政策シンポジウム他

企業経営環境の変化とセーフティネット

イベント概要

  • 日時:2002年11月19日(火)10:00~17:30(開場9:45)
  • 会場:RIETIセミナールーム
  • 開催言語:英語(日本語同時通訳つき)
  • 「総論」のセッション議事概要

    「企業、福祉からの撤退あってよい」

    橘木俊詔氏(京都大学/RIETI)は、わが国の企業は法定福利としての保険料の事業主負担や非法定福利厚生費は諸外国と比較して低いと述べた。しかし、非法定福利厚生費は大企業に限定すればかなり高いという指摘が行われた。また非法定福利厚生は使命をほぼ終えたので、その分を賃金で支払うのが望ましいと述べた。さらに法定福利厚生の企業負担の保険料は削減ないし廃止があってよく、その分は国民全員による税負担に転換しても良いという主張も行われた。

    「企業別社会保険代行機関の可能性と限界-健康保険組合、厚生年金基金の役割と社会保険改革-」

    駒村康平氏(東洋大学)は、まず健康保険組合と厚生年金基金は企業別社会保険機関であるとともに社会保険代行機関でもあるとの指摘を行い、社会保険代行機関のメリット・デメリットを述べた。また社会保険代行機関からみた健康保険組合と厚生年金基金の可能性を述べた。そして、健康保険組合と厚生年金基金の改革の方向性としては選択・競争型システム(職域・地域別の分立、保険者間の競争システムの導入、報酬比例部分の適用除外)、参加型システム(財政統合、分権・参加型システム)の方向性があるとの指摘が行われた。

    高梨氏(日本経団連)のコメント

    まず、経営者側の立場からのコメントになると述べた。社会保障については、個人では対応できないことに関しては社会で対応し、企業はそれを補完するというのが原則であると述べた。また、法定外福利費が企業経営を圧迫しないよう、有効な分野に重点的に行うべきで、今後法定外福利費は抑制されていくであろうと述べた。わが国の社会保障制度は高福祉・高負担という認識であると述べた。国民負担の伸び抑制の観点から社会保障改革が必要であり、年金については一階部分に関しては税、二階部分については報酬比例、高齢者医療に関しては、65歳以上の公費増の財源は間接税が望ましいと述べた。さらに、年金制度の1階の財源は消費税、二階の比例報酬部分の保険料に関しては上限を設け、20%を大幅に下回る水準に抑制し、長期的に固定が望ましいと述べた。ただし保険料は労使折半で良いと述べた。医療制度は地域別に医療制度を作れば事業主負担は生じないと考えていると述べ、駒村氏の主張と同じく保険者機能の強化に関して賛同すると述べた。

    小島氏(連合)のコメント

    原則として自立した個人の社会連帯を目指していると述べた。そのための基盤となるのは社会保障であり、日本の福祉水準は引き上げるべきであると述べた。連合は年金中心型モデルに賛同すると述べ、現行の年金の水準は現在の水準を維持すべきであると述べた。福利厚生に関しては退職前の手当てとして行ってもよいが、従業員と経営者の判断に任せるのが良いと述べた。また、橘木氏のいう企業の負担する社会保険料の廃止には異論があると述べた。社会保障制度があることによって従業員が安全にまた安心して働くことができると思われるだけに、企業が負担する社会保険料にはそれなりに企業の責任があると述べた。そして、日本だけが企業の社会保険料負担を撤廃するなら国際競争の観点からも問題となるのではと述べた。現行の基礎年金に関しては現在の水準を維持して税方式、また二階部分に関しても現在と変わらない程度を維持するべきであると述べた。そして、医療制度は単に税に変えると医療提供側の非効率を助長しかねないと述べ、保険者機能を強化、充実すべきではないかと述べた。ただし、規模の適正化は考える必要があるとも述べた。

    [橘木氏の応答]

    日本は高福祉・高負担の国ではない。日本経団連の方の認識は少し誤っているのではないかと述べた。ただし、弁護するとすれば、大企業の福祉は高福祉であったかもしれないとも述べた。そして、多くの国民は大企業に勤めておらず、高福祉・高負担とはいえないと述べた。年金制度についてであるが、一階部分の現状の水準は低い。したがって一階部分の水準を引き上げて、二階部分を引き下げるのが望ましいと述べた。今までの企業の福祉は大企業の話であった。しかし、中小企業、自営業、経済効率性も考えると基礎部分は税で行うことが望ましいと述べた。

    [駒村氏の応答]

    年金に関していえば、負担と給付の微調整を行っていく現行の制度は維持していけないと述べた。また、現状の賦課方式を維持していくのは不可能と述べた。報酬比例部分はなるべく小さくしていくのが望ましく、これは世界的に見ても大きな流れと述べた。また、医療に関しては職域単位をやめて地域単位に再編するのが望ましいと述べた。

    [高梨氏の応答]

    わが国の年金も医療も現状の給付水準は高いと思っていると述べた。なぜならモデル年金は夫婦合せて23万円になるが、いまの高齢者の消費支出は24-25万円で、高すぎると述べた。そして、医療制度はわが国ではフリーアクセスであり、相当な医療サービスを受けることができ、公的医療の給付もかなり高いと述べた。また、国際的に見れば現状の企業負担は低いかもしれないが、経営者の感覚からすれば高いと思うと述べた。それは、これまで負担が常に引き上げられてきたからであり、おそらくこれからも引き上げられることが予想されるからであると述べた。

    [橘木氏の応答]

    ミニマムな年金はいくらか、ミニマムな医療水準はいくらかを考える必要が経済学者に求められていると述べた。

    [フロアーからの質疑]

    新しいタイプの企業内福祉(育児支援等)についてどう考えているのか。

    [橘木氏の応答]

    どの企業に属するかで、受けられる水準が大きく変わる。したがってミニマムを確保し、企業は新しいタイプの企業内福祉からも撤退して良いと述べた。

    [高梨氏の応答]

    新しいタイプの企業内福祉は行う必要があるだろうが、法律で強制されるのではなく、経営者と従業員との話し合いで決めるべきであると述べた。

    (文責:宮里尚三)