POSでみるコロナ禍の購買動向:品目分析編

小西 葉子
上席研究員

コロナショックで、最初に異常をきたしたのは、マスク売場だった。冬季は例年、風邪やインフルエンザの予防、花粉症対策としてマスク販売が増える時期である。図1はマスクの日次の販売額の推移である。前年水準と比較して大幅に上昇しており、かつ各種アナウンスと連動していることが見て取れる。1月末から現在まで、私たちはドラッグストア、コンビニ、スーパーにマスクや手指消毒剤を求めて立ち寄り、常に売り切れの空の棚を眺めてきた。必要なものが買えないストレス、医療や介護現場などの必要なところに届いていないのではないのかという不安を抱えてここ2カ月を過ごしてきた。その焦燥感を持ったまま、2月末にトイレットペーパーに関するデマ拡散と一斉休校要請という大きな転機がやってきた。

図1:マスクの日次販売額の推移
図1:在宅勤務の生産性分布
出所:インテージギャラリー(インテージ調べ)より著者作成(注1

図2はドラッグストアの週次のPOSデータによる健康関連品(マスク、手指消毒を含む)と紙製品(トイレットペーパー、ティッシュペーパー、キッチンペーパーを含む)の販売動向のグラフである。この指標は前年の同週の販売額との比になっていて、0%のときに同額、100%の時には2倍の販売額であったことを意味する。図1と同様に、マスク等の感染予防品(赤色)は1月の最終週に購買ピークがきている。一方、紙製品(青色)は、2月末にSNSを中心に広がった「トイレットペーパーが不足する」というデマの拡大によりピークが1カ月ずれている。このタイミングと2月27日の安倍首相の小中高一斉休校と在宅勤務の要請が重なり、この週末の買いだめ行動は拍車がかった。前年の2.5倍多く(152%)、消費税率引き上げ時の駆け込み消費よりも販売額が増えている。

3月のPOSデータでは、健康関連品も紙製品も例年に近くなっている。通常であれば、例年通りに戻ったと言えるが、コロナショックの下では、供給量が十分でないのでこの程度の販売額になっていると読むのが妥当であり、商品が十分に行き届いているという根拠にはならない。同様にピークも、実際在庫がもっとあればもっと高かっと考えるのが自然である。これは売れたものだけが数字に表れるPOSデータを読むときの注意点である。

図2:ドラックストアの健康関連品と紙製品の販売動向の推移(週次)
図2:ドラックストアの健康関連品と紙製品の販売動向の推移(週次)
出所:経済産業省 BigData-STATS ダッシュボード(β 版)より著者作成

3月2日から小中高校の一斉休校が始まり、民間・公的機関とも在宅勤務が奨励されるようになった。家にいる時間が長くなり、特にこどもたちは家で昼食を摂るようになり、私たちは主食や加工品をストックする必要がでてきた。図3はスーパーマーケットの週次のPOSデータによる主食(米、パスタ、即席めんなどを含む)と加工食品(冷凍食品、レトルト食品を含む)の販売動向のグラフである。2019年10月の台風19号接近のよりも大きな買いだめ行動になっている。

図3:スーパーマーケットの主⾷と加⼯品の販売動向の推移(週次)
図3:スーパーマーケットの主⾷と加⼯品の販売動向の推移(週次)
出所:経済産業省 BigData-STATS ダッシュボード(β 版)より著者作成

図4は家電大型専門店の週次のPOSデータによるテレビとパソコンの販売動向のグラフである。パソコンについては、消費税引き上げ時の駆け込み消費が落ち着いていたが、Windows7のサポート終了が1月14日であったので、年末から年明けも販売が増加していた。テレビについても、2009年のエコポイントプログラム参加者の買い替え時機や、オリンピック需要で販売額が増加していると捉えられていた。しかし、3月2日以降も前年販売額より増えている。家にいる時間が増えていること、パソコンについては在宅勤務でのウェブ会議により、ウェブカメラ等の関連商品の販売が好調(注2)、現在は品薄になっており、PCやタブレット端末の販売も増加していると考えられる。

図4:家電⼤型専⾨店のテレビとの販売動向の推移(週次)
図4:家電⼤型専⾨店のテレビとの販売動向の推移(週次)
出所:経済産業省 BigData-STATS ダッシュボード(β 版)より著者作成

一方で、購買が減っているものは何だろうか? 図5はドラッグストアの化粧品の販売動向である。化粧品全体とスキンケア製品とメイクアップ製品に分けて描いている。在宅勤務奨励により、外出が減ることにより化粧品の販売額は落ち込んでいる。特に、外に出る場合でも、マスク着用機会が増えておりメイクアップ商品の売り上げが落ち込んでいる。マスクを清潔に保つためにファンデーションやリップの使用が減っているからであろう。

図5:ドラッグストアの化粧品の販売動向の推移(週次)
図5:ドラッグストアの化粧品の販売動向の推移(週次)
出所:経済産業省 BigData-STATS ダッシュボード(β 版)より著者作成

思い出してほしい。1月当初、コロナウイルスに感染した患者が中国や日本で報告されたとき、心配の中心は春節期間の中国からのインバウンド旅行者の減少であった。私もこのころ(春節直前)に出張で大阪に行き、確かに旅行者が減少していること、ドラッグストアが中国人観光客に対しマスクの数量制限をしているのを呑気に眺めていた。日本政府観光局(JNTO)によると、今年の2月の訪日旅行者数は2019年2月より58%ダウンしている(注3)。3月9日からは、中国と韓国の発行済みビザが無効化され、現在は諸国に対して入国制限をしていることにより、3月以降はより数値は悪化するだろう。

日本のインバウンド旅行者の3割は中国からで、東アジア4カ国の合計は全体のおおよそ7割である(注4)。観光庁の「訪日旅行者消費動向調査」によると、彼らの支出シェアはショッピングが最も多く(注5)、中でもドラッグストアの化粧品や医薬品は人気のお土産となっている(注6)。図6はドラッグストアの化粧品と医薬品の販売動向である。化粧品については、図5の解説で述べた様に日本人消費者の化粧離れの影響もあると考えられる。医薬品についてはどうだろうか?

図6:ドラッグストアの化粧品と医薬品の販売動向の推移(週次)
図6:ドラッグストアの化粧品と医薬品の販売動向の推移(週次)
出所:経済産業省 BigData-STATS ダッシュボード(β 版)より著者作成

図7は国立感染症研究所の定点当りインフルエンザの症例数の各年の比較である。2020年の冬期は、2010年から10年ぶりの低水準となった。2010年は2009年からの新型インフルエンザ対策で、手洗い・うがいに励み、インフルエンザの症例数が少なくなかった年である。現在、コロナウイルスの自身と他者への感染を予防するために、私たちはうがい、手洗い、手洗い後の消毒、マスク着用に一層励んでいる。この感染予防行動により、風邪やインフルエンザの罹患率が下がり、医薬品の販売額が減少している。感染症対策として、手洗い、うがい、顔周りを触らないことの重要性という知識を経験から得ている。

図7:インフルエンザ定点当り(5000 医療機関)報告数
図7:インフルエンザ定点当り(5000 医療機関)報告数
出所:国⽴感染症研究所の「疾病毎定点当たり報告数 〜過去10 年間との⽐較〜」より著者作成(注7

最後にデータ紹介をしながらまとめたい。このコラムの図2から図6は経済産業省のオープンデータにより作成した。このデータは、経済産業省の「令和元年度 ビッグデータを活用した新指標開発事業(短期の精算・販売動向把握)」の成果物である。家電製品についてはGfKジャパン社、それ以外の商品については、インテージ社のPOSデータにより前年同週比を推計し、METI POS小売販売額指標[ミクロ]と称してダッシュボード内で毎週金曜日に公表している(注8)。

2020年の1月末から、私たちの生活は徐々に普段と違うものになっている。日本ではまだ、大規模な行動規制が行われていないが、それでも3月2日からの一斉休校、在宅勤務や時差出勤の要請に対して、生活スタイルを変更して対応している。また出張、旅行、大規模イベントの自粛、ジムや飲食店などのサービス業の休業も相次ぎ、経済全体が規模と動きを縮小・減速させている状況である。

みんながそれぞれ、今年するはずだったことを変更しながら生活している。日々、自分ができることは何かないかと考えながら、自身が参加しているMETIプロジェクトの販売額の指標をグラフ化し、情報を整理してきた。その中で、いま日本で起きている、私たちの行動をデータで記録していこうと考えた。それぞれの品物がいつ、どこで、どの販売経路で、どれ位購入されているのか、記録に残していく。空になったスーパーの棚の写真、マスクやトイレットペーパーを求める行列の映像、それらはある時間のある場所の現実を表しており、メッセージ性が非常に強い。一方、データに基づくグラフや分析は、メッセージ性は弱いが網羅性が高い。写真とデータによる描写によって今を理解し、現状の課題解決に役立て、それが国のプロジェクトの成果としてこの様に供給できれば価値があると思う。

そして、色んな地域の色んな人々が撮った写真のように、公的統計や様々な民間企業のビッグデータを使って、コロナウイルスによる現状の記録が増えていけばよいなと思う。デマやフェイクニュースでなく、移動が制限された今こそ、正しい情報が技術によって世界中で共有されることを望む。

脚注
  1. ^ 株式会社インテージ 「インテージギャラリー」 https://www.intage.co.jp/gallery/shingatahaien-2/
  2. ^ SankeiBiz、2020年3月5日、在宅勤務拡大、ウェブカメラ販売好調 「顔見えると意思疎通しやすい」https://www.sankeibiz.jp/business/news/200305/bsc2003050500002-n1.htm
  3. ^ JNTO、2020年3月19日プレスリリース
    https://www.jnto.go.jp/jpn/news/press_releases/pdf/200319_monthly.pdf
  4. ^ JNTO、2020年1月17日プレスリリース
    https://www.jnto.go.jp/jpn/news/press_releases/pdf/200117_monthly.pdf
  5. ^ 観光庁、2019年の訪日外国人旅行消費額(確報)、2020年3月31日
    http://www.mlit.go.jp/kankocho/siryou/toukei/content/001335741.pdf
  6. ^ 観光庁、訪日外国人の消費動向の2018年年次報告書(p.18)
  7. ^ 国立感染症研究所、https://www.niid.go.jp/niid/ja/data.html
  8. ^ 経済産業省、BigData-STATSのダッシュボード(β版)
    https://www.meti.go.jp/statistics/bigdata-statistics/bigdata_pj_2019/index.html

2020年4月2日掲載

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