2023年版税制優遇制度の比較~ふるさと納税の利用率と認知度は高い?
ふるさと納税は、寄附の形で税金の活用先を選択でき、肉類、米、魚介類やフルーツなどの返礼品選びの楽しさもある制度だ。総務省によると2022年度のふるさと納税寄附額は約9,654億円(注1)、納税寄附件数は約5,184万件(注1)、利用者数(注2)も約891万人と過去最高を更新している。十分な普及が進んでいるようだが、納税義務者数(注3)に占める利用者数の比率は約14.9%とまだまだ伸び代がある。利用率を高めるためには認知度の向上が必須だが、ふるさと納税の認知は進んでいるのか? また、他の税制優遇制度と比較して利用率や認知度は高いのだろうか?
そこで筆者らは、2023年9月初旬にふるさと納税も含めた税制優遇制度の利用率と認知度を調べるための調査を行った。年収300万円以上(注4)の方を対象に、「制度の利用に関するアンケート」を実施し、50,788名から回答を得た。(調査概要①参照)。
図1は、5つの税制優遇制度の利用状況と認知度である。ふるさと納税の利用率は37.6%(うち過去に利用し、調査時点で未利用は6.1%)で、他の税制優遇制度と比較して最も高い。水色のふるさと納税を「知っているが利用していない」は59.2%で、この約6割の人々の利用意欲を高めるための取組みが求められる。一方で、灰色のふるさと納税を「知らない」と回答したのはわずか3.2%だった。つまり、ふるさと納税の認知度は96.8%で、5つの制度の中でも圧倒的に高いことがわかった。ふるさと納税は、民間のポータルサイトを通じた寄附が主流なので、自治体の広報に加えて民間企業によるさまざまな媒体での周知ができている。ふるさと納税の訴求力の工夫は、他の制度の認知度向上の参考になるだろう。
どこに寄附する?~2022年の寄附先自治体との関係性
ふるさと納税は、税制控除制度と返礼品の魅力により年々利用者が増えている。政府は、ふるさと納税の自治体選択が、第二の理念で掲げる(注5)「ふるさとやお世話になった地域の応援」から、「返礼品の選択」に偏重しているとし、返礼品の過当競争を避けるべく度重なる制度改正を行ってきた。
直近では、2023年10月の制度変更で(注6)、各自治体の寄附募集に要する費用(返礼品等の調達費用を含む)が付随費用も含めて寄附金額の5割以下(募集適正基準の改正)となる。小西・伊藝・伊藤(2023)(注7)より、寄附先自治体の選択で一番重視した理由の上位2つは、「返礼品が魅力的」が47.3%と「返礼品のコスパ(価格と内容量のバランス)が良かった」14.9%で合計62.2%であり、返礼品の実質的な値上がりは、自治体にも寄附者にも厳しい改正となる。
そもそも政府が懸念するように、「ふるさとやお世話になった地域の応援」は希薄になっているのだろうか?そこで筆者らは、2023年9月第二週に、「ふるさと納税実態調査」を行った(調査概要②参照)。「制度の利用に関するアンケート」で、ふるさと納税を利用していると答えた方を対象とし、10,816名から回答を得た。
図2は、2022年にふるさと納税で寄附した自治体との関係で、複数回答の結果を示している。最も多かったのが「過去にふるさと納税で寄付したことがある」48.0%で、自治体選択に継続性があることがわかる。緑色の網掛けの項目はふるさと納税の第二の理念に基づく寄附先の選択を行っている。黄色は訪問経験ありと関心がある自治体を寄附先に選択している。
関係のない自治体の選択は、オレンジ色の「今のところゆかりや関係はないが、興味がある」10.4%と青色の「全く関係ない」46.1%を区別した。「全く関係ない」には、返礼品のみでの選択とふるさと納税の第一の理念に係る「寄附先の選択により税の使われ方を考えた」選択が含まれるだろう。また、赤色の過去にふるさと納税で寄付したことがある自治体の選択についても、無関係で寄付された自治体と理念に沿って寄附された自治体が混ざっている。
どう変わる?ふるさと納税後の自治体への意識の変化
図3では、ふるさと納税後の寄附先自治体への意識の変化について、複数回答の結果を示している。赤色の57.7%が「今後、もう一度寄附したい」と回答し、図2と同様に自治体選択に継続性があることがわかった。ふるさとやお世話になった自治体以外で、ふるさと納税を通じた自治体との関係ができているのではないだろうか。
緑色は、寄附後の訪問についてで、「実際に訪問した」が9.4%、訪問予定が5.3%だった。また、0.5%と少数ながら、ふるさと納税をきっかけに「二拠点目にしたり、移住した」回答者もいた。黄色は、「寄附先の産品を普段の買い物で意識的に選ぶようになった」が10.4%、「寄附先の祭りや文化、著名人等のファンになった」が1.8%である。
以上より、ふるさと納税をきっかけに次回の寄附先になり、それ以外でも観光で訪れ、普段の買い物で意識する等、ふるさと納税が利用者と自治体のさまざまな接点となりうることが分かった。
一方で、「親近感も愛着も湧かなかった」が28.0%であり、親近感も愛着も湧かない人が多いのもふるさと納税の現状である。返礼品を目的とした納税者は、図2の「全く関係ない」自治体を選択し、寄附後も「親近感も愛着も湧かなかった」、つまりどこを選んだかを覚えていないケースも起きうる。これは、「ふるさとやお世話になった自治体」になり得なかった自治体にもチャンスがあると捉えることができ、自治体の努力(返礼品の選択、企画、政策の広報等)が奏功する余地があると筆者らは考える。
制度の利用実態と生活の満足度(Well-being)の関係は?
図4は、「制度の利用に関するアンケート」の対象者に、生活の満足度(Well-being)について「全く満足していない」を0点、「非常に満足している」を10点として聞き、男女別、5つの税制優遇制度の利用状況別に集計した結果である。縦軸が女性の生活の満足度、横軸が男性の生活の満足度の散布図で、バブルの大きさは人数である。各点が45度線よりも上にあると女性の満足度が男性よりも高い。
図4の34個の点は、5つの制度について、「利用している、利用していない」に分類し(32個)、「利用していない」から、「すべて知っているが利用していない」と「すべて知らない利用していない」の2個を取り出した。
桃色はふるさと納税を利用している組合せ(すべての制度の利用を含む)、水色はふるさと納税以外の4制度を複数利用している組合せ、紫色はNISAかつみたてNISA、または両方を利用している組合せ、緑色は個人型確定拠出年金(iDeco)か企業型確定拠出年金、または両方を利用している組み合わせである。
桃色の点が右上にあることにより、男女ともにふるさと納税の利用者の生活の満足度が高いことが分かる。次いで、水色のふるさと納税以外の4制度を複数利用している男女の満足度が高かった。投資要素の強いNISAとつみたてNISAの利用者の満足度(紫色)が、緑色の年金利用者よりも高かった。
一方で、灰色の制度を利用していない人の満足度は、制度利用者より低かった。制度を利用していない人の中では、認知度の違いによって満足度に高低差があった。
図4の各色の高低より、男女ともにふるさと納税利用者の生活の満足度が高かった。図4は調査時点(2023年9月)の利用状況と生活の満足度(Well-being)なので、①ふるさと納税をする人は生活の満足度が高い、もしくは、②生活の満足度が高い人がふるさと納税を利用しているという解釈ができる。
①が成り立つなら、ふるさと納税が理念と乖離し懸念があるといえど、国民の生活の満足度を高めるという十分に副次的な効果があると言える。
②も、寄附金の支払いや税金控除のタイミング等のふるさと納税の制度設計に起因すると考えられる。①と②とも、ふるさと納税が他の4制度と異なり、寄附という利他的な要素が含まれる点と関係すると筆者らは考えるが、厳密な関係の特定は今後の研究課題とする。
本コラムでは、制度の利用実態と生活の満足度(Well-being)の関係を示せたことに意義がある。ふるさと納税に限らず他の各種制度も含め、生活の満足度(Well-Being)という観点を制度評価や制度設計の見直しに活用することで、私たち国民の観点も取り入れたより良い制度になることが期待できる。
【調査概要①】
「制度の利用に関するアンケート」:スクリーニング調査
調査方法:株式会社インテージリサーチによるWeb調査
調査地域:日本全国
対象者条件:20~64歳男女/有職者/個人年収300万円以上
標本サイズ:n=50,788(令和2年「国勢調査」と令和元年「賃金構造基本統計調査」から算出した人口構成比(性年代×エリア×有職者×個人年収300万円以上)に準拠して回収)
調査実施時期:2023年9月1日(金)~2023年9月6日(水)
【調査概要②】
「ふるさと納税実態調査」:本調査
調査方法:株式会社インテージリサーチによるWeb調査
調査地域:日本全国
対象者条件:「制度の利用に関するアンケート」の回答者のうち、2022年1月~12月にふるさと納税制度で寄附を行ったと回答した方
標本サイズ:n=10,816
調査実施時期:2023年9月8日(金)~2023年9月12日(火)