データ・統計

JLCPデータベース2021

上場企業生産性長期(JLCP)データベース2021について

企業レベルのデータを用いれば、マクロ経済の労働生産性や全要素生産性(TFP)の動向の決定要因について、より詳しく知ることができる。しかし日本では、生産活動に関する政府統計ミクロデータのうち最も古くまで遡ることができる工業統計調査(経済産業省)でも 1980 年代以降しか利用できない。このため企業レベルのデータを用いて、高度成長期(1955-70 年)や安定成長期(1970-90 年)の前半にあたる 1970 年代をカバーする生産性動学分析はほとんど行われて来なかった。日本経済のパフォーマンスが世界で飛び抜けて良好だった高度成長期、安定成長期と比較して、長期停滞期(1990 年以降)に企業レベルの要素投入や生産性の動向がどのように変化したのかは、良く分かっていない。

しかし、上場企業については財務データを用いれば高度成長期以降について分析が可能である。このような問題意識から、経済産業研究所(RIETI)「産業・企業生産性向上」プログラムの「東アジア産業生産性」プロジェクトでは、一橋大学経済研究所(基盤研究S「サービス産業生産性」プロジェクト」およびJSPS「人文学・社会科学データインフラストラクチャー構築プログラム」の支援を受けた)と協力して、株式会社日本政策投資銀行『企業財務データバンク』の企業データ(以下 DBJ データベースと呼ぶ)を用いて、 1960年から 2015 年までの 55 年間について、上場企業に関する生産性分析を可能とする上場企業生産性長期データベース2021(Long-run Database on Japanese Listed Companies' Productivity 2021、以下ではJLCP 2021と略記)を作成した。JLCP 2021は、1960-2015年についてほぼ全上場企業をカバーし、TFPを計算するために必要な、総生産、中間投入、実質資本ストック、労働投入、資本投入のコストシェア(事前の資本コスト概念に基づき、利子率や資本減耗率、投資財価格等から算出している)、労働投入のコストシェア、中間投入のコストシェア、などの変数と、推計されたTFP指数を含んでいる。

データ作成方法の詳細については、論文、深尾京司・金 榮愨・権 赫旭(2021)「長期上場企業データから見た日本経済の成長と停滞の源泉」RIETI Discussion Paper Series, 21-J-27、経済産業研究所を参照されたい。この論文では、今回公表するJLCP 2021を用いて1960年から2015年までの55年間について、ほぼ全上場企業を対象に生産性上昇(労働生産性および全要素生産性TFPで測った)の成長会計分析と生産性動学分析を行っている。

今回公表するJLCP 2021のデータから、他の重要な諸変数を算出することも可能である。中間投入を中間投入のコストシェアで割れば総生産コストが得られる。総生産額を総生産コストで割って1を引けば平均マークアップ率が得られる。総生産コストに労働投入のコストシェアを掛ければ労働コストが得られる。また総生産コストから中間投入と労働コストを引けば、営業余剰(事後的な資本コスト)が得られる。なお、金額は2000年価格、千円単位であり、データは単独決算ベースである。各変数の算出方法については、上記論文を参照されたい。

なお、企業の生産性分析には産業別のデフレーターや労働時間、労働の質、資本コスト等のデータが必要だが、1970年以降についてはJIPデータベースを、1960-70年については一橋大学経済研究所(基盤研究S「サービス産業生産性」プロジェクト」の支援を受けた)が作成した高度成長期日本産業生産性(高度成長期JIP)データベースを使った。高度成長期日本産業生産性(高度成長期JIP)データベースの詳細については、論文、深尾京司・牧野達治 (2021)「サービス産業における労働生産性上昇の源泉:JIPデータベースを用いた産業レベルの実証分析、1955-2015」深尾京司編『サービス産業の生産性と日本経済:JIPデータベースによる実証分析と提言』東京大学出版会またはそのDP版、深尾京司・牧野達治 (2021)「サービス産業における労働生産性上昇の源泉:JIPデータベースを用いた産業レベルの実証分析、1955-2015」RIETI Discussion Paper Series, 21-J-018、経済産業研究所を参照されたい。なおこの論文では、1955-2015年について日本全体をカバーする24産業別のデータを用いて、資本蓄積、労働の質向上、TFP上昇など、サプライサイドの面で、どの産業が日本の高度成長を支えたのか、それは1970-90年の安定成長期や、1990-2015年の長期停滞期にどのように変化したのかを、詳しく分析している。

JLCP 2021の作成は、主に以下のメンバーで行われた。

  • 深尾京司(一橋大学経済研究所・RIETI・JETROアジア経済研究所)
  • 金 榮愨 (専修大学経済学部)
  • 権 赫旭(日本大学経済学部・RIETI)

なお、1960-2018年をカバーするJLCPデータベース2022を近日中に公開する予定である。

深尾京司
権 赫旭

データのご利用にあたって

データをご利用の際は出所として、深尾京司・金 榮愨・権 赫旭(2021)「長期上場企業データから見た日本経済の成長と停滞の源泉」RIETI Discussion Paper Series, 21-J-27、経済産業研究所、で作成された「経済産業研究所・一橋大学JLCPデータベース2021」を利用した旨、明記して頂くようお願いします。また、本データを利用して論文を作成・発表される場合、差し支えなければ、コピーを一部お送りいただけるようお願いします。

お問い合わせ
一橋大学経済研究所JIPデータベース室
e-mail:jip-info@ier.hit-u.ac.jp

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