IoT, AI等デジタル化の経済学

第159回「DXからみたグローバル・ニッチトップ企業の日独比較(1)」

岩本 晃一
リサーチアソシエイト/立命館アジア太平洋大学

1.

ドイツ・ヘッセン州に立地するミッテルヘッセン工科大学(Technische Hochschule Mittelhessen)とアジア太平洋大学次世代事業構想センター(APU-NEXT)は、共同研究MOUを結び、約2年間にわたって共同調査を行い、企業に対してアンケート調査を行った。
ドイツ側は、今回の共同調査を「デジジェイド(DigiJADE)プロジェクト」と呼んだ。(Digital JAPAN DEUCHE の略)。調査時期は、2022年12月~2023年1月である。

このプロジェクトクトに参加した主要メンバーは、日本側3人、ドイツ側2人である。
藤本武士(立命館アジア太平洋大学教授・立命館アジア太平洋大学次世代構想センター:APU-NEXTディレクター)
岩本晃一(経済産業研究所リサーチアソシエイト・APU-NEXT客員メンバー)
難波正憲(立命館アジア太平洋大学名誉教授・APU-NEXTメンバー)
Gerrit Sames, Dr., Professor(für allgemeine Betriebswirtschaftslehre mitam Fachbereich Wirtschaft an derTechnischen Hochschule Mittelhessen)
Tim Maibach, MA(wissenschaftlicher Mitarbeiter am Fachbereich Wirtschaft an der Technischen Hochschule Mittelhessen)

である。立命館アジア太平洋大学次世代事業構想センター(APU-NEXT)は、ドイツの隠れたチャンピオン(Hidden Champion)及び日本のGNT(Global Niche Top:グローバル・ニッチトップ)を研究している日本で唯一のセンターである。

調査対象は、日本の中小企業ではトップクラスとされる経済産業省選定200社のグローバルニッチトップGNT企業と、ドイツの同大学の周辺に立地する通常の企業と比較調査した。

日独は、共通の調査票を使用した。全くの同一質問項目48項目を用いて、DX(デジタル・トランスフォーメーション)に関し、2年かけて測定した日本で初めての調査である。

今回の調査の特徴は、同じ調査票を用いて日独で共同調査を行うことにあった。これは両国にとって初の試みであり、本調査の結果を用いて日独比較を行うことで、双方の DX の進展度合いの違いや特徴などが明らかになった。

ドイツ側は、ドイツにおいて日独参加のシンポジウムを開催し、また(Der Betriebswirt, January 2024)に論文を掲載し、我々の成果が多くの専門家の目に触れることとなった。
日本側もまた、論文が掲載され、我々が進めている「IoT, AIによる中堅・中小企業競争力強化研究会」に提供して議論が行われ、また経済産業研究所のHP上においても公開する。今後、日独双方は、更に協力連携を深め、製造業のDX化の進展を目指して共同研究を進める予定である。調査結果は経済産業省にも提供され、今後の我が国の DX 化の参考となるものと期待される。

我々としては、今回の調査を足掛かりとして、日本の製造業のDX化に、より一層の貢献をして参りたいと考えている。調査に協力して頂いた皆様方には改めてお礼を述べるとともに、今後とも何卒よろしくお願い申し上げたい。

2.

本共同研究の起源は、約7年前に遡る。「独り勝ちのドイツ」と呼ばれる強いドイツ経済の秘密を探っていた筆者は、「Hidden Champion(隠れたチャンピオン)」の現地調査のため、ある人の紹介でゲリット・ザーメス教授(Prof . Dr. Gerrit Sames)を訪問した。ゲリット・ザーメス教授は、ヘッセン州の首都ヴィーデスバーデン市内の広大な敷地に立地する美しいミッテルヘッセン工科大学(Technische Hochschule Mittelhessen)に、民間企業を辞めて大学に来られたばかりの方だった。
数年後の2020年秋、ゲリット・ザーメス教授の下で働く花本氏から、突然、メールをもらった。ゲリット・ザーメス教授が私の事を覚えていて、ドイツメンバーが訪日し、日独共同シンポジウムをしたいと言う。コロナ感染が発生し、2021年にオンライン会議になったが成功だった。シンポジウムの成功に気を良くしたゲリット・ザーメス教授から、今回の日独共同調査の提案があった。
今回の日独共同調査は、2年を要した。異なる国どうしが共同で調査をするというのは、こんなに細かく難しい点がたくさんあるのか、という驚きである。

3.

調査の意義としては、
第一 日独が同じ調査票を用いて調査を行った。そのため日独比較が可能。
第二 日本はデジタル分野で世界に遅れていると言われてきたが、本当にそうなのか、遅れているのであればどこがどの程度遅れているのか、これまで何も根拠データがなかったが、今回初めて明らかになった。
第三 日本側は、GNT企業という競争力の高い企業を調査対象とした。結果、それでも、ドイツの一般的な企業よりもデジタル化が遅れていることが明白になった。日本は何というデジタル化の遅れた国なのだろう。
第四に、ドイツは、製造業の製造現場にデジタル化を導入するインダストリー4.0(industrie4.0)を、国を挙げて推進していることもあり、今回の調査でもドイツ企業は、製造現場のデジタル化が日本企業と比べて最も進んでいる分野であることがわかった。
一方、日本企業がドイツに比べて最も進んでいるデジタル分野は、プラットフォーム分野であることがわかった。既存のシステムを購入してきて使っている企業が多いことが分かった。

4.

今回の調査では、ドイツ側のリードと、ドイツ側の作業に負うところが大きかった。
ミッテルヘッセン工科大学経営学部のゲリット・ザーメス教授(現在、経営学部長)、経営学部長ニルス・マデーヤ教授(現在、副学長)、修士テイム・マイバッハ氏(現在、会社員)、コーディネーターのミエ・ハナモト(花本)氏、そして本研究に理解を示して研究資金を提供して下さったミッテルヘッセン工科大学学長を始めとする関係の皆様方に感謝の意を示したい。
今回、名簿を保有する経済産業省から調査票を発送して頂いた。経済産業省製造産業局のGNT担当の皆様方には、人事異動で交代しても継続して我々に協力して頂き、大変感謝する。
回答して頂いた各GNT企業におかれては、ドイツ側が、回答率が50%近くもある、と驚いたくらい、こちらの趣旨に賛同して頂き、大変忙しいなか、調査に協力して頂いた。多大なる感謝の意を表したい。

5.

今回は調査の概要を報告した。次回からは、調査分析結果の詳細を、数回の連載として本コラムに掲載する予定である。

2024年1月10日掲載

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