新春特別コラム:2009年の日本経済を読む

国際経済システムの「再編」と日本

白石 重明
上席研究員

2009年を読むキーワードの1つは「再編」である。といっても、取り上げたいのは日本の政界の話ではない。今年、注目すべきは、今般の世界的な経済危機をドライビング・フォースとするマクロ・ミクロ両面からの国際経済システムの「再編」と、その中における日本である。

国際経済システムのマクロ的再編

第1に、国際経済システムは、マクロ的には、金融面と実体経済面とが相互作用を及ぼしながら、再編されていくだろう。

具体的に見ると、金融面では、いわゆる金融要因の剥落と実体経済の停滞のためにオイルマネーが一時の勢いを失い、また、先進国のヘッジファンドや金融機関も、今般の金融動揺のために活動を不活性化せざるを得ない。新興国勢力も、実体経済の減速に伴い、金融面でもプレゼンスを拡大し続けることは困難だ。実体経済面では、先進国も、世界の成長センターとして注目されてきた中国やインド等の新興国も、経済成長率を急速に低下させつつあるが、その回復には数年単位の時間が必要だろう。

こうした中、資金の出し手として、また実体経済のけん引役として、公的セクターの役割が再確認されると思われる。金融機関への公的資金投入や、大規模な財政出動に頼る傾向は強まるだろう。特に、財政出動が将来に向けた重要なインフラ整備や資源エネルギー開発等に効果的に使われるかどうかが、局面打開のタイミングを左右するだろう。

国際経済システムのミクロ的再編

第2に、ミクロ的に見ると、業界再編がグローバルな規模で進むであろう。国際金融の混乱によって資金調達が困難となるため、M&A等は停滞するだろうという予想もある。確かに、総じて見れば、これまでのような豊富な流動性を背景としたM&A等は停滞するだろうし、実際にその傾向も明らかだ。

しかし、他方で、ファンド等以外の事業会社にしてみれば、M&A等は「できるからやる」ものではなく、「やるべきだからやる」という経営戦略の一環として位置づけられるものであり、まさに今般の経済状況の激変に直面したからこそ、生き残りと将来への布石のために事業再編は避けては通れない課題である。

2009年は、全体の規模が縮小する中で、より戦略的な価値の高いM&A等が実行されていくと見る。例えば、欧州内のエアライン再編はすでに視野に入っているといっていいだろうが、このような戦略的再編の動きは金融業、製造業、サービス業等々のさまざまな業種でグローバル規模で進むだろう。日系企業による海外企業買収(いわゆる「内外」のM&A)も地に足のついた戦略的な形で進められることが期待される。実際、キャッシュリッチな事業会社からは「買収ターゲットの株価が安い今こそ、M&A等によって事業基盤を転換・確立するチャンスだ」という声も少なくない。しかも、買収対象企業も自らの生き残りをかけて他社との合併を望むケースも多いと思われ、その結果として友好的M&Aとなるならば、その戦略が効果をあげる確率も高まる。

日本の課題と展望

言うまでもなく、日本は国際経済システムの「再編」と無縁に存立できるほど独立的(閉鎖的?)でも、強靭でもない。積極的に再編劇の中に飛びこみ、これをリードしつつ、自らの経済システムも「再編」するくらいでなければ、将来の展望は拓けないだろう。このような立場から考えると、日本にとってのいくつかのポイントが浮かび上がってくる。

第1に、政府への依存傾向は、他方で、各国の財政の持続可能性を試す動きを生む(これに耐えるための増税論議も活発化するだろうが、それは景気対策の効果を減殺する効果を持つ)。すでに多大な債務を抱える日本において、この点は決定的に重要な意味を持つ。そのバランスをいかに図るかが、政治の極めて重大な責任である。

第2に、日本が国際経済社会において期待される役割である。「再編」には、当然ながら厳しい調整過程が伴う。たとえば、ドルはその信認を試され続けるだろうが、ドルに取って代わる十分な通貨は直ちには誕生しないという、中途半端さに私たちは耐えねばならない。その際、現下の情勢に対応する国際政治システムとしてG8は不足であってG20等に軸足を置かざるを得ないことが明らかになりつつある今、特にアジアにおいて、日本が積極的な役割を果たせるかどうかは中長期的に日本の立場を決定付ける大きなポイントである。

第3に、日系企業がグローバルなM&A等を通じて自らの事業モデルを「再編」できるかどうかが大きなポイントである。これは、自らのためだけではなく、米国金融ビジネスモデルへの疑問が高まる中、世界経済に新たなモデルを提示する可能性にもつながっている。他方、M&A等による業界再編は、統合に伴う事業整理を通じて、雇用や賃金という面からはマイナス作用となる可能性も高い。政府には、だからといってM&Aを抑制するのではなく、むしろ戦略的に意味のあるM&Aを円滑化しつつ、ダイナミックな雇用のミスマッチ解消の中で雇用を図る知恵が求められている。丑年だというのに、角を矯めて牛を殺してはなるまい。

2009年は、日本にとって厳しい情勢となるだろうが、日本にとっての1つの希望は、こうした厳しさへの対応を図るための模索が、日本をよりよくする可能性だ。けっこう、日本もがんばれるのではないかと、密かに筆者は信じている。

2009年1月13日

2009年1月13日掲載

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