インフラ整備の優先順位付けを可視化

馬奈木 俊介
ファカルティフェロー

新しい価値指標

今住んでいる地域がどのように今後も良いと言えるかの指標が提案されている。将来の世代の豊かさや幸せを如何に確保しているか、金銭単位の単一指標で示した指標が新国富指標である。国連「富の計測プロジェクト」の成果では、新国富指標は人工資本、教育資本、健康資本、自然資本と呼ぶものを足し合わせ、気候変動による被害、原油価格の上昇で得られるキャピタルゲイン、技術進歩などを反映する全要素生産性などで調整したものである。指標の考え方については既に新たな経済指標「新国富」((教育・健康・自然の価値重視), 2017年5月9日 日本経済新聞「経済教室」)として紹介しているとおりである。

筆者が代表をつとめた「国連・新国富報告書2017」において、この豊かさと、よく議論で使われる幸福度は別物であることが示された。図の縦軸である幸福度は過去個人の平均の幸福度である。高いほど幸福と答えた国民が多い国を表している。横軸が1人あたり新国富伸び率である。かなりゆるい相関はあるが、強い関係性はない。報告書では、地域の持続性の評価のためには積み上げの新国富計算を行っていくことの重要性を語っている。

図:幸福度と新国富の関係(Urban Institute and UNEP, 2017)
図:幸福度と新国富の関係(Urban Institute and UNEP, 2017)
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日本の各地域の持続可能性の問題を見た時、何が明らかになったのか、ここで馬奈木(2017)の結果を紹介する。まず2000年以降は愛知県など、少数の地域のみ持続的な成長度合いを伸ばせていないことが分かった。

一般的に人口が集中する中核都市の持続可能性の低下が議論されることは少ないが、むしろそうしたところで持続可能性が低下している。場合によって、一部の地方の方が持続可能という点は地方創生の議論をもう一度見直す契機となりうる。より細かな地域レベルのところでは、東京都のように労働移動により極端に人口が集中する地域ではやはり持続可能性は維持されており、西東京や離島の一部では減少を示した点は現実的な結果として理解できる。

そして、地方の中核都市の集合である政令指定都市に関しては、2000年以降持続可能性が失われている。いずれの多くは教育や健康の価値を示す人的資本の損失が持続可能性の低下の主要因になっている。

強みを探す:自動運転、自然の価値?

機械や建物、インフラなど一般に資本と言われるものが人工資本である。この人工資本の拡張に対して技術革新が果たす役割は大きい。日本における今後の大きなインフラとして都市開発の再構築、特に交通面の自動運転化が興味を持たれている(自動運転への社会的課題:人工知能からルール化へ)。

最適な管理を出来ることで受ける便益は大きい。今後、自動化で、仮に混雑を解消できれば約20兆円の価値があることが示されている。これはインフラ政策の観点からも無視できない。さらに、人工知能技術の応用で実現が期待される完全自動運転の価値は一人あたり約19万円であり、日本国民の約半数に購入意思があるものの、現状では障害の方が多いという結果は、実情と照らしても妥当な結論だろう。これは、渋滞が解決できるほどの便利さは求めるがいまだ現在の技術で達成出来ない程度の需要であることも同時に示している。

同様に、自然に特化している地域も評価できる。つまり、新国富全体への自然の価値を示す自然資本の大きさから、その地域が環境面に実質どの程度優れているか分かった。自然の価値に特化した地域の結果から、一部の離島は大きな価値を示している。

人口減少の面から通常は、離島は持続可能かどうか、わかりにくい。実際多くの島での今後は難しいこともわかっている。その中で、屋久島、佐渡島が如何に持続可能な成長を遂げてきた歴史的経緯を示した。言い換えると多くの特殊性が見えにくい他の離島は今後、いかに有益な資本を後世に残していく重要性を見せていくことで持続可能になるということである。

今後の発展への優先順位付け

国内の生活基盤、産業基盤、農林水産、国土保全目的を考えるときに、いかにインフラを効果的につくっていくかが大事になる。このインフラ投資が現状維持される場合をベースラインとして、今後の深刻な社会現象である人口減少を考慮した場合、さらに少子高齢化まで考慮したシミュレーションを実施した。この結果から地域ごとの差について分かったことは、九州の将来的な価値が一番高く、東北の見通しが悪いということである。今後の投資の選択・集中を考える際にマクロ的な視点での優先順位を考える結果である。

しばしば、インフラ投資の資金調達においてPFI(private finance initiative)により民間の資金やノウハウの活用をすれば良いという意見もある。実際に、PFIはインフラの維持・更新への有効な解決策ではある。しかし、あくまで事業性(地域としての持続性)がある場合に限るのであって、事業性がない場合には、使えない。その公的な関係での事業性が新国富の面から持続的かどうかということである。限られた予算の中で、いかにより福祉を高めるという視点から優先順位を立てていくことに今後はなるといえる。この新国富の総合的な豊かさのことを考慮して、地域ごとのインフラ整備を今後は進めていく必要がある。

文献
  • 馬奈木俊介(編著)『豊かさの価値評価―新国富指標の構築』中央経済社,2017年
  • Urban Institute and UNEP. 2017. Inclusive Wealth Report 2017.

2017年6月7日掲載