医療崩壊を防ぐために今やるべきことは何か

藤 和彦
上席研究員

都市封鎖は甚大な影響

日本でも東京や大阪を中心に新型コロナウイルス感染者の増加傾向が鮮明になっていることから、新型インフルエンザ等対策特別措置法(特措法)に基づく緊急事態宣言の発令が取り沙汰されるようになっている。

政府の専門家会議の尾身茂副座長は、4月1日に「爆発的感染が起こる前に医療体制が機能不全に陥ることが予想される」と警告を発した。

医療崩壊を恐れる日本医師会も、4月1日に特措法に基づく緊急事態宣言を政府に要請した。緊急事態宣言が発令されれば、①住民に対して必要な場合を除き外出しない、②施設管理者に対して大規模イベントなどを停止する、などを要請できることから、感染者の拡大が抑制できると考えているのだろうが、要請に従わない場合、諸外国のように罰則が科されるわけではなく、実効性が乏しいと言わざるを得ない。安倍首相も4月1日の参議院決算委員会でそのことを認めている。地域や期間を限定して発令したとしても、国民がパニックに陥り日本全体が大混乱になれば、かえって感染拡大が助長される可能性もある。

仮に特措法に基づき強力な自粛要請が出され、都市封鎖(ロックダウン)と同じ状態になれば、経済に与える悪影響も甚大である。第一生命経済研究所は3月30日、「東京都を1カ月封鎖すれば、日本のGDPの1%に相当する5.1兆円の損失が発生する」との試算結果を公表している(注1)。

新型コロナウイルス対策について、日本はこれまでクラスターに注目して国内での感染拡大を抑止することで成果をおさめてきた。今後強力な自粛要請を行うに当たってもピンポイントで有効な対策を講ずるべきだろう。

「休業補償付き歓楽街封じ込め」策

専門家会議のクラスター対策班は3月末から「夜間を中心に営業する接客業や飲食店等で感染が広がっている可能性が高い」と危機感を高めている。歌舞伎町などいわゆる歓楽街をターゲットにした封じ込め策を講じなければならなくなっているが、実効性を上げるためには「自粛したくても店を開かざるを得ない」経営者に対して休業補償(テナント料などの固定費に対する補助など)を行うことではないだろうか。

休業補償について参考になるのはドイツの緊急経済対策である。

3月27日に成立した経済対策の規模は7,500億ユーロ(約90兆円)、注目すべきはそのうち中小企業への支援金が総額1,560億ユーロ(約19兆円)も計上されていることである。支援策の実施の速さにも瞠目すべきものがある。同30日に支援金の申請手続きが開始され、中小企業は面倒な審査なしにまずは1回限りの5,000ユーロ(約65万円)の援助が受けられる。返済なしというから、経営に窮する中小企業にとってつなぎの資金として大変ありがたいことだろう。

日本でも緊急経済対策が議論されているが、休業補償制度を導入しようとする動きはほとんど見られない。新型コロナウイルスの感染が抑制された後の消費喚起策として現金給付や商品券の配布などが検討されているが、「明日の100より今日の50」、今必要なのは自粛要請で収入減となり生活に不安を抱えている人たちへの補償である。

小池東京都知事は休業補償を含め霞ヶ関からの多額の財政支援を期待しているようだが、このような緊急事態においては、東京都が自ら率先して「休業補償付き歓楽街封じ込め」策を実施したらどうだろうか。このパッケージは強制力のない緊急事態宣言発令よりも実効性が高く、東京都が小さくても「始めの一歩」を踏み出せば、自民党内の空気を一変させることができるだろう。休業補償の対象については、クラスターとなる可能性が高いことから休業要請を行う業種として、まずは地区を区切って効果を確認し、徐々に範囲を広げれば混乱は少ないだろう。

重要なのは実効性の高い施策の迅速な実施

医療崩壊を防ぐためには、国民の外出自粛に加えて、今後入院が必要とされる患者全員を収容できる病床の確保も喫緊の課題である。厚生労働省によれば日本全体で4月1日現在約3,452の感染症病床が用意されているが(注2)、ピーク時に発生する患者数は最悪の場合20万人を超えるとの試算がある(注3)。

米国や中国では、軍が公園や空き地などに野戦病院を短期間で設置しているが、日本がまず実施すべきは限られた病床の有効活用である。

厚生労働省は、新型コロナウイルス感染者のうち軽症者や無症状の人について、病院以外の施設での療養を容認する姿勢を明確にしたが、今後の課題は彼らを隔離する施設をいかに確保するかである。

東京都や大阪府などはそのための隔離施設として民間のホテルなどを活用したいとしており、その円滑かつ迅速な実施のために「臨時の医療施設を開設するため、土地や建物を強制使用することが可能となる(特措法第49条)」緊急事態宣言の発令を求めている。

緊急事態宣言を第49条のために発令するのなら(都市封鎖などは実施しない)、前述したような悪影響は少ない。直ちに緊急事態宣言を発令すべきだろう。

医療崩壊を防ぐための最後の方策は、長年の予算制約の影響より綻びが見え始めている医療現場への全面的な支援である。

2兆ドル規模の緊急対策をまとめた米国では、そのうち1,000億ドル(約11兆円)が医療体制の整備に充当されるが、日本では「医療体制へ全面的なバックアップを行おう」という声が聞こえてこない。米国では国防生産法という戦時立法を適用して産業界全体に対して不足している人工呼吸器などの増産を命じているが、日本でも人工呼吸器を始め、防護服や薬品、その他の医療用製品を大量に生産する体制を早急に構築し、増産分すべてを政府が買い上げ医療現場に支給できるような非常措置を行うべきである。

ハードの整備に加え、マンパワーの拡充も欠かせない。英国政府は、退職した医療従事者に現場復帰を促すとともに、獣医師を医療現場に投入し、さらに失業状態にある航空会社の客室乗務員(約1.3万人)が医療支援を行う体制を態勢を整備しつつあり、日本も見習うべきだろう。

このように、日本の医療現場の崩壊を防ぐためには、緊急事態宣言発令の是非ではなく、実効性が高い施策を迅速に実施できるかどうかにかかっているのではないだろうか。

脚注
  1. ^ http://group.dai-ichi-life.co.jp/dlri/pdf/macro/2019/kuma200330ET2.pdf
    同様の措置が南関東(東京、神奈川県、千葉県、埼玉県)で行われれば8.9兆円の損失があるとしている。
  2. ^ 新型コロナウイルスダッシュボード https://www.stopcovid19.jp/?fbclid=IwAR2KXHwA3HS1MJeMykSM5UEEoB1GSUjnUJp8VtAGEV1aIE0g1dg-pHC2A38
  3. ^ NHK調べ https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200327/k10012353801000.html

2020年4月6日掲載