政策シンポジウム他

女性が活躍できる社会の条件を探る

男女雇用機会均等法による法的環境整備や育児・介護休業法や保育所の整備等、均等法成立以前に比べると、外的支援環境整備も一定の前進を見ているにもかかわらず、我が国では女性の登用がなかなか進みません。RIETIでは来る2004年11月9日(火) に港区北青山のTTEPIAホールにて、RIETI政策シンポジウム「女性が活躍できる社会の条件を探る」 を開催し、労働市場や子育ての外的支援環境にまつわる問題点を踏まえつつ、従来、政策論としては十分には議論されてこなかった「教育」の役割や、本人と家族との関わりにおける問題点及び女性の就業形態は男性型のキャリアばかりではなく多様な形態がありうることを踏まえるなど、新たな視点からの議論を行います。本コーナーではシンポジウム開催直前企画として、シンポジウムの論点の見どころ、独自性についてシリーズで紹介していきます。シリーズ最終回は、女性活用と学校教育との相関について論じている木村涼子大阪大学大学院人間科学研究科助教授にお話を伺いました。(RIETI編集部 谷本桐子)

RIETI編集部:
学校教育と労働市場には現在どういったミスマッチが起こっているのでしょうか?

木村:
現在、「フリーター」や「NEET(注)」 という言葉が注目を集めています。よく知られていることでありますが、1990年代以降、高校を卒業して就職する人の数が急減しています。就職者率の減少と共に、大学・短大の進学率が上昇しているわけです。しかし進学者だけではなく、「高卒無業者」と呼ばれる層が拡大しています。現在高校卒業者の約1割が「就学も就職もしない」状態で社会に出ています。かつて日本社会が経験したことのない事態といえるでしよう。

これは、女子の新規学卒者の問題としても深刻です。かつて開かれていた、高校卒業後の正規雇用の道は、この10年ですっかり縮小されてしまいました。経済成長期に確立された、高校か短大を卒業後「OL」になるというパターンは崩れかけています。高校卒業時の就職の難しさから、短大や大学に進学する人たちだけでなく、専修学校専門課程に進学する人たちが増加しています。さまざまな教育・職業訓練機関に進学・入学する人たちが増えているのは、一種の「就職浪人」と考えることもできます。また、就職できた場合も、パート、アルバイトといった不安定雇用の状態におかれている女性も多い。学校教育と労働市場がうまく適合しなくなっているといえるのではないでしょうか。

RIETI編集部:
女性活用を促進するために、学校教育に期待する役割とはどのようなものでしょうか?

木村:
学校教育と労働市場の間のミスマッチは、男女に共通した問題です。しかし、女子にはさらに、性別役割を前提とした雇用環境の中で、男子よりも不利に扱われるという問題があります。それらを見据えた上で、学校教育のあり方を構想しなければいけないと思います。課題は3つあると思います。

第1に、性別に関わりなく、個性や能力を伸ばす環境をととのえることです。これは、幼稚園から大学院まですべての教育機関に必要な基礎的要件です。

第2には、女性の就業意欲の高まりを、労働市場での十全な実現に結びつけるために有効な専門教育・職業教育を提供することです。それを、できるだけ公的な教育機関によって行うことが望ましいと思います。専修学校への進学・入学が拡大していると述べましたが、専修学校のほとんどが私立であり、入学金や授業料の平均は、高等教育に進学するのとほぼ同じ程度の額にのぼります。不況であるにもかかわらず、就職するために必要な教育投資の額が増加していることは、若年層にとって厳しい状況を生んでいます。

第3には、従来女性の進出が乏しかった分野の開拓を考えるということです。たとえば、科学技術分野など、女性の潜在的能力が活用できてない分野が日本にはたくさんあります。諸外国との比較で考えても、高等教育機関における専攻分野の男女比の偏りはまだまだ大きい。それらを放置したままでは、女性の力を十分に活かす状況が整ったとはいえないと思います。

RIETI編集部:
親が女子の教育に果たすべき役割とはなんでしょうか?

木村:
少子化を背景に、女子に対する教育熱も高まってきているとはいえ、男子に対する意欲とくらべるといまだに違いがあるようです。どこまで進学させたいと思いますかとたずねられた時に、保護者の回答は子どもの性別によって異なる傾向があります。「大学まで」と回答する割合は、男児に対しての方が高くなるのです。また、自分の子どもの適性について、男児の親は「理系に向いている」、女児の親は「文系に向いている」と考えがちだということを示した調査もあります。子どもに対する各種の調査でも、「親は私に期待している」「勉強しなさいと言われる」といった項目では、女子よりも男子の方が「あてはまる」と回答する割合が高いという結果がでています。子どもも、親の期待の違いを感じているのです。

男女の特性や能力に関する先入観が、女子の成長をさまたげている可能性があります。固定観念にとらわれることなく、子どもたちひとりひとりの個性と能力をみつめることが何よりも大切ではないかと思います。

RIETI編集部:
経済状況の悪化により、女子への教育投資の減少が懸念されています。どのような対策をとればいいのでしょうか?

木村:
親の教育意欲のあり方と関係するのですが、女子の方が男子よりも経済的な要因によって、教育機会が制限されがちだといわれます。現在、保護者の多くが、教育費を負担に感じつつあることは、昨今指摘されているとおりです。経済的に余裕がなくなってくると、複数の子どもがいた場合、女児に対する教育投資よりも、男児に対するそれを優先させる可能性が高まります。親の意識だけでなく、子どもの意識にも性差がみられます。文部科学省の調査でも、親の経済状態を気遣い、無理をさせてはいけないと考える意識は、男子よりも女子に高いという違いがはっきり出ています。

経済的格差が、教育機会、さらには就業機会の不平等につながらないよう、社会的な対策をとることは男女双方にとって必要ですが、その必要性は女子にとってとりわけ大きいといえるでしょう。バウチャー制度や奨学金制度をはじめとした、所得の再配分の視点を重視した公教育施策の導入が危急の課題ではないでしょうか。

脚注

  • Not in Employment, Education or Trainingの略。職に就いておらず、学校機関に所属せず、就労に向けた具体的な動きをしていない若者を指す。

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木村涼子顔写真

木村 涼子 (大阪大学大学院人間科学研究科助教授)