今年1月、インド西部で大地震が発生、ジャパン・プラットフォームが動きだした。ジャパン・プラットフォームは、NGO(非政府組織)、企業、政府(外務省)が対等なパートナーシップのもと、国際緊急援助を迅速かつ効率的に行う官民協調のシステムで、昨年8月に発足した。各々立場が異なる、市民、企業、政府の三者が連携しはじめたのである。この新しい連携に、あすの社会のかたちを見るのは私だけであろうか。
官の限界と民への期待
社会的ニーズの多様化や市場経済化が進展するなか、官の限界が指摘されるようになって久しい。政府の改革の方向は、6月21日、経済財政諮問会議の「今後の経済財政運営及び経済社会の構造改革に関する基本方針」において示された。効率的で小さな政府を目指す官サイドに対して、民サイドの動きはどうか。私が注目するのは、社会貢献活動に取り組む企業や様々なNPO(非営利の市民活動団体)の登場である。
企業の社会貢献活動については、経団連の99年度社会貢献活動実績調査によると、自社の取り組みを「積極的あるいはまあまあ積極的」と評価した企業は44%と、前回調査(96年度)の38%に比べかなり増加した。取り組む理由は「社会の一員としての責任」(84%)との回答が最も多い。また、企業はNPOを「市民社会構築の担い手」(60%)、「社会貢献活動推進のパートナー」(45%)と捉えており、NPOへの期待は大きい。
次に、国民生活選好度調査(経済企画庁2000年)によると、国民の4人に3人は、社会の一員として何か社会の役に立ちたいと考えている。95年1月の阪神淡路大震災では地震発生から3ヶ月間で延べ117万人がボランティア活動に参加した。以後、ボランティアやNPOへの関心が高まり、98年3月にNPO法が成立し、2001年6月15日時点で、同法に基づく認証団体数(累計)は4,205となった。しかし、日本のNPO活動の現状は、雇用に占めるNPOの割合(95年)でみると、オランダ12.6%、米国7.8%、英国6.2%、日本3.5%(21世紀経済産業政策の課題と展望、産業構造審議会2000年3月)と、欧米諸国に比較して、「これから」の感がする。政府に代わって、今後多様化する社会的ニーズに対応していくのはNPOだ。政府として市民の社会奉仕活動を積極的に推進する体制整備を図ることが必要である。
NPO支援策はしなやかな発想で
ポイントは、一人ひとりのボランティアの思いを実際の社会奉仕活動にどう結びつけていくか、である。ボランティアを組織化し、他の団体との連絡調整を図りつつ、地域活動を活性化させていくNPOコーディネーターの育成が重要だ。英国の非営利団体シビック・トラストは、地域の奉仕活動リーダー「シビック・チャンピオン」を育成するトレーニング・プログラムを設けている。当面日本では、地方公共団体がリードして、NPO人材育成センターをつくったらどうか。例えば、広域市町村圏単位で、希望する住民を対象に、夜間や休日などを利用して6ヶ月間、実際のボランティア活動に従事させるとともに、(1)どのようにして資金を調達するか、(2)どのようにして地域活動を活性化するか、(3)プロジェクトをどのように企画するか、(4)広報をどのように行うか、(5)組織内の役割分担をどうするか、等の内容の研修を実施するのである。
ボランティア休暇の取得を義務づけることも重要だ。公務員には年5日ボランティア休暇が認められている。企業もボランティア休暇制度の導入に積極的になるべきだ。このほか、
- シビック・コーポレーション(個別NPOの収益事業をまとめて請け負う事業会社を創設)
- シビック・クレジット(NPOに対する金融支援の仕組みについて検討)
- シビック・アウォード(社会奉仕活動を行う者に対する褒章制度を創設)
- シビック・スポット(利用度の低い既存の公共施設について、使用基準を緩和しNPO集会所として開放)
- シニア・シビック・クラブ(高齢者NPO支援組織を立ち上げ)
などいろいろなアイデアや方策が考えられる。こうした方策をボランティア、NPO支援策として総合的かつ体系的に位置づけて打ち出すことが望ましい。
英国では、シンクタンク「Demos」が紹介しているように、ソーシャル・アントレプレナーと呼ばれる社会貢献型の起業家が活躍している。NPO(Non-Profit Organization)というよりもNLO(Non-Loss Organization)だ。日本でもしなやかな発想とビジネス・スキルを持った市民ボランティアが新しい社会の担い手になるだろう。ITベンチャーやバイオ・ベンチャーもよいが、これからはシビック・ベンチャーだ。彼らや彼女たちが、社会貢献活動を行う地元企業や地方自治体と連携して、地域の福祉、環境問題等に取り組むかたちは、コミュニティ・プラットフォームだ。私たちが目指す小さな政府を支えるのは、社会的責任を自覚する企業と、社会に対して自分に何ができるかを問う市民である。