中小企業の資金調達を円滑にするための信用保証制度について、大規模な制度の見直しが政府から提案され、今月7日に国会で関連法案が可決・成立した。本稿では、その内容を紹介するとともに、今後の課題について述べる。
信用保証制度とは、中小企業の資金調達を円滑にする目的で、民間金融機関の貸し出しに政府部門が債務保証を付与する仕組みである。具体的には、各都道府県に所在する信用保証協会が、中小企業による金融機関からの借入に対して保証を付与し(=中小企業が金融機関に返済できなくなった場合に、信用保証協会が代わりに返済することを約束する)、政府がその保証を再保険などで財政支援する。こうした信用保証の提供により、はじめて金融機関から借りられるようになる中小企業も数多く存在する。
現在の日本では、約250兆円ある中小企業向け貸し出し残高のうち、10%強に相当する26兆円に信用保証が付与されている。1990年代後半の日本における金融危機や、2000年代後半の世界的な景気後退時には、それぞれ30兆円以上の大規模な信用保証プログラムも講じられた。信用保証制度が採用されている多くの国の中でも、日本における信用保証への依存度は高い。
その一方で、信用保証制度を維持するために政府から支出されている出資金が1998年度以降2011年度までに7兆円を超える(岡田(2013))、メインバンクが質の低い企業を選んで自らが信用リスクを負う必要がない信用保証付きの貸し出しを提供しているのではないか(Ono, Uesugi, and Yasuda(2013))、寛容な信用保証制度がいわゆるゾンビ企業を温存しているのではないか(OECD(2015))などのさまざまな指摘があった。しかしながら、金融危機や東日本大震災といった緊急事態が生じて、公的部門が資金供給に果たす役割への期待が高まったこともあり、緊急時対応がほぼ収束した現在になって、平時における信用保証のあり方も含めた包括的な議論が行われ、その改革の方向性が示されたところである。
改革の主な内容は3点
今回の改革の主な内容は、以下のとおりである。
- 大規模な経済危機に際して、適用期限を原則1年に限って発動する保証制度(保証比率100%)を新たに作る。その一方で、緊急措置として保証協会がリスクを引き受けても急速な回復が見込めない企業を対象に講じてきたセーフティーネット保証の一部については、保証比率を引き下げる。
- 金融機関からの借り入れが難しい創業期や小規模企業向けの保証制度を拡充する。
- 信用保証制度と民間金融機関の間で企業の信用リスクを分担する際には、保証付き貸し出しのみならず保証のないプロパー貸し出しも含めて把握する。信用保証協会は、民間金融機関によるプロパー貸し出しの状況などについて情報を集めて開示する。
改革の目的
これら3点の変更は、それぞれ以下の目的から講じられたものと考えられる。第1は、危機時と平常時における保証制度を明確に区別するというものである。政府による貸し出し市場への介入が経済厚生を改善するのは、危機が生じて民間金融機関の体力が低下し企業の信用リスクを引き受けることができない場合であり、危機が過ぎれば早期に措置を終了する必要がある。しかしながら、これまで危機対応として大規模に導入されてきた信用保証制度では慣性が働き、当初予定した時点で終了することができなかった。新たな時限付き保証制度の導入と不況業種に対して講じられることの多かったセーフティーネット保証の一部における保証比率の縮小は、この点での改善を目指している。
第2は、民間金融機関による情報生産が十分に行われない企業に対する資金供給を拡充するというものである。創業期にある企業や小規模事業を営む企業は、他に比して金融機関との非対称情報の程度が大きく資金制約に直面する程度が著しいため、政府による関与に一定の妥当性がある。保証金額の上限引き上げといった創業期や小規模事業向けの制度拡充は、これら企業の資金制約を緩和し、新規開業企業の増加を促す効果を期待している。
第3は、中小企業向け貸し出しにおける公的な関与のあり方を、より広い視点から捉えようというものである。これまで政府は、信用保証付き貸し出しの条件にもっぱら注目し、どのような保証比率や保証料率、金額であれば民間金融機関が保証付き貸し出しを利用して企業に対して必要な資金供給を行うかを考えてきた。しかし、民間金融機関は自らが全てのリスクを負うプロパー貸し出しも提供している。このため、政府と民間との最適なリスク分担を考えるには、民間がプロパー貸し出しと信用保証付き貸し出しを併せてどの程度提供しているかを把握することが必要である。信用保証協会が、民間金融機関によるプロパー貸し出しに係る情報を的確に収集・蓄積することができれば、民間と政府との間における望ましいリスク分担程度や信用保証制度のあり方についても重要な示唆をもたらすエビデンスが集まることが期待される。
信用保証制度は中小企業への資金供給の効率性を改善できるのか
これらの変更は、いずれも信用保証制度の効率的な運用を目指す前向きな取り組みである。果たして改革の結果、信用保証制度は中小企業への資金供給の効率性を改善できるのか。筆者は、議論の過程で示された資料にある1つの集計結果がどう変化するかが、効率性の改善の達成を左右すると考えている。
それは、信用保証付き借り入れを得る企業について、信用リスクと保証金額別に代位弁済率を集計した結果表である。表は、横軸に信用リスク、縦軸に信用保証金額を測っており、それぞれの区分に属する企業が1年間でどの程度破綻して、信用保証協会に債務の肩代わりをしてもらっているかを示している。特徴的なのは、表左側の信用リスクの高い企業における、保証金額と代位弁済率との関係である。保証金額が大きくなるほど代位弁済率が顕著に高まっている。通常であれば、保証残高は企業規模に応じて増え、規模の大きい企業ほど破綻しにくいので、保証残高が高まるほど代位弁済率は低下するはずである。しかしながら、信用リスクの高い1区分から3区分の企業では、保証残高が大きい企業ほど破綻して代位弁済に陥る可能性が高い。
リスク区分 | 1区分 | 2区分 | 3区分 | 4区分 | 5区分 | 6区分 | 7区分 | 8区分 | 9区分 |
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期首残高 | |||||||||
〜1250万円 | 4.9% | 2.9% | 1.7% | 1.1% | 0.7% | 0.5% | 0.4% | 0.3% | 0.2% |
〜2000万円 | 9.4% | 4.9% | 3.1% | 2.1% | 1.0% | 0.6% | 0.4% | 0.3% | 0.1% |
〜3000万円 | 9.8% | 5.3% | 3.0% | 1.9% | 1.0% | 0.5% | 0.4% | 0.2% | 0.1% |
〜5000万円 | 10.8% | 5.7% | 3.4% | 2.0% | 0.9% | 0.5% | 0.3% | 0.2% | 0.1% |
〜8000万円 | 12.5% | 5.8% | 3.7% | 1.7% | 0.8% | 0.3% | 0.2% | 0.3% | 0.1% |
〜1億円 | 12.3% | 5.4% | 2.7% | 1.7% | 0.9% | 0.5% | 0.1% | 0.4% | 0.2% |
1億円〜 | 12.0% | 5.3% | 3.1% | 1.3% | 0.6% | 0.3% | 0.2% | 0.2% | 0.1% |
(出所)中小企業政策審議会基本問題小委員会金融WG報告書基礎資料(2016年12月20日) |
この結果の要因として考えられるのは、業績が悪化している中で信用保証付き借り入れを得続ける企業の存在である。これらの企業は借り入れの前から先行きの厳しいことを自ら知っていたかもしれないし、借り入れを行った後で想定外のことが起きたために業績が悪化したかもしれない。問題は、業績不振に陥った企業に対して、更なる信用保証付き貸し出しの増加を止める手立てが講じられてこなかった、もしくは、これら企業の業績を反転させるための経営改善策が講じられてこなかったように見える点である。仮にこうした筆者の推測が正しければ、これまでの信用保証制度の下では、破綻確率の高い企業に多額の保証付き貸し出しが実行される分だけ、保証付き貸し出しを必要としていたそれ以外の企業に資金が行き渡らなかったことになる。
今回の改革では、こうした保証金額の大きな企業ほど破綻しやすいという現在の結果を変え、信用保証制度による資金の流れを正常化する方向に働く可能性のある方策がいくつか示されている。業績不振企業に対する経営改善・事業再生の促進策は、これら企業の破綻確率を低下させることが期待されるし、保証協会と金融機関の企業向け貸し出しのリスク分担のモニタリングにより、破綻間近の企業に保証付き貸し出しが増額されるという事象を防ぐことができるかもしれない。今後、今回の改革の結果を定量的に観察し続けることが必要である。