統計的因果推論をEBPMに適用する際のジレンマ

荒木 祥太
研究員(政策エコノミスト)

今年度当初にEBPMセンターが創設された。元来RIETIはエビデンスに基づく政策提言を行うことをミッションとして研究活動を行っているため(森川, 2022)、この設立はミッションの延長線上にあると言える。

筆者がRIETIで行ってきた活動を、政策提言活動の中に位置づけると、①経済学研究者としての活動、②政策エコノミストとしての活動、に区分できる。両者とも学術的な知見を通じて政策的な示唆を得るという点は共通している。異なる点としては、どのような政策をテーマとして扱うかを選択する自由度について、②政策エコノミストとしての活動の方が、①の研究者としての活動よりも小さくなるように感じられる。政策エコノミストとしての活動は政策当局への助言を主な任務とするため、取り扱う政策が政策当局の関心に大きく依存するからである。

両者の違いをより深く考えてみると、政策当局にとって不本意な課題の残った政策の方がその効果を検出しやすく、政策当局が計画通りに実施できた政策では仮に効果があったとしても検出が難しいというジレンマを感じる。政策研究においては、ランダム化比較試験(RCT)や自然実験のような因果推論の手法を用いることが、世界的な潮流となってきた。因果推論を用いて政策効果を検証するためには必要条件がある。関心のある政策効果に関して、政策効果を実際に受けた経済主体と同質であるにも関わらず、実際には政策効果を受けなかった経済主体のデータが必要である。そのため、意図的な RCTを除けば、政策の目的からは本来対象となって然るべきだったにも関わらず政策の対象とならなかった経済主体が存在するという意味で課題が残った事例の分析、または政策の副作用の分析(例えばAraki and Morita 2022)の方が、因果推論の手法を用いやすい。一方で、政策当局としては、そのような事態が生じた政策の効果よりも、万全を期して実施できた政策効果の検証により関心があるように感じられる。

このジレンマは解決が困難であるが、現在のコロナ禍を奇貨としたい。筆者は現在、コロナ禍で被害を受けた商店街の再活性事業の分析を行っている。この事業は、集客を伴うため、感染の再拡大を機に一時停止となった。この機を生かして、再活性事業の効果を推定できればと考えている。

参照文献

2022年6月9日掲載

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