ガソリンスタンドを災害時の継続的エネルギー供給拠点とする公共的価値創造 Part 2 マルチプルエネルギーステーションの構築

伊藤 将人
ヤマヒロ株式会社 / 事業構想修士

松本 秀之
コンサルティングフェロー / 事業構想大学院大学特任教授

マルチプルエネルギーとは

前回コラム(注1)では本研究の背景とコンセプチュアルデザインと題し、能登半島地震の例を基に災害時における公共部門とサービスステーション(以下、SS)の連絡体制における課題を明らかにするとともに、その確立の必要性について述べた。本稿では、災害時にエネルギーを消費者に安定的に供給できる体制構築に関する具体的な課題解決の方法の1つであるマルチプルエネルギーステーションの構築について分析する。

図1

災害対応において有効な施策の1つがエネルギー供給に複合の概念を取り入れることである。現在、一般消費者に対して電気、ガスおよびガソリン・軽油・灯油などの燃料油といった多種多様なエネルギー源から安定的な供給が行われている。災害時にこのエネルギー供給のバランスが崩れた場合、被災地の一般消費者にエネルギー供給が途絶えるリスクがある。特に、電気は生活の維持において必要不可欠なものであるため、災害時に電気を安定的に供給する体制をいかに維持するのかが重要なポイントとなっている。

そこで災害時に被災地の一般消費者が電気供給を絶えることなく受け続ける体制構築のためには、発電手段を複数確保するマルチプルエネルギーステーションの仕組みが有効である。これは発電所から送電線を通して電気を供給する通常の仕組みに加えて、緊急用発電機をバックアップとして装備する仕組みを加えておくことにより、被災地の一般消費者が電気を受け取れなくなるリスクをあらかじめ回避していく体制構築である。緊急用発電機にはガソリンや軽油を燃料とするものおよび都市ガスやLPガスを燃料とするものの主に2つのエネルギーを使用するものがある(注2)。

デュアルフューエル発電体制

主に自動車燃料の供給拠点として社会を支えるインフラであるSSを稼働させるためのエネルギーは主に電気である。災害時にSSに対する電気供給が止まった場合には、SSは稼働せず、その結果、燃料油供給が止まることとなる。このリスクを軽減するために災害対応型ステーションとして軽油やガソリンを燃料とした緊急用発電機を備えた中核SSや住民拠点SSに制度化された(注3注4)。

現在、普及が進んでいる緊急用発電機は7.0kVAまでの移動可能な小型のものが主流であるものの、将来的には被災者に非常用電力をより多く供給できる大型の据え付け型の発電機の設置が求められる。このように通常時のSSは電気で稼働しガソリン、軽油および灯油を一般消費者に供給している。そして災害時にはガソリンおよび軽油で発電を行いガソリン、軽油および灯油を供給するのが現在の仕組みである。これに対して災害時にはSSを稼働させる電力に加え、さらに余剰の電気を生み出すことができる仕組みを構築できれば、SSで一般消費者にガソリン、軽油および灯油に加えて電気を供給することが可能になる。

図2

都市部における都市ガス発電設備の組み入れ

情報化が高度に進んだ現在においてはリアルタイムで災害時の安否確認、災害に関わる情報取得および情報共有を可能とするスマートフォンおよびタブレットなどの情報端末に対する電源を安定的に提供するインフラストラクチャーの維持が重要である。各自治体主導で防災拠点の整備および拡充を進め防災マップを作成して周知に努めている(注5)ものの災害時に速やかに避難所や防災公園などに避難が進むようにするために地方公共団体や地元の消防からのリアルタイムの正確な情報提供が鍵となる。特に都市部では間違った情報による人口密集エリアにおけるパニック現象を避けなければならない。都市部においてエネルギーの安定供給を継続的に行うことができる体制を構築するために活用が可能であるのが都市ガスであり、この都市ガスをSSに組み入れることが有効である。都市部においてガソリンスタンドは幹線道路沿いに多く存在している。同様に都市ガスも幹線道路沿いを中心に主要な配管が敷設されている。これを組み合わせることで、新たな分散型のエネルギー安定供給体制の構築が可能である。

都市ガスの配管は近年破断しにくい耐震素材への更新が進んでいる。中圧導管は優れた強度や耐震性を有する溶接導管が採用され中圧導管から家庭や拠点にガスを届ける低圧導管では柔軟性に優れたポリエチレン管が多く使われている(注6)。SSに対する都市ガス活用のメリットは配管が拠点に直結することにより発電機への継続的な燃料供給が可能となり安定的な発電がもたらされる。すでに都市ガスを燃料とした緊急用発電機はすでに存在するものの病院や工場向けの大型機械が中心で高価であることから、より安価で汎用性の高いものを開発し主要幹線道路沿いなどの重要な拠点となり得るSSに計画的に設置を進めることで燃料供給の安定性ならびに電源供給の拠点拡大を同時に図ることができる。

災害対策におけるマルチプルエネルギー

このように従来から危険物を取り扱う施設として堅牢性に定評があるSSを、災害時のエネルギー供給拠点として活用することで公共的価値を高めることが可能である。SSはアクセスの良い交通の要所に位置することが多くマルチプルエネルギーステーションとすることにより中核SS制度の目的である緊急車両の燃料供給拠点としてさらに機能する体制を構築することができる。加えて、自治体や医療、工事、配送などの災害時拠点として活用可能性が生まれる。

次稿では、本稿で述べたような拠点をより有効に機能させるための手段として、DX活用などについての詳細を論じる。

追記

本コラムは、事業構想大学院大学修士課程(専門職)(注7)での研究成果である、伊藤将人「ガソリンスタンドを「災害時の継続的エネルギー供給拠点」とする公共的価値創造事業」に基づく。

また、本稿で論じているマルチプルエネルギーステーションと環境省および東京都が論じているマルチエネルギーステーションとは、複数のエネルギーを供給する機能を持つステーションという点で同様のカテゴリーに位置付けられる。ただし、環境省および東京都のマルチエネルギーステーションは環境配慮型であるのに対して、本稿が論ずるマルチプルエネルギーステーションは災害対策型である。そのため、将来的に環境配慮型でありかつ災害対策型のステーションを考案することも価値があると考えている(注8注9)。

脚注
  1. ^ 「ガソリンスタンドを災害時の継続的エネルギー供給拠点とする公共的価値創造 Part 1研究の背景とコンセプチュアルデザイン」、独立行政法人経済産業研究所RIETIコラム、2024年5月8日、https://www.rieti.go.jp/jp/columns/a01_0756.html
  2. ^ 「地方公共団体のBCPの実効性に関する調査-非常用発電設備の整備等を中心として-結果報告書」、総務省北海道管区行政評価局、2022年3月、https://www.soumu.go.jp/main_content/000804853.pdf
  3. ^ 「中核SS、住民拠点SSとは」、SS(サービスステーション)関連、石油連盟ホームページ、2024年2月、https://www.paj.gr.jp/statis/faq/79
  4. ^ 「住民拠点サービスステーションについて」、政策について、資源・燃料、石油流通・LPガス政策、資源エネルギー庁、2024年9月2日、https://www.enecho.meti.go.jp/category/resources_and_fuel/distribution/juminkyotenss/
  5. ^ 「防災都市づくり計画のモデル計画及び同解説」、防災都市づくり計画策定指針等について、国土交通省ホームページ、 2012年3月、https://www.mlit.go.jp/toshi/toshi_tobou_tk_000007.html
  6. ^ 「災害に強い都市ガス、さらなるレジリエンス向上へ」、エネルギーの「これまで」と「これから」、資源エネルギー庁ホームページ、2021年5月14日、https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/gas_resilience.html
  7. ^ 事業構想大学院大学のホームページ、https://www.mpd.ac.jp/
  8. ^ 「環境に配慮したエネルギーステーションづくりに向けた設備等導入支援事業」、東京都産業労働局、https://www.sangyo-rodo.metro.tokyo.lg.jp/energy/menu/energy_station/index.html
  9. ^ 「環境に配慮したエネルギーステーションづくりに向けた設備等導入支援事業」、クール・ネット東京、東京都地球温暖化防止活動推進センター、https://www.tokyo-co2down.jp/subsidy/gs-shoene

2024年11月15日掲載