ガソリンスタンドを災害時の継続的エネルギー供給拠点とする公共的価値創造 Part 1 研究の背景とコンセプチュアルデザイン

伊藤 将人
ヤマヒロ株式会社 / 事業構想修士

松本 秀之
コンサルティングフェロー / 事業構想大学院大学特任教授

過去の災害対応から見たガソリンスタンドの現場

2011年の東日本大震災では太平洋岸に位置する製油所および油槽所が軒並み被害を受けたことにより石油製品の供給不安が生じた。被災地ではガソリンの供給困難が生じ、被災地以外でもガソリン不足の情報により不安に駆られた人々がサービスステーション(以下、SS)に燃料を求めて押し寄せた。そのため、短時間で在庫が底を突くこととなり営業停止となったSSが多く発生。以降、一般消費者は災害時にガソリンを満タンにして備えるという対策を採ることが定着しつつある。

また、元売り各社は災害発生以降に継続的な供給を可能とするための協力体制を整え、経済産業省は石油連盟や全石連と連携して「中核SS」や「住民拠点SS」を制度化するなど公共部門と業界との連携体制の整備を進めている(注1)。これらの取り組みにより、2016年の熊本地震や今回の能登半島地震では、流通体制のバックアップがうまく機能し迅速に救援および復興活動が行われた実績がある。

本年元旦に発生した能登半島地震における復興支援作業の進捗

さてここで、本年元旦に発生した能登半島地震の復興支援作業の経緯を分析する。2024年1月1日16時10分に石川県能登地方で規模マグニチュード7.6、震源の深さ16kmの能登半島地震が発生。揺れが激しかった地域は、震度7の石川県志賀町と震度6強の石川県七尾市、輪島市、珠洲市、穴水町、そして震度6弱の石川県中能登町、能登町および新潟県長岡市である。震度5強となるとさらに石川県金沢市、小松市、加賀市、羽咋市、かほく市、能美市、宝達志水町、新潟県の新潟市中央区、新潟市南区、新潟市西区、新潟市西蒲区、三条市、柏崎市、見附市、燕市、糸魚川市、妙高市、上越市、佐渡市、南魚沼市、阿賀町、刈羽村、富山県の富山市、高岡市、氷見市、小矢部市、南砺市、射水市、舟橋村、福井県のあわら市と広範囲にわたる。

内閣府が地震発生翌日の1月2日以降、各省庁からの報告を「令和6年能登半島地震に係る被害状況等について」として取りまとめ震災の状況を公表している。その中のSSの被害状況を抽出したものが下記の表である(注2)。

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表1
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表2
*営業停止には、定休日・避難指示によるものを含む
**七尾市、輪島市、珠洲市、志賀町、穴水町、能登町

この統計から浮かび上がるポイントは下記の2点である。

①公共部門とSSとの連絡報告体制の確立が重要であること
まず災害対策としての国・地方公共団体とSSとのさらなる連携体制の確立が重要である。SS数の合計は発生翌日である1月2日の報告で531件となっているのに対し、1月6日には1,439件と約3倍になっている。そして状況確認中のSSの実数は1月2日の259件から1月5日には295件と逆に増加している。ここから、いったん、状況確認中のステータスとなったSSとは5日間にわたりそのまま連携が取れていないと考えられる。1月6日には状況確認中のSSの実数が157件、その率が全体の11%まで減少していることから、SS稼働状況の全体像を把握できるまで地震発生から5日以上かかっている。このように、タイムリーなSSの被害状況および営業状況の把握に課題があり、災害発生を想定したSSと国・地方公共団体との連絡報告体制は十分に確立されていないことが推察される。

②甚大な被害を受けたSSは営業再開する可能性が低いこと
次に長期的に営業再開が不可能となるSSが一定数発生することを見据えたガソリン供給網の確立が必要である。震度6以上の被害地域に焦点を当てた1月7日以降の統計によれば、営業停止のSSは1月7日に32件(46%)、1月8日は28件(42%)であったが、1月15日には16件(23%)まで低下している。その後の営業停止SSは、約1カ月後の2月2日11件、約2カ月後の3月8日9件であり、この間1カ月に営業再開までこぎ着けているSSは2件であることから、甚大な被害を受けた地域のSSの復興への道のりは極めて厳しいと推察される。

「ガソリンスタンドを災害時の継続的エネルギー供給拠点とする公共的価値創造」研究

上記の公共部門とSSとの連携およびガソリン供給網の確立の重要性に関わる課題認識から始まり、そこに大災害の発生確率の高まりおよび自動車を取り巻くエネルギー環境の変化を考慮することで、昨年から事業構想大学院大学において「ガソリンスタンドを災害時の継続的エネルギー供給拠点とする公共的価値創造」研究を開始した。

本研究はマルチプルエネルギー、デジタルトランスフォーメーション(DX)およびフェーズフリーという3つのコンセプトから課題を整理することにより、下記の3点を具体的な課題解決の方法として位置付けた。

  1. デュアルフューエル発電体制による停電時の電力供給力向上、都市ガス発電機設置の組み入れおよび新たな公共的活用範囲の拡大によるマルチプルエネルギーステーションの構築
  2. フェーズフリーを意識したコンテンツ構築および顧客との共創による新たなサービス創造、情報伝達高速化をもたらすDX活用および地域に特化した災害情報発信を可能とするコミュニケーションプラットフォームの構築
  3. 国および地方自治体との連携を通した設備投資に対する補助金の活用、法的制約の確認および調整および中小企業のBCP/BCM策定促進
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図

多発する地震と本研究の重要性と喫緊性

2024年1月1日に発生した能登半島地震に加えて、3月15日に福島県沖で震度5弱、3月21日に茨城県南部で震度5弱、4月2日に岩手県沿岸北部で震度5弱、4月8日に鹿児島県大隅半島東方沖で震度5弱、そして大分県と愛媛県の間の豊後水道で震度6弱と日本全国で地震が発生しているため、大災害が発生する可能性が高まっているとの指摘がある(注3)。

本コラムは今回を含めて合計4回を予定している。初回の本稿は本研究の背景とコンセプチュアルデザインの整理とし、次稿以後で上記に記した具体的課題解決方法の詳細を論じる。

追記

本コラムは、事業構想大学院大学修士課程(専門職)(注4)での研究成果である、伊藤将人「ガソリンスタンドを「災害時の継続的エネルギー供給拠点」とする公共的価値創造事業」に基づく

脚注
  1. ^ 経済産業省資源エネルギー庁石油流通課 「災害時の燃料供給体制の維持のために」 2017年4月
    https://www.soumu.go.jp/main_content/000479711.pdf
  2. ^ 内閣府防災情報のページ https://www.bousai.go.jp/
    A)令和6年能登半島地震に係る被害状況等について(令和6年1月2日07:00現在)
    B)令和6年能登半島地震に係る被害状況等について(令和6年1月3日08:00現在)
    C)令和6年能登半島地震に係る被害状況等について(令和6年1月4日07:00現在)
    D)令和6年能登半島地震に係る被害状況等について(令和6年1月5日07:30現在)
    E)令和6年能登半島地震に係る被害状況等について(令和6年1月6日07:30現在)
    F)令和6年能登半島地震に係る被害状況等について(令和6年1月7日11:30現在)
    G)令和6年能登半島地震に係る被害状況等について(令和6年1月8日08:30現在)
    H)令和6年能登半島地震に係る被害状況等について(令和6年1月15日07:00現在)
    I)令和6年能登半島地震に係る被害状況等について(令和6年2月2日14:00現在)
    J)令和6年能登半島地震に係る被害状況等について(令和6年3月8日14:00現在)
  3. ^ 気象庁地震情報のページ https://www.data.jma.go.jp/multi/quake/
  4. ^ 事業構想大学院大学のホームページ https://www.mpd.ac.jp/

2024年5月8日掲載