それでは、日銀のETF買入政策はマクロ経済や金融市場に対して、どのような効果があったのだろうか?この問に一定の答えを見出すために、Miyao and Okimoto (2017)では、状態変化を考慮した構造VARモデルにより、日銀のETF買入政策を含む、非伝統的金融政策が、マクロ経済に与えた影響を分析している。その結果、近年のQQEを含む、日銀の金融政策の積極性がより高まった時期においては、日銀の非伝統的金融政策が生産活動や物価に対して、統計的に有意に正の効果があったことが確認され、その影響の持続性が高いことも確認された。また、ETF買入政策を中心としたリスク資産の購入は、特に生産活動に与えた影響が大きく、国債の買入と比較して、2倍程度の効果があったことが示唆された一方、インフレに対する影響は限定的であることが明らかとなった。上述したように、ETF買入政策は比較的リスクの大きい政策でもあるため、生産活動により大きな効果が観察されたことは、興味深い結果であるものの、インフレに対する効果がほとんどなかったことは、やや意外な面もある。
上述の議論は、日銀のETF買入政策が株価に正の効果があったことを前提としている。しかしながら、日銀のETF買入政策の主目的はリスクプレミアムの縮小であり、株価を上昇させることではない。とは言うものの、実際にETFの購入を通じて、株式を購入しているわけであるので、株価に影響を及ぼしている可能性は十分考えられる。その点を、明らかにするために、日銀のETF購入政策が株価に及ぼした影響を分析したのが、Harada and Okimoto (2019)である。具体的には、日銀による日経平均ETFの買入に焦点を当てるとともに、個別銘柄の日次株式収益率を前場収益率と後場収益率に分割し、日経平均に含まれている銘柄と含まれていない銘柄の後場収益率の違いを、差分の差分法に基づいて日経平均銘柄に対する政策効果を定量的に評価した。分析の結果、日銀による日経平均ETFの買入は日経平均銘柄の後場収益率に対して、有意な正の効果があったことが示唆されたが、その効果は減少傾向にあることも示唆された。具体的には、QQE開始当初は、日銀が日経平均ETFを100億円買入れると、日経平均銘柄は平均的に0.055% 上昇する傾向があったが、2016年9月以降の期間においては、その効果が0.020%まで低下していることが明らかとなった。また、2017年10月の時点で、累積の政策効果は20%程度となることも示唆された。推計には誤差が含まれるため、この数字自体は幅を持って見る必要があるものの、日銀のETF買入政策がQQE開始以降の株価の上昇に少なからず寄与していたことが示されたことは、示唆に富む結果である。