CEPR-RIETI 国際ワークショップ

金融のグローバル化と安定

イベント概要

  • 日時:2007年9月6日(木) 10:00~15:00(受付開始及び開場:9:45)
  • 会場:経済産業研究所セミナー室(経済産業省別館11階1121)
  • 開催言語:英語⇔日本語(同時通訳あり。先着40名)
  • 参加費:無料
  • 主催:Centre for Economic Policy Research (CEPR)、独立行政法人経済産業研究所 (RIETI)
  • お問合せ:石原千恵子
    Tel:03-3501-1375 Fax:03-3501-8416
  • 議事概要

    第2セッション「さまざまな地域の金融安定性」

    (要約)

    Philippe Martin氏からはエマージングマーケットの市場クラッシュの要因に関する実証研究の成果が示されました。それによれば、貿易投資の自由化と金融の自由化の2つの自由化についての効果について、貿易投資の自由化は市場クラッシュを起こしにくくする傾向があるのに対し、金融自由化は資本コストを下げ高い投資をもたらす一方で市場クラッシュ・資本逃避のリスクを高めるという二律背反的な側面があり、貿易自由化と金融自由化を行う順序として、貿易の自由化を先に行ったほうが市場のクラッシュが起きにくいということが示されました。

    Richard Portes氏からはユーロ導入以降の、欧州金融市場の変化が報告されました。この10年の欧州金融市場の拡大はめざましく、特に大きな問題もなく成長しました。ユーロボンド市場の規模は2005年以来、米国市場を凌駕するに至っています。欧州における間接金融中心の金融システムが資本市場を中心に大きく構造変化しました。近年の欧州の大規模なM&Aもこうした構造変化なくしては考えられません。

    ラウンドテーブルでは、市場クラッシュを少なくする要因には貿易投資の自由化の背景にある政策・経済的ファンダメンタルズの影響や、貿易投資自由化以外にもさまざまなものがあり得るという意見が出され、今後の研究テーマとしても重要であることが認識されました。また、グローバルな流動性の上昇が欧州における地価上昇を招いたかについては、否定的な見解が示されました。

    (各報告のポイント)

    Philippe Martin氏の報告
    《エマージングマーケットの市場クラッシュ》

    • 貿易や金融の開放は先進工業国、エマージングマーケットの双方で増加している。
    • 先進工業国はエマージングマーケットよりも金融統合が多く、その進みは貿易統合よりも早い。
    • (先行研究によると)金融統合と貿易統合がエマージングマーケットに与える影響は良い面と悪い面がある。
    • 金融面の影響としては、次のようなことが考えられる。
      良い面:資本コストの低下と投資の増加。
      悪い面:対外金融自由化により市場の不安定化を招きやすい。
          資本取引の自由化による銀行・通貨危機の発生。
    • 貿易面の影響
      貿易開放がエマージングマーケットの市場クラッシュの頻度を減少させる。
      財と資産の取引はエマージングマーケットの金融安定に対し反対の影響を持つ。
    • 実証研究の結果ではエマージングマーケットでクラッシュしやすいのは金融を開放し、貿易が閉鎖的なケース。
    • 貿易開放の効果は、金融の安定化に貢献する。
      自国経済の利益(資産価格)への影響度を低下。
      金融クラッシュによる循環メカニズムのもとを弱める。
    • 金融開放の効果は、はっきりしない。
      金融閉鎖的な国ではクラッシュは発生しないが普通の国では非効率。
      取引費用がゼロである場合クラッシュは発生しないがそのようなことは考えられない。
      金融開放は通常時であれば資本コストを低下させるが、クラッシュのリスクを増加させる。
    • エマージングマーケットの自由化の順序として貿易の自由化を金融自由化よりも先に行ったほうが良い。
    • 金融自由化には資本コストを下げ多くの投資をもたらすが市場クラッシュ・資本逃避のリスクを高めるトレードオフの関係が存在する。

    Richard Portes氏の報告
    《ユーロ導入以降の、欧州金融市場の変化》

    • この10年の欧州金融市場の拡大はめざましく、特に大きな問題もなく成長。
    • 欧州では流動性が急増加。
    • 一部の国・都市では地価が上昇。
    • 金融機関に関する問題。
    • ユーロボンド市場の規模は2005年以来、米国市場を超える。
    • 欧州における間接金融中心の金融システムが資本市場を中心に大きく構造変化し、近年、欧州では大規模なM&Aが行われている。
    ◆ ラウンドテーブルの議論で出された質問・コメント
    • 貿易は漸進的に開放することが可能である。金融の開放よりも貿易開放を先に行ったほうがよいという結論が出るのではないか。
    • 貿易の開放を行うときにはその国のファンダメンタルズは(ある程度)整っている。金融の開放を行っても問題がないということが考えられるのではないか。開放の成功・不成功はその国のファンダメンタルの問題なのではないか。
    • 貿易で輸出と輸入のどちらが大事か。Martin氏の報告では輸入にフォーカスが当てられているようである。
    • 市場規制をしている国としていない国の違いは何か。
    • 多国籍企業の行動と貿易の開放度の関係はどのようになっているのか。
    • EUのボンドマーケットの成長に対する共通通貨の寄与は、どのようなものか。
    • アジア通貨危機のようなことはまた起こるか。
    • グローバルな流動性の上昇が欧州における地価上昇を招いたか。
    ◆ 議論に対するCEPR側からの主な回答
    • (Martin氏の研究は)貿易と金融の相関関係に注目するものであり、因果関係を見ているわけではないが、貿易に関しては輸出と輸入の両方にフォーカスを当てるべきである。また、貿易の開放と金融の開放についての意見は今後の研究課題として興味深い。
    • 共通通貨のEUのボンドマーケットの拡大への寄与は大きいものだと考えられる。
      ユーロ圏内における競争が進んだ。
    • アジア通貨危機のようなことは、また起こりうるだろう。
    • グローバルな流動性の上昇が欧州における地価上昇を引き起こしたとは考えられない。