多い日本と中国ではGDPの16-17%以上の資本損失が生じるが、GDPへの影響は軽微であるとの報告がありました。

    Richard Portes氏からはキャリートレード、ヘッジファンドの金融市場への影響が示されました。キャリートレードは為替変動によって大きな影響を受けるものであり、その場合の投資家に損失は避けられないものの、グローバルな金融市場の安定性を脅かすには至らない、さらにヘッジファンド自体の損失は金融システム全体には及ばないが、資金供給している銀行へのリスク波及については不透明性があるとの見方が示されました。全体として、現時点で大きく金融市場が動揺する実体的な要因は少ないが、政策当局が市場の信頼を維持できるかが重要であるという認識も示されました。

    これに続くラウンドテーブルの議論では、ドルの為替変動については貿易投資で密接に関連するアジア全体とドルとの関係を考える方が有益であると指摘されました。また、日中外貨資産の多様化は必要だが、ドル資産の大規模な売却は短期間にはドル急落を招き逆効果であること、ヘッジファンドに対するバランスのとれた見方は歓迎されるが規制への政治的圧力が強まっていることなどが議論されました。

    (各報告のポイント)

    Philip Lane氏の報告
    《グローバルな不均衡》

    • 世界の経常収支状況(対GDP比)を見るとアジアは黒字基調であるのに対し、米国は赤字が続いている。
    • 欧米とアジアの貿易は増加しながらも、そのリンクは比較的小さい。
    • 金融の自由化の進展につれてValuation channelが重要。
    • 不均衡改善の国際的調整シナリオをモデル化。
    • 外貨・外国資産の保有状況を見ると日本は米ドルの動きにさらされやすい。
    • 米ドルの急落を伴うハードランディングシナリオの下における資産効果を通じた影響。
      欧州:資本損失がGDP比で見ても小さい 米ドルポジション少ない。
      日本・中国:資本損失GDP比16-17%以上の資本を損失している。また、米ドルポジション多い。ただし、GDPへの影響は小さい

    Richard Portes氏の報告
    《キャリートレード・ヘッジファンドの金融市場への影響》

    • 国際的な不均衡な中、現在のマクロ経済状況は落ち着いている。
    • 現状が持続的な長期均衡状態であるとは考えられないが、均衡現象となっている。
    • キャリートレードは為替変動によって大きな影響を受ける。
    • キャリートレードによってグローバルな金融市場の安定性が崩れるとは考えにくい。
    • ヘッジファンド自体の損失は金融システム全体には及ばない。
    • ヘッジファンドに資金供給している銀行へのリスク波及については不透明性がある。
    • ヘッジファンドの行動はシステマティックリスクを減少させる。
    ◆ ラウンドテーブルの議論で出された質問・コメント
    • アジアの貿易統合は進むが金融統合は進んでいない。
    • 貿易のリンクの関係からアジア全体とドルとの関係を考える方がよいのではないか。
    • 中国はバスケット制からフローティング制に移行するか。
    • 国際的な調整は起こるのか、起こるとしたらそのショックを小さく収めるには、どのように対応するべきか。
    • 日本の外貨分散はどうすればよいか。
    • Lane氏のシナリオの影響に対する評価がない。
    • 金融市場における動きから損をするのは誰か。
    • ヘッジファンドは市場の安定化を助ける働きをしているとの見解が示されているが、最近では彼らに対して規制をかけようとする動きがある。
    ◆ 議論に対するCEPR側からの主な回答
    • 日本や中国は外貨資産を多角化させたほうがよいが、ドル資産の大規模な売却を短期間に行うことはドル急落を招き逆効果である。
    • キャリートレードを行っていた人やヘッジファンドなどの市場参加者(当事者)たちが損失を被ることが他の部分に大きく飛び火することはないのではないか。