政策シンポジウム他

How to Evaluate a University and What For? 大学評価モデルを求めて:ヨーロッパの試み

実施概要報告

2003年2月22日、RIETI(経済産業研究所)は、文部科学省・経済産業省後援、大学評価・学位授与機構協力で「大学評価モデルを求めて:ヨーロッパの試み」と題したシンポジウムを開催した。

本シンポジウムの目的は、日本における大学評価モデルの構築に一石を投じることにあった。基調講演として、リュック・ウェーバー教授(ジュネーブ大学)とジョージ・ベルへーゲン教授(ブラッセル自由大学)が、ヨーロッパ大学協会(EUA)が実施している大学審査プログラムについて概要説明を行った。
EUAの基本理念を一言でいうと、大学の質に責任を負うのはあくまでそれぞれの大学であって、外部による評価は内部の品質管理のモニタリングが効果的に機能しているかをチェックするためのものだ、ということである。

こうしたヨーロッパの事例を踏まえたうえで、パネルディスカッションでは日本人パネリストが大学評価に関するそれぞれの見解を述べ、日本版評価システムをどう構築するかについて意見を交換した。

評価主体

木村 孟(大学評価・学位授与機構 機構長)以下敬称略

  • 文部科学省の国立大学評価委員会に対してNIAD(大学評価・学位授与機構)の独立性を保つことが重要になる

板東 久美子(文部科学省 大臣官房人事課長)以下敬称略

  • 大学毎にではなく、国立大学全体の評価委員会を設置
  • NIADの専門的な評価を尊重
  • NIADと文部科学省、評価委員会、国立大学とは相互に独立性を保つ

池上 徹彦(会津大学 学長)以下敬称略

  • まずスタートして、試行錯誤を重ねていく
  • 関係者と学生との話し合いが必要

板東:

  • 各大学が設定した理念や目標に照らして評価
  • 各大学は、どういう大学を目指すのか自問し、ミッションを明白にすることが前提

池上:

  • 議論を重ねて目標・理念を打ち出すカルチャーを育てる必要がある
  • 大学は改革の方向に無理やり向かわされている。自発的な選択ではない
  • 大学の姿勢を変えるために文部科学省の指導が必要

木村:

  • 3年前に評価が始まってから大学の状況はよくなっており、目標をはっきり書けるようになってきた
  • 文部科学省の指導ではなく、評価のスキームを通して皆が勉強していくべき

青木 昌彦(RIETI所長/スタンフォード大学教授)以下敬称略

  • 大学の多様性に対応できるように、各大学に評価委員会を設置すべき
  • 大学のカスタマーである学生の意見を取り入れる必要あり

平澤 冷(政策研究大学院大学 教授)以下敬称略

  • 各大学の自己評価をベースにしてNIADが評価を行う。NIADは評価項目を整理し、相互比較ができるような仕掛けをつくるということになっている
  • 国立大学評価委員会は、すべての大学を一律の基準で扱うのではなく、多様性を確保するために、ミッションにあわせて評価すべき
  • パフォーマンスは評価のひとつの指標にはなるだろうが、それ自体が評価の目標ではなく、システムを完備するための手段とする
  • 重要なのは、大学自ら目標を設定し、それぞれの個性を生かしていくこと

板東:

  • 各大学はまずミッション・目標を明確にし、それを実績と照らし合わせて、自ら点検評価を行う。それをベースにして外部評価が行われる
  • 数値目標、数量的な指標だけをベースにした評価を行うべきではない

学生の役割

木村:

  • イギリスの事例を検討すべき。イギリスでは、最終決定権は与えないものの、大学経営の政策決定機関に学生を参加させている
  • 学生を大学の経営評議会や教育研究評議会に参加させて、大学の経営について意見を述べさせてもいい

池上:

  • 現在検討されている大学改革について誰も学生の意見を聞いていないようだ

(ベルへーゲン氏の見解:学生を大学経営に参加させることにより教育的効果もある)

板東:

  • 設置認可のアフターケアとして、大学に赴き確認を行う場合にも、最近学生のインタビューを入れている
  • 私立大学協会が新しく評価機関を作ろうとしているが、教育に関する評価が中心となる。大学が一次的評価を行い、学生、卒業生、企業が二次的評価を行うことになり、学生の意見は重要なファクターになると思われる

評価に関わる問題:コスト、専門家、官僚主義

木村:

  • コストは重要な問題で、もちろんコストは低く抑えたいが、非常に難しいだろう
  • 日本には評価の専門家がいない。皆様に参画していただき、評価に慣れてもらうしかない
  • 産業界にも評価に対する理解が深まってきている
  • 日本の制度の問題点は官僚主義。一度ルールが決まるとそれに固執しがちなので、制度が硬直化するおそれあり
  • 大学とコミュニケーションを取りながら、評価システムを進化させていけば、官僚主義の問題はある程度避けられる

池上:

  • プロフィットが大きければ、コストはいくらでもかけていいと思う。重要なのは何がプロフィットなのかを明確にすること
  • 評価は基本的には独断と偏見であり、だから「責任」を持ってやる。神の声で評価をやるのではない
  • 官僚主義自体が問題なのではなく、能力のない人がそれを隠れ蓑にするのが問題。組織を動かすシステムとして頭から官僚主義を否定するのはもったいない

青木:

  • コストはできるだけ低いほうがいい
  • 日本は制度変化の時期にあり、内部者管理から、開かれた外部者評価のシステムに移行しつつある。よってコストがかかるのは当たりまえ
  • 行政的な評価から、社会に開かれたシステムに移行していくことは当然である

平澤:

  • 大学問題に関わらず、評価の専門家がいない
  • 大学評価を全面的に展開するには、学界や実業界の「有名人」に頼るのではなく、NIADのような機構に専門家を集める、あるいは集中的に研修を行ってもらう
  • 評価するには評価者の数が足りない。人材を選定して訓練すべき
  • 評価基準は早い段階で公開し、大学人と議論をする
  • パフォーマンスだけではなく、システム管理に対する評価も行う
  • 大学内に評価に対応する部署を設け、担当者は専門家として勉強してもらう
  • パネル評価のベースになる分析が必要で、そのためのデータを収集できるような専門家を養成する必要あり

木村:

  • 国立大学が競ってNIADに人材を出してくれた。これは評価の専門家を自分たちで育てたいという意思の現れである
  • 評価を担当する優秀な人材は育ちつつある

板東:

  • JABEE(日本技術者教育認定機構)などの既存の評価機関は、ボランタリズムに頼っているところがある。評価はお金がかかるものだと真正面から見据えていくことも必要である
  • 社会的な機能を持つシステムであれば、公的なサポートも支持される

パネルディスカッションに対するウェーバー教授からのコメント

  1. 大学は変化に対応する能力を持たねばならない。とくに学長に優れた経営スキルが求められる。大学はミッションと戦略的計画を持つ必要がある。この点については大学協会などが影響を与えることができる。
  2. 質の文化を導入する必要がある。大学を事前対応型(プロアクティブ)の組織にすべきである。
  3. 大学の社会的責任は重要なポイントである。学生の長期的なニーズ、つまり単なる知識の伝達ではなくスキルの育成に主眼を置くべきである。
  4. EUAは大学の自治を重視している。教育と研究の質のモニタリングは大学の責任で行う、というスタンスである。
  5. 大学のリーダーは組織より重要である。大学全体の文化に影響を与えることができるからである。
  6. 長い定性的レポートを公開しても誰が読むのかという疑問が残る。少数の関係者だけではないか。
  7. 学生は、自分が受けている教育の質を判断する能力が非常に高い。
  8. ピア・レビューの問題:大学間の連絡と外の世界との接点がある限り、仲間内の評価の欠点(評価のレベルが下がる危険性)を補うことができる。
  9. 評価に関する投資収益率を明確にするのは難しい。評価を有益なものにするためにできるかぎりのことをするという基本姿勢が重要。

パネルディスカッションに対するベルへーゲン教授からのコメント

  1. 評価をどう活用するのかをはっきりさせる必要がある。パネルディスカッションではその点が明確にならなかったように思う。資金配分と結び付けていると、良い評価はできない。
  2. まず大学に自らのミッションを明確にさせることからはじめるべきだ。
  3. 大学経営になんらかの関わりが与えられれば、学生は評価により大きな貢献ができる。
  4. ピアレビューによる評価はきわめて重要である。大学の学長は評価のノウハウをもっている。すでに経験があるので、訓練もごくわずかですむ。
  5. 大学のことは大学に任せて、経営慣行だけをチェックすればいい。

会場からのコメント

  • 大学には自己評価を行う能力がない
  • 変化の激しい複雑なシステムを評価した経験を持つ評価者が必要
  • 評価システムを外国から輸入してそのまま使うのは無理
  • 評価プロセスと評価結果の詳細をすべて公開することが、プロセスの質の確保につながる
  • 学生に職場で必要とされる技能を学ばせるべき(オンザジョブ・トレーニングではなく)という圧力が大学に対して高まっている。社会のニーズに応える大学であってほしい。変革を促すような評価モデルであってほしい。
  • 卒業生を雇用する企業の意見も取り入れるシステムが必要。大学関係者による評価とは別に、企業の声は忘れずに聞くべき
  • 「なぜ」大学の評価を行うのかという議論をもっとすべき。パフォーマンス評価に重点をおいて資金分配に役立てようとしているようだが、国の一機関が評価に関わるということ自体、妥当なのかどうかも議論するべきと、ヨーロッパの試みから印象を受けた

パネリストからの意見

  • パフォーマンス評価ではなく、システム評価をしなければいけない(平澤)
  • パフォーマンス評価に流れていかないよう、システムがチェックできるような評価項目に作り変えていく作業をNIADでやっていると信じている(平澤)
  • ヨーロッパのお話を聞いて、我が意を得たり、と思った。我が国では、大学の改善を促していくような評価のシステムは是非必要だという認識で、認証評価が導入されることとなったが、多様な評価機関が育ち、それを大学が選んで、評価を受け、改善に結び付けていくということは基本的にはヨーロッパと同じだと思う。国立大学の法人評価についても、どのような大学評価も大学を改善していくための評価としての側面も当然あるべきであり、改善すべき点は次期の中期目標・計画に結び付けていく。大学を改善させていくためにうまく機能させていくことを忘れてはいけない。ヨーロッパの経験を十分参考にしながら、16年度からスタートする第三者評価システム等を大学の改善のために使っていきたい(板東)
  • マネージメントとは、明日どうするかを決定することである。大学にとって重要なことはファンディングであり、国立大学法人となって資金配分の構造が変われば、経営文化も変わってくると思う(池上)

リチャード・ルイス(INQUAAHE理事)氏からのコメント

イギリスから学ぶべきことは多い。イギリスは長年にわたり試行錯誤を重ねてきた。最終的に落ち着いたシステムは、政府が行う大学の監査(オーディット)と、ステークホルダーが意志決定に活用するコントロールされた情報の流れ(市場メカニズム)を組み合わせたものである。

-シンポジウムを終えて-

昨今、大学自身および大学のステークホルダーである政府にとって「大学評価」は必要不可欠のものであるとの認識が高まっており、日本においても「大学評価」はある種の社会的受容を得るに至った。それと平行して、学位授与機構の大学評価・学位授与機構(NIAD)への改組、日本技術者教育認定機構(JABEE)の設立、認証評価制度の創設等、大学評価に関わる制度の整備も進んできた。

多様な大学評価システムが混在し、また進化しつつあるという状況だが、そこで課題となるのが、今回のシンポジウムでも討議されたように、「大学評価のカルチャー」をいかに浸透させていくのかという点である。

形として導入された大学評価をカルチャーへと育成させるには、まず「何のために大学評価を行うのか?」という本質的な問いに答える必要がある。ここで確認すべきは、評価はあくまでも手段であり、評価の指標を達成することが、目的化されてはならないという点である。この問いに対するヨーロッパ大学協会(EUA)の答は明白である。「大学の自律性を強化し、環境の変化に対する対応性を高めるため」のツールと位置付け、大学が作成する自己評価と、学長はじめ執行部、部局長、大学内外の様々なステークホルダーのヒアリングをベースとする形成的評価(Formative evaluation)を実践する。評価者は被評価者である大学と共に大学の抱える問題、運営戦略を点検し、アドバイスを与え、進捗状況のチェックを行う。

この一連のプロセスの中で、大学は自らのミッションを問い直し、運営戦略を明白にするという作業を行うわけであるが、そのこと自体がすでに、変革への第一歩であり、触媒役としてのEUA貢献は大きい。

NIADが試行的に行っている大学評価は、大学運営ではなく、教育活動、研究活動、社会貢献活動を対象として、各大学が掲げる目的・目標に対する達成度を評価するものとされている。Formative evaluationへ向けた試みであるが、日本の大学は、目的・目標を明確化するという作業に着手しはじめたばかりであり、具体的にどのような手段を用いて目標を達成するか、また達成度をいかにチェックし、その結果をどのようにフィードバックさせるか、といったブルー・プリントは、どの大学もまだ持ち合わせていない。よって、大学評価・学位授与機構の大学評価をラーニング・プロセスと位置付けることが望ましいが、日本には「大学評価のカルチャー」がまだ育っていないことから、評価結果だけが一人歩きし、「成績の良し悪し」に終始してしまう可能性が大きい。

また国立大学法人への移行とともに、中期計画の策定が国立大学法人に課せられ、これらに基づいて評価が行われる。自らのミッションを明確にし、目標を達成するプロセスを設計するという作業に取り組み始めた日本の大学が求めるのは、サポート役となり得る評価機関ではなかろうか。

今後の活動

今回のシンポジウムで議論されたテーマはコアな部分ではあったが、「大学評価モデル」を語るためにはより包括的なテーマ設定が必要になる。シンポジウムに参加なさった方々から頂いた数多くのご意見 を参考に、ここでは「大学評価」の分野においてRIETIが今後どのような活動を展開していくかをまとめてみる。

キーパーソンのインタビュー

今回反映させることのできなかった大学のステークホルダーの意見を取り上げていく。また私立大学、公立大学に特有な問題についても議論を展開していきたい。
具体的には、キーパーソンにインタビューを行い、概要をWeb上に掲載していく予定である。

大学評価プラットフォーム

シンポジウムの際皆様からいただいたコメントを発展させた形で、Web上に「大学評価」の討議の場を設置する。「大学評価」に関するコメント、反論、提言等をお寄せください。
討議が進展し、ある種の方向性が見出せるようであれば、プラットフォーム発政策提言として発表の場を設けることも考えています。

(文責:原山優子)