日本初の女性首相の誕生

尾野 嘉邦
ファカルティフェロー

2025年10月4日に投開票が行われた自民党総裁選で、5人の候補者が総裁の座を争い、決選投票で高市早苗氏が当選した。その後、10月21日に召集された臨時国会で首班指名選挙が行われ、石破茂首相の後任として、高市氏が第104代内閣総理大臣に選出された。1885年に内閣制度が創設されてから今年で140年を迎える日本で、初めて女性が首相に就任することとなった。

日本は経済協力開発機構(OECD)諸国に比べて女性政治家の割合が低く、政治における男女格差が大きいことが長らく指摘されてきた。東アジアでは韓国や台湾で女性が大統領や総統といった行政機関のトップの地位に就く例がある一方、日本では女性首相がこれまで登場してこなかったことから、ジェンダー平等をめぐり、政治分野における日本の「後進性」がメディアでも論じられてきた。

そのような中で、高市氏が「ガラスの天井」を打ち破り初の女性首相に就任したことは、海外メディアで驚きをもって報じられるとともに、発足直後の高い内閣支持率にも見られるように、国内でもおおむね好意的に受け止められているようである。

女性首相に対する反対はどの程度か

では、なぜ日本では政治分野の男女格差が大きく、とりわけ女性首相が生まれにくかったのか。こうした背景を考えるうえで、筆者が有権者を対象に実施した調査が参考になるかもしれない。2019年の調査では、女性の首相就任に反対する態度を持つ人がどの程度存在するのかを検証した(Endo and Ono 2023)。以下、その結果を紹介したい。

この調査では、18歳以上の日本人有権者を対象にオンラインパネルで約3,000人の回答者を、性別・年齢層・居住地域が全国の人口構成比に近づくよう割当(クオータ)を設定したうえで募集した。そのうえで、リスト実験(list experiment)を用い、女性首相に対して反対の立場を示す人の割合と属性を推計した。

推計の結果、女性が首相になることに反対する回答者は約10%と、比較的少数にとどまっていた。2016年に筆者が米国で実施した同様の実験(Burden, Ono, and Yamada 2017)では、女性が大統領に就任することに反対する米国人回答者は13%であったため、日本の結果はそれを下回っている。また、男女の回答者間で反対割合に大きな差は見られなかった。

一方で興味深いのは、自民党支持者の間では女性首相に反対する回答者が20%に達し、無党派層と比べて約2倍多かった点である。これは、自民党の総裁として女性が就任することに、相対的に高いハードルが課されている可能性を示唆する。今回、調査から約6年を経て自民党で初めて女性の総裁、そして首相が誕生したことで、こうした反対の分布がどのように変化するのかは、今後の重要な論点である。

ロールモデル効果は期待できるのか

女性首相の誕生によって、今後、日本の政治分野における男女格差は縮小し、女性政治家や女性閣僚、さらには女性首相が増加していくのだろうか。これまでも政党の党首をはじめ、国会の議長、大臣などの要職に女性が就く例は存在してきたが、女性首相という政治リーダーのロールモデルが登場したことで、女性の政治参加や政治エリート層への参入が促される可能性は十分に考えられる。

例えば米国では、黒人市長の誕生が黒人政治家に対する不安や反発を弱め、白人の投票行動や黒人に対する感情が変化したことを示す研究がある(Hajnal 2001)。同様に、女性首相の誕生が有権者の認識を変え、女性政治家の評価や受容に影響する可能性があるかもしれない。

ただし、ロールモデルの効果は限定的であるとする研究もある(Broockman 2014;Gilardi 2015など)。高市氏の就任が、女性リーダーの継続的な登場につながるのかどうかは、慎重に見極める必要がある。

「ガラスの崖」という見方

女性首相の誕生を理解するうえでは、「ガラスの崖(glass cliff)」と呼ばれる現象も考慮すべきかもしれない。女性が党首に就任するのは、議席数が減っているなど党勢が衰え、政治的パフォーマンスが悪い局面で起きやすいと指摘する研究がある(O’Brien 2015)。いわば「火中の栗を拾う」役割を女性が担わされる、という見方である。

自民党は昨年の衆議院選挙で議席を大幅に減らしたのに続き、今年の参議院選挙でも議席を減らし、自民・公明両党を軸とする与党勢力は衆参ともに過半数割れを喫している。党勢が一気に弱まり、政権運営が厳しさを増した局面で登板したのが高市氏である。こうした状況は、既存研究が指摘するパターンと整合的だとも言える。

もし今回の女性首相誕生が、自民党の政治的苦境という状況要因に大きく依存しているのであれば、同党から女性首相が継続的に誕生するとは限らない。O’Brien(2015)は、党勢が回復しない局面では女性党首が男性よりも交代(解任)させられやすい可能性を示唆しており、高市氏が職にとどまるには国民からの高い支持を維持し続けることが重要になるだろう。さらに、仮に「一時しのぎ」として女性を党首に据える動機が働いたのであれば、党勢が回復した局面で女性が再び党首に登用されにくくなる可能性もある。

女性首相の誕生が、日本政治におけるジェンダー平等の前進につながるのか。それとも、危機局面における例外的な出来事にとどまるのか。今後の政治過程と、有権者の認識の変化を継続的に検証していく必要がある。

参考文献
  • Broockman, David E. 2014. “Do Female Politicians Empower Women to Vote or Run for Office? A Regression Discontinuity Approach.” Electoral Studies 34: 190–204.
    https://doi.org/10.1016/j.electstud.2013.10.002
  • Burden, Barry C., Yoshikuni Ono, and Masahiro Yamada. 2017. “Reassessing Public Support for a Female President.” The Journal of Politics 79(3): 1073–1078.
    https://doi.org/10.1086/691799
  • Endo, Yuya, and Yoshikuni Ono. 2023. “Opposition to Women Political Leaders: Gender Bias and Stereotypes of Politicians Among Japanese Voters.” Journal of Women, Politics & Policy 44(3): 371–386.
    https://doi.org/10.1080/1554477X.2023.2174365
  • Gilardi, Fabrizio. 2015. “The Temporary Importance of Role Models for Women’s Political Representation.” American Journal of Political Science 59(4): 957–970.
    https://doi.org/10.1111/ajps.12155
  • Hajnal, Zoltan L. 2001. “White Residents, Black Incumbents, and a Declining Racial Divide.” American Political Science Review 95(3): 603–617.
    https://doi.org/10.1017/S0003055401003033
  • O’Brien, Diana Z. 2015. “Rising to the Top: Gender, Political Performance, and Party Leadership in Parliamentary Democracies.” American Journal of Political Science 59(4): 1022–1039.
    https://doi.org/10.1111/ajps.12173

2025年12月17日掲載

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